開成学園校長が考える学校教育~第2回 柳沢校長の現代の教育に対する見解~

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作成者:村嶋 章紀 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事は、開成中学校・高等学校長の柳沢幸雄先生に取材をもとに執筆した連載記事(全3回)の第2回です。開成学園の柳沢校長が現代の教育についてどのようにお考えなのかをご紹介します。

2 インタビュー

〇家庭と子どもの教育の話

 女の子の教育に関して意見はございますか?

 女の子はたくましく成長していると思います。なぜなら家庭の教育は母親が担っていることが多いからです。先輩のロールモデルの話につながりますが、女の子は身近に母親というロールモデルがいます。そのロールモデルはポジティブなものとネガティブなものがあります。そのため「あんな母親みたいになりたくない」と思う場合もありますが、それはそれでいいです。つまり自分の将来を考える時に「あのような人生を送りたい」・「あのような人になりたくない」と考える軸があることが大事です。

 しかし残念ながら、男の子にはロールモデルがいない家庭が多いのです。つまり働きに出ていて身近に父親がいるわけではないので、父親が仕事でなにをしているか、どうやってお金を稼いでいるかを知らないのです。ましてや母親に「うちの父親みたいになったらダメだよ」と言われたら、「いったいどうなったらいいのか」と男の子はなってしまいます。

 入社試験を行ったら、女性は家庭にロールモデルがあり、男性は家庭にロールモデルがないことが多いという点で、女性は将来をしっかり考えていることが分かります。また男女を同じ基準で採用したら、女性ばかりを採用してしまうともよく言われています。

〇学校で必要な三つの柱

 生徒がやりたいことを見つけるには、先輩の影響が大きいとおっしゃていた(詳しくは連載の第一回を参照)と思うのですが、その他に学校側で何かしていることはございますか?

 私は学校教育には3つの要素があると考えています。1つ目は授業・2つ目は部活・3つ目は学校行事です。それぞれの役割がすべて違うと考えています。授業は基礎的な学問力を付けるためにあります。基礎的な学問力を身に付けるとは学び方を学ぶということです。なぜ、基礎的な学問力をつけなくてはいけないかというと社会人になって新しいことを学ぶ必要が出てきた時には先生がいないので、その時にどのように学んだらいいかを、それ以前に自分で確立しておく必要があるからです。自分で学ぶには先生が「このようにしましょう」と抽象論で言っても自分の学び方を確立することができません。それゆえ、授業を通して具体的に新しいことを勉強することで、「この科目なら自分はこのように勉強すれば良いというような」と自分の学び方を確立していくために授業があります。

 部活は同じことが好きな人達が集まる場所なので、自分の好きなことを極めることで個性を磨くことが出来ます。

 学校行事は社会性を身に着けるためにあります。例えば、開成学園では大きな学校行事が3つあります。学年旅行と文化祭と運動会です。学年旅行はどこへ行くかはすべて生徒たちが決めます。そのためにまず生徒が行うのは、旅行委員を選出するための選挙管理委員会を組織することです。選挙によって、旅行委員を選びます。旅行委員会が出来上がると、旅行委員会が立ち会い演説会を組織します。演説会では旅行先についてアイデアを持っている個人あるいはグループが「ここへ行きたい、ここはこれだけいいことがある」と演説し、みんなから賛成票を獲得しようとします。つまりいろんな意見を一つにまとめて、学年旅行をつくりあげることを通して、合意を形成するプロセスを学ぶことができます。これは大人社会で必要な意思決定のための民主主義の原点です。だからそういう意味では社会性を学ぶことに繋がります。
このようにして、学問の学び方と個性の磨き方と社会性を養うことが学校教育の3つの要素です。

〇学習指導要領について

 現在の学習指導要領の扱い方についてどのようにお考えでしょうか?

教育の世界にはPDCAサイクルによるアプローチが不足しています。例えば学習指導要領を改定するにしても、今までのものに対する反省(チェック)が足りません。時代の要請と前の反省点を合わせて新しいもの(学習指導要領)を作り出すべきです。例えば数学で昔は行列を教えていました。でもなぜこの行列がなくなったのかは十分に伝達されていない。「なぜ?」に対する答えは「時代が予想以上に速く進んだ」でもいいのです。そこを明確にすることが次につながります。

〇教員の方へ向けて

 教員の方々へのメッセージをお願いします。

教員という職業は、社会の中でも最も大切な職業です。私たち自身が経験しているように教員が発する言葉や指導する内容は、成長段階の生徒の心に深く残る影響を与えます。それは言葉を発した教員の意図を超えて、生徒の今後の人生に影響を与えることがあります。そういう意味でやりがいのあるいい仕事だと思います。

3 プロフィールのご紹介


柳沢幸雄(やなぎさわゆきお)先生
現職:学校法人開成学園・中学校・高等学校・校長・東京大学名誉教授
1947年生まれ。1967年開成高校卒業、1971年東京大学工学部化学工学科を卒業。コンピュータ会社のシステムエンジニアとして3年間従事した後、東京大学大学院で大気汚染を研究し、工学博士号取得。東京大学助手を経て、1984年よりハーバード大学公衆衛生大学院に移り、助教授、准教授、併任教授として教育と研究に従事。また1993年より、財団法人地球環境産業技術研究機構の主席研究員を併任。1999年東京大学大学院・新領域創成科学研究科・環境システム学専攻・教授。主要な研究テーマは空気汚染と健康の関係を実証的に明らかにすること。2011年より現職。
また、大気環境学会副会長、室内環境学会会長、臨床環境医学会理事、NPO法人環境ネットワーク文京副理事長、REC(中・東欧地域環境センター、在ハンガリー)理事などを歴任。(2017年12月29日時点のものです)

4 著書紹介

5 編集後記

柳沢校長が学校教育の3つの要素をお話してくださった時に、学校行事の学年旅行と運動会の話の途中で、生徒たちが一から自分達だけで作ったパンフレットを拝見させていただいた時は驚きました。高校生でここまで本格的なパンフレットを作ることが果たしてできるのかと目を疑ったほどです。開成学園の運動会は生徒がかなり熱心に取り組んでいることが伝わってきました。
(取材・編集 EDUPEDIA編集部 村嶋章紀)

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この記事は連載記事となっております。他の記事も合わせてご覧ください。

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