『夜のくだもの屋』で思いやりの心(坂本哲彦先生)

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目次

1 はじめに

この記事は、坂本哲彦先生が運営されているホームページ、「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」から引用させて頂いたものです。

坂本哲彦先生のホームページはこちら→http://sakamoto.cside.com/

2 対象

中学生

3 ねらい

少女が再び声も出なかった時に考えていたことを話し合う中で、人に温かい心を届けるよさを感じ取り、知り合いではない人(友達ではない人)に対しても思いやりの心を発揮しようとする心情を養う。2-(2)

4 学習内容

(1)知らない人に対しても、思いやりの心をもつことが大切であるということ

(2)他の人へ「気配り」や「心遣い」(これを、本時では、「さりげない思いやり」と表現している)をしようとする心

  • 今までしてもらった経験・した経験
  • 今後できそうなこと、できそうな場面

5 資料

「夜の果物屋」杉みき子 (「小さな町の風景」所収)

あらすじ

合唱コンクールの練習で遅くなる主人公は、他の店より遅くまで営業している果物屋の明かりに守られて帰る。ある日友達のお見舞いを買うために、果物屋に寄ると、中から自分が下校中口ずさんでいた歌が聞こえてきた。のれんから出てきた店のおばさんは、「おや、あんたでしたか!」「お顔もなにも知らないんだけど、でも、うちのおやじさんがね、若いむすめさんがこんな暗い夜道を帰るのはさぞ心細いだろう、せめてうちの店の明かりだけでもつけといてあげれば、っていいましてね……」主人公は、声もなかった。この店の明かりがあんなに温かく見えたのは、当然だったと思った……

6 学習過程(45分授業)

①親切にした経験を発表し合う。(10分)

※いきなり「親切にした経験を話してください」と言われても、中学生が「こんなことしてる」などと楽しくい発表するはずがありません。でも、あえて、尋ねて、時間を置き、教師は、「親切にするとか普段気にかけて生活していないよね」、「でも、友達にならありますよね」などと括ります。

※次に、親切にしたくなるような場面絵を提示して、「このような友達を見かけたらどうしますか?」と問います。

※場面絵は、

  1. 怪我をして血を流している友達(ほんの少しの血です…)
  2. 朝礼の時、貧血で今にも倒れそうな友達(自分は、その隣に立っていたとします…)
  3. 宿題を忘れたので、見せてくれと頼んでいる友達(自分が頼まれているとして…)

※「親切な行いをするのは、ちょっとはずかしい」という気持ちと、先ほどの「普段親切にすることについて気にかけて生活していないな」という二つの気持ちを取り上げて、本時の課題「中学2年生として考えておくべき思いやりについて考えてみましょう」を提示します。

②声もなかった少女の気持ちを話し合う。(25分)

※資料は一度に全て読み聞かせます。ゆっくりだと約10分かかります。

発問1:「店のおばさんが話してくれた営業延長の経緯を聞いた少女が『声もなかった』時、どんなことを考えていただろうか?『声もなかった』というのは、言いたいことはたくさんあったのだけど、あまりの感情の高ぶりから(今回はうれしさ・感謝の気持ちのあまり)しゃべることができなかったということ。つまり、言いたいこと、話したいことはたくさん心の中にあったのである。その少女になったつもりで、あらん限り多くの考え、気持ちを想像して出し合ってみましょう。」

  1. 「ありがとう」「うれしい」など、おやじさん、おばさんへの素直な感謝の気持ち
  2. 「営業の延長をしていること」「電気をつけてくれたこと」など、迷惑をかけた、申し訳ないという気持ち
  3. 「見ず知らずの私のためにしてくれている」「一人の中学生のために…」など、赤の他人のためにしてくれていることへの驚きの気持ち
  4. 「最近声を聞こえないと、心配してくださっていることにびっくりした」など、今でも気遣ってくださっていることへの感謝・驚きの気持ち
  5. 「そんな理由があって店が明るかったとは、夢にも思わなかった」など、自分の気付きのなさの情けなさ、などに発言を分けながら板書する。

これらの意見が出しやすいように、①ノートに書く、②二人組程度で話し合う、③自由に発表する などの支援を行い、その後の、④教師の問い返しで少女の気持ちを膨らませていく。(時間がなければ、①②を省く。)

問い返しには、生徒の発言に応じて、①「それは、感謝の気持ちに近い? それとも申し訳ないというお詫びの気持ちに近い? どちら?」、②「それは、うれしいっていう気持ち? それとも、驚きの気持ち?」、③「見ず知らずの人にしてくれているから、声が出なかったの? それとも、自分のようなたった一人の中学生のためにしてくれているからなの? どっちも?」などである。

また、④「あなたの今言った意見は、だれの考えとよく似ているの?」「どの意見の近くに(板書で)書いたらいい?」「あなたは、○○君派の意見だね」などと「それぞれの考えの異同」に関心を高める。

そして、10分程度たったら、

発問2:「導入のみなさんの気持ちや行為(思いやり)と、このおやじさん、おばさんの気持ちや行為(思いやり)の最大の違いはなんでしょうか。」

かなり認知的な活動・答えなのだけど(1)見ず知らずの人(友達ではない人)に対して、(2)それ(親切・思いやり)とは分からないくらいさりげなく、と言う点が違うということにまとめる。

つまり、この(1)知らない人、(2)さりげなくが、本時の「思いやりについて深まった解釈」(学習内容)であります。

この発問に対して、すぐに答えが出るようにするためには(つまり時間を節約するためには)、導入と発問1の反応の両板書に、対応するように、「親しい友達」←→「見ず知らずの人」、「相手が助けて欲しいと言ってきてから、あるいは、相当大変な状況になってから行う」←→「相手が困っているということを自分の方から察して、相手に気づかれないくらいさりげなく」に関する部分に、意図的にサイドラインを引いておいたり、文字の色を変えておいたりするとよい。(ちょっと小学生っぽい支援ですけど……)

③ちょっとした気遣い、心配りをした場面や今後できそうな場面について思いだしたり、考えたりするとともに、授業の感想を書く。(10分)

発問3:「① 友達ではない人、あまり親しくない人から親切にされた経験、した経験があるか、② 友達ではない人、あるいは、あまり親しくない友達に親切にできそうな場面はないか、③ 今日の授業の感想、の3点をそれぞれ番号の下に、書きましょう。」

①②については、書いている途中に何人かに当てて発表させ、どんなことを書くのか広げる。

または、全員で①②について、発表し合い、共有し、③のみプリントに書くのでもよい。

多くの生徒に共通する①としては、例えば、「登下校の見守り隊の人からの親切」「自治会、子供会の人からの親切」などがあるだろう。個別には様々あるだろうが、それを一生懸命想い出すこと、あるいは、もしかしたらそれは、他の人からの思いやりであったかも知れないと想像を巡らせること(例え、想い出せなくても、見いだせなくても)が大切である。

④学び方の振り返りをする。(5分)

※「今日の授業で、印象に残った発言をした友達は誰ですか?」と問う。そして、受容的な雰囲気を作る。明るく問い、明るくまとめる。

※帰りの学活で、または、次の日の朝読書の時間で、佐賀のがばいばあちゃんの「運動会」のところを読み聞かせる。これは、学校の先生が、毎年、運動会にお腹が痛くなって、弁当を交換してくれと言ってきた話である。「親切は、相手に気付かれないようにすることが大切である」とがばいばあちゃんは言っている。

7 実践者プロフィール

坂本哲彦(さかもとてつひこ)
山口県山口市立徳佐小学校教頭。
1961年生まれ。
山口大学卒業。山口大学院修了。
山口県内公立小学校教諭、山口大学教育学部附属山口小学校教諭、山口県教育庁指導主事等を経て、現職。

自身の経験を活かして、道徳実践をHP、メルマガで数多く配信している。

坂本哲彦 道徳・総合のページ
http://sakamoto.cside.com/

8 編集後記

一日の大半を学校で過ごしている中学生にとって、「知らない人」と接するという経験はあまりないと思います。また、助け合いの大切さを理解はしていてもどのように行動に移せば良いのか分からず、もどかしい思いをしている生徒もいるはずです。この授業を通して、友達以外ともかかわり合おうという気持ちや、気遣い・思いやりの心を育むことができるのではないでしょうか。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部員 江積可奈)

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