子供たち全員が参加できる学級経営~インクルーシブ教育を学ぼう~(質疑応答)

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作成者:Chihiro Shimadaさん

1 はじめに

この講義録は、2016年11月5日に行われた第7回JEES(全国初等教育研究会)セミナーでの森山 徹先生の講義内容をもとに作成したものです。障害児教育を取り巻く環境、インクルーシブ教育や学級経営などについて、ワークショップを交えながら詳しくお話しくださいました。

こちらの記事では講座の最後に行われた質疑応答部分を紹介しています。講義録(前半・後半)については以下の記事をご覧ください。

子供たち全員が参加できる学級経営~インクルーシブ教育を学ぼう~(前半)

子供たち全員が参加できる学級経営~インクルーシブ教育を学ぼう~(後半)

2 質疑応答

Q1.

読み書きに障害がある子たちに対して、漢字にルビが振ってあるテストを採用することが公平性において問題にならないのはどうしてでしょうか?

A.

彼らはいろんな認知上の課題を抱えている子供たちなので、ルビを振ったからといって、それを応用し、他の問題の答えにつなげる能力は残念ながらありません。ルビというのは読めない子に対する合理的配慮であり、みんなと問題にチャレンジできるという機会の平等の保障なんです。例えば、知的障害の子が自分の住所をスマホに入れておいて、荷物を送る時にはそれを転記するなど、障害のある人たちにとって、能力の弱さを他のツールで補完するのは当たり前の世界になっています。これは車いすや補聴器などと同じ意味になります。ただ、通常の学級の中でそうするという文化がまだないので、このような取り組みをどう織り込んでいくかということにおいて、このルビというのはものすごく大きな意味を持っています。

"出来ないからやらせない・あの子は特別・だから排除”というのと、”こういう配慮があればできる・だから仲間・だからやってあげる”というのは全然違う景色になってきます。そうすることで、子供たちは多様性を理解することが出来ます。そのあたりが、現場に浸透してくれればなと思っています。

Q2.

私はいろんなユニークな子も「こういう子がいるんだ」ということで学級経営をしてきて、支障をきたすようなことはなく1年過ごしてきました。でも、次の担任の先生がそのような考えでないと、受け入れるのが難しくなってきてしまうと思うのですが、学級が変わる際にその子の手放し方について教えてください。

A.

学校の中でどのように仕組みを共有できるかということだと思うんです。特別支援教育の中で「構造化」という概念(簡単に言うと「わかりやすさ」)がありますが、いくつかの学校で「構造化」を行うサポートをした際に、例えば、「ごみ箱を、どの教室にも同じものを同じ場所に置きましょう」と言ったら、相当数の先生から「そこまでやらなくてはいけないのか」という声が上がりました。でも、先生の個性を決めるのはごみ箱の位置ではなく、授業の面白さであり、どれだけ子供を伸ばせるかというところですよね。これは先生の持ち味というよりも、学校のスタンスだと思うんです。

先生が子供にどう接するかではなく、子供が支援が必要なら、どの先生になっても支援をしなければいけない。どのような配慮が合理的配慮になるかは、しっかり校内委員会で決めて、各々の先生方の考え方や価値観に関係なくサポートしていこうというベクトルを作っていく必要があります。それが難しいのであれば、個々の先生のぶつかり合いではなく、システムとして個別の指導計画をどう引き継ぐのかということに尽きると思います。先生のやり方に合うか合わないかではなく、子供が楽しんで学校に来ているか、何かをチャレンジしに来ているかが重要で、それがすべての評価の基準ですので、そうでないのであれば、やり方が違っているということになると思います。

Q3.

個別に支援計画をたてる際は、その子が支援を受けることが前提となっていますよね。担任の先生は気になって配慮していても、障害があるとはっきり言えないケースもあると思います。このような場合はどのように考えればいいでしょうか。

A.

障害にも、ダウン症のように誰が見てもはっきり障害と分かる場合とそうでない場合もありますし、成長の過程で症状が強くなったり弱くなったりする子もいます。また発達障害の子のように、みんなと同じ環境で同じことをしなくてはいけないという時は不適応を起こしやすいけど、その子の個性を出していいという環境ではそんなに問題でないというように、環境との兼ね合いという難しさがでてくる場合がありますよね。

教員間でサポートを行っていくという確立したシステムは現段階ではありません。だから、特に小学校の間は、”障害があるから支援”というよりも、”困っているから支援”というスタンスにしないといけないと思います。実は先生方は2割の子に困っていると考えているのに、実際に支援の対象となるのはその4分の1しかいなくて、あとの4分の3をどうしようかと悩んでいます。その4分の3が先生のさじ加減でうまくいく場合もあれば、抑え込まれてしまう場合もあるという現状については何も手つかずですよね。だから障害児教育という切り口だけではなく、全ての子が伸びていくためにはどんな基盤が必要なのかとなった時に、脳とか体とか新たな視点で見ていかなくてはならないというようには感じていますが、こういう視点で子供たちをキャッチアップする制度がまだないので、そうすると今回のように先生方が個別で学ばれて、子供たちをどう扱うかということになってしまうというのが現実だと思います。

Q4.

小学校2年生23人のクラスの担任をしています。耳からの情報が苦手な子、目からの情報が苦手な子など、本当に多様な子供たちがいる中で、みんなが参加できて楽しめる授業を作るためにはどのようにすればいいでしょうか?

A.

みんなが一斉に参加して全員が満足できるような授業を作るという考え方もあれば、1日の中で1人1回は満足できるように時間割を構成するという考え方もあると思います。

授業のレベルは低い方に合わせるのではなく、5段階でいうと3と4の間くらいに設定するのが一番いいですね。それでどれだけカバーできるかというコアなところを押さえて、加えて個別指導、学び合い、補習、宿題など、どんなやり方でそこに入れない子たちを吸収するのか、というのが基本の考え方です。全員が参加して全員が満足するのは相当難しいことですので、まずは体の土台を教科でないところでつけていくようにする。例えば、黒板を写すことができない子はよくワーキングメモリが弱いなんて言われますが、実は3m先と30cm前のところの目のフォーカスが連動してできないんですよ。この子に、ボールを投げて跳ね返ってきたのをまた投げるという運動を100回くらい連続してさせて、その後で黒板を写させたら、すごく出来るようになるんです。つまり、投げて返ってくるという間に焦点がずっと移動しているわけなので、視点を変えたフォーカスが出来るようになる。実は、ワーキングメモリの問題というよりも運動経験のなさが原因で、体を整えてあげると意外と勉強ははかどるんです。小学校の先生は、この”体を整えることで学びを深めていく”という視点を、もっと持っていてもいいのかなと思います。もしかすると、一生懸命遊んだらクリアする問題もあるかもしれない。だから、今見えている現象がうまくいかないからそこを徹底的にやるのではなくて、もう少しそれがどことつながっているのかなということを見ていくと、違った切り口が見えてくるかなと思います。

Q5.

担任をしている4年生のクラスのダウン症の子と他の子との関わり方について悩んでいます。長く一緒にいることもあって、周りの子たちはその子のことをよく理解していて優しく接しているのですが、その子が掃除の時間に何もしなくても怒らないなど、優しすぎる一面もあるなと感じています。自分がいけないということを気付かせるために、それが当たり前になっている空気の中で、私はどういう風に子供たちに伝えればいいでしょうか?

A.

そのお子さんの知的発達のレベルも考えなきゃいけないんですけれども、クラスの仲間にするということが目標だと思います。そのためには、何かを担うこと。例えば、友達の名前を覚えることだったり、音楽やダンスだったり、何か得意なことがあれば、その子が主人公になれる場所がいくつかありそうですよね。それをクラスの中でみんなとつながれる役割として、もっと前面に出して評価してあげたらいいと思います。

知的発達に課題のあるお子さんが通常の学級に入る場合、介助の先生がついていることがありますが、それだと周りの子たちもその先生に任せてしまう空気が出やすくなってしまうので、担任の先生がその子と他の子たちがつながる機会を作った方がいいんです。能力的に自分のことをできないようなら、1人でやっているものを2人にするとか、やりたそうにしているものに参加させてそれを評価するとか、どうすればつながるかを考える。つながれていない子は厳しく言えないけど、つながっている仲間だと思えばハードルをきちんと設定できるはずです。先生が厳しくするよりも友達が厳しくする仕掛けを作るほうがいいんじゃないかなと思うので、その辺をチャレンジしてみてはどうでしょうか。

Q6.

東京都で特別支援教室がスタートして巡回指導が始まるということで(※)、それによって取り上げられるお子さんが増える一方で、今までは通級学級の中で十分に時間をかけて出来ていた丁寧な指導が難しくなるのではないかという話もあるのですが、先生のお考えやご意見をお聞かせください。

※東京都は平成28年度から3ヵ年をかけて全ての小学校に特別支援教室を作るという施策をスタートしました。これは情緒障害の通級指導学級を地域の拠点校にして、そこから先生が各校に訪問をするといった、子供たちからすると自分の学校で専門の指導を受けられるという制度です。

A.

この施策で情緒障害の通級学級が全ての学校にできるという勘違いをされている先生方がたくさんいますが、そうではありません。自分の学校で支援を受けられるということは、1つはインクルーシブの環境をすべての地域で整えるということ、もう1つは通常の学級のあり方を見直すということになります。

これは全ての子が通常の学級に居場所を作るための施策と僕は思っています。特別支援教室に切り替わることは、まだまだインクルージョンの第一弾であって、通常の学級でしっかりみんなが参加できる仕組みを作るためのものです。それをやることによって、発達障害があっても構造化すれば伸びていけるという子たち、本当に毎日支援が必要な子たち、あるいはギフテッドといって特に知的に高い子たちが集団不適応になるケースが多いですが、そういった子たちが見えてくると思うんですね。

その時には第二弾で、そういう子たちの学びの場をどうするかという検討が必要になってくると思います。学習障害の子たちにとっては自校内での支援は大きいですが、自閉症やアスペルガーの子たちにとっては、やっぱりちょっと安心できる場所で社会性やコミュニケーションを伸ばしていくことが必要だと思うんですね。そうやって、本当に必要な支援は何なのかということが、これからもっと見えてくるだろうと思うんです。全体のあり方を見直さない限り、個別支援ばかりをやっていたら立ち行かなくなってしまいます。今は過渡期ですよね。単純に通級が自分の学校にやってくると考えるのか、それとも通常の学級のあり方を見直すというふうに考えるのか、それによってこの次の展開が違ってくるのではないかと思います。

3 講師紹介

 森山 徹(もりやま とおる)先生

むさしの発達支援センター 所長
 東京都市大学人間科学部講師
 杉並区済美教育センター学校経営アドバイザー
 杉並区特別支援教育課専門家チーム心理士

略歴)
大学卒業後、大手のスポーツクラブ運営会社へ入社管理本部勤務を経て、幼児教育事業担当マネージャーとして、幼児教室の運営、プログラム開発などに従事。退職後、横浜市教育委員会・養護教育総合センター心理判定員として就学相談・教育相談に関わる判定業務に携わる。杉並区内で八幡こども発達相談センターを開設、同代表。2004年からは、荻窪小児発達クリニック・心理教育部長。2006年から、むさしの発達支援センター所長(現職)。杉並区で障害をもつ子供たちの支援をはじめて20年以上、「障害のある人たちの自立とはどうあればいいのか」を常に問いながら支援を考え実践。

4 編集後記

先生方の質問や悩みを聞いていると、みんなが参加できる仕組みをつくること、またそういった学級経営の難しさが強く伝わってきました。目標は「小学校に6年間通ったら、中学校が楽しみになった」と育てること。森山先生のその言葉がとても印象的でした。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 嶋田千尋)

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