開成学園校長が考える学校教育~第3回 大学入試改革への意見~

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作成者:Rei Araki (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事は、開成中学校・高等学校長の柳沢幸雄先生への取材をもとに執筆した連載記事(全3回)の第3回です。柳沢校長先生が現在文科省主体で行われている大学入試改革についてどのようにお考えなのかをご紹介します。センター試験の廃止、記述式問題の導入、英語四技能の測定など様々な改革が提案、議論されていますが、これらの動きを日本トップの学力レベルを誇る開成学園の校長先生はどのように捉えているのでしょうか。

2 インタビュー

 大学入試改革について柳沢校長先生はどのようにお考えですか?

今文科省がやろうとしている大学入試改革は、全体的な方向性としては合っていると思いますが、具体的な方法論を見ていくと間違っていると感じる部分もあります。

 記述式問題の導入について

例えば記述式問題の導入について。センター試験のように全ての高校生の受験を目的としている共通試験において、果たして「書かせる問題」にどれほど価値があるのかは疑問です。入学試験問題において「書かせる問題」に初めて意味が生まれるのは、その学校の先生が作った問題をその学校の先生が採点するときです。出題者がある解答を期待して、その意図を汲み取って解答できた生徒にいい点がつく、つまりそれはその学校で教える先生と同じ波長を持つ生徒が選抜されるということですが、そのような関係ができて初めて記述式の「書かせる問題」は意味を持つと思います。しかし共通試験では問題作成者と受験者の間にそのような関係は生まれません。そうした状況で書かせる問題を出したところで、問題作成者が何を聞きたいのか、どういうことを答えてもらいたいのかという基本的な部分が大きく揺らいでしまうのではないかと思っています。そうなると出題できる記述式の問題は無難なものになり、結局今まで一つだけだった答えが、正答例として数種類考えられるようになった、それだけの違いしか残らないのではと思います。センター試験の性質を考えれば、従来通りの多肢選択型の問題形式が一番いいのではないかと考えます。

選択式問題にも工夫の仕方はたくさんあるということも付け加えておきます。例えば「5つの選択肢の中から正しいものをあるだけ選ぶ」という問題は、正解がいくつあるのかわからないので非常に難しい問題になります。また、間違えたら点を引くという方法も、生徒は確実に自信がある問題だけ答えるようになり、選択式問題を通じて生徒の知識に対する自信度を測ることもできます。このように選択式の問題でも生徒の思考力をさらに試す方法はまだまだ多くあると思います。

 複数回受験について

センター試験に変わる新テストにおいて複数回受験が検討されています。私はこのような複数回受験は非常に意味のあるものだと思っています。なぜなら何回でも受験可能な試験は、いつかは自分で見切りをつける必要が出てくるからです。「これはもうあと何回受けても同じ点数だろうな」と。このように感じることがなぜ重要かというと、それは自己評価と社会評価が一致したからです。一回限りの試験だと「たまたま苦手なところが出てしまった」「前日によく眠れなくて睡眠不足だった」などと偶然の出来事への言い訳が可能になり、客観的な数値として表れる社会評価を自己評価と一致させない、させることができない場合が往々にして起こりえます。しかし自分の実力を自分で判断できるようになるのは、子どもが大人に成長するにあたって非常に大切なことです。スポーツの競技会に参加する生徒は競技結果という社会評価で自己評価を常に修正し、対応策を考えることになります。勉強においても複数回受験で社会評価と自己評価の一致を図ることができると思います。様々なハードルは存在しますが、アメリカのSAT(アメリカ版のセンター試験のようなもの。全てが選択式の問題)を参考にすれば実現は可能なのではと考えます。

 大学入試においてもう一つ大きな変化がAO入試の拡大だと思いますが、柳沢先生はAO入試についてどのように捉えていますか?

日本では「AO入試=いい加減な入試」のように受け取られることが多いですが、アメリカを見てみると大学入試の形式は全てAO入試です。一斉試験を行っている大学はありません。それでもきちんと学生は選別できています。AO入試はきちんと機能すれば、しっかりといい学生を選抜できる方法だと思います。

アメリカの場合のAO入試では、入試担当職員や教授が願書やエッセイ(大学入学の際に課される志望動機書のようなもの)を読み、面接を行って審査します。担当者は膨大な量の願書やエッセイを読むため、高評価を得るには読み終わった後に明確なイメージを担当者に残す必要があります。面接でも同じです。そして高等教育が一般化された現代においては、願書やエッセイで自分をうまく表現しアピールする書き方、面接で自分のアイデアを相手にしっかりと伝える話し方、そのような能力が求められます。これらの能力を測れる点でAO入試はきちんとやればいい結果が出ると思います。

またAO入試でもう一つ効果的なのが、学生と教師の間の関係を重視できる点です。学校(大学)が自分の校風に合った学生を要求し、志願者の中で本当にその校風に合う学生、教師が「この受験生は教えたい」と思った学生が選抜される、この過程を最もクリアに体現できるシステムがAO入試だと思います。そのためには教師が「教育のプロ」として信頼を得て、「この学生を教えたい」とはっきり言い切れるようになる必要があります。しかし残念ながら今の日本では教師に対するそのような信頼がまだ得られていないと思われます。AO入試が本来の効果をしっかり発揮するためには教師がより「教育のプロ」として認識され信頼される必要があると考えます。

 AO入試において一番問題となるのは客観性だと思いますが、その点はどのようにお考えですか?

そもそも大学入試は客観的であることが必要なのでしょうか? 例えば芸術大学の入学試験を考えてみてください。受験者が創った作品を見ても、人それぞれ評価は違いますよね。それでも入学者は選抜されます。それはその教授が、大学が、その学生を教えたいと感じたからです。

私は、みんなそれぞれ個性は違うのだから、自分にあった大学・学校に進めばいいと思います。もちろん中学生や高校生の段階では個性が明確に顕在化していないことが多いので「自分にあった学校」がピンと来ることは少ないかもしれません。そのときは客観的な評価が大切になるかもしれません。しかし個性が分化して個々に応じたキャリアパスを考える大学以降は、画一的な基準で人を測るのではなく、それぞれの個性に応じた選択をするのがよいのではないかと考えます。

AO入試で希望の大学に落ちたのなら、その学校とは馬が合わなかったと理解すればいいと思います。ゼミや研究室選び、はたまた就活と一緒ですね。

 結局は個性を育てることが大事なのですね。

私は「若いときは1カ所尖っていればいい」と思っています。日本ではよく「過不足なく」「まんべんなく」といわれますが、若いときはそうではなく、自分の興味のあること、関心のあることに向かってどんどん突き進んでいってもらいたいと思います。そうして「自分はこれで戦っていける」と思える個性と自信があれば、それで人間はごはんを食べていけます。そして1カ所尖っているところをさらに深めようとすると、徐々に周りの分野で不足しているところに気がつきます。そう感じた時、不足している部分を埋めればいいのです。そうやって人は年を取っていくにつれて足りないと思った周りの分野で知識を得ていき、最終的には棺桶に入る前に丸くなるものです(笑)

生徒が自分の個性に気づき、それに向かって突き進むことができる場面は学校の中では部活動や行事だと思うので、開成学園ではこのような活動をとても重視しています。(詳しくは連載の第1回、第2回を参照)

3 プロフィール紹介

柳沢幸雄(やなぎさわゆきお)先生

現職:学校法人開成学園 開成中学校・高等学校校長/東京大学名誉教授

1947年生まれ。1967年開成高校卒業、1971年東京大学工学部化学工学科を卒業。コンピュータ会社のシステムエンジニアとして3年間従事した後、東京大学大学院で大気汚染を研究し、工学博士号取得。東京大学助手を経て、1984年よりハーバード大学公衆衛生大学院に移り、助教授、准教授、併任教授として教育と研究に従事。また1993年より、財団法人地球環境産業技術研究機構の主席研究員を併任。1999年東京大学大学院・新領域創成科学研究科・環境システム学専攻・教授。主要な研究テーマは空気汚染と健康の関係を実証的に明らかにすること。2011年より現職。

また、大気環境学会副会長、室内環境学会会長、臨床環境医学会理事、NPO法人環境ネットワーク文京副理事長、REC(中・東欧地域環境センター、在ハンガリー)理事などを歴任。(2017年12月29日時点のものです)

4 著書紹介

『母親が知らないとヤバイ「男の子」の育て方』(秀和システム、2017)

『18歳の君へ贈る言葉』(講談社+a新書、2016)

『東大とハーバード 世界を変える「20代」の育て方』(大和書房、2013)

5 編集後記

開成高校の校長先生が大学入試の現状をどのように捉えているのかという点は非常に興味深かったです。またアメリカで教鞭をとっていた経験から語られる言葉には説得力がありました。高等教育が一般的となった現代では「尖ること」がいかに重要かがわかりました。このような「個性」を生徒が自覚し、深められる機会を中高時代にしっかりと与えるのが現代の学校では強く求められているのではないかと思いました。(取材・編集:EDUPEDIA編集部 荒木玲)

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この記事は連載記事となっております。他の記事も合わせてご覧ください。

開成学園校長が考える学校教育 ~第1回 開成学園の学校づくり~

開成学園校長が考える学校教育 ~第2回 柳沢校長の現代の教育に対する見解~

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