情報共有の要 ~「カリキュラム管理室」の中身を探る~(館山市立北条小学校)

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1. はじめに

千葉県館山市にある、市立北条小学校では昭和37年(1962年)から50年にわたって、「北条プラン」と言われる教育プランを打ち出してきました。北条プランはその間何回にも渡り、試行錯誤が繰り返され改善されています。しかし一方で、現場の教員は毎年必ず、数名ずつ入れ替わってしまいます。そのような状況下でも、この北条小学校の伝統的な教育カリキュラム、いわゆる“北条教育”を支えてきたのが、今回紹介させていただくカリキュラム管理室です。

2. カリキュラム管理室とは

カリキュラム管理室(以下カリ管)の大きな役割は、上に挙げた様に、出来上がったプランが修正され、蓄積された実践が積み重なって「新しいプラン」へと生まれ変わっていく過程を支えることです。

北条小学校には、カリ管が2部屋用意されており、それぞれ第1カリキュラム管理室、第2カリキュラム管理室と呼ばれています。

第1カリキュラム管理室

カリ管長(主幹教諭)や教務主任、専科・少人数指導教員など担任外の教員の部屋となっているこの部屋は、印刷機やコピー機をはじめ、様々な教育機器の管理を行なっています。また、ここで印刷されたものは、プランの実践検証に関わるとされ、保管されます。さらには、印刷等に訪れる教員から、各学年の状況を聞き、様々な補助を行います。また、授業中のやむを得ない印刷などで担任が訪れた時には、代わりに印刷を行うことで、印刷が行われている間も担任は授業ができるようになっています。

第2カリキュラム管理室

昭和41年に創設されたこの部屋は、北条小学校内のすべての学習プランや関連の資料、北条小学校による出版物などが集積されています。学年、教科、月別に作られた660の棚があり、その1つ1つに指導案、ワークシート、子どもの活動記録、写真などが、指導者の反省なども含め、納められています。

そもそも、カリ管が作られた大きな狙いは、教員の「指導の平準化」でした。初任であろうと、ベテランであろうと子どもにとって先生は先生なのであり、教員は子どもたちの前で言い訳をしてはいられません。常に同じ指導力が求められます。このような教員とって、先輩教員が指導した資料を用い、研究を深めることで、その基礎となる部分を学ぶことができます。そして、多少なりともレベルアップした実践をすることができます。また、校内には優れた教科指導を行う教員がおり、そういった教員の考え方や指導技術を学ぶことでどの教員であっても、一定の水準に立つことができると考えたのが、「指導の平準化」という考え方です。もちろん、第2カリキュラム管理室を使うのは初任の教員や若い教員だけにとどまりません。例えば、初めて担任する学年や初めての教材を前に、参考となる指導資料が欲しいと感じることは不思議なことではありません。このような時に、人を頼るという手間を省き、一定のレベルの資料を手に入れることができる第2カリキュラム管理室は、教員の共有財産と考え、誰が見ても、使ってもいいというルールになっています。「指導の平準化」という理念は、教員の資質向上はもちろん、学校全体の学力向上に効果を上げています。このようにカリ管を見てみると、カリキュラムを開発し、それを評価、改善することによって、日々更新されていくという、カリ管の役割が見えてきます。実際には、棚の資料は参考であって、子どもの実態や教員自信の願いをこめて、工夫を加え、実践を積み重ねています。「指導の平準化」だけに留まらず、カリ管の中でカリキュラムは改善され続け、あるいは新たは発想のもとに開発されていくのです。

現在もカリ管を通じて行われるこのようなカリキュラム開発や更新のシステムを、北条小学校では「プラン実践検証サイクル」と呼び、学習指導案や資料を蓄積しています。

3. プラン実践検証サイクル

では、カリ管内の資料を使い、北条小学校の中ではどのような営みが行われているのかを下の図を基に見ていきます。

PLAN

各学年4名の職員はそれぞれが担当教科を分担します。およそ、1人2教科ないし、3教科の担当を持つことになります。教科担当は,カリキュラム管理室に保管されている翌月の単元や題材の指導資料にまず目を通します。昨年度の実践の仕方や、ワークシート、反省、改善案を読み込みます。そして、毎週金曜日に行われる学年会で、その年の指導計画を提案します。学年会では、提案された資料を子どもの実態等をもとに検討し、実践の仕方を決定します。

DO

実践は,クラスの実態を考慮しつつ、各学級で実践されます。原則として学年内で指導方法を統一した上で、それに基づいた実践が行われます。これにより、1つのプランが複数のクラスで検証されることになります。

CHECK

実践の結果を再び学年会の話題にし、反省や修正について話し合います。そして、教科担当職員は、実践資料とともに反省を記入した用紙をカリキュラム管理室の棚に再び納入し、次年度の実践につなげます。

ACTION

昨年度の実践の結果からの反省・課題に基づいた改善案を講じてから本年度の実践となります。CHECKからACTIONへは、ほぼ1年を経ますが、大きなサイクルの一貫と考えています。

4. その他の支援

上に挙げたものがカリ管の大きな役割ですが、その他にもたくさんの役割を担っています。これにより、より円滑な学級経営が行われていると言っても過言ではありません。

人的支援

  • 専科、ティーム・ティーチング、少人数指導
  • 行事支援
  • 補教育(教育活動の補助)

◎ 専科,ティーム・ティーチング,少人数指導専科としての学習指導を行います。ティーム・ティーチング,少人数指導担当として,各学年と十分に相談しながら指導にあたります。

◎ 行事などへの支援学年,学校行事,統合学習(総合学習)などにおいて,必要に応じて行います。学年関係行事の支援の中心は,カリ管当該学年担当で行います。

◎ 放送活動朝の校内練習や,本番時の必要に応じた支援を行います。

◎ 担任不在時の支援特に1・2年生を中心に,担任不在時の学級の自習対応を行います。自習の実施・指導については,同学年の教師と連携をとりながら,当該担任の自習計画にしたがって行います。また,突発的に担任が不在にならざるを得ない場合などにはカリ管の教員が連絡を受けた上で支援にあたることになっています。

◎ 教材・教具の開発への支援充実した学習活動を行っていくために,学習によっては,子どもの実態に合わせた教具,教材の開発が必要になります。その際,カリ管は,よき相談相手,及び請負人となって,開発支援を行います。

◎ 物的環境の充実に向けての活動子どもの生活環境を充実させるために,学校内の物的な環境を,生活・学習の面から考え,カリ管という全体的な立場から支援,活動していっています。

◎ 印刷の支援印刷機器の管理,および印刷の支援を行います。次の印刷物については,カリ管が対応します。

  • 全職員向けの印刷物
  • 全校向けの印刷物

なお次の印刷物については,原則として学年あるいは,学級担任で行います。

  • 学年向けの印刷物
  • 学級向けの印刷物

◎ 事務室で対応できない場合の来客の接待物的支援

  • 物的環境の充実
  • 教材、教具開発
  • 印刷

教育活動で使用される視聴覚機器について日常的に活用できるよう整備し,スムーズに貸借できるようにしています。

編集後記

「教育の平準化」は、昔から叫ばれていたように感じる。しかしながら、それを達成するのは非常に難しい。ベテランの先生方が引退なさり、新たな教員が赴任してくるということはこれから増えていくだろう。その時に、「教育の質」が落ちてしまうのではなく、日々検討を重ねることで、よりよいものができるのではないだろうか。今回、取材させていただいた、この北条小学校のカリキュラム管理室は、それを達成する大きな役割をこれからも担っていくことになるだろうと感じた。

(文責・編集EDUPEDIA編集部:伊藤 駿)

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