漢字学習が進まない子供への取り組み ~特別支援(岡篤先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、岡篤先生のメルマガから引用・加筆させていただいたものです。

自制が効かず、学習を続けることが苦手な子供に対して、今から書く漢字を耳元で言ってあげることによって、学習効果が上がり、「不機嫌スイッチ」が入りにくくなったというレポートです。

2 実践内容

「先取法」

先取法とは、私の造語です。B君への対応の仕方を私自身への課題としていました。B君は4年生でした。気分のむらが大きく、調子が悪かったり、気に入らないことがあるとすぐに学習をやめてしまいます。やめなくても、わざと大きすぎる字を書いたり、間違えたり、鉛筆を投げたりといった態度を取ります。B君を何とか学習に取り組ませるための声かけの仕方が先取法です。

B君の課題

そのときの特別支援学級では、彼は能力的には一番高い子でした。漢字を覚えるペースも一番早く、縄跳びの回数も1学期のうちに100回を越えました。継続して取り組んでいるのに1回も跳べない子もいるのが特別支援学級です。その中で、順調に伸びて100回を越えたのですから、私としては、「次は、二重跳びを」と期待していました。私は通常学級の担任をしているときから、二重跳びの実践に力を入れていたからです。

ところが、すぐにB君は縄跳びの練習にあきてしまいました。いくらおだてても、叱っても練習しません。他の子ができないなりに一生懸命跳んでいても、縄を振り回したり、勝手に戻ってしまったりします。

B君にとって、1つ1つのことができるようになることも大切ですが、気分のムラに関係無く継続して取り組めるようになることも同じくらい重要だと考えました。

とはいうものの

とはいうものの、どうしたよいのかが分かりません。強く叱るのは絶対うまくいかないということは分かっています。促す程度に注意をするとやるときもありますが、やらないときもあります。わざとふざけたり、違う話をしてごまかし、続けて注意をしているうちに不機嫌になって、やっぱりやらないということになります。私は、「不機嫌スイッチ」という言葉も作りました。

どういうときに、不機嫌になるかを確認できたらと記録を続けました。傾向としては、新しい学習内容、難しい学習内容のときは、不機嫌になることが多いようでした。そして、参観日や個別指導の子がその場にいたりといった、ふだんはいない人がいたり、時間的には午後が多かったりということは分かってきました。それでも、こちらから見るとまだ「調子が悪い日」としかいいようがないときも少なくありませんでした。私は、B君が何かを言ったとき、小声で同じことをくり返すことに着目しました。

なくせないこともある

B君が苦手だと言っても新しい課題をしないわけにはいきません。少しでも細かい段階を作り、分かりやすくするように努めるくらいしかありません。ふだんと違う人が来ることも参観日などでは避けられません。

なかなかよい姿を見せることができませんが、B君の保護者の方とはふだんからお話をさせていただいていたので、よく理解してもらっていました。そんな中で、B君が自分でいったことを小声でくりかえすことに目がとまりました。おそらく自閉症の1つの特徴なのでしょうが、意識して考えたことはありませんでした。

頭の中で響いている?

例えば、「わかりません」とB君がいったとします。

そのすぐ後に、小声で「わかりません」とくり返すことがときどきあるのです。自閉症の子が独り言をいうのはよくあることです。しかし、独り言と違うのは、最初に全く同じ内容を言っているということです。しかも、その場合は相手があって言っていることが多いので独り言ではありません。この行為に関する知識は全くありません。ただ、私の印象としては、「自分の言葉が頭の中で響いているのかなあ?」というものでした。特に、迷惑をかけるものでもなく、それまではほとんど意識していませんでした。

成功!?

ふと、「B君は他人が言った言葉も頭の中で響くことがあるのか?」という疑問が浮かびました。

そこで、漢字練習をB君がやっているときに試してみました。手をとめてぼんやりしているときに、次の漢字の「仕事」を書くように、「しごと」とだけ耳元でつぶやいてみたのです。すると、ぼんやりしていることに気づいたのか、はっとして、「ごめんごめん」とやり始めました。漢字練習といっても、答えをプリントに書き写す練習だったので、分からない問題はありません。それでも、1,2問すると、関係のないおしゃべりを始めました。私は、また問題を耳元でつぶやくように声に出してみました。

始める

B君は、勉強をするようにいうと、不機嫌スイッチが入ってますますやらなくなることがよくありました。こうなると、厳しくいってもだめ、おだててもだめです。せっかく力は持っているのに、安定して継続した取り組みができないのが、もったないないと思っていました。

この耳元でつぶやくという方法は、とりあえずは悪くはないようです。それでも、やはりまたすぐに集中がきれて、ぼんやりしたり、関係のないおしゃべりを始めてしまいます。いつものように注意しても効果がほとんどありません。また次の問題をつぶやいてみました。

「しょうばい(商売)」

すると、またはっとおしゃべりをやめて漢字を書き始めました。

効果が短い

これは、どうしたことでしょう。私が想像したように、頭の中で言葉が響いているのでしょうか。それで、私が「注意」しても従わないのに、「つぶやく」と頭の中で響いて自分の言葉のように体が反応するのでしょうか?理由はよく分かりませんが、とにかく全くやらないということはなくなりました。

ただし、このつぶやきの欠点は、持続力が短いことです。1問か、2問やるとまた止まってしまいます。長くて数問というところです。頭の中の言葉の響きが消えてしまうのでしょうか。それとも、響いている言葉だけをやろうとするのでしょうか。

言い続ければよい

問題をつぶやいたら少しはやることは分かりました。すぐに止めるなら、言い続けたらやり続けるのではないかと考えました。「しごと(仕事)」とつぶやいて1,2問やり、止まったら、「しょうばい(商売)」と次の問題を言うタイミングで私が声をかけていました。

それを、B君が止まる間がないように、問題を読み続けるのです。そうすれば、B君の集中が途切れることなく、漢字を書き続けるはずです。私は、記録用紙のB君の欄に「言い続け」と書き込みました。漢字練習のときは「言い続ける」ことを忘れないで、毎日継続的に挑戦してみようと考えたのです。

記録も続ける

B君が漢字練習をやめる前に、次々と問題を読みあげていけば、集中が途切れることなくやりつづけるはずです。試してみると、確かに続けてやりました。今までの注意では、やらなかったくらいの問題数です。このときの様子も続けて記録しました。特に何を記録すると決めているわけではありませんが、新しい指導方法や教材を思いついたときは必ず詳しく書くようにしています。そうして、記録を見ながら成果を判断したり、修正したりするのです。

一定の効果

「言い続け」は、一定の効果はあることが分かりました。「一定の」というのは、このやり方の欠点も分かったからです。頭の中で声が響く、という理解が正しいのかどうかは別にして、とにかく言い続けるとB君はやり続けます。

しかし、どうも自分の意志でやっているというよりは、言葉によって誘導されているような様子です。後ろから背中を押されて歩いているとでもいうような印象を受けました。そして、言い続けが長くなると、途中で「ちょっとまって」「いやだって」と抵抗を示し出します。それにも関わらず、言い続ければもう少しやるのですが、それを越えると不機嫌スイッチが入ります。

要修正

1週間ほど試したでしょうか。この言い続けるとかなりやるが、しばらくすると抵抗を始め、それを越えると不機嫌スイッチが入る、という流れは同じでした。ただの注意では、全くしませんでしたから、ある程度は学習したという意味では、一定の効果はあったことにはなります。それでも、結果が不機嫌スイッチが入ることが分かっている方法というのは、よいとも思えません。

結局、その後は何もしなくなりますし、筆箱や鉛筆を周りに投げつけるなどして大変です。私のメモには、「要修正」と記入されました。普通の注意では効果がない。1回言ってもすぐに止める。言い続けるといずれ不機嫌スイッチが入る。記録を取りながら、考えました。

どう修正するか

普通に注意しても、叱ってもやらない。耳元でつぶやき続けると(本人の意志に反して)しばらくはやるがいずれ不機嫌スイッチが入ってします。何とか、ここに修正を加えて、学習に取り組む姿勢を作りたいところです。できるだけ、つぶやきの数を減らしつつ、しかもB君が集中しない時間を減らしたいわけです。B君の様子を見て、手が止まって動き出す気配がなければ、次の問題をつぶやくように読むことにしました。

タイミングの調整

これなら、無理矢理手を動かされているという感覚にもならないのでしょう。B君は、はっとしてまた漢字を書き始めます。少しやるとまた止めることがほとんどです。その手が動き出す気配がないことを確認して、また次の問題をつぶやく、というタイミングに変えてみました。こちらとしては、タイミングを見る分、余計な気を使うことになります。

なかなか1対1で見ているときは少ないので、他の子の指導をしていると何もせずにぼんやりしているということもよくあります。それでも、これなら、何とか進ませることができ、不機嫌スイッチもまず入ることがありません。他の方法が見あたらない以上、B君に学習に取り組ませるには、これが最善の声かけということになります。

「言い続け」から「先取り」に修正

端から見れば、私がつぶやくように問題を読んでいること、頻繁にそれをやっていることでは、言い続けているときと、ほとんど変わりがないように見えるはずです。しかし、私の中では、この2つは全然違います。何と言っても、不機嫌スイッチが入りにくいわけですから、周りに与える影響の違いは大です。それまで、私の自分の記録用紙のB君の欄に「言い続け」と書いていました。言い続けの方法と成果について、課題意識を持っていたからです。

この日から、「言い続け」を「先取り」と変えることにしました。「言い続け」では、B君の様子を見て判断するというイメージがなく、一方的な印象があります。「先取り」ならば、B君がやらなくなる事態を「先取り」して、こちらの判断で声をかけるタイミングを測るという意味が含まれるような気がしたからです。私は、こういった手立て追求がとても重要だと考えています。そして、それができるのは、教師の創造力が発揮できる状態のときです。

3 執筆者プロフィール

岡 篤(おか あつし)先生

1964年生まれ。元神戸市立小学校教諭。「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(略称学力研)」会員。硬筆書写と漢字、俳句の実践に力を入れている。

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