【Classroom Adventure取材】大学生が届けるメディアリテラシー授業の裏側とは?

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目次

はじめに

本記事は、謎解きゲーム形式のメディアリテラシープログラム「レイのブログ」を開発したClassroom Adventure代表、今井善太郎さんへのインタビュー記事です。

大学生である今井さんが「レイのブログ」を開発するに至った背景や、授業実践に対する思い、そしてClassroom Adventureが目指す教育について伺いました。

なお、本記事は、2024年10月19日に行った取材を記事化したものです。

「レイのブログ」を使用した、開成中学校の授業見学レポート記事もあわせてお読みください。

Classroom Adventure 設立背景と名前の由来

ーーまず、なぜ団体の名前をClassroom Adventureとしたのでしょうか?

Classroom Adventureは、堀口、古堅、そして私の3人で始めました。

私たちはそれぞれ異なるバックグラウンドをもっています。堀口は、アメリカで生まれ育ち、19か18の時に初めて日本に来ています。私はカナダの学校に、古堅は日本の学校に通っていました。

そんな私たちに共通していたのは、「学校があまり楽しくなかった」ということでした。

私たち3人は同じ大学なのですが、大学でも「なんか楽しく学べないな」みたいな話をして、あまり学校に行かなくなってしまいました。

そこで、この課題感を自分たちで解決するために、この活動を始めました。Classroom Adventureという名前には、教室で冒険するような、ワクワクする授業や学びができればいいなという願いを込めました。それと共に、名前に「Classroom」とは入っていますが、教室にいる子どもたちだけではなく、社会人でも、おじいちゃんおばあちゃんでも、楽しく学べる機会を作っていきたいと思っています。

学校で感じた「つまらなさ」を原点に

ーー先ほど、「学校があまり楽しくないな」ということが共通していたとのことでしたが、具体的にどのような部分だったのでしょうか?

私たちが最初に思いついたのは、情報リテラシーやSNSリテラシーに関する授業でした。

多くの学校で外部講師によるSNSに関する授業があると思いますが、私たちが受けた授業も、「SNSは危険だ」とか、「インターネットはまだまだ君たちには早い」みたいな表現が多かったんです。でも、私たちはインターネットが好きで、「こんなんじゃ聞かないよな」とか、「本当に大人は分かっているのかな」とか、「そもそも全然面白くないな」と感じていました。それだったら、メディアリテラシーから着手しようと思ったのが最初です。

個人的には、数学がすごくつまらないなと感じていました。数学は体系的に学び、基礎を作ることが多いと思います。学校で授業を受けていた当時の私は、「それを学ぶことで、どうやったら自分の人生が楽しくなるのか」が分からないためになかなか聞く気にならず、ずっと上の空でした。でも、今こうしてプログラミングに取り組んでいると、数学がいかに重要かを実感し、急に学びたいという思いが湧き上がってきました。

こうした経験から、「レイのブログ」では実際に体験することを通じて、「こんなスキルがあったらこんな色んなことが分かるんだ」とか、「歴史を知れたらこんな楽しいことがあるんだ」というように、自分のモチベーションと繋げるところを大事にしたいと思っています。

誰一人残さず、楽しめる学びを

ーー授業での目標はありますか?

私たちが取り組んでいるのは、リテラシー教育です。リテラシーって語源の英語では「字を読む力」を意味するので、すべての人が持っているもの、当たり前に持っているものみたいにしたいというのが目標です。

生徒の個性を伸ばす教育も重要ですが、私たちは「全員が楽しく学んだ」といえることを重視しています。個別の子を見ているというよりも、「全体として、この学校で、みんなが分かった」というように、誰一人取り残さずに、私たちの伝えたいことが万遍なく伝われば嬉しいなと思います。

授業の最後にはアンケートを行い、生徒の反応を確認しています。今回の開成中学校では約99%の生徒が楽しいと答えてくれました。それを見ると嬉しいなと思います。実際に前に立って話をしていると、正直、「本当に聞いてくれているのかな?」、「聞いてくれているのか聞いていないのかよく分からない生徒も多いな」と感じることもあります。ですが、アンケートにすると色々書いてくれていることが多いので、関心をもってくれていたり、片耳でも聞いてくれたりしているんだなと、伝わってきます。

学校を非日常空間に

ーー授業で作る中で大切にしていることはありますか?

私たちは、「学校にいるのに、学校にいない感覚」のような、非日常的な、学校にいるのにこんなに楽しいんだ、と思ってもらえる授業にすることを意識しています。イメージでいうと、ディズニーランドのような、非日常空間にいることを感じてもらえるようにしています。やはり「教育する」、「教える」となると、結構硬くなりがちだと思うので、私たちはそういうことは意識していないです。特に、前半のゲームパートでは、学校にいるということを忘れてほしいとも思っています。後半で色々説明するので、前半は意味とか考えずに夢中になってほしいと思っています。

ーーオープニング動画がとても印象的でした。動画からスタートすることには何か意図はありますか?

オープニング動画は、世界の入り口です。単に先生が話して板書するのではなく、動画を通して、「何かが始まりそう」というワクワクや期待感をもってもらいたいです。

ーー前半がゲーム、後半がレクチャーの形式でしたが、この流れや構成には何か意図があるのでしょうか?

ゲームが終わってすぐレッスンに行くということを重視しているので、今回の開成中学校でも7クラスすべてをZoomで繋ぎ、一斉に始めることで進度をそろえ、待つ時間をなるべく作らないようにしました。

ゲームとレッスンを同じ日に実施するのは私たちのこだわりです。なるべくレッスンは次週に持ち越さないようにしたいと考えています。次週になってしまうと、生徒の皆さんは、ゲームで取り組んだことや授業の内容を忘れてしまいます。ゲームをして、その熱が冷めやらぬ中でレッスンに移ることが大事ですね。

ですから、授業は2時間の時間をとっていただくことが多いです。

次の日に持ち越す場合は、「ゲームをもう1度振り返ってみよう」からスタートします。しかし、基本的にはその日に全部やりたいという思いが強いです。

大学生の授業者として

ーー授業を進める中で、教室で司会をするメンバーとレッスンをするメンバーがいるかと思うのですが、メンバーの割り振りや準備で工夫していることはありますか?

メンバーの割り振りについてですが、レッスンを私が担当していたのは、どちらかというとチームに入るのがすごく得意というよりも、人前で話すところに自分の特性があるかなと思っているからです。大学生の我々が伝えるからこそ、説教くさくはならないと思っています。例えば、「SNSって危ないこともあるよね」みたいなことって、先生が言うと、「危ないから気をつけろよ」みたいな伝え方になることが多いと思いますが、私たち大学生は、「自分も引っかかる可能性あるしな」というように友達と話しているように伝えられると思います。そのほうが、ある程度聞きたくなるのではないでしょうか。

クラスそれぞれで授業を進めるのは、楽しい雰囲気を作ったり、生徒と距離を縮めたりすることが得意なメンバーが担当しています。教えるのがうまいというよりも、雰囲気を作るのがうまいとか、楽しい感じを作るのがうまいとか、そういった部分を重視していますね。各クラスで授業を進めるメンバーは、メンバーになってすぐに実践する場合もありますが、研修という形で、事前に軽く自分でゲームをやって、生徒の皆さんがどこで引っかかるかを考えてもらったり、レッスンの様子の動画を見てもらって学んだりということに取り組んでいます。

将来的に、この「レイのブログ」やClassroom Adventureをどんどん広めていきたいと思っているので、デジタルの力を最大限に活用して、誰でも教えられるものにしたいと思っています。例えば、授業中、スクリーンに表示されている画面から各班の進捗が見えるようにしています。こういうシステムも、いちいち生徒に聞いていたり、ファシリテーターの勘に頼ったりとなると、学習のコストも高くなってしまい、広げるのが難しくなります。ですから、私たちClassroom Adventureのメンバーが実際に授業に行かなくても、とにかく簡単に楽しくするという人がいれば、あんまり学ばずに、「レイのブログ」を使ってもらえるように、授業者によって授業の質が変わることのないプログラムを作っていきたいと考えています。

授業実践での発見

ーー授業の中で、「自分たちの予想とは大きく違った! 」というようなことはありますか?

大きな裏切りはあまりないですが、嬉しいハプニングは結構ありますね。

私たちが提供しているプログラムは基本的には同じで、私たちが学校によって説明を簡単にしたり、難しくしたりしているのですが、想定していたよりも早く進んでいると思うときはありますね。今回、開成中学校の皆さんはとても優秀で、びっくりするくらいゲームの進度や理解が早いな、と思いました。他の学校で取り組む際も、「中学生だから……」と思っていたら、すごいスピードで進めていることも多くあります。スマホを使うので、やはりデジタルネイティブ世代のほうがだいぶ早いんですよね。大学生より高校生のほうが早いし、高校生より中学生のほうが早いこともあります。時間が余りそうだなというときは、例えば、レッスンの時に、残り時間に応じてワークショップを追加することもあります。なるべく待ち時間が生まれないように、余裕をもっていろいろなアクティビティを用意しています。

学校によって求められるものが違うので、例えば、宿題を出すことを依頼されたときは、自分でネット上からニセの情報を見つけてきて、それをファクトチェックすることを宿題としたこともあります。生徒から提出された宿題を見ると、芸能から、政治まで、幅広い分野から情報を持ってきてくれました。

大学生だからできること

ーー活動を通して、大学生だからこそできているのではと感じることはありますか?

プログラムを作るところには、大学生という若い頭脳が必要だなと思います。学校の先生が「レイのブログ」のようなものを作ったり、プログラミングしたりする時間はなかなか取れません。そこで、先生が行っている普段の授業とは少し違った視点で、大学生の私たちがやる気を高めるようなプログラムや仕掛けづくりをする感じです。

また、私たちは少し前まで高校生で、自分が、何を楽しいと感じていたのか、どんな学校だったら楽しかったかな、などが分かると思っています。中高生の目線になってプログラムを考えることで、大人の押し付けにならないようにがんばっています。とにかくワクワクする、自分だったらこんな学校にしたかったなと思うものを、今作っています。

新しいことにチャレンジする「大学生」としての姿で

個人的には、この「レイのブログ」で影響を与えるとか、生徒に何か持って帰ってほしいことが6割としたら、残りの4割は、こうやって自分と同世代の人たちが、自分のやりたいことをやっているなとか、楽しそうなことを友達とやっているという姿を見せたいという気持ちもあります。

私が、教育に興味を持って活動してきたのは、面白い先生や、面白い活動をしている先輩がいたからです。その人たちがやっていた一つ一つことを覚えているわけではありませんが、新しいことにチャレンジする背中を見せてもらったと感じています。だから、「レイのブログ」を覚えてほしいというよりも、「なんか大学生来たな」とか、「あ、これ自分でもやれるのかな」みたいに思ってもらえると、すごく嬉しいなと思いますね。

これからの展望

授業終了後には必ずアンケートを取っていて、「次にClassroom Adventureで作ってほしい教材は何ですか」と聞いています。そうすると大体、プログラミングと歴史と数学と答える生徒が多いので、このような分野にチャレンジできたらいいなと思っています。

「レイのブログ」は生徒の皆さんがメディアリテラシーについて考えるきっかけにはなっていると思いますが、継続的な学びを作り上げることが目標です。

また、私たちのような取り組みがもっと出てくるといいなと思います。教育って、自分がこれを教えたいとか、結構エゴが入ることが多く、受け取る側の立場になっている教材が少ないのではないかと思っています。

私たちはメディアリテラシーに興味があるというよりも、メディアリテラシーが大切なのはある一定上分かっていて、それをどうやったら楽しく学べるかな、が出発点です。だから生徒視点に立って、そこ起点で何か学ぶものを作ると、もっともっといいものができるんだろうなと思います。

学校現場の先生方・生徒の皆さんへのメッセージ

すごく楽しいので是非、一度「レイのブログ」を体験してほしいですね。

学校現場の先生方には、メディアリテラシーについて、時間がなくて教えるのに困っているなとか、いい教材ないかなと思っている人がいれば、是非一度こういうふうに外から入れてみるのも楽しいですよということを伝えたいです。

生徒の皆さんは、学ぶ楽しさを感じたり、自分で学びを作ることができるんだということを感じてほしいです。私たちだけでは、教育やメディアリテラシーの世界は変わらないと思うので、どんどん取り組みが増えてきて、そういう業界みたいなのができるといいなと思っています。

編集後記

教育する側の伝えたいことではなく、生徒たちが楽しいと思うことを最優先にしているという言葉にはっとしました。私自身も中学校や高校で授業を行うことがあるのですが、伝えたいことをベースにした中で楽しさを作るという部分が大きくなっています。今回の取材を通して、新たな切り口での学びの作り方をうかがうことができ、見える景色が広がっていく感覚を抱きました。同じ教育に興味を持つ学生として、私ももっと邁進していきたいと思います。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 下園絢音)

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