子どもの発達を見とる眼とは?(③小学校教諭・仁井貴士さん編) ~令和時代の幼児教育と小学校の連携をアップデートする~

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目次

1 はじめに

この記事は、2019年12月6日に東広島市で行われたイベント「さざなみの森からみる未来の学び場 vol.3 -令和時代の幼児教育と小学校の連携をアップデートする-」の様子を取材し、編集したものです。

このイベントでは、保育士、スクールカウンセラー、小学校教諭の各ゲストがそれぞれの取り組みや問題意識、幼保小連携のためにできることなどを共有した後、参加者を交えての議論が行われました。今回は全体を通じて「発達」や「愛着」といったキーワードが浮かび上がりました。

この記事では、小学校教諭の仁井貴士さんのお話の部分をご紹介します。

それぞれ異なる立場から見た「幼保小連携」「発達」「愛着」についてお話されているので、ぜひ他のゲストの記事も併せてご覧ください。
 
①認定子ども園さざなみの森保育士・大村恵さん編
②広島大学大学院講師、学校心理士・山崎茜さん編

2 仁井先生の自己紹介

先ほどから、「小学校でこういうことをもっとやってほしい」という声をたくさんいただいてしまっていますが(※関連記事参照)、私は小学校の教員をやっております。

現在は上記のようなことをしています。何でも屋では本当に何でもやります(笑)。チェーンソーを10台くらい持っています。

3 自分の経験と子どもたちに伝えたいこと

これは私が昔やっていたお店の写真です。60坪くらいの大きな倉庫でライブなどをしていました。この経験を通してたくさんのつながりができました。

自分でお店を出すのはとてもリスクの大きいことですが、その一歩を踏み出す勇気を持つことが大事ではないかと思います。子どもたちにもそういう風になってもらいたいと思っています。

子どもたちがこれから生きる時代には大きな変化がたくさんあります。だから、自分で一歩踏み出すことや、自分で一から何かを創り上げていくことを子どもたちに覚えてほしいと思うのです。

私自身、最初はまったく大工の技術がありませんでしたが、今では小屋程度であれば一人で建てられます。それは、最初から学ぼうと思っていたからではなく、お店の内装などを手掛けているうちに自然とスキルも身についたからです。

いま学校現場でよく言われている「探究的な学習」も同じです。何かに没頭して、自分でたくさん調べて失敗も重ねて、新しいものを積み重ねて何かを完成させると、知らない間に力もついているのです。

4 生徒指導主事の仕事

私は学校で生徒指導主事の仕事をしています。

やはり生徒指導というとカチッとさせないといけないイメージですが、そうではなく、私は子どもたちにひたすら声を掛けるようにしています。声を掛けた時の反応を見ながら対応していくのです。

たとえば、朝登校してきた子どもたちにも色々な事情があります。家でまったく会話をせずに来ている子もいれば、怒られてから来ている子、ご飯を食べずに来ている子、まったく寝ずに来ている子など、様々な子どもがいます。

小学校で子どもが自分の困っていることを隠してしまうと、結局その対処を先延ばしにすることになってしまうので、小学生のうちにそれを表に出させてあげないといけません。そのためには信頼関係を築く必要があります。いろいろな子どもたちに声をかけていきながら信頼関係を作っていくのが私の大きな仕事だと思っています。

そして学習時間はあまりカチカチするのではなく、子どもたちが自分で「やりたいな」と思えるような楽しい空気づくりを心がけています。

5 保護者との連携と「愛着」

子どもを育てるのは保護者です。それをサポートするのが私たち教員の仕事です。保護者がいるからこそ子どもが育つということを私たちは忘れてはいけないと思います。そのうえで、学校と保護者とで連携して子どもをもっと「承認」するべきだと考えています。

「アイメッセージ」「ユーメッセージ」という言葉があります。
 
◯アイメッセージ……自分を主語としたメッセージ。
例:「こういうことをしてくれて、私は嬉しい」
 
◯ユーメッセージ……相手を主語としたメッセージ。
例:「あなたにはこういうところがある」

アイメッセージは愛情の表現ですし、ユーメッセージは子どもの承認になります。特に発達障害や愛着障害のある子どもたちは言葉にとても敏感です。少し叱っただけのことがその子には100倍の勢いで響いてしまうこともあります。でも逆に言えば、ほんの少しのほめ言葉がその子にとってはものすごく大きな幸せになることもあるのです。

子どもたちは「認められたい」という気持ちを強く持っています。ですから保護者の方にも子どもを認めてあげてほしいと考えています。子どもをどう認めていいか分からない、自分の気持ちを子どもに伝えられないという保護者もたくさんいるので、「うれしい」という気持ちだけでもまずは表現することが大事だと伝えています。

今の時代、不安を抱えながら子育てをする保護者も増えています。そうすると、「自分は親を不安にさせる存在なんだ」と感じながら育ってきた子どもたちが小学校に入ってくることになります。それを幼稚園、保育園、小学校でケアできないと、その後のケアはどんどん大変なものになってしまいます。だから小学校の間に子どもをたくさん認め、自己有用感を持たせてあげなければならないと感じています。

幼保小で連携していくにあたって、「愛着」は一つのキーワードです。

6 仁井貴士さんのプロフィール

高校生から一人暮らしを始めて様々なシゴトをしながら学校に通う。
その後、錆びたピックアップトラックに家財道具を載せて沖縄に渡り、シゴトをしながら学校に通い、福山で保育士となる。
沖縄在住時のバイヤーの経験からアパレル業界に入り、23歳の時にビンテージ古着屋を開店。
25歳の時には、東京事変のギタリスト長岡亮介率いるペトロールズを招いてガレージライブを行った。
その後、幼稚園教諭を約5年し、小学校教諭は今年で10年目となる。
2児の父であり、趣味は、自分のイメージをカタチにすること。
これからの子どもたちの笑顔のために、自分ができることを一生懸命に。

7 編集後記

仁井先生には、並外れた経験に基づいた「子どもたちに伝えたいこと」と、子ども一人ひとりと信頼関係を築き愛着を形成していく姿勢との両輪があるのだと感じました。今回のイベントは「幼保小連携」がテーマでしたが、3名ゲストの方々に通じていた視点は、中学・高校でも必要なものではないかと思いました。
(取材・編集:EDUPEDIA編集部 平原由羽)

8 関連記事はこちら

 
①認定子ども園さざなみの森保育士・大村恵さん編
②広島大学大学院講師、学校心理士・山崎茜さん編

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