1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
2 実践内容
現実にありそうな出来事を題材に、自分だったらどうするかを考えた。学校には必要なもの持ってこないことになっている。しかし時に気が緩むといろいろなものを持ってくる。
学校に持ってきてはいけないものには、どんなものがありますか。どれが一番罪が重いでしょう。
子どもたちがあげた「学校に持ってきてはいけないもの」と一番罪が重いものは、次のとおりであった。
・漫画(0人) ・余分なお金(0人) ・おもちゃ(0人)
・お化粧(0人) ・自転車(3人) ・お菓子(0人)
・ゲーム(19人) ・ジュース(0人) ・携帯電話(2人)
・CD(0人)
最も罪が重いと考えたのは〈ゲーム〉の19人で、お菓子や携帯電話は「罪が軽いよ」という声が上がっていた。そこで、この中からお菓子を取り上げ、考えてみることにした。
「学校でなめるあめの味」という自作のお話を読んだ。友だちのひろみさんやとしえさんに学校であめをもらうように勧められた。私(みか)は困ってしまう。よくありそうな話である。
学校でなめるあめの味 なまえ( )
「わたし(みか)」は、先週からかぜ気味でのどがいたかった。話をするたびにのどがいたいので、お医者さんで出してもらったのどあめを学校に持って行き、のどがいたくなるたびになめていた。
休み時間になると友だちのひろみさんがやってきて、私のことを心配してくれた。
「どう? のどがいたいのは少しよくなった?」
「ううん、まだ時々いたくなるの」そう答えると、ひろみさんは小さな声で
「実はわたしもあめをなめているの」
「えっ、どうしたの?ひろみさんものどがいたくなったの?」
「ううん、ちょっとね…」
そう答えるひろみさんの口からは、甘い香りがしてきた。
「学校であめをなめてもいいの?」と私が聞くと
「だって、私はだれにもめいわくをかけていないもん。」と返事をした。
「でも、学校だよ」と答えると
「だって、みかだってなめているでしょ。それに学校のきまりに『お菓子を持ってきてはいけない』というきまりはないはずよ」とひろみさんは言った。
確かに私も今あめをなめている。何も言えずにだまっているととしえさんがやってきた。
まわりをちょっと見回してから「ひろみ、これお返し」とあめをひろみさんに手渡した。
フルーツ味のあめだった。としえさんもあめを持ってきていたんだ。
「としえさんもあめを持ってきているの?」と私が聞くと
「だって、みんな持ってきているよ。みんなだから平気だよ。みかにもあげる」とあめを差し出した。
私は、どうしたらいいのか迷ってしまった。
登場人物のそれぞれの人に何か問題はあるでしょうか。
〈みか〉ない 〈ひろみ〉ある 〈としえ〉ない
で全員一致した。理由は、
〈みかは問題がない〉36人
- 喉が痛くて、お医者さんにもらったあめをなめているからいいのではないか。
- みかさんは喉が痛いから仕方がない。
- みかさんは病気で、早く直したくてしょうがなくて飲んでいる。
〈ひろみさんは問題がある〉36人
- 病気ではないのに、あめを持ってきてはいけない。
- ただなめたいからと言って、あめを持ってきて交換しているから。
- 学校に持ってきて、あめをなめているから、
〈としえさんは問題がある〉36人
- ひろみさんからもらって、お菓子にひろみさんに返している問題があると思う。
- みんな持ってきているからという理由で持ってくるな。平気じゃねーよ。
このようにそれぞれの考えを聞いたところで、主人公の私はどうしたらいかを考えた。
みかさんはこの後どうしたらいいと思いますか?
A:「いらない」と返す B:一応もらうけどなめずに帰る
C:一緒になめる D:信頼できる大人に相談する
この選択肢には迷った子もいた。それぞれの考えを聞いてみると、
〈B:一応もらうけどなめず帰る〉 2人
- あめをもらってもなめなければ罪はないし、友だち関係も大丈夫だと思う。でも、家に帰ってお母さんに見つかれば、怒られると思う。
- 友だちが「あげる」と言っているから。でもなめるのはいけないと思う。
〈A:「いらない」と返す〉17人
- 〈D:大人に相談する〉と、いじめを受けそう。
- 学校であめを持ってきてはいけないのは知っているから。「いらない」と言って返す。
- ひろみさんととしえさんは悪だくみをしているみたい。そんなのあめを持ってくる方がバカ。
- 〈A:「いらない」と返す〉と、信頼関係が崩れてしまうし、〈D:大人に相談する〉と、みんながやっていた時に「よくもチクったな」と言われていじめになりそう。だけど、返した方がまだいい。
〈D:信頼できる大人に相談する〉9人
- これを黙っていたら、学校がおかしくなってしまうし、ずっと続いてしまう。「なぜ喋ったぁ」みたいになっても、みかさんは正しいことを言っているのだから、強く意見を出せばいい。私は正しいことを言っているのだからいじめは怖くない。 →「おー」パチパチパチと拍手が起きた。
- 〈A:返して〉も〈B:持って帰って〉もいじめられそうだし、なめるのはダメだから大人に相談する。
〈C:一緒になめる〉については「バッカじゃないの!」という反応であった。その健全さに安心する。でも〈D:大人に相談〉して「チクった」とか「友だちでなくなってしまう」という心配をする気持ちが分からないわけではない。こうしたことは現実にあり得ることだからである。子どもたちは〈A〉〈D〉で迷っていたので、
今、いじめとかチクったという話が出ましたね、この問題を、いじめだったらどうか、置き換えてみるとすぐにわかりますよ。
あめをいじめに置き換えてみると〈A:返す〉は何も問題が解決せずに、どんどん広がっていくことがすぐにわかった。やはり見て黙っているだけでは不十分なのである。〈D:大人に相談〉して壊れるような友だちならば、それはもともと友だちではなかったのだ。
◇授業の感想
- 人が持ってくるからって、そういう人は将来いい大人にはなれない。もしそういう人がいたら、大人に相談した方がいいと思いました。
- 今日の授業で、いじめみたいなのと同じことだとわかった。
- 今日の授業はとてもよかったです。人が食べていたらからって、自分は食べてはダメだと思いました。
- 今日の授業をやって、学校に持ってきていいものと区別してとても面白かったし、よかった。もしあめを持ってきた時、どうしたらいいかわかりました。
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
4 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
5 編集後記
学校に持ってきてはいけないものでも、友達に言われると断りにくくてどうすればいいか困ってしまう子どももいると思います。学校に持っていってもいいものかどうか、子ども自身がしっかり考えて、信頼できる大人に相談するなど行動につなげられるといいなと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 安井愛弓美)
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