1 はじめに
この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ、「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。坂本哲彦先輩のホームページはこちら→http://p.tl/a-TK-
2 概要
対象
小学校3・4年生
ねらい
3番目の妖精の願いを話し合うことを通して、人の考えに耳を傾けることのよさを改めて感じ取るとともに、うぬぼれないで、よく考えて行動しようとする態度を養う。
学習内容
(1)よく考えて行動することのよさ
- 人の意見をしっかり聞くこと
- 自分(のよさ)にうぬぼれないこと
(2)自分の生活について振り返って考えること
- 親、先生、友達の考えを聞いて、自分の考えをもとうとしているかどうか、振り返ること
- 今後の願い、課題
資料 「王子様の耳はろばの耳」
『10分で読める名作4年生』 木暮正夫 著 学研マーケティング(2007)
『王子さまの耳はロバの耳』 岡田淳 著 フェリシモ(2009)
跡継ぎを切望する王様の願いを叶えた森の妖精。「世界一のすてきな王子様になれるように」、「正直でかしこくなれるように」とお祝いするも、同時に「王子様がうぬぼれないようにろばの耳にする」魔法もかける。
正直でかしこく育った王子ではあったが、耳はろばのよう。気に病む王様は耳のことがばれないように理容師を雇う。どうしても秘密をしゃべりたくなった理容師は、穴を掘って叫び埋める。そこに生えたアシでつくった笛は「王子様の耳はろばの耳」と鳴り、国中にばれてしまう。
秘密を漏らした理容師を殺そうとする王様を止めた王子様は、「わたしはろばの耳だって、これからも、いろいろなことをたくさん覚えます。そうして、やがては父上の後をついで、立派な王様になるつもりです。」と宣言する。と同時にろばの耳は消えてなくなった。
3 学習過程(45分授業)
①資料「王子様の耳はろばの耳」を読み、感想を発表する。(15分)
「妖精って何か知っていますか?」と投げかけ、短時間、口々に知っていることを話させ、資料につなぐ。
※Wikipediaによれば「妖精とは、主にヨーロッパの民間伝承における超自然現象や不思議現象などの、非日常的存在のことで、日本における妖怪に当たる。英語 fairy の訳語として最も一般的である。」「自然界に住む精霊の中で、主に人に似た形をしたものを指す。」とある。
その後、資料をゆっくり読み聞かせる。約10分。
課題提示:「今日は、王子様の耳をろばの耳にした妖精や、王子様の気持ちについて話し合い、よく考えて行動するとはどうすることなのかについて学習しましょう。」
おとぎ話のよさや雰囲気を感じ取らせるような資料提示の工夫などができるとよい。
②王子様と妖精の気持ちについて話し合う。(25分)
発問1:「『わたしの耳は本当にろばの耳なのです。ほら、みんなも見るがいい』ときっぱり言って帽子を取ったとき、王子様はどんなことを考えていたでしょうか。」
この話のツボ。自由に発表させながら、黒板上で意見を類別しながら整理する。
なお、「どんな気持ちか」と問うよりも「どんなことを考えていたか」と問う方が、子どもの思考の幅が広がる。前者だと、「悲しい」とか「ドキドキしている」などの心情的な発言が促さる。一方、後者だと、事実把握、論理・因果など少し知的な側面が強調される。したがって、一人一人の発言も長くなり、話し合いには向いている。
- ろばの耳だということがばれてしまうのがはずかしい。
- これからずっと隠し通せるものではない、だから今みんなに知らせる方がいい。
- 今、自分が言わなければ、理容師が殺されてしまう。
- ろばの耳でも、いろいろなことをたくさん覚えて立派な王様になれるはずだ。
- その他。
王子様がろばの耳であることを自分から言ったことで、理容師の命が救われただけではなく、王子様の「王様になる決意」(いろいろなことをたくさん覚えること、王様の跡を継いで、立派な王様になろうとすること)が一層はっきりしたことを押さえる(共通理解)ようにする。
発問2:「ろばの耳の魔法をかけた妖精は、どんな考えからそうしたのでしょうか。」
発問1で話し合ったことを妖精側から見ることで、一層確かな学習内容の理解を図る。関連付けた板書にする。
- 人の意見をしっかり聞くことができるようにろばの耳にした。(ろばの耳は大きいから。)
- いくら頭がよくて、すてきな人でも、人の意見をしっかり聞くことができなければ立派な王様になれない。だから、人の意見をしっかり聞くことができるようにするためろばの耳にした。
- みんなよりすぐれたところばかりではなく、少し人より劣っている(あるいは、引け目を感じる)ところがあるほうが、人は威張らずうぬぼれず、よく考える謙虚な人になれるから。
- 特に王様という立場は、人の気持ちや意見がよく分からなければならないから等々。
①はすぐに出てくるだろう。②は、物語のはじめで妖精が「うぬぼれないように」と言っているので、同じく抵抗なく出てくるだろう。そこで、①②を押さえた上で、③については、「ヨーロッパではろばは利口でない動物というイメージを持たれている」という「後書き」を紹介するなどして引き出す。少し難しいので、教師から説明が必要かもしれない。
最終的に、「王子様、王様だけではなく、どんな人も、自分のよいところを伸ばすだけではなく、そのよさにうぬぼれない(満足しない)で、自分の中で不十分だったり、残念だったりする部分を隠さず、時には、それを人に知らせながら、不十分な部分へ一層努力することが重要なんだね」、また、「特に、人の意見をよく聞き、自分を振り返りながら、生活することが大切なんだね」と本時の学習内容の2つを押さえる。
③自分の生活を振り返って、感想を書く。(10分)
発問3:「親、先生、友達の意見をよく聞きながら、しっかり考えて生活しているかどうか、日頃の生活を振り返って、考えたことなどをプリントに書いてみましょう。」
児童の書いた文が反省文のようになってはならないと思うが、「しっかり人の意見を聞きながら生活しているかどうか」という観点から日頃の生活を振り返って書かせることは大切である。これを本時の「自己評価観点」とする。
4 編集後記
なりたい自分になるために人の話を聞いて吸収することはとても大切です。その大切さを知るということは、「学びの場は授業以外にもある」と児童が気付く素晴らしい機会になると思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 五十嵐未来)
5 実践者プロフィール
坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。
自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/
コメント