社会科の教材開発 1

ケース1 ~何もないような地域でも、必ず驚く事象が存在する~

有田和正氏は「授業は教材七分に腕三分」と言われます。つまり,授業について,教師の指導力もさることながら,教材(ネタ)のもつ重要性を主張されています。
教材開発については,「一見,何もないような地域でも必ず,驚くような事象が存在する」と全国各地を巡り,34年間で800を超えるネタを開発された経験から述べられています。
私は,有田氏のこの言葉を実感した経験があります。赴任地はこれといった特徴のない町でしたが,町の社会科副読本に載っていた1行の文が教材開発のきっかけとなりました。

I 教材との出会い

赴任した当時(12年前)は、農業中心の長閑な町(人口8千人)で、特徴的な産業もなく,少子高齢化や限界集落などの問題が進んでいる現状でした。
私は、教科書教材だけでなく、子どもたちに自分の生まれ育った地域をしっかりと見つめ,地域の歩みや人の生き様にふれることができるような教材はないかとずっと模索していました。

教材開発のきっかけは,町の社会科副読本に「加美小学区には大小合わせて100ぐらいのため池がある」という文章が載っていたことです。ため池はどこにでもあり、大して珍しいものとも言えません。しかしながら日頃から目にはしているが,子どもたちにとって,生活とのつながりやその背景についてはほとんど知らないものでもあります。

私は、直感的に、このため池の数の多さや位置、関連性にこだわってみました。そして、中でも,一番大きなため池である長万寺池を取り上げ,教材開発を試みようと考えたのです。

II 教材開発の実際(教材開発の手順 ※本事例の場合)

(i)(身近なところから)地元の役場や町内の図書館へ

まず,町役場を尋ねましたが当時の資料(昭和初期頃)はすでに廃棄されていましたので,代わりに、長万寺池地区の古老を紹介して頂きました。古老(当時81歳)から当時(小学校の頃)の状況や,耕地整理記念碑のこと,池づくりの中心となった人の話を聞きました。昭和初期ということで,実際に池づくりに携わった人たちはすでに亡くなっていました。

(ii)(県内の文献や資料にあたる)県立図書館や中央図書館へ

次に、私は、県立図書館や県内数カ所の大きな図書館で昭和初期の郷土資料にあたりました。そこで、隣町での大規模な耕地整理が行われていたことをまとめた書物を見つけました。また、その著者(当時72歳)は近隣在住の方で、お会いすることもできました。著者は郷土史家であり、現地で当時の耕地整理や池づくりの様子や生活の様子について詳しく聞くことができました。参考文献も紹介して頂きました。

(iii)(口コミによる情報収集)周りの職員、親への声かけ

職員室や知り合いの先生、保護者にも尋ねてみる事も重要であると思います。実際に、池づくりの経験者(当時84歳)や、千本づきの道具、だんじこ唄のビデオなど思わぬ収穫につながりました。直接的には、長万寺池とは違いますが、同時期のことなので、共通点や参考になるものも出てくる可能性は大きいと感じました。

(iV)(人を単元に位置づける)出会った人は教材として活用

このような教材開発の中で多くの人との出会いがありました。長万寺池に関わる人々の思いや願い,知恵を子どもに実感させるには,この方たち以上の証言者はいません。人が教材です。実際の授業では、単元の中に、出会った人を位置づけて、子どもたちに千本づきを指導し、体験談を語って頂くことにしました。

社会科教材開発の楽しさ

こうして、ほとんど資料がなかった段階から耕地整理や池に関する文献,郷土史家,地元の古老,池づくりの経験者がそろい教材化(単元化)へと踏み切ることができました。
特に何の特徴もないと思っていた(自分で勝手に決めつけていた)この地域で、県下を代表するような耕地整理が行われていたことに大変な驚きを感じました。これは意図的に調べなければ、絶対にわからなかったことであり、足で稼ぐ中で様々な人々との出会いが生まれました。

今、何でも簡単にインターネットで調べられます。しかしながらここで紹介した様々な人や書物との出会いは、決して、検索をクリックするだけでは生まれなかったものだと強く思います。大学時代、ゼミの教授から「とにかく足で稼げ」と何度も叱られたものです。その意味を実感しました。動くことで見えてくるものがあるということです。

教材開発の楽しさは、何と言っても、人とのつながりが生まれること、何気なくみていた地域を違う視点から捉え直すことで新たな魅力を与えてくれること、まるで宝探しのような気分を味わえることだと私は思います。

  1. 教材にこだわる(あらゆる手をつくす)
  2. 人とつながる(どこへでも出向いて話を聞く)
  3. 似た事例を探す(教材の切り口の参考とする)

本教材は、最終的には社会科の学習にとどまらず、総合学習として一連のため池の開発を劇化してクラス全員で演じました。保護者はもとより、町内の地域の皆さんを招いて「長万寺池フェスタ」として大々的に披露することになりました。地元のお年寄りの中には、涙を流して喜んでくださった方もいて、子どもたちとともに大きな感動を味わうことができました。卒業時にもらった子どもの手紙の中に、「小学校時代で一番心に残った授業は4年生で高岡先生とした長万寺池の学習である」と書いてくれた子もいました。教師として、これ以上ない最高の喜びです。教材開発は社会科教師としての醍醐味です。教材開発の深さが授業の質を高めることにもつながると思います。

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