拡大表示をする必要性=プロジェクター常設環境の必要性

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高嶺の花に手が届く時代に

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 教科書にはたくさんの挿絵があります。小学校高学年、中学校なれば、難しいグラフや表といったデータが出ていることも少なくありません。また、本文は挿絵をよけて入り組んだ形になっていますが、テキスト(電子的な文字)にするのはそう難しくない作業です。スキャナーにとって文字として読み取ることは、昔に比べればかなり簡単に、確実にできるようになってきています。上手にテキストにすれば黒板にはり出す・投影するあるいは、大型テレビに映し出すことも可能です。

 昔のプロジェクターは高嶺(高値)の花で、性能も悪く、電球が切れるとその代替品に6万円を要求されたことがありました。教室にプロジェクターを常設するなど考えられませんでした。
 しかし今や、10年ほど前と比べても、プロジェクターはかなり安価になっています。LEDランプが登場してきているので、電球の寿命や消費電力も相当安くなっています。さらに、書画カメラもかなり安くなってきています。機能的にも手ごろになってきています。
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1学年2クラス程度の小規模校であれば、高学年(あるいは5・6年)か低学年にリソースを投入して、教室常設の拡大表示環境を実現できる時代です。大規模校であれば、毎年1学年ずつでもいいので、この環境は是非、ごく普通な授業準備のレベルとして、備えていってほしいです。学校・授業をICT化しなければいけないと、あちこちで難しい議論をしていますが、最も庶民的なICT化の方向は教室での教科書拡大表示です。庶民的なところから始めないと広がりは遅れていくばかりです。まず、ここから手を付け始めましょう。
プロジェクターに関する詳細については、
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プロジェクターを授業で活用しよう!
https://edupedia.jp/article/53233f89059b682d585b5de4
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をご参照ください。
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拡大表示しないなど、あり得ない

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 私は、数年間ポケットマネーで購入したプロジェクターを用いて4教科に関してはほぼ毎時間、教科書や教科書の挿絵を拡大表示していました。特に、算数の図形に関する単元に関しては、拡大表示をせずに行うと、多くの子供が混乱するのが現状です。プロジェクターが常設の環境に慣れてしまうと、プロジェクターなしで授業をすることはあり得ないと感じています。例えば、以下のURLの授業を行うのに、拡大表示がないと大変な混乱を引き起こしかねません。
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垂直と平行(拡大表示は大切)
https://edupedia.jp/article/54749f2a75af055b1b32cf0e
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図が多い単元、難しい語句の多い単元は理解力の低い子供にはつらい授業となります。「垂直・直線・平行」等の定義もかなり難しい状況で子供の発言から「○○通りとと○●通りは垂直で」などとしっかり話を聞く事を前提で授業を進められると聞く力が弱い子供・集中力・理解録がない子供はたちまち置いてけぼりにされてしまいます。
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拡大表示の方法

拡大表示には、いろいろな方法があります。
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① 大型プリンタでB0やA0サイズで黒板に掲示する。
→→→→→ 書き込むと使いまわしがきかないので、1学級1授業1枚プリントアウトするはめになってしまいます。1枚100円程度のコストがかかり、年間12クラスが50枚出しても、6万円かかります。年間50枚は多いと感じられるかもしれませんが、教科書は数百ページありますから、教員としてはもっと使いたいと思います。教科書が大規模校でこれを多用すると、10万円を超えるようなコストが発生します。コストを抑えようとすると教員にストレスがたまります。
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② プリンタで分割して印刷したものを貼りあわせる。
→→→→→ 大型プリンタがないという学校は、国須の策としてこの方法を使えます。ネットから入手したりデジカメで撮影したり、スキャンしたりした画像をエクセルに貼りつけると、けっこう大きく拡大できます。カラー印刷が可能な点がメリットですが、これもまた、インク代やトナー代のコストが高くつきます。
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③ A3やB4のコピー
→→→→→ 面倒ですし、白黒では・・・・カラーコピーがない学校も多いでしょう。①②同様、コストが高くつきます。
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④ 教師用デジタル教科書を用いる
→→→→→ もちろん、これがあるに越したことはありません。しかし、デジタル教科書&プロジェクターでは、やはりコストが高いです。小規模校でライセンス契約をして上手に使えば手が届く範囲になるかもしれませんが、まだまだ現実的ではありません。
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⑤ 大型テレビで大写しにする
→→→→→ テレビは輝度が高いため、子供たちにとっては見やすいかもしれません。ただし、大型テレビの値段はまだまだ値段が下がり切っていません。画面に書き込むには電子黒板機能が必要となります。マーカーで書き込むと輝度が高いために何色で書き込んでも黒っぽくなってしまいます。また、タッチパネル式となると値段が跳ね上がり、よけいに現実的とは言えません。また、黒板があるために、移動式のものを買うか、黒板の脇に置くかという選択肢に迫られ、いずれにしても子供に注視させるにはいいポジション取りができる機器ではありません。
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⑥ プロジェクター&書画カメラ
→→→→→ 書画カメラもずいぶん安価で性能がよくなってきています。もう少し安くなればプロジェクター込みで15万円程度になると思いますが、けっこう下がり切りません。ただのデジタルビデオカメラがこれだけ安くなっているというのに、企業はもう少し教育現場向けに金額面でハードルを下げるべきだと思います。

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⑦ プロジェクターオンリーで大写しにする
→→→→→ 最近のプロジェクターはUSBメモリもついており、書画カメラがなくても画像を取り込むことが可能です。少し高いものであれば、映像も。できれば教科書会社は全教室に教科書の本文と画像を提供するべきだと思います。著作権等で難しいというなら、著作権がクリアできる方向で環境整備をしていってほしいです。
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各校の機器の事情に合わせて拡大を試みてください。「常設プロジェクターで⑦」が、授業準備に時間をとられないし、予算的にも現実的な拡大表示方法だと思います。
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「予算がないので常設は無理」という行政に対して

拡大表示にも、ICT化にもデジタル教科書にも、根強い反論があります。予算を圧迫するという理由もありますし、(多くの予算を使ってまで)子供たちにあまり楽をさせてはいけないという理由も聞いたことがあります。
多くの自治体の財政があまりよくないのかもしれません。予算を圧迫するというのは分からないではないですが、日本の小中学校全教室にプロジェクターを常設する程度の予算は他の大型予算に比べて微々たる額です。中学校にはテレビさえない教室も多々あるようですし、小学校のテレビがいまだにデジタル化されていないという自治体も少なくないようです。そもそも、もう、テレビは不要であると考えるべきです。DVDデッキさえなくなり、BD(ブルーレイレコーダー)が3万円も出せば買える時代になっています。BD&プロジェクターで大画面による映像の鑑賞、授業利用が可能となっている時代なのです。
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 後者の、子供に楽をさせるのはよくないという意見は、私も少々、わからないでもないです。それぐらい、「楽」だということです。この楽は、教師にとってもかなり「楽」なので、教師が楽であるということは、それだけ子供に向き合う時間が増えるということなので、拡大表示を退ける理由にはならないと思います。
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 ただ、子供にとってあまりにも楽な環境は子供のイマジネーションや「苦労の機会」を妨げるという考え方があるかもしれません。「かわいい子には旅をさせろ」ではありませんが、苦学の末に勝ち取る才能もあるかもしれません。そういう意味では、教科書もオール白黒で挿絵なしというのも、場合によってはアリかもしれません。元灘中学校の教員、橋本武氏が中学の3年間をかけて中勘助の『銀の匙』を1冊読み上げる国語授業を行ったという話は有名です。子供にとっても、教師にとっても、じっくりと教材・文面に向き合い、格闘するという作業も必要だと思います。
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 しかし、普通の公立小学校に通う子供が現在抱えている問題は年々難しいものになっています。特に、注意が続かない、発達障害やグレーゾーンの子供が増えているこ現状に拡大表示は大きな支援となります。また、普通の教員が現在抱えている問題も大きく膨らみ、多忙化と教員の若返りが進む中で拡大表示が教育現場を助けるツールとなることは間違いありません。
拡大表示と書いていますが、できれば、プロジェクターそして、それでもまだ余裕がある自治体は書画カメラを常設する環境を整えてほしいと思います。それほど高価な投資であるとは思えます。教員のポケットマネーでも十分に支払える額だと思いますが、横並びが好きな学校文化の中ではやりにくい面があるかもしれません。もし、若い教員がポケットマネーで購入したプロジェクターを使っていたら、周囲からは「まず黒板とチョークで授業ができるようにしなさい」というよく分からないアドバイス(プレッシャー)を受けることがあるかもしれません。私は随分、年上になっていましたので、「研究目的だ」と開き直って毎日、周囲から浮きながらもプロジェクターを使っていました。
教員が公教育の場で私費を投じることがよい例であってはならないことは、   重々、承知の上ですが、誰かが突破しなければ、ICT化はどんどん遅れるばかりなのです。隣のクラスの担任がポケットマネーで購入したプロジェクターを使っていたならば、その担任にプレッシャーをかける前に、今年度補正予算・あるいは来年度予算にプロジェクター購入を盛り込む声を広げる方を先に頑張ってほしいと思います。
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