「地域に留学する」という選択肢〜串本古座高校の取り組みから①〜

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作成者:Mayu Naito (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

公立高校への進学を考えるとき、中学生の皆さんには、都道府県の枠を越えて高校受験をし、特色ある地方の高校で高校生活を送る「地域みらい留学」という選択肢があります。

本記事は、2019年10月8日に「地域みらい留学」を実施する高校のひとつ、和歌山県立串本古座高校を訪問し、全国募集制度半島留学での生活について、校長先生、教頭先生、地域協議会の方々、全国募集で入学した生徒の方にインタビューを行ったものです。

①では先生方及び地域協議会の方々へのインタビューを、②では全国募集で入学した生徒の方へのインタビューを掲載しています。

*②の記事はこちら(「地域に留学する」という選択肢~串本古座高校の取り組みから②~)からご覧いただけます。

*「地域みらい留学」の詳細は、「地域みらい留学」公式HP(「地域みらい留学」公式HP)で確認していただけます。

≪こんな方にオススメ≫

・特色ある地方の高校への入学を検討する中学生の進路指導に関わっている先生

・学校と地域の連携に関心のある先生

2 先生方へのインタビュー

①取り組みの概要

全国募集にはどのような背景があるのでしょうか?

串本古座高校(旧串本高校・旧古座高校)は長い間定員割れが続いており、地域の過疎化もあって今後の生徒増が見込めませんでした。そこで、学校の活性化、そして地域の活性化を目指して、2017年度から全国募集の生徒を受け入れ始め、今年で1~3年生までの全学年が揃いました。

和歌山県内の4つの分校では以前から全国募集をしていたのですが、本校としては初めての取り組みになります。

和歌山県で全国募集をしている学校との連携はありますか?

校長、教頭レベルにとどまっているのが現状ですね。ちょうど全学年が揃ったところで、ここまでの総括も兼ねて連携を検討していこうというタイミングです。

学校に協力的な地域性はどのようにつくられたのでしょうか?

串本古座高校の教員は、必ずしも串本町に住んでいるわけではありませんが、地域性の高い学校で、旧串本高校出身、旧古座高校出身の方も多いので、やはり母校への思いというものはあると思います。昔から地域とともにあったことで培われた雰囲気があると思います。

他所から人が入ってくると、最初はよそ者という感じがありますが、いざ住むとなると一緒にやっていこうという感じになりますね。

串本町と古座川町での長い歴史を持つ中で、全国募集への抵抗はなかったのでしょうか?

生徒が減っていって、高校がなくなってしまうかもしれないという危機感の方が大きかったですね。地域に高校があるとないとでは大違いだと思うので、首長さんたちもそういうことを考えて決めたのだと思います。

地元の方々も学校行事にいらっしゃるのですか?

体育祭、文化祭はけっこう地元の人が来てくれます。土曜日に体育祭を行い、一般の方のための席を用意したりしていました。

②取り組みの現状について

全国募集制度を実施しての感想はどのようでしょうか?

現在全国募集の生徒たちは9名入学しています。

全国募集の生徒たちの数は少ないのですが、「刺激を受ける」「活性化」という部分では、良くも悪くもですが、生徒たちも、我々教員の方も一定の成果はあるかな、と感じています。

ただ、全国募集で入学してきた生徒たちが完全に中に溶け込んでしまっているので、生徒の部分については「全国募集の生徒はなに」「地元の生徒はなに」というような明らかな違いや、成果というところまではわかりません。

在籍している全国募集の生徒は近畿圏からが多いのでしょうか?

大阪や兵庫など近畿地方出身の生徒が多いですが、関東から来てくれる生徒もいます。

在学中の全国募集の生徒は見学を経て入学しているのですか?

オープンスクールやそれ以外の機会に必ず見学はしています。

日頃の学校の様子を見たいということで、オープンスクールとは別の日に見学に来て、生徒会の子たちとご飯を一緒に食べて話していった子もいました。

全国募集を実施するにあたって心がけていることは何ですか?

誠実に対応していくことです。

地域の教育資源を生かした串本古座高校の教育課程には地域の方々の協力が必要不可欠であること、全国募集の生徒に対しては生活の部分でも面倒を見ていかなければならないこと、3年目でまだまだ試行錯誤の部分もあることから、とにかく誠実に対応していく必要があると思っています。

そういう中で、教職員やコーディネーターの方々にもできるだけ柔軟に対応してもらうようにしています。

PDCAサイクルで言えば、ちょうどDからCに当たるところだと思うので、色々なことを一回総括してみて、生徒や保護者へのアンケートを取りながら、来年度入ってくる生徒たちにフィードバックできるようにとは思っています。

学校独自の授業はありますか?

1年生はすべて共通の授業ですが、2年生からはコースごとに特色のある授業を展開しています。原則として全国募集の生徒はグローカルコースで学びます。

グローカルコースではかなり多くの独自科目があります。

  • 串本デュアル(2年生):2学期の間、毎週金曜日の5,6限に地域の事業所でインターンシップをしています。
  • マリンスポーツ(2年生):スキューバダイビングのオープンウォーターライセンスを取得することを目指します。最初は座学、6月ごろからプール実習、9月に入ると湾岸での海洋実習、10月にはボートで沖合に出て10メートル近い深さまで潜ります。

  • 海洋環境(2年生):水産試験場や串本海中公園など近隣の様々な施設から講師をお招きして授業をしています。

  • 南紀食文化探究(3年生):4,5限と昼休みをまたぐ形で設定し、実習時間を長くとれるようにしています。地域の食生活改善推進協議会の人たちに郷土料理を学んだり、役場観光課の方から古座川のジビエ工場で地場産の食材について学んだりします。
  • 水産生物探究(3年生):近隣にある近畿大学の水産研究所のマグロ養殖について学んだりします。
  • 紀伊半島探究(2,3年生):紀伊半島の自然や文化について学びます。
  • 比較文化探究(3年生):串本町はトルコとの交流が昔から続いているので、その文化の違いなどについて学びます。
  • 介護福祉(3年生):通常授業の座学と、長期休みなどの実習を組み合わせて、資格取得を目指します。

地域にたくさん出ていく授業を多く設定して、時間割も工夫しながらやっています。

学校設定科目はすべて地域の方が講師をされているのですか?

あくまで学校の授業なので、教科担当の先生とのTTで行っています。

スキューバダイビングなど特別な資格が必要なものに関しては、特別非常勤という形で授業をしていただく場合もあります。内容と関連が強い教科の担当が入る形ですね。一度繋いでからの調整は担当の先生に行っていただきますが、窓口となるのはコーディネーターですね。

今年で3学年が揃ったのでひと段落ですが、去年や一昨年は一から授業を作っていたので大変でしたね。

維持していきたい成果と、改善していきたい課題はなんですか?

現状に自信をもって進めているため、今の体制を維持していきたいと思っていますが、当然改善すべき点もあります。

生活の部分では、寮がないため、住居や食事の部分については一定の課題があると認識しています。基本的には住居は学校の近くで下宿を探してそこで一人住まいをし、それに対して生活支援員が県の方から寮の舎監に相当する職として配当され、夜と朝に巡回する形で対応しています。現状はこのように対応していますが、もう少しやり方がないかと考えています。

③全国募集で集まった生徒の様子

学校生活の中で「出身地の違い」を意識する場面はありますか?

基本的に「出身地の違いに伴う何か」というものはあまり感じていません。

実際に学校に入ってくれば出身に関わらず、一人の生徒であるため、「全国募集の生徒であるからこれは」「地元であるからこれは」というふうに意識することはあまりないです。

留学生は学校外で地域とどのように関わっていますか?

2年生に隣の古座川町が好きで、興味があって入ってきた生徒がいますが、古座の地域の人たちといろいろ楽しくかかわりを持っているみたいで、古座川町の観光協会の人たちともお付き合いが出来てきています。古座川町に桜で有名なところがあるのですが、そこで桜祭りがあり、今年の春にコメンテーターとして呼ばれて、参加したりしていました。

学校や地域の活性化や刺激という意味では、留学生は非常に大きな役割を果たしてくれているように思います。

一人暮らしはむしろ魅力と言えますか?

「3年早い一人暮らし」「子どものところで週末リゾート」と言ってみたり、生活支援員によるサポートもありますが、保護者さんの心配は大きいと思います。

留学生の受け入れによって地域や学校に変化はありましたか?

留学生だけでなく地元の生徒も活動する地域包括支援部(CGS)(*)というクラブを作りました。

*「地域包括支援部」*

地域貢献を目的として立ち上がったクラブ。地元の各機関と協働して、「まぐろ」や「ゆず」などの地域特産品を使った商品開発、JRや両町役場、町内会などと協力した防災への取り組み、オカヤドカリ等の地域固有生物の研究、ジオパークに係る取り組みなど、特色ある活動を行っている。(串本古座高校概要資料より)

留学生だけでなく、地元の生徒も様々な形で地域に入っていくのが普通になってきました。高校生が地域に入っていく姿を見ることができるようになったことが1番大きな変化かなと思います。地元の方々もまだまだ地域全体というところまではいかないですが、その変化を感じている方もおられるのではないかと思います。

生徒募集のビラを作ったのは生徒ですか?

もともと全国募集を手伝いたいと言ってくれていた子で、一切口出しをせずに任せてみました。東京や大阪での説明会で配布する、串本での生活についての手紙も書いてくれました。

3 地域協議会の方々へのインタビュー

「地域協議会」とはなんですか?

串本古座高校を支援するために、2つの自治体が設立した組織です。

役割としては、魅力づくりの支援が第一です。校内塾への費用拠出や、地域に向けた学校広報誌「広報くしこざ」の発行、大学生との交流などを企画しています。全国募集で集まった生徒への補助金支給などの業務も地域協議会の担当です。月2万円(年24万円)を上限として家賃補助をします。

このように、全国募集と魅力化の二本柱でやっています。

参考にした学校があるのですか?

学校魅力化の先進校である白馬高校に視察に行ったときに校内塾を目にし、これは串本古座にも必要だと考えました。校内塾は全国募集の生徒だけでなく、地元の生徒たちも恩恵を受けますので、力を入れています。

公営塾の先生方は地元の方ですか?

串本古座高校には白馬高校のように地域おこし協力隊の先生がおらず、外部委託もしていないので、元教師が多いですね。動画授業などの外部サービスを導入しようと考えていますが、まだ計画中です。

どのような取り組みから着手したのですか?

平成29年度から予算がついて、コーディネーターが配置されました。全国募集の活動支援が中心ですが、インターンシップの協力事業所をお願いに回ったり、学校設定教科の講師を探したりといった仕事をしました。平成30年度には校内塾である「くろしお塾」を新設しました。

授業という形で地域とつなげていく役割はほぼ済んだと思っているので、これからはいかにこれを持続していくかが課題だと考えています。コーディネーターは学校と地域のつなぎ役、潤滑油だと思っています。

「豊かな生徒づくり支援助成制度」とはなんですか?

地域とかかわる活動を企画した生徒への助成金制度です。単にお金を渡すのではなく、生徒たちに企画書を書いてもらい、校長へのプレゼンを経て決めています。

社会人が会社で新しい事業の事業費を獲得するようなものですね。CGSの活動に限らず、思い付きで手を挙げてくれるのが理想ですね。

昨年度は地域の伝統文化である太鼓を文化祭で披露するための購入資金と、古座川町の特産品であるにんにくを使ったレシピ開発への補助金の2件でした。にんにくはその資金で古座川町内の農地で栽培を行い、今年の春に収穫しました。

高校に進学するタイミングで流出する層もいるのですか?

和歌山県には学区制がなく、進学や部活動などの関係で、他の地域の学校を選ぶ地元の中学生ももちろんいます。

大学との交流はありますか?

和歌山大学と連携しています。

前任の校長が、串本古座の生徒たちが大学生と接する機会を増やすために始めました。去年は台風で中止になってしまいましたが、今年は和歌山大学の先生と全学部から大学生に来ていただきました。

1,2年生に向けたもので、大学や大学生のことを知るきっかけになればよいと思っています。

⑤中学校の先生や生徒に向けて

地域留学を検討する生徒を担当する中学校の先生に向けて、何かメッセージはありますか?

同じことが高校の現場の教師にも言えますが、学校によってこうした取り組みへの理解度が全然違うんですね。隣の高校の先生たちは串本古座高校が「全国募集」を行っているということは知ってくれていますが、内容や効果などについては、あまり知られていないと思います。

また、近年では全国募集を行っている学校が増えてきているので、それぞれの学校の特色を知ってほしいです。うちのように、高速道路を使えば大阪から3時間ほどで着くようなところもあれば、その日中にたどり着くのがやっと、というような立地のところもあります。全国の学校をいろいろ研究されたうえで、子どもたちに紹介してもらえればと思います。

幸いなことに、うちに地域留学で来てくれている生徒の先生方は、そのあたりを非常に適切に対応してくださっています。帰りたいと言っている子も今のところいませんので(笑)

串本古座高校で学ぶ魅力など、中学生に伝えたいメッセージはありますか?

自然豊かな中で、海もあり、川もあり、様々な体験活動を通して、自分の生き方を見つけて、夢をかなえてほしいです。また、一人暮らしをすることになるので、その覚悟、自立していくんだという意識をもってほしいですね。

実際にいま来てくれている生徒たちは、きちんと自炊したり、お弁当を自分で作ってきたりしている生徒が多いです。頑張っているなと思います。自然は本当に一級品のものが揃っていますよ。

田舎にある小さな学校なので、地元のあらゆる生徒を受け入れています。国公立大学に進学する生徒も毎年いますし、地元の企業に就職する生徒もたくさんいます。大学に進学する生徒、短大や専門学校に進学する生徒、就職する生徒が3分の1ずつ程度ですね。どんな進路にも対応できるというのも強みだと思っています。

先生方へのメッセージと重なりますが、いろいろな学校を研究したうえで、周りの人にもたくさん相談したうえで、地域留学という進路を選んでもらえたらうれしいです。

そういった中でも、魅力あるカリキュラムの学校が地域にあるということを伝えるために、「広報くしこざ」などを発行しています。

*全国募集で入学した生徒の方へのインタビューはこちらから(「地域に留学する」という選択肢 〜串本古座高校の取り組みから②~

4 学校紹介

和歌山県立串本古座高校

本校は、本州最南端の和歌山県串本町にある全校生徒266名の全日制普通科高校です。

昨年度は創立百周年記念事業を行い節目を寿ぎました。今年は101年目となりますが、前身の旧串本高校と旧古座高校の伝統を引き継ぎ、新たな世紀を歩み始めています。

平成29年度からは、「串本古座高校魅力化プロジェクト」と名付け、グローカル・クリエイティブ・アドバンストの新たなコースの立ち上げ、全国募集の開始、地域包括支援部(CGS)の設置、など、様々な改革に取り組んでいます。

また「地域まるごとキャンパス構想」のもとに、地域の教育資源を活用した特色ある授業を展開しています。「地域と共に歩む学校」として串本町・古座川町と連携・協力に関する提携を結んでいます。両町の支援も受けながら、これからも豊かな心と確かな学力を身につけ個性の伸長をはかることにより、地域の活性化に資するとともに、国家や社会の形成者として貢献できる人間の育成を目指します。

5 関連書籍

6 関連記事

『島の未来をプレゼン~大島中学校でのキャリア教育授業実践~』

『教育が島の未来を変える~大野圭司さんインタビュー①~』

『教育が島の未来を変える~大野圭司さんインタビュー②~』

『地域に開かれた島の教育の仕組み~大島中学校座談会~』

7 関連サイト

「地域みらい留学」公式HP

「地域みらい留学」串本古座高校紹介ページ

8 編集後記

お話を伺う中で最も印象的だったのは、“「留学生」であることを先生も生徒も意識していない”ということです。串本古座高校には、先生方や地域の方と近い距離で関わりながら、地域の1人として、生徒の1人として、豊かな自然の中で友人たちと共に学ぶ高校生活があるように感じました。

この記事が、「地域に留学する」という選択肢を知るきっかけや、高校生活とその先の将来を考える一助となれば幸いです。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 内藤、中澤)

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