「PK戦(新聞の投稿)」で「挑戦する心」(坂本哲彦先生)

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1、はじめに

 この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ、「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。坂本哲彦先生のホームページはこちら→ http://sakamoto.cside.com/

2、ねらい

 PK戦のキッカーを断った投稿者の気持ちを話し合うことを通して、怖いことから逃げ出さずに結果責任をもち、自分の全力を尽くして挑戦し続けようとする態度を養う。

3、学習内容

(1) PK戦のキッカーを断った投稿者の気持ちについて考えること
・ 自分よりも上手なキッカーがいる(知的な気持ち)
・ 自分が外して負けるのが怖い。特に、外したとき、友達に文句を言われるのが怖い(自分勝手な気持ち)

(2) 自分の生活におけるPK戦について考えること
・ 学習、運動その他の具体的な場面で、特に成否が周りから注目されていること、今後の自分の生活にとって重要なこと
・ 気持ちを強くもって挑戦しようとする気持ち
・ 失敗してもその責任を自分なりに果たそうとする気持ち

4、使用する資料

 「PK戦怖くて逃げ出した僕」(中学生男子の投稿) 朝日新聞2008年3月23日(日) 「声」欄
 
○ サッカー大会1回戦。相手をなめていたせいか、無得点のままPK戦に。
○ キッカーを決めるとき、「蹴りたくない。自分より他のやつが蹴った方が決まる」と断った。
○ 本当は、自分が外して負けるのが怖かったのだ。
○ 試合の後、彼はとても悔しい思いをした。
○ 「確かに試合に負けたことは悔しいし、相手をなめていなければ絶対に勝てていた試合」「でも一番悔しかったのは、PKを蹴らないで、怖いことから逃げ出してしまったこと」
○ 「これからは悔いの残るようなことは絶対にしない」と心に誓った。

5、学習課程(50分授業)

資料を聞く(10分)

 PK戦のキッカーを断るところまで読み聞かせます。非常に分かりやすい状況なので、サッカーのルールなどをよく知らない児童でも十分理解できる場面です。
 簡単な場面絵を準備したり、投稿者の顔の絵を示したりするのがよいでしょう。投稿者の顔の絵の横に空白の吹き出しを準備し、『「・・・・」と言って断りました。』と示した後、次の活動に移ります。

「PKのキッカーを断った投稿者」の気持ちを話し合う(30分)

【発問1】 「この投稿者は何と言ってキッカーを断ったと思いますか?」
 これは、次の「理由を話し合う」発問への橋渡しですので、一人ひとりが口々につぶやくのを拾いながら、自由に発言をするように促します。
【児童の反応】
(1)「自分よりも○○君や⊿⊿君の方が上手いから」
(2)「今日僕は調子が悪いから」
(3)「何となく、今日は、外しそうな気がする」
(4)「監督に決めてもらった方がいい」
など、友達を高めたり、自分を低めたりする断りの言葉を出し合う。ここで、「投稿者への共感的な理解」を図るとともに、「資料への関心」を高めます。
 最後に、「蹴りたくない。自分より他のやつが蹴った方が決まる」という投稿者の断り方を知らせます。

【発問2】 「投稿者は、どのような気持ちから蹴るのを断ったのでしょうか?」
 このとき、「理由やわけは何でしょう」と尋ねないようにしましょう。「どのような気持ちから」とか「どのようなことを考えて」と尋ねる方が、共感的な理解が図れるので、子どもの心情が引き出しやすいです。これは、道徳の発問をするときのポイントの1つです。
 この反応は、「発問1」の反応とかなり重なる部分がありますが、例えば次のような発言が予想されます。
【児童の反応】
(1)今までの練習や試合の状況を冷静に考えて、他の人が蹴る方が決まる確率が高いと考えたから。
(2)しかも、そのことは、多くの人にも同感だと考えたから。
(3)自分が何となく、調子が悪いことが分かっていたから。
(4)PKが苦手だから。
(5)外してみんなに迷惑をかけたくなかったから。
(6)外して、みんなに文句を言われるのがいやだったから。
(7)負けの原因になること自体が自分として許せなかったから。
 これらを2つに括って、(1)~(4)は、「理性的な判断」、(5)~(7)は「自分勝手な判断」であることを共通理解し、それぞれは、変わらないように見えることがあることを知らせる。

【発問3】「(5)~(7)の理由に対して皆さんは、どんなことを感じますか?」
【児童の反応】
(1)どれも気持ちは分かる。
(2)特に、(6)は自分にも同じような経験があるので、よく分かる。
(3)どれも「弱気」である。
(4)(7)のような気持ちなら試合自体にでない方がいい。
などの感想を引き出しながら、どれも「勝負から『逃げている』こと」、「大切な場面で、『勝負しようとしていない』こと」が問題であることを押さえる。
「スポーツに限らず、勉強でも、人間関係でも、ここが最も大切な場面だというところで、それに立ち向かっていかず逃げ出してしまうことが最も人間として残念なことである」「最善の努力をして、その結果がうまくいかなかったときには、それはそれとして、その結果を引き受け、責任を感じ、反省し、その失敗や原因をこれからの自分の生活に生かしていくことが大切であること」などを、投稿の続きを読み聞かせながら、この授業の大切な学習内容として話して聴かせる、あるいは板書する。

「自分の生活の中でのPK戦」について話し合う(10分)

【発問4】「『ここ一番、困難に立ち向かわなければならない場面』というのは何もPK戦だけではありません。生活の中のいろいろな場面にあります。皆さんにとってのPK戦は、例えばどのようなことがありますか。勉強やスポーツ、家庭生活や友達関係などを思い起こしながら、自分にとってのPK戦を見付けてみましょう。そして、その内容やそれに立ち向かっていく気持ちなどをプリントに書いてみましょう。」
 すぐにイメージしにくいようだったら、例えば、「受験」とか「定期考査」、県体の「初戦」あるいは「決勝戦」、「大好きな友達がいじめられている場面」や「そのことを友達が相談してきた場面」などを例示するのがよいと思います。
 最後に、教師の経験などを話して聴かせる中で、
・気持ちを強くもって挑戦しようとする気持ち
・ 失敗してもその結果や責任を自分がしっかり受け止め、一層努力しようとする気持ち
・「勝負して負けること」よりも「勝負しないこと」の方が生きる上で残念なこと
などを感じ取らせることが大切でしょう。

6、編集後記

 この資料で示される失敗を恐れる気持ちは、だれでも抱いたことのある気持ちです。この授業では、その「失敗を恐れる気持ち」にしっかり向き合うことができます。そうすることで、より効果的に「挑戦する態度」を養うことができるのだと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 山下麻衣)

7、実践者プロフィール

坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。

自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/

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