0.はじめに
この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ、「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。
坂本哲彦先生のホームページはこちらです。→ http://p.tl/a-TK-
1.授業のねらい
「私がシャッターを押し忘れた理由」について話し合うことを通して、(1)生命が誕生するすばらしさ・いとおしさ及び(2)生命を誕生させようとする敬虔な姿・強さについて深く感じ取る。その上で生命のつながり、神秘を踏まえ、生命を尊重しようとする心情を育てる。
2.対象
中学1年生
3.資料
「たん生」 (『みんなで生き方を考える道徳』所収 日本標準)
4.学習内容
授業での話し合いを通して感じ取り、自ら深めていくことは次の通りです。
(1)生命の誕生のすばらしさ・いとおしさ
資料に描かれている子犬が生まれる時の様子から、そのかわいさ、いとおしさを感じ取ること。
自分が生き物を飼ったときの経験から、そのかわいらしさについて想起すること。
赤ちゃんとのふれあい体験や知り合いの赤ちゃん・幼児とのかかわりから、そのかわいらしさ・生き生きとした姿について想起すること。
(2)生命を誕生させる母の敬虔な姿・強さ
資料に描かれている子犬を産む母犬の様子から、その強さ、たくましさを感じ取ること。
自分が生き物を飼ったときの経験から、その母の強さ、たくましさについて想起すること。
赤ちゃんとのふれあい体験や知り合いの赤ちゃん・幼児の母とのかかわりから、母親のたくましさ、強さ、愛情の深さについて想起すること。
5.学習過程
1)資料を読み、感想を発表する。(10分)
<授業の前提>
資料を事前に読ませるわけではないので、すぐに資料を読み聞かせることにします。もちろん、動物の飼育体験や生命誕生を見た経験などを発表させることも効果的で一般的ですが、これらの活動は、資料中の話し合いの中で出し合う主発問(=発問2)の話し合い活動と一体的に扱うことにします。
※ 発問1:「心に残ったところを発表してください。」
資料を読むために数分とったあと、感じたことを3分程度自由に発表させます。このねらいは、次の活動、主発問になる「私がシャッターを押し忘れた」という事実に着目させることと、授業への参加意欲・参加度を高めることです。楽しい、学び甲斐のあるムード作ります。
感想には、シャッター場面以外に、子犬誕生のかわいらしさや母犬のたくましさ、飼い主の「私」の配慮など多くの感想が出ます。教師はうなずきながら、「先生もそう思うよ、みんなはどう?」と広げておきます。
感想発表は、何を言ってもいいものなので、次々と列ごとに指名していき、板書もしません。スピーディーにリズムよく進め、笑顔や温かい雰囲気を作り、参加の度合いを強めることを大切にします。
⇒資料提示と導入を一緒に終えます。
2)「私がシャッターを押し忘れた」のはどんな理由からか話し合う。(30分)
※ 発問2:「私がカメラのシャッターを押し忘れた」のはどんな理由からだと「あなた」は思いますか?
ノートに予め自分の考えを書かせるのが一番手堅い方法だと思いますが、導入の感想発表が、この活動に資することから、すぐに全体での話し合いに移ります。ノートに書くとどうしても慎重な思考になりがちだということもあります。読み取りにならないようにするため、「あなたは」と尋ねています。
発表内容は、それぞれ表現は違うとしても、
の3つに分かれます。
子どもたちの意見をこの3つに集約しながら板書上にまとめます。途中から意見に小見出しを付けて、発表させる時に、「自分は○○の意見に近くて……の気持ちだと思います。」などと発言させます。
教師の対応例)「○○君の意見は、△△さんの意見ととてもよく似ていますね」や「○○君と△△さんは席は遠いけど、考えはとても近いね」
→これによりクラスの親和感が高まります。
※ 発問3:あなたが、主人公「私」だったら、①と②どっちの理由で「忘れて」しまいそうですか?
補助発問(問い返し発問)なので、短時間の扱いとなります。この発問は、2つの内、どれか一つに決めることが目的ではありません。一つに決めようと考えたり話し合ったりすることで、誕生や出産のすばらしさを自分事として捉えさせる目的です。
おそらく、①②が同数、または、「先生、どっちかに決めることはできません。」「先生、どっちもが理由になります」という感想・意見がでることでしょう。そりゃそうですねえ。
「わたしなら、①の子犬を応援する気持ちから、シャッターを押すことを忘れてしまうのじゃないかと思います。」や「僕は、②の母犬の出産を応援する気持ちから忘れてしまうんじゃないかと思います。」などの意見が出ると思います。
その際、「なぜそう思うのですか?」、「理由は何?」、「あなたは、子犬や子猫の出産を見たことがありますか?」などを問い返して、生活経験を引き出します。直接の経験がある生徒がいる場合は、少し時間をとって、その内容を語らせるのがいいと思います。
最終的に、生命誕生の神秘、偉大さを感じ取らせることが必要であることから、出産も誕生も表裏一体として捉えさせることが求められますよね。
ということで、板書上に類別して書いていた①と②を大きく括り(黄色か赤のチョークで大きく囲み)、「生命は強い絆でつながっているんだね」「生命の誕生は神秘的で、尊いねえ」と言いながら「絆」「神秘」「尊い」と板書します。
「価値の押しつけ」「蟻地獄的指導」と言われるかもしれません。
ですが生徒が感想を述べ合って、「みんなちがって、みんないい」「どれもいい」「どれもいいともいわない」や「単に数個の発言が板書されただけ」という道徳の授業が多いのは実に残念なことです。
やはり1時間授業したならその1時間分の学び甲斐がないといけないという意味からも、また、ねらいを達成するという意味からも、ある程度の、教師の指導性は発揮しなければならないと思うのです。
3)生命誕生の読み物または、映像を視聴させ、感想を書く。(10分)
この読み物資料以外に、生命が誕生する読み物やDVDを視聴させます。犬がいいけれど、ない場合は馬や猫でもいいかもしれません。他の読み物や映像がなければないでもなんとかなりますので、その場合、「感想まとめ」にすぐに移ります。
「今日の授業で感じたこと、考えたことを書きましょう。」感想を書く時間です。あれこれ教師が口を出さない方がいい時間です。時間がある場合は、紹介することで一層心情は深まります。
6.効果的な教材活用の仕方
中学校の道徳の授業の難しさの一つは、読み物資料が長いことです。書かれている内容を理解するだけで全体の半分の時間を使ってしまう授業を見ることもあるくらいです。
そのため、資料を予め読ませておかないのであれば、導入を短くすることが重要になります。
また中学校の授業で特に残念なのが、場面毎に主人公の心情を一つ一つ押さえていく「各駅停車」の授業です。概ね一読すれば内容理解できるように編集されている資料なのですから、書かれている内容の理解は①のような感想発表程度で押さえられると考えてしまいましょう。
できるだけ早く主発問(中心発問と呼んだりもします)の学習活動に入ることが肝要です。
7.編集後記
中学校の道徳の授業というのは、難しいとよく言われ、特に今回のような生き物の生を扱う題材は授業の方法次第で学びの質が大きく変わってくると思います。
やはり道徳の授業では実体験といかに照らし合わせて主題を自分のこととしてとらえられるかというポイントが大事になってくると感じているので、この実践はその点で子供たちに目線を合わせた素晴らしい実践だと思いました。子どもたちにとっても自分の体験を振り返り、友人の体験を聞き、考えるというのは成長の上で大事な過程だと思うのです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 杉田 彩)
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