いじめ問題の解決において、いま学校で必要なことは(池島徳大先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、奈良教育大学広報誌「ならやま」2012年秋号から、池島徳大先生がいじめ問題の解決において、いま学校で必要なことは何かということについて書かれた記事を、引用・加筆させていただいたものです。海外と比較した日本のいじめの特徴や、その介入視点について書かれています。

2 わが国のいじめの特徴

①同じ学級のなかで起こりやすい

②長期間、しつこくいじめられやすい

③いじめっ子といじめられっ子との人間関係の結びつきが強い

④学年が上がるとともに、傍観者は増え続け、仲裁者は減り続ける

これらの知見は、森田ら(2001)によるいじめの国際比較研究から得られたものです。しかも、いじめはどの国でも起こっていることが明らかとなりました。

特に、このなかで気がかりなのは④番目「学年が上がるとともに、傍観者は増え続け、仲裁者は減り続ける」です。

同調査から少し年月が経っていますが、この現況は今もほとんど変わっていません。不正義ないじめに立ち向かい、子どもたち自身でいじめを解決する力を育んでいくことが緊急の課題です。わが国の子どもたちの現状を見たとき、これからの社会を担う存在となれるのか心許ない気持ちがしてなりません。オランダやイギリスでは、中学校期の難しい時期に、傍観者は下げ止まり、仲裁者は上昇に転じています。イギリスではシティズンシップ教育を学校教育に導入し、正義を実現するため義務と責任をどのように果たしていくか、具体的に教えています。そのひとつが、ピア・サポート(子ども同士による助け合い活動)の導入です。また子ども同士によるトラブル解決のスキルとして、ピア・メディエーション(子ども同士による調停)の手法も学校教育に導入しています。

3 次に、いじめの介入視点についてまとめて示します

①いじめは、子どもの心に甚大な影響を及ぼす

いじめは、心的外傷を引き起こす要因となります。この理解が乏しいと、問題解決への強い動機づけにはなりません。いじめは虐待と同じく長期反復性の外傷性障害を受けたのと同じです。ノルウェーの犯罪社会学者オルヴェウスは、いじめは虐待の一種で「同輩による虐待である」 と述べています。

②いじめは被害者の隠蔽心理により、見えにくくなる

いじめられている子は、人前で楽しく遊んでいるように振る舞い、いじめの対応を難しくしている面がみられます。中井 (1996)は「そのときの子どもの眼は笑っておらず遊びに欠かせないダイナミックな揺らぎがない」と述べています。いじめは、よほどめざとい大人の眼にしか留まらないのです。子どもの様子を鋭敏にキャッチできる臨床的センスが必要で す。では、臨床的センスを身につけるにはどうすればよいのでしょうか。次の視点が参考になると思います。

③ヴァルネラビリティ(vulnerability) の着目と支援

聞き慣れない言葉ですが、「攻撃誘発性」と訳します。簡単にいうと「いじめられやすさ」のことです。

例えば、

  • 転校生
  • 障害のある子ども
  • 協調性の乏しい子ども

などは、異質な存在としていじめの対象となりやすい傾向性をもっています。しかしそのような傾向があるからといって、いじめられて当然であるということではありません。ここは、注意が必要なところです。仮に、いじめられている子どもに問題があるとするならば、それは、その子どもの個別の支援課題だととらえて対応すべきです。「あなたにもいじめられる原因がある。いじめられても仕方がない」などの態度で臨むと、いじめられている子どもは自分から苦しい胸のうちを打ち明けることをしなくなります。そのような態度は、結果的にいじめを助長し、いじめを許すことにつながりかねません。子どもと接するには、「いじめられやすさ」をもっているか否かの視点から支援していくことが重要です。

④学級集団に生じる「ピア・プレッシャー」への配慮と対応

現代社会においては、人々の人間関係は希薄な傾向にあります。子どもたちも例外ではありません。関係が希薄なため、級友のちょっとした言動に傷つき、強い者に巻かれてしまう状況がみられます。これをピア・プレッシャー(仲間の同調圧力)と呼んでいます。いじめ予防の観点から、子ども相互の人間関係、絆を深める取り組みが是非とも必要です。

⑤共同性意識を育てるピア・サポート及びピア・メディエーションの導入

いじめの最大の防御は、子ども相互の人間関係の形成良質なコミュニケーションの育成を図ることです。すなわち予防的対応を早期に進めることです。関係ができれば、絆が深まり、お互いに許しあうなど寛容な関係が生まれます。また、学級に共同性意識が芽生えます。その意味でピア・サポート活動の導入は非常に有効です。しかし、学校ではもめごと・トラブルは日常的に起こっています。関係が深まると必然的に衝突やもめごとが起こるのも事実です。深刻な問題に発展する前に、早期にその対応方法を知っておくことは有益です。その指導法のひとつとして、ピア・メディエーションがあります。

ピア・メディエーションについて、さらに知りたい方は、こちらをご覧ください。

4 実践者プロフィール

池島徳大先生
奈良教育大学 教職開発講座 教授 

専門は、いじめ・不登校などの学校教育臨床、生徒指導、学校力ウンセリング。
兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程単位取得退学。
博士(学校教育学)、臨床心理士、学校心理士。

奈良県公立小学校、奈良県立教育研究所、国立教育会館学校教育研修所(現、独立行政法人教員研修センター)等を経て、奈良教育大学教育学部附属教育実践総合センター助教授。現在、同大学院教育学研究科専門職学位課程(教職大学院)教授。

公立小学校教諭時代に、「いじめ克服への取り組み—学年教師による心理劇活動を通して—」で、第34回読売教育賞児童生徒指導部門最優秀賞受賞(昭和60年7月)。

現在、いじめ問題の解決に向けて、予防的・開発的生徒指導の視点に立つ、子ども同士の人間関係の形成を図るピア・サポート及びピア・メディエーション(仲間による調停)の学校教育への導入に関して、積極的に実践研究を行っている。

5 編集後記 

いじめはどこにでも起こり得るものではないかと思います。そして、それは子どもにとっても大きな傷になりかねません。 ぜひ、この記事を参考に、いじめに介入していただければと思います。
(文責・編集 EDUPEDIA編集部 中原瑞貴)

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