授業実践が上手くいかない原因は「場づくり」にあるかも…?(矢島ノブ雄先生インタビュー②)

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目次

1 はじめに

本記事は、2019年12月7日に行った、矢島ノブ雄先生へのインタビューを記事にしたものです。矢島ノブ雄先生は、お笑いコンビ「オシエルズ」として活動しながら、人を笑わせること(楽しませること)において重要な「心理的安全性」の重要性を伝えるため、学校などでワークショップを行なっています。今回のインタビューは、前半と後半の2記事にわたって公開します。後半では、教育に笑いを取り入れる上で先生方に意識してほしいポイントをお聞きしました。

☆前半の記事はこちら

2 インタビュー

○ ネタ見せも授業も、まずは「場づくり」から

ーー先程のインタビューで心理的安全性が重要とおっしゃっていましたが、そのようにお考えになったきっかけはありましたか?

先生として社会科を教えることになった時に、「どんな先生でもできるおもしろい授業ってどんな授業だろう?」と考えたのがきっかけです。

芸人として営業ライブなどを行う際には前説をするのですが、初対面のお客さんと関わろうとするんです。「今日はどちらからいらしたんですかー?」と聞いて、お客さんと関わりながら、自分たちは味方なんですよという関係性を作ってからネタをしています。

もしその場づくりが授業でもできれば、芸人みたいにネタがなくても、どんな先生でも応用することができて、笑いがとれる、と思ったんです。

しかし、 ネタ探しばかりする先生方って多いんですよね…。

ーー確かに、まずは場づくりというより、「こうやればできる」と書いてある授業実践を読んで、早速明日の授業に取り入れよう、とする先生方が多いですよね。

そうなんです。しかし、お笑いでどれだけ温まっていないお客さんの前でネタをやってもスベるだけなのと同じく、授業も場作りが大切なんです。「これだけ本を読んで実践を取り入れてるんです」という教師の方に、成功率はどれくらいか聞いてみると、成功率1割だって言うんです。それだけ成功率が低いのは、心理的安全性が低いからなんです。

心理的安全性についての詳しい記事はこちら

心理的安全性が高かったら、持っている実践が5割も6割も成功すると思います。場づくりをしない状況では実践に失敗する確率が高まりますし、「自分はこれだけを勉強してきたのに」「準備してきたのに」という教師のよくないプライドがどんどん空回りします。「実践を披露する」のは自分のためにやっていることで、生徒のためではありません。実践をたくさん身につけるのはいいことですが、まずは場作りができるようになってほしいと思います。

まさに芸人がネタ見せ前にそのような場作りをしているということをリンクさせて、教育に笑いを取り入れたいという気持ちで今はやっています。場作りを疎かにしている先生はとても多いと思います。

○ きっかけは「矢島先生にしかできないね」と言われたこと

ーー「場づくり」に着目した理由はありますか?

最初は僕も社会科の先生としてどれだけネタを持っているかということに執着していました。社会科は暗記科目で、生徒たちにつまらないと思われてしまうことが多いので、ナポレオンについての雑学をこんなにも語れる、というようにいかに面白おかしく話すか、アクティブラーニング的な方法で引きつけることばかり考えていました

それをある時、模擬授業で他の先生方に見ていただく機会がありました。結構ウケて、みんな楽しそうでした。しかし、終わった後にある先生から「すごい楽しかった。さすがですね。でもこれ、矢島先生にしかできないですね」と言われたんです。僕は半分嬉しかったし半分ショックでした。僕は最終的には社会の先生方は誰でもこうやって楽しく授業ができるようにと思ってやっていたので、「あぁ、これは僕にしかできないんだ」とショックを受けました。

○ どんな先生でも「場づくり」ができるには

ネタが上手くいくかどうかは人によるんです。この経験があって「みんなができることをやろう」と思いました。それが「場作り」なんです。要するに、どんな個性があってもできる場作りを目指そうと思い、大学でユーモア・スキルというものを勉強したんです。ユーモア・スキルには、4つの観点があります。

それぞれを説明すると、①表現力は笑いを表現するための声や表情・動きなどを司る力、②想像的思考力はユーモアを感じ取るために様々な観点でものを見る力、③コーピング力は緊張や不安に左右されない、自分のパフォーマンスを最大限に発揮する力、④論理構成力はユーモアを表現するための論理の構成、立て直しを司る力のことを表します。

このユーモア・スキルを全部持っていなければいけないということではなくて、どれか1つを使えればいいんです。もしくは掛け合わせて使うということです。先生は「協働」体制ですから、生徒全員に気に入られる教師はいません。熱血が好きな子もいれば、控えめが好きな子もいます。年齢差や性別、先生の個性に左右されない、それぞれの場に合わせた場作りができるといいと思います。

○ 先生に必要なのは「変化を恐れず、生徒とのやりとりを楽しむこと」

ーー日常的に授業を行なっている先生方は、具体的に何から取り組み始めればいいのしょうか?

教師は変化を1番恐れていると思います。例えば学習指導案を念入りに準備して授業をやった時、生徒が全然違う学びに興味を持ったら、「今それ関係ないから」と言ってしまうことがありますよね。先生は自分のやりたいことを用意してきたというもったいなさや、やらなきゃという責任感で、自分の考えている枠組みの外のことが起こった時に対応に困るからなんです。しかし、先生が作り上げた世界を子どもたちに押し付けるのではなくて、先生と生徒がその場で何かを作り上げることに意味があるのです。「いいところに目をつけたね〜。とっても説明したいんだけど、それをより理解できるように先にこれを説明させてね!」と生徒たちに乗っかればいいと思います。自分たちが発信したメッセージで先生が変わってくれたことが生徒は嬉しいと思うはずです。

ですが、僕自身も教師を経験して、全国の先生方がいかに忙しくて、余裕がないかも分かります。でも、余裕がないのは全部自分でやろうとしてしまうからであって、生徒と関われば関わるほど余裕は生まれると思います。全部自分で準備をして、その通りにやらなければいけないと思っている先生は、自分で自分の余裕をなくしています。変化を恐れずに、自分だけでやろうとしないで生徒に委ねて、自分の余裕をなくさないということが大切だと思います。

もちろん準備をすること自体は大切ですが、準備してきた引き出しを全部使おうとしなくていいということです。準備してきたことが100%だとしたら、そのうちの5%を出せることができばいいと思います。そのかわり、その余裕をもって子どもたちに接してほしいと思います

3 プロフィール

矢島ノブ雄(やじま のぶお)
1987年生まれ。東京都墨田区出身。
創価大学大学院文学研究科・教育学専攻教育学専修博士後期課程単位取得退学。
大学時代、学生のお笑い大会で全国優勝を経験。お笑いコンビ「オシエルズ」として活動しながら、笑いを用いた「いじめ」解決のための講演・ワークショップを全国で行っている。公益財団法人日本ユースリーダー協会「第11回 若者力大賞」では芸人として初のユースリーダー賞を受賞した。日本即興コメディ協会 代表。FUNBEST代表。埼玉医科大学短期大学非常勤講師。(2020年1月25日時点のものです。)

○矢島伸男著「イラスト版子どものユーモア・スキル: 学校生活が楽しくなる笑いのコミュニケーション」

TV FUNBEST

4 関連情報

オシエルズ第14回単独公演「聴こえる」
2020年4月12日(日)
昼公演 13:30開場/14:00開演
夜公演 17:30開場/18:00開演
場所→しもきた空間リバティ
料金→前売¥2,500/当日¥3,000
※高校生以下¥1,500
予約→info@funbest.jp

5 編集後記

EDUPEDIAには多くの教育実践が載っており、それらの習得ばかりに目が行きがちだと思います。その大前提として「場づくり」があってこそ実践を活かすことができると再認識しました。日頃高い意識を持って教育実践のレベルを高めようと努力している先生方はたくさんいらっしゃると思うので、この記事を読んでいただき、一度立ち止まって自分の「場づくり」を振り返る機会にしていただけると幸いです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 佐藤勇大、勘田真由)

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