「心の旅」・・・学級通信・各種たよりでつなぐ絆 ~学級経営をはじめ、校内の推進、近隣の大学との連携における実践~(前川直也先生)

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。
http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。
第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文 まとめのページ
https://edupedia.jp/entries/show/1730

2 「心の旅」・・・学級通信・各種たよりでつなぐ絆 ~学級経営をはじめ、校内の推進、近隣の大学との連携における実践~

3 はじめに 「お前が、もし教師になれたなら」

昭和62年4月。私は念願が叶って東京都の小学校教師になることができた。初めて任された担任は、5年4組。それ以来、教師としての私は、道徳教育を基盤とした心の教育を重視した教育実践を行ってきた。心の教育は、学校における全ての教育活動で行うものであるが、私は特に子供たち一人一人との日々の学校生活が心豊かなものになるように、様々な取組をしてきたが、学級通信と日記が、私の学級経営を支えてきた。そのきっかけは、母の言葉である。長く病んでいた母は、私の教員採用試験一次合格発表の知らせもつかの間、その直後に亡くなった。母に最終合格の報告をできなかったことが今も悔やまれるが、「母さん、一次試験に合格したよ。次は面接だよ」と病床で話す私に対して、「おまえが、もし先生になれたなら、子供たちの心の中の悲しみや辛さをわかってあげられる先生になるんだよ。一つの言葉を大切にできる先生になるんだよ。」
「子供たちの心の中の悲しみや辛さがわかる先生。一つの事を大切にして心を込めて伝えられる先生」。人様を教える仕事に就こうとする私に対する母の愛情が溢れる言葉を胸に、私は「思いやりの心」を大切にする教師、学級経営を目指した。子供たちの成長、学級の様子を伝えるために、学級通信「心の旅」を発行したのは、初めて担任になったときからである。一つ一つの言葉を吟味しつつ、あたたかく語りかけることを心がけた。学級通信は、その都度、校内の教職員にも配布し、読んでもらった。この通信が、様々な「絆」を育み、学校と家庭との連携の礎ともなった。休み時間や給食の状況、国語や算数、体育や道徳の授業の様子を、保護者に伝えることもあった。子供たちのあたたかい人間関係を心から願い、「思いやり」「友情」「感謝」等のテーマで語り続けたこともあった。中には学級通信の感想を、保護者が翌日の連絡帳で寄せてくれることもあり、ありがたかった。 学級通信「心の旅」は、やがて卒業生への通信「心の旅」や、校内の同僚教師に配布する道徳推進通信「心の旅」、近隣の大学生への通信「心の旅」等となっていく。

数々の「心の旅」の中から、いくつかの事例を紹介させていただく。

4 元担任の教師から、卒業生・保護者に綴る「心の旅」 (参考 資料1)

平成23年3月。以前、担任を受け持った子供たちの「卒業を祝う会」が前任校で行われ招待された。子供たち、保護者、かつての同僚との久しぶりの再会に心がおどった。

その3日後の3月11日。東日本大震災が起こった。東北地方のみならず、日本の危機となった。それから数日後のことである。先日再会した、子供たちのことが気になった。

「卒業式を前に、そして中学校の入学式を前に、不安な気持ちでいっぱいにちがいない。」 何としても、この困難で、過酷な状況であっても、未来を信じて、仲間を信じて、己の人生の道をたくましく切り拓いていってほしいと心から願った。一人の教師として、自分にできる何かを模索し続けた。私は、学級通信「心の旅」の発行を思いついた。自らが発する言葉を慎重に選んだ。今こそ、お互いがかわす「言葉」が力になることを伝えたかった。精一杯の気持ちで綴った「心の旅」は、子供たちとの絆の証である。

5 道徳教育の推進を願う教師から、校内の教職員に綴る「心の旅」 (参考 資料2)

私は通常学級の担任を20年ほど行い、現在は、特別支援学級の担任である。子供たちの発達の状況に合わせて、絵本や副読本をはじめ、東京都教育委員会の指導資料も活用しながら授業の工夫をしている。昨年度は、「泣いた赤おに」の話で、道徳授業を行った。

私は道徳教育推進教師として、校内の教員に対して道徳教育の理解・啓発に努めている。例えば通常学級に出向き、担任とTT(協力指導)を組み、道徳授業も行っている。校内の道徳通信にも「心の旅」という名前をつけた。同僚との心の通い合いを大切にしている。私自身の体験や実践をまず語り、その上で、道徳授業の充実に向けて熱く語りかけている。

また、保護者との連携を意識したたよりを発行することもある。開校100周年の節目のとき、PTAの皆さんのあたたかい協力も得て、「魔法の言葉プロジェクト」(自他を励ます言葉の力を大事にしながら、自己肯定感や自尊感情を高める活動)を推進している。

その他、若手教員の育成のために、若者研通信「心の旅」も発行している。若手教員のよさや努力、悩み、願いを記し、教員同士の共感、心の結び付きのための一助としている。

6 東京都の小学校教師から、未来を担う大学生に綴る「心の旅」 (参考 資料3)

近隣の大学より、TA(担任教師のアシスタント)として大学生が来校している。私はボランティアを受け取るだけではなく、大学生に対して小学校の教員として何かできないものか思案していた。そのようなとき、大学での講義の依頼をいただく。講義の内容は、「キャリア教育」。教師を目指したきっかけをはじめ、小学校の仕事や教師としての生き方について語ってほしいとの話であった。迷うことなく、私は大学に出向いた。

大学生と道徳授業も行った。授業後、私は不安だった。
「私の言葉は、学生たちの心の中に届いただろうか。どれだけ、響いたのだろうか。」
数日して、学生が書いた感想が届いた。以下、感想の一部を抜粋する。

感想を読んだ私は、学生たちにさらにメッセージを伝えたくなり、「心の旅」を綴った。

7 おわりに 「一つの言葉を大切に」

学級通信から始まった「心の旅」。時を経て、校内だより、学生に宛てたメッセージの役割も担うようになった。「心の旅」は、東京都の教師としての私の熱き思いの証である。そして、子供たちと私、保護者と私、地域の方々と私の心と心をつなぎ、絆を育み、子供たちを支えるかけがえのない“たより”でもある。

先日には、100周年を記念とした運動会が行われた。子供たちの笑顔がまぶしかった。家庭でも、父として、夫として、一つの言葉を大切にしている。 退職まで、あと10年ほどの年齢となったが、母のあの言葉を胸に、私の「心の旅」は、いつまでも続く。「思いやりの心」を大切にする学校づくり、あたたかい社会に向けて。



8 実践者プロフィール

豊島区立西巣鴨小学校 主幹教諭 前川直也
第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

9 引用元

第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『「心の旅」・・・学級通信・各種たよりでつなぐ絆 ~学級経営をはじめ、校内の推進、近隣の大学との連携における実践~』(豊島区立西巣鴨小学校 主幹教諭 前川直也)より引用
「がんばれ先生!東京新聞教育賞」
http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。
他の受賞論文はこちら→( https://edupedia.jp/entries/show/1730

10 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

22
親愛なる子どもたち.png

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA