「一つの花」国語・物語文・授業案 ~考えを交流する授業~(作品を貫くお父さんの思い)

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国語・物語文「一つの花」の授業案です。
「一つだけ」「高い高い」「よろこび」といった言葉や、見送りの場面やわすれられたように咲いていたコスモスの描写などから、想像を広げながら人物や場面の様子が読める教材です。
 場面ごとに読む展開ですが、それぞれの場面に一貫したテーマが表現されている、そのテーマを手掛かりに読むと言葉に込められた意味が浮かんでくる、という読み方ができればと思います。

関連記事として、下↓のリンクもご覧ください。
「一つの花」~題名とコスモスに込められた意味

授業展開

目次

1 お母さんとお父さんの、ゆみ子への思いを考える。

お父さんとお母さんの思いを比べる

お母さんと、お父さんの思いを対比的に考えるため、二人の関わりを分けて考えます。
 お母さんは、ゆみ子に食べ物を中心にあげますが、戦時中に自分の分から分けてあげることに母親の愛情が感じられます。
 お父さんは、食べ物・よろこびに関してゆみ子の将来を心配し、そんな時、きまってゆみ子をめちゃくちゃに高い高いします。この行為は、お母さんのあげていた食べ物と対比すると「目に見える・目に見えない」の「目に見えないよろこび」を与える行為だと考えられます。お父さんはこれらの2種類についてゆみ子の将来を心配していましたが、物語を通して特に「目に見えないもの」を大切にしてほしいという願いに重きを置いているように思えます。

「きまって・めちゃくちゃに」という言葉には、「いつでも・どれだけでも」というゆみ子への限りない愛情が感じられます。ここには、「食べ物=有限」「愛情=無限」という対比も考えられます。子どもからは「お金で買える」「お金じゃ買えない」という意見も出るかもしれません。「物質的・精神的」という言葉を使ってもよいでしょう。評論文などで人の幸せや社会について考える際のキーワードになります。

授業では、お母さんとお父さんの行為について考えを交流することで、両親のゆみ子へのそれぞれの愛情が感じられるとよいと思います。
 この時間にお父さんのゆみ子への思いをじっくり考えることで、次時の1つだけのお花を渡す場面の読み取りに深みが増すと思います。

2 1つだけのお花を渡すお父さんの思いを考える。

お父さんの「1つだけ」に込められた意味

この場面では、「おにぎり⇔コスモス」という対比が考えられます。
 おにぎりを全部食べても泣いていたゆみ子が、1輪のコスモスをもらってキャッキャッと足をばたつかせてよろこびます。食べ物以外によろこびを感じるゆみ子の姿が描かれています。教材文の中でゆみ子の喜びが最も強く表現されている箇所であり「ゆみ子はそんなにコスモスが好きなのか?」という問いかけから、お父さんの思いを考えていけると思います。

本時の課題である「なぜたくさんではなく、1つだけのお花なのか?」については、様々に考えられます。(*交流例を参考)
・急いでいたから
・ゆみ子が「1つだけ」と言うから、その言葉に合わせた
・最後の場面のコスモスのトンネルを際立たせるため

私は、お父さんの「ゆみ。さあ、一つだけあげよう。」という言葉から、お父さんなりの特別な意味が込められているように感じます。
 お母さんの「1つだけ」には「なくなったら困るから、1つだけね」という数量的な意味。
 一方、お父さんの言葉にはめちゃくちゃに高い高いする場面で考えたように、「数えられない意味での1つ」「かけがえのない1つ」といった意味を感じます。
 この1つの花を「命」の象徴とするなら「ゆみ子のかけがえのない命を大切にするんだよう」となり、花を「お父さん」とするならば「たとえ死んでしまっても、世界に1人だけのゆみ子の父親(としての愛情)を忘れないでね」と考えられます。

この部分は題名の意味を考える学習にもつながるので、じっくり交流したいところです。個人的には「ちいちゃんのかげおくり」は命ではなく家族愛・絆を読み取るので、「1つの花」では1つだけの命を考えたいです。ちいちゃんは空にすいこまれますが、ゆみ子は生きています。
 物語の内容も、ちいちゃんでは戦争の悲惨さが多く描かれていて、その対比として家族の絆を読みますが、1つの花では、将来への不安の中にも日常の中の喜び・未来へ続く希望といった生への信頼(どれだけつらいことがあっても生きている喜びを感じる心を忘れないでほしい、きっとうまくいくと願う気持ち)が表現されているように思えます。

抽象的な言葉が出てきますが、具体的な事柄を出して理解を深めたり、道徳の授業や他の読書、日常生活に広げたりすることで、国語科の言葉の学習のねらい(言葉と思いの関係など)にもつながると思います。

場面2:交流例

~交流のポイント~
お父さんは何かメッセージを伝えたかった?
前の場面の「高い高い=見えないものの大切さ」と関連させて考える
「1つだけ」の意味の違い

~交流例~(Tは先生、・は児童)
T:なぜ「たくさんのお花」ではなく、「1つだけのお花」を渡したのだろう?
・急いでいたから1つだけ取った

花に込めた思い
T:何を急いでいた?
・泣いちゃったから泣き止んでほしいと思った。
・おにぎりじゃないけど、何かを渡したかった。
・ずっと泣いてるとお母さんが困るから。

T:なるほど、ゆみ子のことだけじゃなくて、お母さんのことも考えていたのか。
・戦争に行ったら自分は死んでしまうかもしれないから。
・これからお母さんが一人でゆみ子を育てることになるかもしれない。

T:もうお父さんはゆみ子に会えないかもしれないね。テレビとかでも、最期の別れで何かを渡すシーンとかあるよね。
・お父さんは、花を自分だと思ってほしくて渡したのかもしれない。
・この花を大事に育ててね。
・ずっと一緒だよって気持ちを込めて渡した。
・見守っているよ、とか。

T:お花に、何かメッセージを込めたのかもね。
「ゆみ。さあ、一つだけあげよう。一つだけのお花、大事にするんだようーーー。」
のダッシュの部分、お父さんのどんな思いが入るだろう?
→書く
(板書)
家族
愛情
お母さん
お父さんとの思い出

元気
笑顔

T:どんなお花だった?
「プラットホームのはしっぽの、ごみすて場のような所に、わすれられたようにいていたコスモス」
わざわざこんな書き方をしたのが気になる。(ダカーポの「野に咲く花のように」)
・貧しくてもがんばろう(たくましさ)
・あきらめずに生きてほしい
・自分らしく生きてほしい
・誰も気づかない美しさ(cf:金子みすず)

目に見えないもの
T:お父さんのいろんな思いが出ました。
前の場面で「高い高いは目にみえないものを大事にしてほしいっていう思い」って話がでたね。
この場面では、どうだろう?(黒板の意見を見て考える)
・思い出とか、命は目にみえない
・がんばって生きるとかも、心で思うこと
・笑顔は目に見える
T:笑顔は何を表してる?
・うれしい、よろこび
・それなら目に見えない
・前の場面でも、お父さんはよろこびを大事にしてほしいと思ってる。

T:「象徴」の説明
(目に見えるもので、目に見えない思いを表すこと。鳩は平和の象徴。スーホの馬頭琴の音色など。)
「1つだけ」の意味の違い
・でも、「1つだけのよろこび」だと、おかしい。
・お父さんは、ゆみ子によろこびをたくさんあげたかったはず。
・1つだけの命なら分かる
・1つだけの思い出も、なんかさみしい。もっと思い出があったはず。

T:この「1つだけ」って言葉が気になるね。ゆみ子も言ってるけど、意味は同じなのかな?
・ゆみ子の「1つだけ」は、おにぎりとか食べ物
・1つだけって言ってるけど、本当はたくさんほしい
・前の場面で、ゆみ子の「1つだけ」は有限って話があった。
・有限って、限りがあるってこと。
・食べ物は食べたら無くなる。
・「高い高い」は無限ってあったけど、無限の命って変。
・無限の喜び、愛情なら分かる。
・「1つだけ」って言ってるのに無限っておかしくない?
・「1つだけの命」他の言葉で言うと、、、
・「1つしかない、たった1つの、ゆみ子だけの、オンリーワン」
・それなら喜びとか命もわかる
・お父さんだけが伝えられる愛情
・ゆみ子の家族の愛情
・ゆみ子のたった1つの命
・お父さんの命かもしれない
・1つだけの花に、いろんな思いが込められている
・言葉は「1つだけ」だけど、思いは「1つだけ」じゃない。

*「♪世界に1つだけの花」や「誕生日プレゼントは、商品は同じものが売っているけど、もらった「これ」だから大事。」などの話をして、お父さんの「1つだけ」の思いを感じられるようにする。

T:いろんな考えが出たね。そんなお父さん、最後の最後、何も言わないよね。
「何も言わずに、汽車に乗って行ってしまいました。ゆみ子のにぎっている、一つの花を見つめながら。」
・言いたいことがありすぎて、何も言えなかったのかも。
・言葉じゃなくて、コスモスの花で伝えようとした。

T:この時のお父さんは何を伝えたかったのかな?(何を考えていた?思っていた?)
→書く

板書

交流(花に込められた思いと結び付けて。)

まとめ
前の場面から続いているお父さんの思い(場面を関連付ける)
象徴
対比
同じ言葉で違う意味

感想

3 戦争中と10年後を比べる

ちいちゃんのかげおくりの授業と比べる

戦争中と戦争後の対比はちいちゃんの2つのかげおくりの学習を想起すると考えやすいかもしれません。そこから「戦争がうばったもの、うばえなかったものは?」という視点で交流すると、父親の願い(よろこび、命)に近づけると思います。

「最後の場面がある時とない時ではどう違うだろう?」という課題もちいちゃんの授業と同様に考えられます。主人公が生きているかが大きな違いですが、両作品から平和への願いが読み取れます。
 ちいちゃんでは、「ちいちゃんや家族はいなくなったけど、子どもたちがきらきらわらう声は変わらない(ずっと続いていく、増えていく)」
 一つの花では、「お父さんはいなくなったけど、コスモスに込められた思いは変わらない(ずっと続いていく、増えていく)」
 失ったものの大きさに負けないくらい、未来への希望が広がっていく様子が読み取れます。
 一つの花の学習が終わった後に、学習内容を生かしてちいちゃんと一つの花の作品分析をすると、物語を読む力が発揮できるかもしれません。(評価課題として設定も可)

作品を貫くお父さんの思い

また、この作品では「ゆみ子は、お父さんの顔を覚えていません。自分にお父さんがあったことも、あるいは知らないのかもしれません。」とあるように、最後の場面でお父さんはゆみ子の思い出にもなっていないようにみえます。読者に悲しみをできるだけ感じさせないためでしょうか。
 このお父さんの扱われ方は「わすれられたようにさいていたコスモスの花」と似ているような気がします。誰からも目を向けられないけれども、確かに存在するものがある(父の場合は体ではなく愛情や願い)。お父さんは姿を消してしまいますが、みえない愛情や願いは確実にゆみ子の心の中に生き続けている、とも読めます。
 「目にみえないけど大切なもの」というテーマで読むと「よろこび→花(命、美しさ、愛)→お父さんの思い→将来(平和)」と続いていきます。

気になった箇所として最後の行の「小さなお母さん」があります。お父さんからもらった1つの花を命と捉えるならば、この表現に命のリレーが暗示されているのでしょうか。2つめの場面でも考えましたが、未来へ続く命を感じさせる1文です。
 ここに関連させて「ゆみ子が大人になって、自分の子どもに死んでしまう前の最期に1つだけ渡すとしたら何を渡すでしょう?」という課題が考えられます。そこで、「よろこび・希望」など本文に出てくるお父さんやお母さんの願いに関係したものが出てくれば、『命だけではなく「見えない思い・心」も命を通して繋がっている』と考えられ、作品の読みが深まると思います。

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 戦争、家族、命といったテーマだけでなく、作者の思いが表れる表現にも着目し、自分と他者、社会との関わりについて考えるきっかけになる単元になればと思います。

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