1 はじめに
修学旅行で行ける所は、
「家から連れて行ってもらったらよい」「自然体験教室のほうがよい」
という意見を、先生方から聞くことがあります。
しかし、必ずしもそうとは言えないのではないでしょうか。(特にリーマン・ショック以降)
その「家から連れて行って‥」というのは、失礼ながら、生活の安定している公務員ならではの発想と言えます。高給ではないし、手取りが年々減っているにしても、生活していける立場の人の発想です。
私は50才前に退職したので、その反対の立場の人のことも、ほんの少しだけですが、ちょっとはわかるようになりました。退職してからは、生活費は当然切り詰めています。子どもを宿泊で遊びに連れて行ってやることを、毎年することが経済的に難しくなりました。クラスに40人の子どもたちがいます。そのうち何人の子どもが、「家から連れて行ってもらえる」と思われますか。
「家から連れて行ってもらえない」子どもたちが、どのクラスにも少なくないのと違いますか。自然教室の値打ちを否定するつもりはありません。私も能登や立山に引率した経験もあり、立山では、降る雪を手袋で受けると、まさに雪の結晶そのもので、感動したのも事実です。でも、「家から連れて行ってもらえない」子どもたちに、やっぱり修学旅行へ連れて行ってあげたいなと思うのは、月給という形ではない私だけなのでしょうか。
他府県の中学校の先生と修学旅行の話をしていた時、「滋賀県の中学校は、長崎や沖縄への修学旅行が多いかなぁ」と言ったら、「それは県民の平均所得が高い滋賀県やで実現してるんちゃうか」と言われました。(ドキッ)
同じ近畿地方の中学校でも、九州・沖縄方面の経費の3分の2で行ける信州方面へ修学旅行に行く府県もあることを知りました。保護者の修学旅行経費負担も十分考慮しなければ・・と反省しました。
2 奈良の旅
奈良公園:班行動スタート地点と言えばやっぱり「猿沢の池:興福寺」前でしょう!
私が6年生を7回担任したうち、1回だけ修学旅行に行けなかった年のことです。その年以外は修学旅行でした。理由は自然体験教室(宿泊)が既に決まっていたからです。それで、6年生の校外学習(日帰り)として、奈良に行きました。175人の学年です(5クラスですが、バスは4台・・経費削減)。
奈良に着きました。
場所は興福寺前にある猿沢の池周辺です。興福寺の五重塔を背景にして、猿沢の池の前で記念撮影をしました。幅の広い石段(52段もあります)があるので、多人数の記念撮影に最適です。
さあ、いよいよ奈良公園(出発点も含む)、班行動出発の時間です。ポイントに立つ先生方が先に行きます。
要所に立つ先生の必需品は、昔ならトランシーバー、今はケータイです。1分間隔でスタートさせたいところです。約30班あるので、やむを得ず30秒間隔でスタートしてもらいました。
猿沢の池発~興福寺(五重塔)~南大門~東大寺大仏殿(大仏見学と柱の穴ぬけ)~正倉院前~日本最大の鐘楼の真下~二月堂~三月堂~校倉造りの高床式倉庫の前~春日大社~若草山着
という、けっこう長いコースです。各班に鹿せんべい(30班×男女2=60個)を配る係の先生が、鹿せんべい売りのおばちゃんから、販売グッズ一式を借り受け、鹿せんべい売りのおねえさんに変身していたのは、たまげました(おばちゃんは横で涼しい顔して休憩)。そして大仏殿も班で見学して、お昼は若草山で食べられます(遅いめになりますが)。大仏殿の裏手にある正倉院あたりで迷う班が必ずあります。ポイントの先生の助言が必要な場所です。
奈良公園のポイント
日本最大の鐘楼
スルーしてしまう人も多いのが、鐘楼(大仏殿と二月堂・三月堂の間)です。752年に造られた国宝です。
中世以前の梵鐘としては「日本最大の鐘楼」です。屋根付きで、3段ほどの石段があります。中世以前で日本最大だということを知らないまま通過するのは、もったいないと思います。
鹿のフン
奈良公園一帯には、鹿のフンが至る所に落ちています。ふまないように気をつけなければいけません。もし、ふんだ子がいたら、周囲がはやし立てる前に、すかさず、「それは、縁起がええで」とフォローして、泣く子は出しません。
丸いし、黒っぽいから発見しやすいです。「鹿のフン・チョコレート」もお土産に売ってあるほどです。鹿せんべい(鹿のえさ)と違って、こちらはおいしいです(経験者は語る)。お土産に買って、味を確かめました(チョコレートです。家族はおそるおそる開けました)。鹿せんべいの味は、私が鹿になった気分を堪能できる味と言えばいいでしょうか。それにしても、何でも土産物にしてしまうとは、奈良県もやります(学ばなければ)。さすがは南都、奈良です。(私も一応、関西の端くれです)
若草山「3つのポイント」
若草山に到着すると、ホッとします。お弁当タイム、気もゆるみます。しかし、気をつけなければいけないことが、3つあります。
1つめは、スキを見て、鹿が弁当箱に顔をつっこみます。鹿は見た目がカワイイからといって、油断したらあきません。
2つめは、人間様の弁当を虎視眈々とねらっているのは鹿だけではなく、カラスもいるということです。弁当から離れたらカラスにねらわれるリスクは高くなります。
「トンビに油揚げさらわれた」ではなく「カラスに唐揚げさらわれた」子は少なくありません。それは、人間以外の、自然界における生き物たちは食べる時、常に周囲に気をつけている理由を、直接体験できる貴重な場でもあります。班の仲間がみんなで弁当を分けてあげる、ほほえましい光景も見られます。
3つめは、若草山には、「登る時は走ってよし、降りる時は走ったらダメ」 を徹底させることです(箸って登ると、息がハアハアなります)。
降りる時、少しでも走ると加速して止まれなくなり、救急車のお世話になるのを、避けるためです。若草山には引率応援も含めて十数回行きましたが、覚えているだけでも、3回は救急車が来ていました。(うちの学校ではありません)
一生に1度の修学旅行。
若草山から旅館ではなく病院行きの子を出さないのは、引率者の責務なのです。
校倉造=正倉院?とは限らない
余談になりますが、私は古い高床式倉庫(校倉造)の前に立っていました。ある班が通過するのに私のチェックをしてもらっている時のことです。
「先生が、鐘楼は値打ちあるで、と言うたさかい、見てたら、鹿のフンをふんでしもたやんか」
「鐘楼を見ながら鹿のフンをふむと、ええことがあるんやて」(フォローのつもり)
「うそやぁ~」(鋭い)
「鹿のフン・チョコレートまで売ってるくらいやで」(販売は本当ですが因果関係は不明です)
「ほんまかぁ、あやしい」(疑いのまなこ。信用度は限りなくゼロに近い。ほとんどバレバレ)
としゃべっていた時でした。少人数の学校の一行が、先生に引率されて私たちの横で立ち止まりました。
そして、引率の先生(ベテラン)が子どもらに堂々と説明しました(私らも聞き耳を立てます)。
「みなさん、これが、あの有名な正倉院です」(おいおい、これは単なる校倉造やで)
その子らは、うなずいたり、メモをとったりしていました(うちの子らの反応が気になります)。うちの子らは本物の正倉院前まで行ってきましたから、真相を知っています。
「なあ、あの先生、間違えてはるで、教えたろか?」
「やめとき、こういう時は恥をかかせたらあかん」
「先生、旅の恥はかき捨てやろ?」
「意味が違う。あの満足そうな雰囲気、こわしたらあかん」
一行が行ってしまい、つい1人が吹き出すと、それまでガマンしていた全員で大笑いしてしまいました(すみません。私もです)。悪気はないのですが、奈良に来るのだったら、ちゃんと下見をせなあきません!と心の中でつぶやきました。
◎正倉院は大仏殿の裏手で、若草山方面にはないこと。
◎正倉院は門に囲まれていて、建物は直接見えないこと。
◎若草山方面の高床式倉庫も校倉造ですが、見た目はオンボロ(文化遺産なのに失礼しました)。
うちの子どもらは、爆笑することで元気?をもらって若草山へ向かいました。あの子ら、若草山に着いたら、きっとこの話をみんなに言いふらすのやろなと思いながら、うれしそうな後ろ姿を見送りました(笑うのはガマンです)。先ほどの一行には、正倉院の本当の場所を教えてあげたほうがよかったのでしょうか?あの自信たっぷりの先生の演説を思うと、迷うところです。(もう遅いです)
ウォークラリーのお奨めコース
奈良公園の班行動、私も以前は南大門からスタートさせていましたが、短時間(1時間ほど)で終わってしまいました。恥ずかしながら、こんなもんかと反省もしていませんでした。でも、猿沢の池スタートを一度経験すると、やっぱり班行動をたっぷり体験させたいなら、猿沢の池スタートのほうが断然スケールがでかい!と実感しました。
今は猿沢の池スタートの学校が徐々に増えているようです。先ほどの引率先頭のご一行様より、南大門スタートのほうが、まだマシですが、猿沢の池スタート未経験の学校は、ぜひ来年度に向けて、今から検討してみる価値は充分あります。ただ、引率人数が少ない小規模校は無理しないでください。
平城宮跡もあります。バスで移動しますが、平城宮跡はとにかく広いのです。(見学ポイントをしぼりましょう)
復元された朱雀門だけ見学するなら、所要時間は30分です。しかし、欲を出して、平城宮跡資料館や第一次大極殿まで行こうとすると(徒歩です)、1時間では足りないでしょう。
さらに、平城京歴史館、遺構展示館、東院庭園も加えると、半日必要になるでしょう。一度法隆寺まで足を伸ばしたこともあります(バスで)。(中高生で大混雑でした)ということで、中規模校以上、特に大規模校には、お奨めコースの紹介でした。
3 伊勢の旅
私は小6担任を7回しましたが、そのうち6回は「奈良・伊勢」への修学旅行に行きました。小6の子どもたちに宿泊させるのは、断然、伊勢の二見浦旅館街にかぎります。最高にすばらしい体験が、いくつもできるからです。
1日目は定番の奈良です。奈良については、上記にくわしく書きました。奈良を出発して、伊勢に向かいます。今は伊勢自動車道で伊勢市まで行けますから、早く着きます。夕方、明るいうちに旅館に到着です。私が子どもの頃は「大石屋」でしたが、教員になってからは「まつしん」ばかりでした。これは、修学旅行へ行った時に、翌年の予約をするからでしょう。
二見浦:海岸での自然体験
早速、旅館に荷物を置いて、海岸沿いの堤防の上を散歩しながら、夫婦岩(めおといわ)まで歩ます。記念撮影をして、さらに先へ進むと、幅100mちょっとの砂浜があります。岩場もあります。子どもたちは、ここで約1時間、波打ち際で自然とふれあいます(夕方)。貝拾いをする子、岩場探検する子、波のリズムに合わせて走る子、中には打ち寄せる波で靴が濡れる子もいますが、これもよい思い出です。
岩場も含めて、教員の目の届く範囲ですから安心です(25年間で1度だけ以下の猛者と言うか無法者もいました)。服のまま泳ごうとするやんちゃ坊主たち}が出ないように要注意、あくまでも念のためですが・・(私の知る範囲では確率4%)。
夜の買い物タイム
夕食後は、子どもたち「お楽しみ」の買い物タイムです。ポイントに教員を配置して、各班の男女別3人程度のグループ行動です。
道が「への字」に曲がっている所の店のオッちゃんが面白いパフォーマンスをして「呼び込み」をしています。どの店かて、値段はほとんど一緒です。それでも、あっちこっちの店で品定めをするのが楽しいのです。
奈良や京都との一番の違いは、土産物の値段が格安だということです。なんせ小学校の修学旅行がほとんどですから、昔から店かて考えてはります。
100円ショップ顔負けです。それでも、さすがは滋賀県も関西のはしくれです。値切っている子がぎょうさんいました。事前学習の成果?でもあります。(そんな事前学習したっけ・・・)
伊勢の名物
伊勢の名物「赤福餅」と比べた、江戸時代からのライバル「於福餅」の特徴の発表です。微妙に色合いが薄く、味も微妙に薄味ですが、その場で食べ比べないとわかりません。
値段は「於福餅」が少し安いので、お得です。子どもらは見栄はって(三重ですから)、「赤福餅」を買う子が多かったです。サイフの中身がさびしくなった子は「於福餅」です。どちらを買うかで、サイフの残金は、お見通しでしたが、最近は同額と聞きます。残金予測ができず残念です。ちなみに、どちらも保存料なしですから、賞味期限は2~3日です。買いたい人は、ラベルをよく見てご確認ください。
想定内のハプニング
別の、ある年のことです。男の子らの、あこがれの商品は「木刀」です(昔から定番)。でも、値が張るので「木刀」を買うと、お小遣いが半分以上なくなります。それでも、「木刀」の魅力・誘惑に勝てへんかった子は、どこの学校にもいるもんです。
「先生、たいへんや」(よっしゃ、出番や!)
うちの学校の子らと、よその学校の子らがにらみ合っていました。
「木刀」を持つと、横1列になり徒党を組んで歩きたいのは、昔も今も同じです(私も経験者)。どっちも道を譲りたくないだけです(気持ちで負けとうないのです)。真ん中を通りたいだけです(プライドがあります)。相手に譲ってほしいだけです。(相手に譲れと無言のプレッシャーをかけます)
両校の教員がすかさず間に入って、乱闘?にはなりません。どちらさんも慣れたもんです。危険箇所に立つ他府県の教員同士@{あいさつを交わすのがマナーでした。それやのに、魅力の「木刀」を禁止している学校もあるとか、ないとか・・
枕投げ、睡眠不足、そして日の出
その夜、教員は徹夜になります。子どもらが眠れへんからです(わざと眠らへん子もいます)。今の子どもらは枕投げの連係プレーが下手になりました。私たちが小6の時は、部屋の入り口に見張りの子(じゃんけんで負けた子)がいて、部屋のみんなで枕投げをし、先生が見回りに来たら、「先生が来た」という合図で全員寝たふりをして、先生に見破られないようにしたものです。(昔話になってしまいました)
中には、眠れなかったのを自慢したい子もいます(それでも3~4時間は寝てるはず)。とにかく、二見浦に泊まったからには、夜明け前に夫婦岩の前まで引率して行かないと、せっかく来た「値打ち」が半減します。
つまり、夫婦岩の所で、水平線からの「日の出」を見るのが目的なのです。ゴールデンウィーク前なら、日の出時刻は、5時台です。(起床5時)
元旦や夏至の日は、すごい人出だそうです。夏至(前後1週間)の日の出は「ゴールデン富士」(富士山の方角から4時半ごろ日が昇るから)と言われています。
朝の散歩(太古の森へ)自然体験
何年頃だったでしょうか。
教務主任のナイス・アイデアで、他の学校が絶対やらないことをしました。それは、日の出を見てから朝食まで、時間を持て余すのがもったいない!という発想です。日の出見学の終わった5:30頃、夫婦岩の近くへバスに来てもらいました(契約どおり)。子どもらを乗せて15分、守衛さん以外、誰もいない伊勢神宮:内宮(宮司さんもいます)に到着(朝6時前)。
樹齢数百年~約1300年という無数の大木(形も多様で驚きます)に圧倒されながら、新鮮な空気を吸う朝もやの中、玉砂利をふみしめて、内宮まで歩く早朝の往復40分ほどは、子どもたちと太古の森にタイム・スリップ”したようでした。(私たちだけが太古の森を独占した気分)
そして、バス乗車15分で旅館にもどったら、ちょうど朝食の時間でした。「いただきます」(5時半~7時前は、主要道路もガラガラなのです)
伊勢・志摩の見所
そして、2日目は、年によって、昔ながらの「真珠島」「鳥羽水族館(海遊館より大きい)」と「鳥羽湾めぐり・イルカ島」「伊勢・安土桃山文化村」を組み合わせました。「地引き網」体験をしたり、「志摩スペイン村」という学校もずいぶん多いそうです。でも、「伊勢・安土桃山文化村」は、安土城模擬天守のあるテーマパークで、歴史学習にもなります。「鳥羽水族館」は朝一番(8時開館)に入館すると、見学が余裕で楽ちんです。
それに、すいている「真珠島」もいいですよ。
ある年のこと、「あっ、落ちた」うっかりと海に落とした子の帽子は、実演中の海女(あま)さんが取ってくれはりました。これも一生忘れられない思い出になります。わざと落とさないでください。そして、絶対に自分も落ちないでください。
奈良・伊勢コースのすすめ
さて、滋賀県も含む近畿地方や東海地方にある小学校の先生方、京都・大阪・奈良もいいですが、奈良・伊勢コースだって、なかなかのものですよ。
奈良公園の班行動はロングコースが行けます。
伊勢志摩国立公園の海岸・岩場の散策もできます。
夜の買い物は単価が安くてたっぷりお土産が買えます。
海から昇日の出を夜明けの散歩で見学するのも貴重です。
無数のサプライズな巨木が太古から残る鎮守の森を朝食前に散歩できます。
小学校6年生修学旅行の奈良・伊勢コースは、「もう最高!」です。ここに行かないのは「もったいない!」

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