1 はじめに
この記事は、学習塾のエイメイ学院で英語講師をされている二神大輝先生を取材し執筆したものです。二神大輝先生はカナダのKing George International Business College (現Sprott Shaw Language School)に留学し、TESOLの資格を取得されました。今回の取材では、主にTESOL、および現在・今後の英語教育に関してお話を伺いました。
2 そもそもTESOLとは?
TESOLとは、Teaching English to Speakers of Other Languagesの略称で、一般的にティソル、テソルなどと呼ばれています。
英語を母国語としない学習者に対する英語教授法の資格の一種であり、教授法に加えてプレゼンテーションや教材開発などに関しても学ぶことができます。また、幼児から大人まで指導対象者の年代に応じた様々なコースを設けている学校もあります。
3 インタビュー
〇「TESOL」
TESOLと留学の魅力
——TESOLを知ったきっかけは何ですか。
二神先生:大学卒業後に塾で働いていた頃、文法や受験のテクニックばかりを教えることにずっと疑問を抱いていました。また片言の英語しか話せないこともコンプレックスに感じており、「このままではいけない」と留学について本格的に考え始めました。そこで、留学エージェントに勤めている知り合いに相談し、英語で英語を教える資格であるTESOLを初めて知りました。実際に調べてみて、取得したいという思いが強くなったので留学を決意しました。
——実際に留学されて、日本との違いを実感した点はありますか。
二神先生:日本の学校教育は一般的に、生徒の机がすべて黒板の方を向き、教師が教科書に沿って文法を教える”deductive teaching”というスタイルです。一方、留学先のカナダでは、教師ではなく基本的に生徒中心の授業構成である”inductive teaching”というスタイルが取られていました。最近話題のアクティブラーニング型の授業ですね。授業の組み立て方が根本的に違いました。
どうやったら生徒が発言しやすいか、主体的に学ぼうとするかということを軸に授業を構成し、教材の用意や題材決め、必要な道具集めをしていました。例えば小学校の教師は、ぬいぐるみやボールなど、子どもたちが興味を引きそうなものを準備したり、ご褒美にチョコレートを用意したりします。文化的な背景の違いもありますが、生徒が主体的に学ぶ力を育てるために、利用できるものは利用する柔軟さがあるように感じました。こうした点が日本とは大きく異なるのでしょうか。
〇二神先生の授業実践
TESOLを活かしたアクティビティ
——塾での授業に生かしている部分はありますか。
二神先生:ただ文法を学ぶだけでなく、英語を話す・聞く・発信する機会を増やすため、いろいろなアクティビティを取り入れています。
例として「テレフォンゲーム」というペアワークをご紹介します。
これはsとthの発音を区別できるようにするのが狙いで、ワークシートにはsay, that, thingなど発音の似ている単語を並べます。
①教師が生徒と一緒に単語を読み、発音を教える
②生徒にペアを組ませる
③相手に見せないように自分の電話番号をその場で決めさせる
④一方の生徒が自分の番号に応じた単語を読み、もう一方の生徒が相手の番号を当てる
というものです。すると、生徒は積極的に正しい発音で読もうとします。このように自分から工夫しようとする意欲を引き出すため、教師側が仕組みを作っています。 ▲ご紹介いただいた「テレフォンゲーム」のワークシート
生徒は「英語って大事!グローバル化が進む今の時代、英語は必要だから勉強した方がいいよ!」と言われても、自分にとって本当に必要だという自覚、楽しいという実感が無ければなかなか勉強しません。ですので、アクティビティを通して楽しいという実感を持たせ、英語に対する抵抗を無くした後、自分から聞く、発信することができるようにする、という風に段階に分けてステップアップできるよう工夫しています。
——現在取り組んでいることや今後取り組みたいことはありますか。
二神先生:今私が働いている塾は、生徒の人間力育成を重視しており、ただ教えるだけではなく、様々な話をしてモチベーションを上げ、自分から能動的に勉強できるようになる仕組みや環境づくりを目指しています。
その中で私は、英語に興味を持ってもらえるように、「英語で世界中の人とコミュニケーションをとれる喜び」を伝えたり、「外国から来た人に道を教えてあげたり、洋楽を歌えたりできるとカッコイイよね!」といった身近な話題から話したりすることがあります。授業でも、実際に英語を話すだけでなく、洋楽や偉人の名言に触れる機会や、生徒が自分の意見を英語で発信する機会を作ってみたりしています。また、私がカナダやアメリカを旅した際に撮った写真や動画を見せて、英語圏のリアルな文化を見る機会も取り入れています。こうした活動を通して、生徒が少しでも「英語を喋ってみたい!」「勉強がんばるぞ!」と思えるような、好奇心をくすぐる授業を展開することを意識しています。
今後は自分のスキルアップに加え、自分が学んだこと、考えたこと、実践して生徒のためになった授業案など、積極的に発信していきたいと思っています。
4 日本の英語教育
教師自身が学びをアップデートすることの大切さ
——日本の学校現場における英語教育の問題点は何でしょうか。
二神先生:私は実際に学校現場で教鞭を振るっているわけではないので、回答するのはとてもおこがましいのですが、あくまで一個人の感想として。新学習指導要領が公示されて、英語の4技能を使ったコミュニケーション能力の総合的な育成が必要とされています。そのような中、現場の教師たちは「どう教えたらいいのか」迷っているのではないでしょうか。特に留学前までは、自分も「どう教えるのが生徒にとって最良なのか」毎日毎日悩んでいました。
留学をしての一番大きな学びは、ネイティブスピーカーの教師が、英語を第2言語として学ぶ生徒に「どう教えているか」を体感できたことです。きっとそこには、英語を「話せるようになる」ための授業のヒントがたくさん隠されていると思うからです。
もちろん、TESOLを通して授業のスキル的な部分や、外国の授業の進め方などを学ぶことができたのも大きな収穫でした。
——新学習指導要領で示された小学校での英語教科化や、高校でのAll English化に向けて、今の教師がやっておいた方がいいことは何でしょうか。
二神先生:教師が何を求められているかに敏感になって、柔軟に自分の教え方を変えたり、時代に沿ったものを提供したりできるよう、常に自分自身をアップデートしていく必要があると思います。学校や塾はそれぞれが独自のコミュニティーを持っている特別な空間で、教師にとっても実社会とのつながりが希薄になりがちです。だからこそニュースや本を読んで今の世の中の流れを知り、日々自分を更新していく必要があると思います。
もちろん既に実践している方も大勢いると思いますが、授業練習はもちろん、自分について振り返り、慢心することなく研磨する習慣をつけることが大事なのではないでしょうか。
皆さんへのメッセージ
——TESOLを知らない方や、TESOLを取得するか迷っている方にメッセージをお願いします。
二神先生:TESOLは教える対象によって細分化されています。私の留学先では、2歳児から小学6年生までの子どもが対象のTESOL for children、中・高生が対象のTESOL for middle school、大学生や大人が対象のTESOL for adult、IELTSやTOFELといった英語テストの受験者が対象のTESOL for test preparationの4つに分かれていました。
また、「海外で学ぶ=アクティブラーニングの仕方を学ぶ」ということではなく、基礎的なこともたくさん学べます。例えば、子どもたちの中には視覚学習者・聴覚学習者・感覚的な学習者がいるという知識や、机のレイアウトで授業形態を変える方法、生徒の発言が聞き取れなかったときのアプローチ法といった細かい部分までも、です。TESOLは、生徒のために自分の教える技術を高めたいというアツい気持ちを持った教師や学生の方にはオススメの実践的な資格です!
5 実践者プロフィール
二神大輝(ふたがみだいき)
エイメイ学院英語科教務主任、EIMEI予備校塾長
大手予備校で勤務した後、カナダのバンクーバーに留学。英語が母国語でない人々向けの英語教授法であるTESOL(Teaching English to Speaking of Other Languages)の全過程を修了し、現在はエイメイ学院で小、中、高校生に英語を教えている。
子どもたちが受験勉強を通して実践的な英語を学べるよう、英語で自分の考えを伝えるアクティビティやオールイングリッシュの授業、外国人観光客にインタビューをする課外授業などを行っている。
(2017年9月18日時点のものです)
6 編集後記
取材前はTESOLとは英語教授の理論を学ぶものだと思っていたのですが、実際は技能的な内容が多いということがわかりました。二神さんにご紹介いただいたアクティビティは、「sとthの発音の区別ができるようになる」といった目的が明確な上、子どもたちが楽しく学べるよう工夫されており素晴らしいと思いました。「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指す、一人でも多くの英語教師の方々に参考にしていただきたいと思います。(編集・文責 EDUPEDIA編集部 古井千晴)
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