開成学園校長が考える学校教育~第1回 開成学園の学校づくり~

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目次

1 はじめに

この記事は、開成中学校・高等学校長の柳沢幸雄先生への取材をもとに執筆した連載記事(全3回)の第1回です。開成学園の学校づくり・組織づくりについてご紹介します。

2 インタビュー

〇生徒の声を実現する

 開成学園の学校づくりの中で特徴的な点を教えてください。

開成学園は2017年に創立146周年を迎え、その長い歴史に基づいて形成された伝統が今もなお継承されています。その古き良き伝統に新しい要素を加えているのが、生徒の希望です。そして、生徒の多様なリクエストを学校がサポートすることが、開成の伝統になっているのです。その根底には、「生徒主体」という教員間の共通認識があります。

例を2つご紹介しましょう。1つ目の例は、部活動に関してです。開成高校の部活動は非常に盛んで、部と同好会を合わせると70ほどありますが、その中には生徒の要求に基づいて設置されたものも多くあります。「数学オリンピックに邁進したい」という希望をもつ生徒は数学研究部があります。俳句甲子園に参加したい生徒は俳句部、100mや3000m走が得意な生徒は陸上部があります。

2つ目の例は、海外大学への進学についてです。最近開成高校の海外大学進学者が増えていますが、これは決して学園側が海外大学への進学を勧めているからではありません。生徒の中に海外大学への進学を希望する生徒がいたからです。開成高校としては、その要望を最大限にサポートするために、教員を海外大学のサマースクールに派遣したり、海外大学や関係者を招いてカレッジフェアを開催したりしています。「開成高校の生徒に自分の大学を紹介させてほしい」と海外大学側からオファーが来ることもあります。このように、開成高校には海外大学に触れる機会が充実しているため、生徒の中にも潜在的に海外大学への進学意識が生まれてくるというわけです。

このように、開成学園は生徒の声を最大限実現するためのサポート体制を整えています。

〇先輩は後輩の「メンター」

 開成学園の先輩・後輩関係について教えてください。

開成学園では、先輩が後輩の面倒を見るという風土が既に形成されています。その風土は、後輩にとってはもちろん、先輩にとってもプラスの影響を与えています。

開成学園には様々な生徒がいますので、中学生は高校生の中から気に入る先輩・自分の方向に合った先輩を見つけることができます。そして、その先輩は後輩の良いロールモデルとして、教えることを通じて、自分自身も成長する事が出来ます。

具体的な例を挙げてご説明しましょう。例年開成高校からは多くの東京大学進学者が輩出されますが、多くの生徒は高校2年生の9月の文化祭までそれぞれの部活動のリーダーとして活動し、部活動引退後は高校3年生の5月の運動会の準備に没頭します。運動会では、高校3年生が後輩の面倒を丁寧に見ます。しかし、運動会も終わると高校3年生は全エネルギーを受験勉強に注ぎます。そして、春には希望の大学に進学するのです。この、部活や運動会が終わった後から本気で頑張って大学に入るという先輩の姿を見て、後輩は、「あの先輩、部活とか運動会頑張ってたけど希望の大学に入ったなあ。じゃあ自分も部活や運動会頑張りながら、大学目指そうかな。」と思うわけです。これが、開成高校伝統の先輩としての姿なのです。

また、卒業後も先輩と後輩の関係は続きます。「ようこそ先輩」という行事では、社会人になった先輩が学校を訪問し、今就いている職業の話や、開成時代の思い出話をします。先輩の話を聞いた後輩は、「先輩みたいになりたい!」と思い自分の夢に向かって努力するようになります。

このように、開成学園は先輩が後輩の良きメンターとなる関係を非常に大切にしています。

〇評価も生徒が主体

 多様な生徒を支える教員に求められる資質は何でしょうか?

1つは自分の専門科目の学問的知識の深さ、もう1つはその知識の伝達能力です。特に伝達能力は非常に大切な資質で、どのようにして授業内容を生徒の頭の中にインプットさせるかが問われます。その方法は教員によって様々で、小テストを多めに実施する教員もいれば、アクティブ・ラーニングの手法を用いて生徒に議論させる教員もいます。教員は生徒の成長段階に合わせて自由に教材を選択し、伝え方を工夫しています。教員が自由でないと生徒も自由になることができません。

基本的に教員の業務評価はありません。その代わりに、実際に授業を受けている生徒が評価をするのです。もちろん、生徒はおもしろい授業に対しては積極的な反応を示しますし、反対におもしろくない授業に対しては消極的な反応を示します。授業に対する生徒の素直な反応が、教員に対する評価の1つのバロメーターになっています。

3 プロフィールのご紹介

柳沢幸雄(やなぎさわゆきお)先生
現職:学校法人開成学園・中学校・高等学校・校長・東京大学名誉教授

1947年生まれ。1967年開成高校卒業、1971年東京大学工学部化学工学科を卒業。コンピュータ会社のシステムエンジニアとして3年間従事した後、東京大学大学院で大気汚染を研究し、工学博士号取得。東京大学助手を経て、1984年よりハーバード大学公衆衛生大学院に移り、助教授、准教授、併任教授として教育と研究に従事。また1993年より、財団法人地球環境産業技術研究機構の主席研究員を併任。1999年東京大学大学院・新領域創成科学研究科・環境システム学専攻・教授。主要な研究テーマは空気汚染と健康の関係を実証的に明らかにすること。2011年より現職。

また、大気環境学会副会長、室内環境学会会長、臨床環境医学会理事、NPO法人環境ネットワーク文京副理事長、REC(中・東欧地域環境センター、在ハンガリー)理事などを歴任。
(2017年12月15日時点のものです。)

4 著書紹介

『母親が知らないとヤバイ「男の子」の育て方』(秀和システム、2017)

『18歳の君へ贈る言葉』(講談社+a新書、2016)

『東大とハーバード 世界を変える「20代」の育て方』(大和書房、2013)

5 編集後記

開成学園の強さの秘密は、生徒主体で学校運営を回していることにあるということが分かりました。そのような風土が学校内に根付いているからこそ、毎年多くの優秀な生徒を輩出することができるのだと思いました。伝統をつくるにはある程度の時間が必要かもしれませんが、開成学園のやり方はどの学校でも参考になる部分があると思います。ぜひお試しになってみてはいかがでしょうか。(取材・編集 EDUPEDIA編集部 大森友暁)

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この記事は連載記事となっております。他の記事も合わせてご覧ください。

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