子供たち全員が参加できる学級経営~インクルーシブ教育を学ぼう~(前半)

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作成者:Chihiro Shimadaさん

1 はじめに

この講義録は、2016年11月5日に行われた第7回JEES(全国初等教育研究会)セミナーでの森山 徹先生の講義内容をもとに作成したものです。障害児教育を取り巻く環境、インクルーシブ教育や学級経営などについて、ワークショップを交えながら詳しくお話しくださいました。
こちらの記事は講義録前半になります。講義録後半・質疑応答については以下の記事をご覧ください。

子供たち全員が参加できる学級経営~インクルーシブ教育を学ぼう~ (後半)

子供たち全員が参加できる学級経営~インクルーシブ教育を学ぼう~(質疑応答)

2 森山 徹先生 講義(前半)

■インクルーシブ教育って?

障害の種類や程度に応じて学ぶ学校や学級を決める「特殊教育」から、全ての学校や学級で障害のある子たちの個別のニーズに対応する「特別支援教育」に代わって、2016年はちょうど10年目にあたります。この9年間、現場は発達障害の子の理解・支援を中心に動いてきました。「特別支援教育」というのはあくまでも障害児教育のことですが、「インクルーシブ教育」というのは、共生・学びあい・支えあいを意識する社会を作る、そのための市民をどう育成するかという全体の有り様に関わる問題です。この"共生"の"共に"の中に全ての人が入る。排除される人がいないことが重要なんです。この両輪が揃って、ようやく車は前に進みます。これからは全ての人が参加できる仕組みを作っていこうということなんです。

■障害者差別解消法と合理的配慮

2013年に「障害者差別解消法」が国会で交付され、実際にスタートしたのはこの4月です。これは日本全ての仕組みを見直すという大きな法律です。今までは、個別の障害のある当事者に関係する法律が中心でしたが、この「障害者差別解消法」の違うところは、障害のある人と関わる人たちに対して規定を引くということです。この法律は、公的機関と民間の事業者の二者に対して義務を課しており(当然、公立の学校は公的機関ですので、努力義務ではなく拘束力のある義務ということになります)、「不当な差別的取り扱い」「合理的配慮の不提供」という二つのことを禁止しています。

「不当な差別的取り扱い」

障害のない人に付けていない条件を、障害のある人に付けてはいけない、ということ。

例えば、多動性のお子さんの保護者の方に学校の遠足についてきてくださいと言うことは「不当な差別的取り扱い」になる可能性があります。もちろん介助が必要な場合には、行政機関、つまり学校と教育委員会がしっかりそのための手立て・予算をつけていかなければいけません。

「合理的配慮の不提供」

合理的配慮というのは、障害のある人たちが生活する上で支障となる外的な要因、これを除去する措置ですけれども、この「合理的配慮の不提供」が成立するためには3つの条件があります。

1.障害のある人の個々のニーズを満たす
 障害一般ではなく、あくまで個別的・個人のニーズに対しての配慮ということです。
 ※視覚障害者のために点字ブロックを準備する等、あらかじめ障害のある人たちのために施設を改修するのは、ポジティブアクションという言い方をします。

2.配慮義務者側(学校や教育委員会など)に過度な負担にならない
 それぞれの事業者の財政基盤や人的資源等によって違いが出てくることを想定して、過度な負担という曖昧な表現になっています。

3.本人の意思表示が原則
 こちら側が勝手に支援をするということではなく、障害がある本人が申し出るということです。合理的配慮を申請するということが、配慮する側が言動を始めるきっかけになります。

つまり、合理的配慮とは、異なる者を異なって扱わないと差別になるという新しい考え方なんです。今まではみんな平等に扱わないと差別と言われていたのが、これからは異なった扱いをしなければ差別になる。例えば、アレルギーのお子さんに給食で別のものを出すことは合理的配慮です。これを発達障害や知的障害、身体障害のお子さんに提供しようという話なんです。

ただ、本人の意思表示ができるように育てていくことも必要になります。なぜ今までできなかったかというと、この合理的配慮が、配慮を提供する側の思いやりや善意に支えられていたからです。障害のある方達からすれば、これからは自分が参加するための手立て・1つの権利としてお願いしたいことを堂々と言えるようになるという法律ですから、配慮されるばかりの受け身ではなくて、障害のある子供たちが自らの特性をちゃんと理解して、発信できる力(セルフマネージメント力)を合わせて育てていくことがとても大事です。

文科省はこの合理的配慮を考える視点として、3つの観点11の視点でもっていろんな事例集を出しています。国立の行政法人である特別支援教育総合研究所のHPに合理的配慮のいろんな事例がデータベースになっていますので、アクセスしていただければと思います。
http://inclusive.nise.go.jp/

■合理的配慮と評価

合理的配慮を評価するときには一つの基準があります。

「障害でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのもので、授業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないもの」(文部科学省)

つまり、評価の基準は変えないということです。例えば、自閉症のお子さんがコミュニケーションが苦手で話し合い活動に参加させられないといった時、レポートという形で意見のやりとりをして、話し合いに参加できる仕掛けを整える必要が出てくる。話し合いが苦手だから違うことをやる、ではないんです。合理的配慮というのは、その子が参加できる形で話し合いのスタイルを作っていくことですので、カリキュラムの本質的要素の実質的な改変や、サービスの提供の仕方の実質的な変更を伴わない範囲に限定される。障害があるからできなくていいっていうことではない。このような時、どうしてもハードルを下げがちなんですが、できないから免除しようってなると、その子の学びをどこで保障するんでしょうか。重要なのは、どうすればその子が参加できる仕組みを作れるかということなんです

■同調圧力

これは「同調圧力」実験という心理学の実験です。

自分の前の5人が誤った答えを言うと、事前に正しく答えていた人たちの実に3分の1が誤った答えに同調してしまう。ところが、5人のうち1人でも正しい答えを言うと、ほぼ100%が正しく答えられるんです。おもしろいですよね。自分以外の意見がみんな違うと不安になるけど、1人でも同じ人がいるとほっとする。
この同調圧力に屈しないで自分の思いや考えを貫く傾向の強いグループの人たちがいます。その代表格が、発達障害の子たちです。これは強い。ですから、これからアクティブラーニング等でいろんな意見が出てくる中で、先生たちは発達障害の子たちを大いに活用してほしいんです。彼らは同調圧力に屈しないので、非常にユニークに場を作ってくれます。そのためには、こういう空気の中で先生たち自身が堂々と正しい答えを言えることが大事なんです。「正しいと思ったのなら、その答えを言いなさい」と言えるようになってほしい。そこから、みんなが参加できる仕組み・空気が出来上がるんです。

■Diversity(多様性理解)とInclusion(包括)

その仕組みををキーワードでいうと「Diversity」と「Inclusion」です。

「Diversity」というのは、多様性の理解。

「Inclusion」というのは、全ての人を包括する仕組み。

この言葉はまだうまく日本語にできないんですね。つまり、日本のこれまでの文化、私たちが身にまとっている空気感には、違ったものを違うように扱うという合理的配慮の考え方・発想自体がない。これはヨーロッパやアメリカの由来の考え方で、移民や違う宗教や違う言語の人が当たり前のように隣に住んでいて、同じコミュニティを形成している社会だからこそ、違いを認める必要性があるからなんです。
この「Diversity」「Inclusion」という言葉に、本当にしっくりくる日本語が当てはまった時には、日本のいろんな仕組みがそういう多様性というものにだいぶ馴染んできたんだなっていうことを意味しているんだと思いますね。

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3 講師紹介

 森山 徹(もりやま とおる)先生

むさしの発達支援センター 所長
 東京都市大学人間科学部講師
 杉並区済美教育センター学校経営アドバイザー
 杉並区特別支援教育課専門家チーム心理士

略歴)
大学卒業後、大手のスポーツクラブ運営会社へ入社管理本部勤務を経て、幼児教育事業担当マネージャーとして、幼児教室の運営、プログラム開発などに従事。退職後、横浜市教育委員会・養護教育総合センター心理判定員として就学相談・教育相談に関わる判定業務に携わる。杉並区内で八幡こども発達相談センターを開設、同代表。2004年からは、荻窪小児発達クリニック・心理教育部長。2006年から、むさしの発達支援センター所長(現職)。杉並区で障害をもつ子供たちの支援をはじめて20年以上、「障害のある人たちの自立とはどうあればいいのか」を常に問いながら支援を考え実践。

4 編集後記

異なるものを異なって扱わないと差別。この考え方は、みんな同じ=平等という固定観念のようなものを打ち砕かれた思いでした。新しい学力観として個々を重視することを掲げてやってきたのにも関わらず、統計では日本人が同調圧力に流される割合は30年前よりも高くなっているのだそうです。みんなが参加できる仕組みを作るためには、私たち一人ひとりの意識を再構成することが必要かもしれないと感じました。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 嶋田千尋)

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