大切な子供たちの命を守るために ~安全教育を通して学んだこと~(会田朋代先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。

また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。

第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」のまとめページ | EDUPEDIA
2 大切な子供たちの命を守るために ~安全教育を通して学んだこと~

3 はじめに

平成23年3月11日に、東日本大震災が発生した。私はその時、東京都文京区にある本園で、子供たちと一緒に大きな揺れの中にいた。経験したことのない大きな揺れが何度も何度も続いたあの時の不安な気持ちを、今でも鮮明に思い出す。そして、自分は教師として「子供たちを守る」立場にいるのだということを強く実感するきっかけとなった。

その後、被災地の被害の様子を知り、胸を痛めた。同時に、教師として子供たちを守るにはどうしたらよいのだろうか、いざという時に子供たちを本当に守ることができるのだろうか、と真剣に考えた。

4 安全教育の研究への取り組み

平成24年度、本園は東京都の安全教育推進校の指定を受け、安全教育について研究を進めることになった。研究のテーマを「災害から幼児を守る指導と安全管理の工夫」として、「安全に生活し、非常時には自分の身を守ろうとする幼児の育成」を目指していくことにした。

研究を進めていくにあたり、研究の中心になる避難訓練の担当を決める際、私は思い切って名乗り出ることにした。その理由の一つは、前年度も担当をしたが、「もっとこうしておけばよかった」「ここを確認しておくべきだった」など、毎回自分自身の反省が多く、一年間終えたところで、やっと担当としてすべきことや全体が見えてきたからである。もう一年担当すれば、反省を生かして改善しながら進めていけるのではないか、と思った。そして、もう一つには、研究発表の機会に、自分にも何か力を発揮できることはないかと考えたからである。私にとっては初めての研究発表で、先輩方についていくだけでなく、「園の一員として、しっかり研究に取り組みたい」という思いがあった。

5 避難訓練の見直し

まず園で取り組んだのは、避難訓練計画の見直しであった。公立幼稚園には年間計画があり、月一回の避難訓練で地震や火災などの災害に備えてきたつもりだった。しかし、東日本大震災を受け、本園の地域に起こりうる災害を想定した訓練になっているか、幼児の実態に合っているか、教師のすべきことは何か、という視点で計画の見直しが必要となった。

担当として、毎月の避難訓練を行う前に、全教員でねらいと内容を確認し、その時々の幼児の実態に合っているかを細かく確認していくようにした。行事が続いて忙しい時などでも、確認が抜けないように打ち合わせの時間を確保し、話し合いをリードしていった。また、預かり保育時間中の避難訓練に際し、担当職員との連携を図りながら、共に幼児を守れるようにしていった。

そして、避難訓練実施後には、教員で丁寧に振り返る機会をつくり、幼児の姿、教師の援助はどうだったかをみんなで話したり、疑問点や困ったことがあれば話題にして解決できるようにしたりしていった。そこで出てきた様々な反省や意見を、担当として責任をもってまとめ、改善点を明らかにし、次回の避難訓練につなげた。その改善点を、預かり保育担当職員などの非常勤職員にも伝え、園全体が情報を共有できるようにした。

6 学級での取り組み

昨年度、私は年長組5歳児の担任をしていた。1学期始めの避難訓練では、2階からの非常用階段をゆっくりとしか下りられない幼児、地震が起きた時の避難行動は分かっているが動き出すのに時間がかかる幼児がいた。また、災害時には話を聞いて理解して動くことが必要になるが、意識が他にそれて聞けなかったり、聞いているつもりでも理解できていなかったり、最後まで聞かずに動き出してしまったりする姿もあった。教師が、「子供たちのことを守りたい」と思っていても、一人一人の幼児自身に自分で動ける力が付いていなければ、担任一人では守りきれないという不安を感じた。

そこで、本園の研究では、避難訓練の見直し・改善だけでは幼児を守ることはできないという考えから、日々の遊びや生活の場面でも安全につながる視点をもって活動を考えていった。幼児の実態を丁寧に把握し、どんな力を付けてほしいか、どのような経験を積み上げていったらよいかを考え、学級の中で意識して声を掛けたり、ゲームなどの遊びの中で身に付くよう機会をとらえて援助をしたりした。その一つに、「目玉焼き鬼」という鬼遊びがある。この遊びは、目玉焼きの形という限られた場の中で自分の体の動きをコントロールする経験ができる。初めて遊ぶ時には、教師の話を聞いてルールを理解することを意識して進めた。さらに、幼児の姿に合わせてルールを変え、スリル感が増し、素早い動きが出せるようにした。

このような活動を積み重ね、2・3学期になっていくと、始めは心配だった幼児も、自分なりに素早く動くことができるようになってきたり、教師の話をよく聞いて動こうとしたりする様子が見られるようになっていった。

7 幼児の成長の姿

11月、全園児で避難訓練を行った後の、学級の事後指導で、一冊の絵本を使って話をした。「大切なのは命。自分の大切な命を守ろうね」と話して絵本を終わりにしようとした時、一人の幼児が、「僕は友達を守る!」と言った。その言葉を聞いた周りの幼児も、「僕も!」「私も!」と友達と顔を見合わせながら言い始めた。今まで、避難訓練の度に、「先生がみんなを守るよ」と伝えてきたこと、日々の生活の中で一人一人を大切に思う気持ちを言葉や態度で表してきたことを、子供たちが感じとっていてくれたのだと感じた。「自分のこと、自分の命を大切にしてほしい」という私のメッセージを受け止め、さらに、「周りの人も大切にしたい」という気持ちをもってくれたことに感動し、胸がいっぱいになった。守りたいという気持ちがもてるほどの友達関係が学級で育ったことも嬉しかった。改めて子供たちのもっている力に驚かされ、「僕たち、こんなに大きくなったから大丈夫だよ!」という気持ちを感じ、教師自身が勇気付けられる思いだった。

8 研究したことを生かして ~今年度の取り組み~

今年度は年少組3歳児21名の担任をしている。年長児とは異なり、避難訓練に対して不安になる幼児もいる。しかし、「先生がいるから大丈夫だよ」「先生がみんなのことを守るからね」というメッセージを繰り返し伝えながら、教師の真剣な姿勢や表情を見せ、避難訓練は命を守るための大切なことだと感じられるようにしている。不安になる幼児も、「先生と一緒だからできる」「先生と一緒だからやってみよう」と思えるようにしている。少しずつだが、3歳児なりにいつもと違う雰囲気を感じて取り組むようになってきている。前年度までの研究の成果を3歳児にどう生かすか、日々試行錯誤であるが、幼稚園での3年間の育ちの見通しをもち、その時々で「今、この子たちに必要なことは何か」を考え、経験できるようにしている。

9 おわりに

いつ起こるか分からない災害への不安は大きい。しかし、安全教育の研究を進めていく中で、災害発生時の対応の基本や避難方法の基本を知ったり、教師の動き方や言葉掛け、配慮点、臨機応変な対応などについて他の先生方から助言をいただきながら自分で考えられるようになってきたりしている。それが、気持ちの面での「そなえ」となっているように今は感じている。災害時にどうしたらいいのか基本の知識をもち、それをもとに自分で最悪の状況を想定しながら動く経験の積み重ねを普段からしていくことで、いざという時にもきっと行動に移せる力になるのだと思う。

教師として、幼児の命を守るためにはどうしたらよいかが分かり、実際に行動できる力をこれからも身に付けていきたい。子供たちには、自分の命を自分で守れる力を身に付けてほしい。そして、子供たちに、自分の命、周りの人の命を大切にする気持ちを、これからも育てていきたい。

10 実践者プロフィール

文京区立明化幼稚園 教諭 会田朋代
第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

11 引用元

第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『大切な子供たちの命を守るために ~安全教育を通して学んだこと~』(文京区立明化幼稚園 教諭 会田朋代)より引用
「がんばれ先生!東京新聞教育賞」
http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

12 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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