栗原恵さんの著書『めぐみ』「中学2年生の決断」で 充実した生き方(坂本哲彦先生)

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目次

1 1、はじめに

 この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。坂本哲彦先生のホームページはこちら→ http://sakamoto.cside.com/

2 2、対象

 中学生

3 3、ねらい

 親元を離れてバレーをするかしないか迷う栗原さんの気持ちを話し合うことを通して、選択と非選択に伴う後悔の違いについての考えを深め、自己を見つめ、個性を伸ばして充実した生き方を追求しようとする態度を高める。

4 4、学習内容

(1)選択非選択に伴う後悔の違い

 ・選択…挑戦すること(前向きな生き方)を選び、精一杯努力したが、成果が上げられなかったという後悔(結果を得られなかったという後悔)
 ・非選択…失敗を恐れ、挑戦することそのものを選ばなかった(選べなかった)という後悔(過程すらを得ようとしなかったという後悔)

(2)個性を伸ばして充実した生き方を追求しようとする態度

 ・挑戦することをせずにした後悔、挑戦したが結果を得られなかった後悔
 ・自分自身の希望や夢
 ・希望や夢の実現に見合う具体的な努力

5 5、資料

 『めぐみ』「中学2年生の決断」 PP.48-52 
       著:栗原恵  実業之日本社 2008年5月17日

 広島県能美島にある能美中学に進学し、何の迷いもなくバレーボール部に入部。普通の部活動。中学2年生に進級したばかりの春、兵庫県姫路市立大津中学校に転校してバレーボールをやらないかというオファーをもらう。当時すでに、176㎝。大津中は、全日本中学校バレーボール選手権大会に毎年出場するような、近畿地区でも有名なバレーボール強豪校だった。大津中の練習を見た途端、まるで電流のような衝撃がカラダを貫いた。今までやっていたものとは、全然違うことにがく然とする栗原さん。

 「提案通りに大津中学に転校してバレーボールをすることになれば、当然、親元を離れてひとり、姫路に行かなければならない。中学生にそんな生活ができるのか。環境が整ったとしても、本当に親元を離れる心の準備は、自分にあるのか。そうまでして、バレーボールをやる覚悟があるのか。練習を見学に行ったその日から、両親と私の心の葛藤が始まった。転校するなら、すぐにでも、と言われている。決断するための時間は、ほとんどない。その期限ぎりぎりまで、毎晩のように家族で話をした。オファーをもらう前までの能美中学での生活は、バレー部としての活動だけでなく、すべてが楽しかった。小学校から続く仲良しの友人とも、中学でできた新しい友だちとも、離れなくてはいけない。もちろん、大好きな両親、兄とも…。そのことを考えると、涙が止まらなかった。バレーボールのことだけを考えれば、やってみたい。でも、でも、そのためにはツライことをいっぱい乗り越えなくてはいけない。考えれば、考えるほど結論に至らず、泣きじゃくっていた。」(P.50 L.5 ~ P.51 L.4)

 そんな栗原さんを決断させたのは、母親の次の一言だった。
「どっちにしても後悔するのだったら、どっちの後悔の方がいい?よく自分で考えてごらんなさい。」(P.52 L.14 ~ P.52 L.1)

6 6、学習過程

①栗原恵さんについて知る。(5分)

 同書の最初に掲載されている写真(生まれてから、小中学校、高校、実業団や全日本で活躍する場面、家族、能美島の自然等)を示し、栗原さんの理解を深めます。
※試合のビデオなどがあれば、それを流すと一層よく理解できるでしょう。

 実在する人物である栗原さんを身近に感じさせることがとても重要ですから同書をあらかじめ、朝読書などで読ませておくと言うことはありません。
 敢えて特段の人物理解を行わず、生徒一人一人の部活動への感想を発表させるなどの導入も考えられます。

②栗原さんが迷っているときの気持ちについて話し合う。(20分)

 上記「母親の言葉」の前までを読み聞かせます。

 発問1:「『考えれば、考えるほど結論に至らず、泣きじゃくっていた。』時の栗原さんはいろいろなことを考え、迷っていました。あなたが栗原さんなら、どんなことが心配ですか?どんなことがツライですか?どんなことがはっきりしたら行くか行かないかを決められますか?」

※「栗原さんは、このとき、どんな気持ちだったでしょうか?」や「どんなことを考えていたでしょうか?」などの発問には、生徒は反応しづらいものです。いろいろ頭には浮かぶのでしょうが、言葉になりにくいのです。ここでは、栗原さんの心情に共感的理解をすることがねらいです。そこで、上記のような発問にして、当事者意識を高めることとします。

① 住まいや食事、洗濯などはどうするのか?(寮かと思いきや、同じバレーボール部の生徒の家の前のアパートに一人住まいし、食事や洗濯は、そのお母さんがしてくれたのだそうです。「最初のうちは、同級生と一緒にその子の家に帰ってご飯を食べていたが、練習が遅くなった日などは食事だけもらってアパートの部屋に帰ってきて、そのまま寝てしまう、なんていうことも多くなっていった。」(P.55 L.5—7) とも書かれています。)
② どれくらいの頻度で自分の家に帰って来られるのか? 
③ レギュラーになれるのか? 
④ 練習は厳しいのか?(当然、とても厳しかったそうです。) 
⑤ 友だちはできそうか? 
⑥ 家族(特に父母)はどう考えているか? 
⑦ 本当に自分がバレーボールをしたいのか?うまくなりたいのか?その覚悟は?

 いろいろな不安や疑問を出し合うことが、当事者意識を高め、自覚的に自分の人生を選択していこうとする栗原さんの気持ちを理解させると考えます。

※①~⑥などの不安や疑問が出るたびに、「みなさんなら、どうですか?」「みなさんなら、この○○がどうなら行くことを選択しますか?逆にどうなら行きませんか?」などと問い返しながら、つぶやきなどを広げます。

③「行ってからする後悔と行かずにする後悔との違いについて話し合う。(15分)

 最後まで読み聞かせます。

 発問2「『やっぱり、行こう。行ってみて、それでダメでもいい。行ってから後悔するほうが、行かずに後悔するより、絶対にいい』と栗原さんは、決心しました。『行く後悔』と『行かない後悔』はそれぞれ具体的にはどんなこと、どんな気持ちだと思いますか?」

※ここでは、発問1と同様、具体的に尋ね、互いに考え合うことがよいと思います。

『行く後悔』…家族や友だちと会えない悲しさ、一人暮らしの寂しさ、体を壊すかもしれないという不安、レギュラーになれないかもしれないという不安、練習についていけない不安やつらさ…など 
『行かない後悔』…行っていたら、バレーボールがもっとうまくなっていたかもしれないという気持ち、行っていたら自分の新しい生活や人生を送ることができたかもしれないという気持ち、挑戦することをあきらめたという気持ち、苦しいことから逃げたという気持ち…など

 発問3:「『行く後悔のほうがいい』と栗原さんは、行くことを選択しましたが、みなさんは、その気持ちに同感ですか?共感できますか?」

※あまり時間をかけるわけではない発問です。共感できないという生徒もいるかもしれませんが、ほとんどの生徒が、「栗原さんの気持ちは理解できる、分かる」と答えるでしょう。少し誘導して、栗原さんの選択をよいと感じ取らせる発問でもあります。

 まとめとして、「結果を得られなかった後悔」は「結果を得るための過程すら選択としなかった後悔(つまり、努力・挑戦すらしなかったという後悔)よりも「数段上の後悔」である。「レベル(次元)の違う後悔である」とまとめます。

※「挑戦したけれど結果を得られなかった後悔」>「挑戦すらしなかった(できなかった)という後悔」と板書します。

④授業の感想をプリントに書く。(10分)

 小学生なら、「今日の授業を受けて、考えたこと感じたことを『栗原恵さんへの手紙』にまとめましょう。」とするところです(手紙を出すことはしません)。中学生なら、出さないわけにはいきませんので、実際に手紙を書かせて、栗原さんに送付するというのが最もおすすめの発問です。しかし、送付しないのなら(手間がかかりますし、栗原さんもお困りになるでしょう…)、次のように発問します。

 発問4:「今日の授業で考えたこと、感じたことを、次の観点を入れて、プリントにまとめてください。」
 ① 自分が今まで「挑戦することを避けて、後悔したことや挑戦したけれど結果が付いてこなくて後悔したこと」があったかなかったか、あったとしたら、それはどんなこことか? 
 ② 今の自分の夢や希望は何か? 
 ③ その実現のために、自分ができる具体的な行動は何か?

※じっくり時間を確保して、自分を見つめさせることが重要です。

7 7、実践者プロフィール

坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業、山口大学大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。

自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。
坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/

8 8、編集後記

 自分の経験からしても、後になってやっておけばよかったということで悔やむことが多いと感じます。坂本先生のこの授業で、生徒たちがやらない後悔よりも、やる後悔のほうが相対的には良いのではないかということをわかってもらえると思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 藤井本健太)

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