「二通の手紙」で規則尊重(坂本哲彦先生)

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目次

1 はじめに

この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ、「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用・加筆させて頂いたものです。

坂本哲彦先生のホームページはこちらです。→ http://p.tl/a-TK-

2 概要

対象

中学校

ねらい

「この二通の手紙のおかげでまた、新たな出発ができそうです」と話す元さんの気持ちについて話し合う中で、きまりの意義について理解し、規律を大切にして生活しようとする心情を高める。

学習内容

(1)きまりの意義

  • きまりは、自分たちの生活や権利を守るためにあること
  • 皆が日々遵守することで、秩序と規則のある社会が実現されること

(2)自分の生活を振り返ること

  • きまりを遵守している自分
  • きまりを破ってしまう自分

資料「二通の手紙」

『道徳教育推進指導資料6 中学校 社会のルールを大切にする心を育てる』(文部省)所収

粗筋

動物園の職員だった元さんは、入園終了時刻を過ぎて入口に来た「小学校3年くらいの女の子と3,4歳くらいの弟」を「今日は弟の誕生日だから」と泣き出さんばかりの姉の言葉にほだされ、親の同伴がないことも承知の上で入園させる。

閉門時刻になっても二人が出てこないことに園内は騒然となったが、辺りが暮れかかった頃、雑木林の中の小さな池で遊んでいた二人が無事発見された。

数日後、姉弟の母親から「主人が病気に倒れた後、自分が働きに出ることになり、構ってやれなかったが、あの子たちの夢を大切に思って、わたしたち親子にひとときの幸福を与えてくださったあなた様のことは、一生忘れることはできないでしょう。ありがとうございました。」という感謝の手紙をもらう。

その翌日、元さんは、もう一つの手紙である「解雇通知」をもらう。

元さんは、二通の手紙を机の上に並べて、「この二通の手紙のおかげでまた、新たな出発ができそう」と晴れ晴れとした顔で職場を去っていく。

3 学習過程(50分授業)

読み物資料を読んで話し合う。(35分)

「今日は、きまりについて考えます」と伝えた後、すぐに資料提示。教師がゆっくり読む。(約10分)

資料の粗筋について刻んで段取る発問は、時間が不足する上、まるで読解の授業のようになるので、できるだけ避けます。この資料は、「佐々木さんという別人物が元さんのことを回顧して山田君という人物に話して聞かせる」という構成となっていることから、一層「読解的」な扱いになってしまいます。

発問のポイント

発問は、
①生徒が最も「?」を感じる場面
②生徒が最も共感する人物
③人物が最も心を揺さぶられている行為や心情
④①~③の条件にあう場面や行動や人物が複数あるなら最も終わり
がポイントです。

発問1

「『この二通の手紙のおかげでまた、新たな出発ができそうです』という元さんは、どんな気持ち(考えから)からこのようなことを言ったのでしょうか。」

【回答例】

(1)「子どもたちになにごともなくてよかった。わたしの無責任な判断で、万が一事故にでもなっていたらと思うと取り返しがつかないところだった」という反省の気持ち(これは、問いの文のすぐ前に書かれているので、多くの子どもがこう答える)

(2)「仕事を辞めることについては仕方ない」など解雇を受け入れた気持ち、が出てきます。

同じ意見でも「繰り返して言ってください」や「自分の言葉で言ってください」と発言を促すことで、幅のある、自分たちに引きつけた捉え、発言を引き出すことができます。

こんな時、「そのほかの観点での意見はありませんか?」と尋ねてはダメです。「同じ意見を繰り返してください」と問い、繰り返させる中で、そのほかの観点で述べている子ども、あるいは、そのほかの観点を見つけ出すことが教師の仕事です。そもそも子どもは、自分が同じ観点から考えているのか、自分の意見の中に違う観点が入っているかなんて分からないのです。見つけるのは「教師の仕事」だと教師が自覚的になることが大切です。

それでも(1)(2)しか、出てこないとしたら、次善の策として、教師は、

「それなら、二通の手紙を机の上に並べなくても、一通でもいいのでは?」

と問い返し、

「母親からの手紙の『元さんにおける価値』について考えましょう」
と促します。すると、

(3)「仕事を辞めることにはなったが、母や姉弟を喜ばせることができたことは、自分としてはよかった」という人に親切にできたことのよさ(満足感)を感じていたことが出てきます。

そこで、

発問2

(1)(2)と(3)を対比して,

「元さんの中には、これら二つの思いがあったんですよね。これら二つは、ある意味対立している。今回は両立できなかった。それでも、『晴れ晴れした顔』なのはどういう気持ちからなのでしょうか。」と問い返しの発問をします。これが中心発問となります。(この問い返しをしなくても、先ほどの話し合いで、次のような流れになれば、それが最もいいのです…。

ここが、学習内容を獲得させる場面です。

(4)(今回は、保護者同伴でないことを知りながら幼い二人の子どもを入園させた。保護者同伴は子どもの命を守るためには、絶対守らなければならない規則であった。だから)規則はどんな場合も、それがある意味・価値がある。我々の生活や権利(命さえも)守るためにある。

(5)ときどき守るや、ときどき破ってしまうではだめで、どんな場合も遵守することが大切である、しかも、社会の全員がである。

の二つのことに

(6)「心底納得した。自覚した」

また、

(7)「きまりを遵守した上で、幼い子供たちを思いやり、幸せにすることがこれからの自分の課題である」あるいは、「今回の場合は、きまりを遵守することが幼い子どもを思いやることであった」

の二つのことに

(8)「心底納得した。自覚した」から「はればれした顔」になった。

とまとめます。

自分の生活を振りかえる。(15分)

発問3

「今日の授業の感想を書いてください。書く観点は、①感じたこと、②考えたこと、③分かったこと、そして、自分の中の元さん、つまり、④規則を守る自分、⑤規則を破ってしまう自分を見付けることです。自由にどうぞ。」

時間がたっぷりあるので、最後に、学び方の振り返りをしてもいいでしょう。

元さんの「はればれした」(つまり、価値を納得、自覚した)心情に共感的な理解を図ることこそが大切な資料だと思うので、「(二通の手紙を対立的に扱って)どちらの立場に賛成か」とか「入園させたことは、良いことか、悪いことか」とか「解雇措置は妥当か否か」などの話し合いにしない方がいいと思います。

4 編集後記

規則は何かを守るためにあるもので、目の前の利益・幸福を追求するためにないがしろにするべきではない、ということを子ども達に伝えることは大切だと思います。

決まりをただ単に守らせるだけではなく、決まりの目的を正しく伝えていくことが必要ですね。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 阿部由和)

5 実践者プロフィール

坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。
自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/

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