これからの公教育の挑戦~公立学校の底力を高める実践~(「未来の先生展」平川理恵先生)

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作成者:加藤 広夢 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2017年8月26、27日に開催された「未来の先生展」での、民間人校長として活躍されている平川理恵先生によるプログラムを編集・記事化したものです。なお、記事中の発言には編集上の関係から一部記者が手を加えています。

このプログラムは、平川先生の民間人校長として2校目である横浜市立中川西中学校での実践を基にした講演となっています。

2 中川西中学校の特徴

平川先生の取り組みを紹介する前に、中川西中学校の特徴を紹介していきます。

  • 大規模な学校で生徒数も教員数もおおく、活気がある。
  • 経済的に恵まれている家庭も多く、比較的生徒は落ち着いている。しかし、もちろん貧困の家庭も一定数いる。
  • PTAは協力的。

3 特別支援教室の設置

平川先生が中川西中学校の校長になったときの最大の課題は不登校の問題でした。

それを解決するために、不登校になってしまった子に対して専用の教室と専任の先生を設け、そして専用のカリキュラムを作ろうとしました。しかし、そのためには先生の協力が必要であり、必要性を理解してもらわなければなりませんでした。そのために平川先生は、ほかの先生に何度も説明して、理解を得ていきました。その結果、特別支援教室専任の先生を2名配置することが可能になりました。

特別支援教室の取り組み

次に、中川西中学校の特別支援教室がどのような取り組みを行っているのか紹介していきます。

  • 通常の生徒が登校時に使用する昇降口とは別に出入り口を設けて、支援を必要とする生徒が特別支援教室に行きやすくしました。
  • 登校支援だけでなく、学習支援も行っています。
  • 学校にいきたくないと言っている子たちへの学級として、学校らしくない教室づくりをPTAの方々と協力していきました。そして、それをリビングルーム(生きるための部屋)と名付けました。
  • 通常の学級より難しいため、ピカイチの先生を一般級から引き抜いて 教室に置きました。
  • 生徒指導専任の先生に通常学級を巡回してもらい、支援が必要な子がいないか探してもらいました。
  • 社会に出ていくために必要なソーシャルスキルなども子どもたちに教えています。

4 情報共有

中川西中学校のような大きな学校だと、生徒が多いのはもちろん先生の数も非常に多いため、組織をうまく構築しなければ、校長1人で学校を動かしていくことはできません。そして、組織として動くためには情報共有が不可欠です。

先生の中の情報共有

毎日、学校の主要な先生を集めて15分間の打ち合わせを行い情報共有を行っているだけでなく、学校職員専用のオンライン掲示板を作成し、全職員にすべての学年の日報を確認させています。その日報の中には、5W1Hの形で気になる子どもの情報などが共有されています。

保護者との情報共有

学年便りの中に校長先生が執筆している「おジャマします。授業拝見」というコーナーを作り、保護者の方に先生の取り組みが届くようにしています。校長は、その記事を書くために全教員の授業観察を行い、授業観察後は個人面談を行い、授業の振り返りを行っています。

子どもとの情報共有

「Dear校長 公聴ポスト」というものをつくり、子どもの悩みや相談を受け付けています。そして、名前が書いてあるものには校長が返信を書いて、担任の先生に了解を得た後、子どもに返信を渡すようにしています。

5 学習環境の整備

生徒にとって、学校の学習環境の整備はとても大切です。
中学校では特に特別教室が汚れやすいので、部活動のメンバーに頼んだり、「親父の会」や「校舎内を美しくする会」を作って保護者の方にも協力してもらいました。そこで親子の関わりをみて、親子関係もよく分かることもあります。

6 キャリア教育

1年生はキャリアチャレンジデーと称して、様々な業種の人々を12名呼んでいます。テーマは「グローバル」「ローカル」「ありえない生き方」です。これからはグローバル化が進み何が起こるかわからない時代なので、ありえない生き方をしている人も呼ばないといけないわけです。そして、子どもたちはその人たちの中から3人選んで話を聞くわけです。

2年生は職場体験を1日から3日に増やしました。コーディネーターを元PTAの方に頼んで、さまざまな事業所にお願いしてなんと140事業所の方に協力していただきました。

3年生は地域の方々に模擬面接をしていただきました。子どもの数が多い学校なので、55名の地域の方々に協力していただき、全員の模擬面接を行いました。

7 教員の多忙解消 

教員の多忙解消のために、「そもそも仕事の質とは何か」を主幹教諭と話し合いました。その中で、公立学校の教員の役割は、「生徒一人ひとりの自己実現を支援することだ」と合意し、それに沿わない仕事はなくそうと決めました。

例えば、部活動。保護者には「部活動は教育課程外」だと説明し、練習頻度や内容は、顧問の裁量だと伝えます。学校の役割をハッキリと伝えることで、保護者からのクレームはほとんどなくなりました。また、校長から顧問へ、部活動の時間が長くなりすぎないように自主規制を要請します。

勤務時間に関しても、先生方に「月80時間以上の残業は過労死ゾーンだ」と明言します。このラインを知らない先生もいますので、「それ以上働くと死んでしまう恐れがある」とはっきり伝えます。

8 教師のキャリアディベロップメント

私は先生方に次の質問をよくします。
「なぜ、先生になったのですか?」
「なぜ。先生を辞めないのですか?」

この質問を通して、先生方の仕事観や働き方、将来のキャリアの方向性がみえてきます。そして、その方に合ったアドバイスをしたり、研修を勧めたりしています。

この2つは究極の質問で、先生を原点に戻してくれます。そのやり取りで、海外へ学ぶことを決意した先生もいましたし、反対に、本当にやりたかったことは何かを見つめ直し、先生を辞められた方もいます。

このように、先生方に本当にやりたいことを学ぶ機会を持ってもらうために、キャリアディベロップメントの視点を持って関わることも心掛けています。

9 これからの公立学校

公立学校は、「先生も保護者も、どちらも辞めさせられない関係」だと言えます。民間では、社員を辞めさせたり、取引先を選ぶことができるかできないかと言われたらできますが、公立学校ではできません。いろいろな人がいる中で、誰も排除せず、どうすればみんながより快適に過ごせるかを考えるのが公立学校です。

私がなぜ民間人校長をやっているのか。それは、日本で教育を選べるようにしたいからです。それが未来の子どものためになると信じています。

現在の学齢による区分けは、一定数落ちこぼれを作る仕組みであり、全国均一的な教育へ強い違和感を持っています。日本は、食べ物や着る物は自由なのに、教育はまだ不自由だと言えるでしょう。子どもも世の中も多様になっている中、多様な教育を認めていくことが肝要です。とは言え、今までの学校教育の成果を否定することはありません。100点を求めすぎず、60点で良いと思えるゆとりを持って進んでいければ良いと思います。

もちろん校長1人の力で社会を変えることはできません。
この未来の先生展でも感じますが、いろいろな方が教育や社会を少しでも良くしたいと思っています。そのような小さな一歩の積み重ねが、未来をより良くしていくのだと思います。

10 講師紹介

平川理恵先生

横浜市立中川西中学校長

リクルートに入社後、同社から米・南カリフォルニア大学(University of Southern California )に留学し、経営学修士(MBA) 取得。1999 年に留学斡旋会社を起業。10 年間、無借金&チョイ黒字経営を果たす。
2009 年、事業売却。2010 年4月、公募により、女性として全国初の公立中学校民間人校長に就任。著書に
「あなたの子どもが”自立”した大人になるために」(世界文化社)など。 文部科学省中央教育審議会初等
中等教育分科会教育課程特別部会委員。スポーツ庁運動部活動の在り方に関する総合的なガイドラインの作
成検討会議委員。

11 編集後記

民間人校長として活躍されている平川先生の「公立学校でもやればできる」という熱い思いが伝わってくるプログラムでした。そして、子どもたちのために周りの先生を巻き込んでより良い学校を作っている取り組みに感動しました。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 加藤広夢)

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