1 はじめに
こちらの記事は、静岡県で30年間以上続く教員サークル、シリウスのホームページに掲載されている教育実践法の一つをご紹介しています。
http://homepage1.nifty.com/moritake/
2 実践内容
憲法の柱の一つ、基本的人権の尊重についての学習をしました。
第25条で「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と生存権について規定しています。このことについて考えることにしました
まず最初に、ポケットをごそごそしながら「先生は、今日大金を持っています。さていくらでしょう?」と尋ねながら、一枚ずつ硬貨を取り出していきます。子どもたちの目は釘づけです。出てきたお金は、600円。子どもたちは「なあんだ」とがっかりします。
発問1 この600円をみなさんにあげます。みんなはどんなことに使いますか?
もらえないとは知りつつも、子どもたちは大喜びでお金の使い道を考えました。
・ジュース ・ポテトチップス
・ファミコンのカセット ・貯金
発問2 最近では物価が高くなり600円ではあまりたくさん買うことができなくなりました。でも30年前は600円でたくさんのものを買えました。これから30年前の値段クイズをします。
と、黒板にいくつかの品物について、現代の値段とともに書きます。
- 映画の入場料 (1500円) →
- 天丼 (700円) →
- ざるそば (400円) →
- コーヒー (400円) →
- 東京ドームの入場料 (2000円) →
数分たったところで、答えの予想を発表します。そして、「正解はそれぞれ、150円、150円、30円、50円、200円です(「値段史年表」朝日新聞社)」と告げた。「安いなあ」という声がおきました。
5つの値段を合計すると、580円になります。30年前に600円もっていると午前中映画を見て、お昼にそばやでざるそばを食べてコーヒーを飲めました。夕方に天丼を食べて夜は後楽園でジャイアンツ戦が見られたのです。そのころこの600円をめぐって裁判が起こりました。
といって、プリントを配り、子どもたちは、黙々と資料を読みました。
資料:朝日さんは訴える。
< 事件のあらまし >
- 朝日茂さんは、国立岡山診療所で、1942年以来、生活保護と医療保護を受けていました”もう長くない”と言われつづけながら必死に再起を期してがんばりつづけていました。
- 国から生活保護として朝日さんに支給される額は、日用品として、月600円だけでした。朝日さんは病気に苦しみながら、月600円の支給額の中で、精一杯生きていました。
- そんなある日、宮崎県で離ればなれになって生活しているお兄さんから朝日さんのところへ手紙が来ました。それには「福祉事務所の依頼で、月々1500円送金することになった」と書いてありました。朝日さんは大喜びしました。
- 数日後、朝日さんのもとに「保護条件変更の決定通知書」が送られてきました。その通知には次のように書かれていました。お兄さんから月々1500円送金されることになったので、月々600円の支給は打ち切ります。また、1500円のうち、900円を入院費用の一部として国に納めて下さい。
- 朝日さんにはやっぱり月600円の生活しか認められなかったのです。
朝日さんは、岡山県や厚生大臣に「日用品費の他に、栄養補給のための費用400円(10個 バター1/4個分など)を認めてほしい」と要求しました。しかし、この要求は認められなかったため、朝日さんは1957年8月、裁判所に訴えました。
< 国が考えていた,月600円で買えるもの >
- 肌 着…l/24着(2年で1着)
- パンツ…1/12枚(1年で1枚)
- タオル…1/6本(1年で2本)
- 石けん…1個
- ちり紙…1束
- はがき…2枚
- 歯みがき粉…1/2個
- 歯ブラシ…1/2本
- 鉛筆…1/2本
- 湯のみ…1/12個(1年で1個)
< 朝日さんの主張 >
- 月600日の日用品費では生活に必要なものが十分に買えない。
- 療養所の給食では、栄養は十分でないのだから栄養補給のための費用を認めるべきだ。
- これらの要求を認めないのは、「すべて国民は,( )で( )的な最低限度の生活を営む( )を有する」という憲法( )条に違反するものである。
< 国の主張 〉
- 療養所の給食は完全給食で、補食の必要はない。
- 日用晶が足りないというが、ちり紙が足りなければ新聞紙を使えばよく、頭は丸坊主で十分だ。ペンやインキは必ずしも必要ではなく、はがきに鉛筆で書けばいい。ラジオや時計は、必ずしも必要とは認めない。肌着やねまきやシーツは、死んだ患者のものをもらって使ったからといって、不思議ではない。
資料を読み終えたあとで、
発問3 月600円の暮らしは人間らしい暮らしでしょうか
< 人間らしくない生活 >
- シャツが2年で1枚じゃ臭くなっちゃうよ
- パンツが1年で1枚じゃヤバすぎる!
- やっていけなくはないけど不潔じゃないかな
- 娯楽がなければ人らしく暮らせない
< 人間らしい生活 >
- 別にその人がよければいい。私はイヤだけど。
- お金が少なくて、1日で弱っちゃう
- ごはんと寝るところがあるから
- 不便かもしれないけどごはんと風呂がある
- これでも住めるから人間らしい
発問4 人間らしい生活とは、どんなことができる生活ですか
資料のなかの空白部分を、埋めたあとに「人間らしい生活」について考えました。日本では、健康で文化的は最低限度の生活が送れることを説明しました。また生存権(「人間らしく生きたい」という願いを実現したもの)についても少しふれた。こどもたちがかんがえた、人間らしい生活は次のようなものでした。
- 清潔に暮らせること
- 贅沢はできなくても、食べたいものが食べられたりすること
- 住むところや食べるものに困らないこと
- お風呂に入れること
裁判の結果、朝日さんは負け死んでしまったことを話しました。しかし国は、この後基準額を引き上げたのです。とその後について話をすると「意味ねー」のブーイングが起こりました。
3 プロフィール
静岡県教育サークル シリウス
1984年創立。
「理論より実践を語る」「子どもの事実で語る」「小さな事実から大きな結論を導かない」これがサークルの主な柱です。
最近では、技術だけではない理論の大切さも感じています。それは「子どもをよくみる」という誰もがしている当たり前のことでした。思想、信条関係なし。「子どもにとってより価値ある教師になりたい」という願いだけを共有しています。
4 書籍のご紹介
「教室掲示 レイアウトアイデア事典」(明治図書2014/2/21発売)
「学級&授業ゲームアイデア事典」(2014/7/25発売)
「係活動システム&アイデア事典」(2015/2/27発売)
「学級開きルール&アイデア事典」(2015/3/12発売)
5 編集後記
この先社会に出る子どもたちに、お金の価値や制度のことを教えることは大切です。
ぜひ試してみてください。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 中原 瑞貴)
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