俳句鑑賞文②(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガ「教師の基礎技術(893~896号)」から引用・加筆させていただいたものです。ただ俳句を読むのではなく、「鑑賞文」を書くことでより深い読解を目指す実践です。

(俳句鑑賞文①は→こちら

 岡篤先生のメルマガはこちらを参照ください。→http://archive.mag2.com/0001346435/index.htm

2 実践内容

きっかけ

最初に想像するきっかけを設定します。以下は私が鑑賞文でよく使う俳句です。

親子してかがむ蒲公英庭にあり         山口青邨(せいそん)

これを使って鑑賞文の指導をします。

まず、「これは何月のことですか?」と尋ねます。

蒲公英は春の季語です。ただ、実際にはもう少し長く咲いているので、「3~6月」といったあたりに分かれます。

中には1月や2月と言う子もいますが、「蒲公英は冬に咲いているときもあるけど、多いのは春だよね」と修正を促します。

次は、「親子」についての問いです。

親子について

何月かを尋ねた後は、「親子」についてです。

  • 「親は父親ですか? 母親ですか?」
  • 「子は男の子ですか? 女の子ですか? また、何歳くらいですか?」

これをノートに書かせ、書いたことを全体に確認します。

  • 「父親だと思う人?」
  • 「女の子だと思う人?」
  • 「0才?1才?~」

という具合に、次々と挙手させていきます。この時点でかなり意見は分かれています。

やはり、自分の知識や経験に影響される可能性が高いようです。

自分に同じような経験があれば、そのときのことを思い浮かべる。妹や弟がいれば、その子のことをイメージする。そういった傾向があるようです。

舞台が何月かと登場人物を決めれば、かなり各自のイメージはできつつあります。あと一息です。

「どんな庭でしょう?」

  • 広い庭
  • 小さい庭
  • ブランコがある
  • 他にも草や花が咲いている

など、これも色々出るはずです。ここまでくれば、イメージを広げるきっかけには十分なはずです。

文を書く指導

後は、鑑賞「文」の指導です。

ここで「イメージしたことを書きなさい」といえば、どうなるでしょうか。

私の経験では、月、登場人物、庭の様子などを箇条書きで書く子が出てきます。

せっかくイメージを広げるきっかけができたのに、それだけで終わってしまっているのです。

最後に「文」を書く指導をします。

箇条書きで終わらせないために「イメージしたことを使ってお話をつくります」と言います。

鑑賞文ですから、本来は「お話」ではありません。

しかし、水原秋桜子の鑑賞文を読んで自己規制が取り払われたように、「お話を」の言葉で、箇条書きから文に変わる子が少なくないようです。

起承転結を使って

「お話を」の他にもう一つのキーワードは「起承転結」です。「お話を」と言われても、考えにくい子もいます。

「起承転結」を教えておけば、比較的考えやすくなります。登場人物や季節の設定は「起」で行うことです。

起承転結は最初の物語の学習のときに説明しておくとよいでしょう。特に「転」では事件がおきます。私はよくドラえもんを使います。

「転」では、いじめられていたのび太がジャイアンに向かっていったり、弱い立場の子を助けたり、ということが起きます。のび太がふつうにのび太のまま過ごす1日ではおもしろくないからです。

書き出す

「起」の内容はすでに決まっています。後は「転」の事件が決まれば、書き出せます。

俳句の鑑賞文ですから、それほど大きな事件を設定する必要はありません。

「事件」というと、どうしても警察や犯罪のイメージがあります。そこで、「できごと」という言葉をよく使います。

逆に、インパクトがなさ過ぎる気もしますが(笑)

子どもの作品から

では、実際の子どもの作品を載せることにします。鑑賞に使った俳句は以下です。

オリオンを母に教えた冬休み

これは、子どもの作品が載っている歳時記から私が選んだ俳句です。

子どもの鑑賞文

   

 12月の冬休み、10才の女の子と母親が外でオリオン座をみていました。女の子が「お母さんあの星がオリオン座だよ。」と言いました。「よく知ってるわね。なんでしってるの。」「理科の授業でならったの。それでお母さんに教えるという宿題がでたんだ。」お母さんが、「じゃあ、この宿題はかんぺきだね。」と言いました。そのあいだに流れ星がながれました。               4年女子

前述のように、登場人物の設定などの指導をした上で書かせたものです。

よくイメージを広げられており、作品の雰囲気にもあった内容だと思います。最後の「流れ星」もきれいです。

子どもの鑑賞文2

もう一つ子どもの作品を載せます。

これは、指導の仕方で使った次の俳句をつかったものです。

親子してかがむ蒲公英庭にあり

以下の鑑賞文を書いた子は、最初の登場人物の設定で「15才」としていました。

授業中によくふざけて妨害をすることもある子だったので、私は一瞬不機嫌になりかけ、注意しようかと思いました。

「ふざけてる?」

「いいや、本気」

と返ってきたので、それ以上、ふれずに進めました。その子なりに真剣に考えていることが後で分かりました。

 4月に庭のたんぽぽを見ている親子がいました。その親子は、父と娘です。娘は15才です。娘は、思春期でなやんでいました。庭のたんぽぽを見ていると父が来て相談にのってくれました。父も15歳くらいで思春期でなやんでいると、父の父がアドバイスをくれました。「このたんぽぽみたいにいたら大丈夫」と言ってくれたという話をしました。その話をきいてむすめは立ち直りました。                           4年男子

実は、この授業の数日前に保健の学習で思春期について教えたところでした。

俳句の鑑賞文のよさ

私が俳句を題材に鑑賞文をかかせるのは、子どもの作品がとても個性的なものになるからです。読んでいて実に楽しいものです。

それは、俳句というものが読者の想像を促すからです。短い文学だけに、読者が想像を広げる余地は大きくなります。

イメージ化

私の現在の課題の一つは、子どものイメージ化の力をどう育てるかということです。

文章を読んで「どう思いますか」と尋ねたときに

「別に」

「何も思わない」

と返ってきたことが何度もありました。

やる気がないならまだ分かります。やる気が出たら、何かを想像したり、感じたりするかもしれません。

本当に何も思わない子もいることの方が大きな問題かもしれませんね。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生
 1964年生まれ。神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。

(2016年9月30日時点のものです)

4 書籍のご紹介

『読み書き計算を豊かな学力へ』2000年

『書きの力を確実につける』2002年

『これならできる!漢字指導法』2002年

『字源・さかのぼりくり返しの漢字指導法』2008年

『教室俳句で言語活動を活性化する』2010年

5 編集後記 

子どもの書く作文は、何が出てくるか分からないのが面白いところですね。岡先生がふざけているのではないかと感じた子の鑑賞文も、いざ出来上がってみると他教科ともリンクした素晴らしいものになっていました。俳句だけでなく作文の授業にもつながる、優れた実践だと思います。

(文責・編集 EDUPEDIA編集部 中澤歩)

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