未来の学びのかたちとICT〜社会とともに変わりゆく学びと先生の役割〜(「未来の先生展」中村孝一さん、後藤正樹さん、松田孝さん)

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作成者: 横田 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、2017年8月26、27日に開催された「未来の先生展」での、学習支援サイトを運営するNPO法人eboard代表理事の中村孝一さん、授業支援システムの開発を手がける株式会社コードタクト代表取締役の後藤正樹さん、情報端末を積極的に活用し教育ICTでの変革をリードする小金井市立前原小学校校長の松田孝さんによるプログラムを編集・記事化したものです。
なお、記事中の発言には編集上の関係から一部記者が手を加えています。
プログラムは「これからの学びとICT」と題し、変わりゆく社会の中で求められるであろう学力、その学力を育むために必要な学び、その学びにおける学校、先生の役割といったテーマについて3人の講師の方々がお話しされました。

2 これから必要となる学力

中村孝一さん(以下敬称略):多くの本や識者の意見の中で、表現力、問題解決能力、知識を結びつけて活用する力、コミュニケーション能力など、様々な能力が必要な能力として挙げられています。しかし、それが実際どういった力なのかというと、よく分からないと感じませんか。
学力の定義は、社会の変化によって変わってしまうものだと思います。車が自動運転できるようになると、車の運転免許は不要になるかもしれません。特定の技能が自動化されて、それを習得する意味がなくなるということが出てきうるのです。また、頭にコンピュータチップを埋め込んで知識を脳内に流し込む、ということができるようになることもありえます。そうすると、知識の意味はなくなってしまうかもしれません。こういう社会を想像したとき、必要となる学力は大きく変わってきますよね。

後藤正樹さん(以下敬称略):中村さんがおっしゃっているように、これから必要になる学力は変わっていきます。そのように環境によって変わる学力を測る尺度の一つとして、教育学者の苫野一徳さんの受け売りなのですが、私は「自由と自由の相互承認」というものがあると思います。自分が自由に生きること、そしてお互いの自由を傷つけ合わずに承認することを達成するものが、学力なのではないでしょうか。
また、不確定な世の中で、子どもたちは先生の助けを借りずに生きなければならなくなるでしょう。学ばなければならないことが決まっているわけではなく、常に自ら学びをインプットする必要があるのです。このような時代においては、セルフコーチングできる人材を育てなければ「自由と自由の相互承認」は担保されないと思います。

松田孝さん(以下敬称略):確かに、学力は大きく変化しています。例えば、翻訳機の精度の向上により、2025年に英語を学ぶ必要性を問う議論が起こるのではないか、と言われています。その中で最終的に大切なのは、将来主体的に生きていけるかどうかではないでしょうか。だから、自分自身に対する主体性、メタ認知こそが評価されるべき学力であると思います。学校の授業におけるメタ認知とは、授業を通した成長の過程を自分で評価、認識することです。
また、これからの時代は不確定であるとはいえ、必要な学力は時代の流れを認識することで明らかになるものでもあります。今後のIoTの時代に対応する力を身につけるためには、クラウドやAIへの興味、感覚を磨くことも必要だと思います。

3 新しい学力を身につけるために必要な学び

中村:学びの方法に正解があるわけではないので、私たちが実際に行なっている学びの形を一例として紹介します。eboardの教材には問題と動画が含まれていて、子どもたちは問題を解いたら自動採点され、分からなかったときはそれぞれ解説の動画を見ることになります。こうして、自分でつまずきを解消しながら、学習ができるような教材になっています。
基礎学力は人によって違うし、どのように学習を進めたいかも人それぞれです。こうした潜在的な多様性を発現できるような多様な学習手段を提供することで、それぞれが最も適した方法で学習することができますし、それは学びのあり方としてとても自然なものだと思います。

後藤:学びにおける多様性は確かに大切です。現在、日本人は特に「教える」側と「教わる」側という関係性に強く縛られているように感じます。私はこうした価値観を壊して、より多様な価値観のある学びの場を作りたいと考えています。そのための手段として、ICTがあるのです。新しい「モノ」を導入することで、人の価値観は変わりますから。
そうした意味で、自分の学びの成果を既存の価値観に照らして評価すべきではないと思います。何を学ぶにしても、その学びが自分にとってどのような意味を持つのかということを考える教育をしたいです。

松田:私も現状の価値観を変える必要性を感じています。勉強という言葉は、もともと気の進まないことを我慢してやる、という意味です。明治時代、西洋の進んだ知識を無理やり吸収するために学校での学びは「勉強」となり、その価値観は今でも日本人の中に強く根付いています。私は、この「勉強」という言葉を死語にして、主体的な「学び」へと変えたいと思っています。
ICTは先生が効率的に授業を進めるためのものではなくて、子ども一人一人が豊かに学ぶための手段だと思います。これは、既存の学びの考え方を完全に覆してしまうもので、それゆえなかなか受け入れられないのかもしれません。

4 ICTが導入されゆく中での先生、学校の役割

中村:最近注目されているプログラミング教育は、先生と生徒の差が少ないがゆえに先生が生徒と同じ目線で学び合うことができ、アクティブな学びを生むことができると思います。他の教科でも、先生が教えるというよりファシリテートすることを意識すれば、生徒はアクティブに学ぶことができるのではないでしょうか。
そして、学びがどのように変わったとしても、生徒を信じて愛情を注ぐことは人間である先生にしかできません。現在の先生方も持っておられる、その不変の部分を活かしていただきたいと思います。

松田:今では、中村さんのeboardなどのツールを使うことで、生徒が自分で学ぶことのできる環境はあります。しかし、お互いが刺激しあい、モチベーションを高める場として学校は不可欠だと思います。
そして、先生の役割はファシリテーターではないでしょうか。生徒の多様な認知特性に合わせて、得意な子は褒め、友達とじっくり学びたい子にはコーチをし、意欲のない子には積極的に丁寧に教える、というように先生が様々な役割を一つの授業の中で行う必要を感じます。生徒の中に植え付けられた「勉強」の学習観を変え、それぞれが自分のペースでアクティブに学ぶという素敵な「学び」の概念を先生と生徒が共有できればいいなと思います。

5 講師紹介

中村孝一さん
NPO法人eboard代表理事。世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバル・シェイパーズ・メンバー

後藤正樹さん
株式会社コードタクト代表取締役。経済産業省認定未踏スーパークリエーター。日本デジタル教科書学会役員。琉球フィルハーモニーオーケストラ指揮者。

松田孝さん
小金井市立前原小学校校長。地域IoT実践推進タスクフォース人材・リテラシー分科会委員。プログラミング教育事業推進会議委員。
(2017年8月27日時点のものです。)

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7 編集後記

教育の最先端を開拓する講師の方々のお話からは、時代の変化を受け入れてそれに強く立ち向かっていく覚悟を感じました。正解のない状況で試行錯誤をして自ら学び、評価するということが、これからの子どもの学びに限らず、すでに先生にも、社会を生きる大人にも求められているように思いました。
(編集 EDUPEDIA編集部 横田)

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