新学習指導要領が目指す姿を考える~次世代に求められる学校教育と育てるべき資質・能力について~(田中孝一氏・島崎英夫氏講演)

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作成者:周平 吉田 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

この記事は、2018年7月28日に行われた、「大阪国語教育アセンブリー2018−新たな実践を開くことばの教育」の内容を記事化したものです。

全体会では〈経験・歴史から次代をひらく〉をテーマに、田中孝一氏(川村学園女子大学・元文部科学省主任視学官)と島﨑英夫氏(大阪教育大学)による「講演と対話」が行われました。分科会では、〈次代をひらく確かな実践〉をテーマに、それぞれ4つの分科会に分かれて、活発な議論が行われました。

この記事では、全体会の、田中先生と島崎先生の講演内容を記事化しています。両氏とも、高校、教育行政、教員養成の各現場での経験をお持ちであり、現在は大学で教鞭をとっておられます。今回は、その豊富なご経験をもとに、〈歴史〉〈社会〉という広い視点から、次期学習指導要領とそれを受けた今後の国語教育・学校教育の在り方についてお話いただきました。

2 講演

はじめに~学習指導要領の改訂について~

それでは、まず初めに私田中のほうから、次期学習指導要領の主な特色についてお話しします。

実は、高校の学習指導要領には、1つ構造的な問題点があります。というのは、毎回全学年で新しい指導要領がスタートした時には、すでに中央教育審議会で次の改定の検討が始まっていることが多いのです。高校はそういう意味では、(現在の学校教育の仕組み上そうならざるを得ないとはいえ)周回遅れになりやすい位置にあるということは否めないと思います。しかし、本当は周回遅れにならないようにするためには、現行の教育課程の中で、新しい教育課程の考え方・趣旨・内容を生かし、これらを踏まえた教育を実施していくことが大切だと考えています。その意味でも、今回のアセンブリーの意義は大きいと思います。

高校の新学習指導要領では、国語科については今まであった科目がほとんど残っていません。国語科に限らず、ほかの科目も相当に変化しています。なぜこのように変わったのでしょうか。私の個人的な見解としては、これからの時代に、小中高を通して身につけていくべき学力観の転換を踏まえて、このようになったといえるのではないかと思います。

学習指導要領の変遷とこれからの課題~社会の成熟化と規制緩和が進むなかで~

昭和20年代から最新の学習指導要領までの変遷を、時期、必修・選択科目の単位数といった要素に注目して見ていくと、大切なことが分かります。

1つ目は、大きな流れとして、昭和53年を境に、必修単位数が少なくなって選択単位数が多くなっていることです。昭和53年というと、高度経済成長が終わって安定成長に入り、成熟社会を目指していこうとする時期です。つまり、社会の成熟化や個性化対応が叫ばれ始める中で、それに合わせて、国が強制する必修を少なくして、教育委員会や学校の選択の幅を広げたのです。

この学習指導要領の変遷は、規制緩和として説明することもできます。昭和40年代から国の規制による弊害が指摘され、規制緩和が進みました。学習指導要領も国の規制の一種に当たります。昭和40年代から、教育界においても、今でいう不登校の問題をはじめ、様々な問題が起こりました。その解決策の一つとして、国の規制の1種である学習指導要領を見直し、必修単位を少なくして、個に応じた対応を重視していこうということになったのです。つまり、社会が成熟しようとしている中で、国による規制が強すぎていろいろな不都合が起こってきたので、昭和40年代から規制を撤廃しようという動きがはじまり、その1つとして指導要領の改訂も行われたということになります。

しかし他方で、必修科目をあまり少なくしてしまうと、学力の低下を懸念する声も上がってきます。例えば、私が学習指導要領の改訂を担当した平成10年、11年は、必修科目を可能な限り少なくしようという自由化の流れの中にありました。しかしその後、学力低下問題が起こり、さらに2000年に始まったPISA調査で子どもたちの読解力の低下が明らかになりました。この状況を受けて、平成20年、そして今回の30年の指導要領では、必修単位数は少し多くなりましたが、それでも選択単位数のほうが多いことは変わっていません。個性化対応と学力の保証、この2つのバランスをいかにして取っていくかということが、昭和53年以降の我が国の教育課程行政の悩みどころなのです。

いずれにせよ、社会の変化の中で、個に応じた教育を重視していくと、必然的に、生徒はもちろん、教育委員会や学校にとっても(何を生徒に履修させるかという意味での)選択の幅が広がっていくということが言えるのではないかと思います。

以上申し上げてきたことは、どの教科についても言えることです。したがって、今の時代に我々が重視していかなくてはならないのは、このように広がった選択肢をどのように活用していくかということではないでしょうか。大阪府立今宮高等学校のように総合学科を設ける学校も増えてきています。このようにいかに選択科目を組み立て、その学校のカリキュラムの特色を出すかということがこれからは大切になるのです。

育てるべき資質・能力~Society5.0を見すえて~

第3期教育振興基本計画というものをご存じでしょうか。これは我が国の今後の教育政策の目標を示すために、文部科学省が2018年に定めたものです。この計画の中に、「新時代を見据えた次世代教育の創造」、さらに「Society5.0(超スマート社会)の実現」という言葉が登場します。

このSociety5.0というのは、ネットワークの高度化やAI等の発達により、サイバー空間と現実社会が高度に融合した未来社会像のことで、Society1.0にはじまる狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く超スマート社会のことを指します。このように急激な変化を迎える社会で、新しく世界を切り開いていく人材を育てるためには、どのような資質・能力を育んでいくかがこれからの教育の課題になります。

育てるべき資質・能力として、学力の3要素が挙げられます。これは2007年6月に学校教育法等が改正されて初めて登場したものであり、次期学習指導要領においても重要なキーワードとなります。

  1. 基礎的な知識・技能
  2. 思考力・判断力・表現力等
  3. 主体的に学習に取り組む態度

この3つです。小中高の学習指導要領を見てみますと、やはりこの3つの力が、教科横断的に、あるいは小中高縦断的に、体系的に位置づけられています。したがって、今後の国語教育を考えるうえでも、ほかの教科での言語活動を支える能力としての国語能力を、身につけさせていくことが大切ではないかと思います。

学力の3要素~主体性を考える~

それでは、次に私島崎がお話いたします。

さきほど田中先生のお話にもありましたが、次期学習指導要領におけるキーワードの一つとして、「学力の3要素」という言葉があります。この度改革される大学入試においても、この3つが評価項目となります。ここで問題となるのは、3つ目の主体性とは何かということです。この主体性という言葉については、特に追及していく必要があります。

というのも、以前ベネッセが進路指導担当の先生方を対象に、生徒の「良いところ」と「しんどいところ」についてアンケート調査を行ったところ、次のような結果が出ているからです。まずは良いところについてですが、実に4分の3もの先生が

  • 素直
  • 真面目
  • 優しい
  • 穏やか

という風に解答されていたそうです。会場の皆さんもうなずかれていますね。私も大学生や大学院生を見ていて同じことを思います。そして、しんどいところについては、およそ50%の先生が

  • 受け身
  • 自主性/意欲/覇気に欠ける
  • 自分で考えて行動できない

と回答し、続いて30%の先生が

  • 安易な進路決定
  • 名前や偏差値だけで大学を決めてしまう

と回答し、10%ほどの先生は

  • 向上心、チャレンジ精神がない
  • 自分に甘い
  • 社会的な関心が低下している

といった内容を回答されました。これらのしんどいところを一言で表すと、主体性が欠如しているということが言えるのではないかと思います。したがって、この主体性をどのように育んでいくかということが、今後の課題になるのではないかと思います。皆さんは、この主体性をどのようにはぐくんでおられるでしょうか。

フランスの心理学者ジャック・ラカンは、主体は自分一人では決して生まれず、必ず他者が必要である、ということを言っています。他者のかっこいい姿を見て、それにあこがれるところから、主体は生まれるということです。ラカンはこれを想像的同一化と呼んでいます。憧れの対象の振る舞いをまねることこそが学習なのです。

しかし、実はあこがれて真似をするだけでは人は大人になることはできません。例えば、大谷翔平みたいになりたいなという野球少年がいたとするならば、あの大谷翔平が今の自分を見たらどうだろうか、もっと素振りが必要だと思うのではないか、このように考えることによって成長していくのです。自分を客観視すること、他者から自分が見られているという感覚を持つことが、主体を生み出すためには最も大切であるとラカンは言っています。

では、主体性をはぐくむ教師とはどのような教師なのでしょうか。私は生徒の主体性を生み出すのは、教師の主体性であると考えています。先ほど、主体性を生み出すためには、モデルが必ず必要だと申し上げました。したがって、そのようなモデルとなる教師こそ、生徒の主体性をはぐくむ教師なのです。そして、そのようなモデルとなるためには、こういう授業をしていきたい、こんな授業でこういう風に子どもたちの力をつけたい、という主体性をもって取り組む姿を生徒たちに見せる必要があると思います。先生の姿を見ながらあんな風になりたいなと思う気持ちこそ、主体性が生まれる一番のよすがなのではないでしょうか。

3 プロフィール

●田中孝一(たなか・こういち)

川村学園女子大学教授、元文部科学省主任視学官。1951 年生。
鹿児島県立鶴丸高校、種子島高校教諭を出発点に、鹿児島県教育庁指導主事、国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官・文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官、かごしま県民大学中央センター所長、文部科学省初等中等教育局視学官等を経て、主任視学官。

●島﨑英夫(しまざき・ひでお)

大阪教育大学教授(教職教育研究センター)、1956 年生。
大阪府立高校3校で国語を教え、大阪府教育センター指導主事、府教委高等学校課参事や岬・堺西・清水谷3校の校長を歴任。大阪府高等学校国語研究会の前理事長。現在は、教員養成と教員研修について、研究と実践に取り組んでいる。

(2018年7月28日時点のものです)

4 著書紹介

5 編集後記

今回は、田中孝一先生と島崎英夫先生の、主に次期学習指導要領をテーマとしたお話を取材させていただきました。

これからの社会の大きな変化の見通しを受けて、学習指導要領の改訂・大学入試改革と、現在教育の世界にも大きな変革の時代が訪れようとしています。そのような中で、教科書はどのように変わるのか、授業の方法や評価はどのようにしていけばよいのかなど、今から不安を覚えていらっしゃる先生方もいらっしゃるかもしれません。

このような状況で、次期学習指導要領の中心理念となる、これからの時代に必要な資質・能力について、田中先生と島崎先生にお話をいただきました。この記事が、先生方が次期学習指導要領の趣旨・目的を踏まえた授業を実践されていくことに役立てば幸いです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 吉田周平)

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