Mielka×VARYコラボ企画「主権者教育って何?~体験から実践まで~」

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作成者:山田 駿亮 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

2018年3月18日(日)、京都大学吉田キャンパスにてNPO法人Mielkaと弊サイトの運営母体であるROJEの1プロジェクト、VARYが企画した「主権者教育って何?~体験から実践まで~」が行われました。

第1部では、福知山公立大学 地域経営学部准教授の杉岡秀紀先生「主権者教育の今とこれから」と題して、ご講演をして下さいました。

第2部では、Mielkaが学校現場に提供している主権者教育の模擬授業を行いました。

第3部では、「主権者教育を通して高校生にどのような意識を育んでほしいのか」「主権者教育の実践の良いところと改善策は何か」といったことをグループで考え、議論を深めました。

本記事では、杉岡秀紀先生のご講演の一部を公開しております。

2 杉岡秀紀先生ご講演「主権者教育の今とこれから」

 若者の投票率をめぐる現況

 直近の国政選挙における10代の投票率

選挙権年齢が18歳に引き下げられて初めての国政選挙は、平成28年の参議院選挙でした。この時の18歳投票率が51.28%であったのに対し、1年後の衆議院選挙では19歳投票率が33.25%と、20%近く下がっています。18歳(高校3年生)の時に投票に行った人たちが19歳(大学1年生)の時に投票行動を起こしていないことから、「高大接続が失敗しているのではないか」という仮説が立てられます。主権者教育が法学・政治学系の学部を中心に行われており、大学で主権者意識を涵養する場が少ないのが課題と思われます。また、小学校、中学校、高校、大学がそれぞれ、学校独自で主権者教育を行っているために、同じような内容の主権者教育を受けることもあります。各学校の段階を踏まえた一貫した主権者教育のカリキュラムを作る必要があるのですが、なかなか日本では議論が進みません。

なお、投票を棄権した理由は「用があったから」が最も多いという世論調査の結果が出ています。期日前投票や不在者投票があるにも関わらず、「用があったから」投票を棄権する人が多いのが現実です。もちろん選挙の投票率のみが主権者教育においての課題ではありません。ですが、政治への入り口として分かりやすい「選挙」については、今後も引き続きしっかり議論していく必要があると思います。

 大学生1万人を対象としたアンケート

実施主体:日本地域政治学会・日本地方政治学会・NHK
  実施時期:2014年11月
  対象:全国68大学の学生(政治学科目受講者)
  回答者数:10,237人
  調査項目:「政治意識」「選挙意識」「大学生の経験や考え方」など52問

この年代の大学生は特殊な層で、民主党の政権交代や自民党の政権奪還など、政治が動くダイナミズムを幼少期に見ながら、有権者としての政治意識を形成していった世代です。政治が投票行動によって変わる、という期待感やその後の失望感を体感しています。また、SNSの発達により、ライフスタイルが大きく転換していく時代に思春期を過ごした世代でもあります。

 下に調査結果の一部を円グラフで示しています。

この結果をまとめると、当時大学生だった人たちは、今の政治に満足はしていない(68%、約7割が不満を持っている)が、今の自分の生活には満足しており(75%、7割以上が満足している)、将来の自分の生活に楽観的な見方をしている(10年後の自分の幸せについて肯定的な見方をしている人が76%)、ということになります。ここから、今の若者は政治に対しては不満もあるが、今の生活に満足しているので、わざわざ投票に行く動機には繋がらないということが示唆されます。

主権者教育を行うときに注意したいのは、当事者意識に火をつけないと、知識や情報を共有してもそれだけで終わってしまう点です。「投票に行く」という動機にまでたどり着くためには、学校で行われる主権者教育できっかけを作ったあとが大切だと思います。学校で学習して得られた政治に関する想いがしぼまないように、あるいはしぼんでもまた膨らむように、今回のMielka×VARYコラボ企画のような当事者の集まりによる主権者教育の場を作り、意識を持続できるような仕掛けを考えることが必要です。

 若者投票率向上のための実践事例

私自身は、バーナード・クリックが提案(※)している、シティズンシップ教育の3つの学習類型に基づいて主権者教育の実践をしています。

①論争的時事問題を取り込んだ学習(ディスカッション/ディベート/模擬投票/模擬請願)

②個別学習とグループによる共同学習(他者と協働して作業する経験を積む)

③社会に能動的に働きかける学習(自分たちが企画して、社会に提案する)

※出典:バーナード・クリック(2000=2011)関口正司監訳『シティズンシップ教育論—政治哲学と市民』
      法政大学出版局

①論争的時事問題を取り込んだ学習
  <京都府立大学・福知山公立大学>

京都府の選挙管理委員会による、選挙のしくみについてのミニ講義を実施したあと、時事問題をテーマとして掲げ、模擬立候補者にはテーマを自ら勉強してもらい、争点について演説してもらいます。他の学生は模擬投票をしますが、投票の前にディスカッションの場が設けられ、争点について議論しました。
 ポイントは、必ずメディアに報道してもらう点です。自分のコメントが新聞に載ると、誰でも嬉しいと感じますよね。そういった反応がもらえることが、政治への関心向上につながります。

②個別学習とグループによる共同学習
  <京都光華女子大学>全学部の1年生対象

増税や原発、アベノミクスといった大きなテーマは、当事者ではない学生が主体的に考えにくいテーマなので、もう少し身近なテーマに落とし込みます。
  「夜になると暗くなる通学路について、安全性はどう担保したら良いのか」
  「利用者が少ない公園を大学生が活用する方法はないか」
  「西京極球場を活用する方法」
といった、身近な公共が抱える課題や利用方法について考え、議論しました。

③社会に能動的に働きかける学習

2014年4月、京都府知事選挙の投票率を上げるための広報プロジェクトを展開しました。京都府立大学・立命館大学・龍谷大学の3大学の学生に声をかけ、「選挙に関心を持ってもらうためには何をすれば良いか」を話し合いました。最後に行き着いたのは「動画撮影(PVの作成)」でした。当時流行していた「フラッシュ・モブ」という手法(インターネットを通じて呼びかけられた不特定多数の人々が、様々な場所でダンスや演奏などのパフォーマンスを行うこと)を用いています。

<動画参照>

ポイントは「自分自身が当事者として主体的に関わる」という点です。当然のことながら、広報のPVを見た人全員が、必ずしも投票行動に結び付くわけではありません。実際に、投票率は上がりませんでした。ただ、焼け石に水かもしれませんが、やらないよりやった方が良いと思っています。全体の投票率は上がりませんでしたが、広報プロジェクトに関わった大学生たちは、みなさん投票に行ってくれました。どうすれば、彼らが政治を当事者として考えることができるのか? いろいろな仕掛けを施していくことが大切だと思います。

 これからの主権者教育について

私自身は「主権者教育」ではなく「シティズンシップ教育」という考え方に注目しています。裏を返せば、「主権者教育」という枠組み自体を問い直す必要があると思っています。「主権者教育」という枠組みで行われる授業は、選挙の仕組みについての学習や模擬選挙といった限定的なものにとどまっているきらいがあります。地域ごとに、政治に関して抱えている課題は異なりますから、学校や地域の中で、それぞれが主権者教育を再定義していく必要があるのではないでしょうか。

社会学者のT・H・マーシャルによれば、「シティズンシップ」の定義とは「経済的福祉と安全の最小限を請求する権利に始まって、社会的財産を完全に分かち合う権利や、社会の標準的な水準に照らして市民として生活を送るに至るまでの広範囲の諸権利」を指します。誰もが、経済的福祉と安全の最小限を請求する権利を持ち、市民として生活するための権利を保障されているのですが、外国にルーツを持つ人々や障害者、LGBTなどマイノリティの人権・権利保障の問題がよく話題に上がりますよね。多様な人々が共生していく社会の中で、誰もが「市民」として政治に参加し、声を上げて現状を改善していくためにも、シティズンシップ教育が欠かせないと思います。

これからの主権者教育を考える上で、議論を深めていきたいテーマを5つ挙げておきます。

①高校で設けられる新たな科目「公共」と主権者教育の関係性

今後、高校の必修科目となる「公共」を意識した主権者教育のあり方を考える必要があります。

②被選挙権の引き下げ

日本の被選挙権(立候補できる年齢)は25歳以上もしくは30歳以上です。せっかく18歳に選挙権年齢が

引き下げられても、そこで政治に関心を持った人が立候補できないという問題があります。

③女性議員の増加

日本はOECD加盟国の中でも、女性が特に活躍しにくい社会です。

その要因が女性議員の少なさにあると言われ、女性の国会議員の割合が、

OECD加盟国の平均が約30%なのに対し、日本では13.7%と明らかに低いです。

④外国人など共生社会と主権者教育の矛盾

「主権者教育」というカテゴリーのままでは、「健常者の日本人」の生活が議論の中心となり

マイノリティの人々の視点が薄いように思います。

⑤多様な担い手の育成

これからの主権者教育では、伝統的な「教える側」と「教えられる側」という固定化された関係性ではなく、

教員と学生(生徒)がお互いに学ぶ主体であり、教え手にもなるという関係性を築いていく(*)必要がある

と思います。その考え方を踏まえて、学校の教員だけではない主権者教育の「多様な担い手」を育成していく

ことが必要であると強く感じています。

*参考:ジャック・ランシエール(=2011)梶田裕,堀容子 訳『無知な教師—知性の解放について—』

      法政大学出版局

3 杉岡秀紀先生ご紹介

2003年 まちづくりNPOきゅうたなべ倶楽部 主宰(代表)
  2007年 内閣官房行政改革推進本部事務局 参事官付
  2008年 龍谷大学LORCリサーチ・アシスタント
  2009年 一般財団法人地域公共人材開発機構 事務局総括
       同志社大学政策学部 嘱託講師
  2012年 京都府立大学公共政策学部 講師、地域連携センター副センター長
  2015年 京都光華女子大学 非常勤講師(兼務)
  2016年 福知山公立大学地域経営学部 准教授、北近畿地域連携センター長
       京都府立大学京都政策研究センター 特任准教授(兼務)
  2017年 島根県立大学総合政策学部非常勤講師(兼務)
       総務省主権者教育アドバイザー(兼務)
(2018年3月時点のものです。)

4 編集後記

「学校教育や社会教育(フォーマル教育)には大きな効果がありますが、その効果は一過性のものになりがちなので、民間の団体が提供する主権者教育(インフォーマル教育)が、その効果を維持・発展させる機能を担っていけると良い循環が生まれると思います」という杉岡先生の言葉から、主権者教育は学校教育だけが担うものではなく、多様な担い手が必要だということに気づかされました。また、「主権者教育」ではなく「シティズンシップ教育」の考え方を使うことで、誰もが当事者意識を持って政治に関心を持つことができるのではないかと思いました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 山田駿亮)

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