葬祭場で行われる社会教育実践 ―繋がりと体験の場、子ども食堂―

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目次

1 はじめに

この記事は、埼玉県富士見市にある鶴瀬駅前メモリードホールが令和元年12月17日に開催した「つるせ音楽子ども食堂」についてまとめたものです。この子ども食堂の発案者である平山実副部長への事前インタビューと、イベント当日の様子のレポートを元に記事化しています。

社会教育というと、現在教職についていらっしゃる方々や教師を目指されている方々にとっては関係ない分野のように思えるかもしれません。しかし、子どもたちに経験の伴った学びを実現するためには、社会に埋もれている体験の場をより有効に活用していくことも必要になるかと思います。この記事を通して社会教育の場の可能性に目を向けていただけたら幸いです。

2 イベント概要

「子ども食堂」とは、地域の子どもたちに、安価または無料であたたかい食事や人々との繋がりを提供する事業です。

今回取材した「つるせ音楽子ども食堂」でも、月に一回ほどのペースで、子どもたちに無料で食事の提供を行っています。取材時には、おにぎりや地域の野菜をふんだんに使った味噌汁などが振る舞われていました。子どもたちの空腹を満たす場であるだけではなく、おにぎりの作り方を教えたり、精米を体験させたりなどすることを通して、楽しみながら食文化を継承していく場にもなっているようです。

また、この「つるせ音楽子ども食堂」では、名前にあるとおり音楽を中心とした体験の提供も行っています。内容は毎回考えて色々と工夫しているとのことでしたが、今回はオカリナやハープといった珍しい楽器の生演奏やオペラの生披露、バンドによる演奏など、楽しみながら様々な音楽文化と気軽に触れ合える充実した内容となっていました。完全防音の葬祭場だからこそ、近所迷惑を気にすることなく楽器を楽しめ、途中ぐずって大泣きする子に対しても寛容でいられる場になっていました。親子連れでいらっしゃっている方も多かったのですが、一つ一つの音楽のクオリティが高いため、ご両親はもちろん無関係の大人であっても楽しめる場となっていました。今回はクリスマスシーズンだったということもあって、参加者にはサンタの格好をした副部長から直々にクリスマスプレゼントが配られ、ケーキも振る舞われました。サンタに興奮し追いかけ回したり、プレゼントをその場で開封して遊び始めたり、子どもたちは思い思いの楽しみ方でクリスマスを満喫できていたように思います。文化的な体験を豊富に享受でき、加えて子どもたちにとっても、その親たちにとっても新たな居場所となっているように見受けられました。

3 平山実副部長へのインタビュー

本イベントは副部長である平山実さんの発案によって開催されました。きっかけは友引の前日にはいつも葬祭場のスペースが空いてしまうことに着目し、なんとか有効活用できないかと考えたことであったそうです。

平山さんの思い

平山さんは子ども食堂をやるにあたり、子どものころの食体験が原動力になっているといいます。平山さんの両親が共働きだったため、毎週土曜日は作り置きされた冷やし中華を一人で食べていたそうです。カチカチに固まった麺を、苦労しながらほぐしたことが強く印象に残っているとおっしゃっていました。「子どもたちに、あたたかいご飯をみんなで囲む機会を提供したい。」「楽しみの場を提供したい。」そうした思いがあるそうです。

子ども食堂を通した気付き

子どもたちと関わることで心が浄化されるような、逆にパワーをもらうような体験はよくあるそうです。そうした精神的な向上にとどまらず企業としても良い影響があったそうです。葬祭場という場所はその性質上、どうしても地域の方々から不吉なイメージを抱かれやすく、敬遠されがちです。そこで葬祭場が率先して、子ども食堂のような地域コミュニティを創出する場を設けていくことで、少しずつ地域に受け入れてもらえるようになったそうです。このことから分かるように、地域を大切にするということは慈善であるだけではなく、企業がその地域で活躍していくためにも必要なことなのです。

平山さんからのメッセージ

「とりあえず動いてみること」の重要さ。これは平山さんが何度もおっしゃっていたことです。「知識だけ集めて知った気になっても、実際に動いてみなければ分からないことがたくさんある。」強い思いを持って動き始めさえすれば、支えてくれる仲間がだんだんと現れてくるとおっしゃっていました。子ども食堂も様々な出会いによって支えられており、自分一人では決してここまでできなかったと、協力の大切さを噛みしめておられました。子ども食堂を通して、企画を成功させるためには「実際にやってみること」と「仲間と協力すること」が不可欠であると学んだそうです。新しく何かに挑戦する方にはぜひその二点を意識して欲しいとおっしゃっていました。

4 プロフィール

平山実さん

株式会社メモリード 副部長・東急プラザ渋谷ライフストーリーズサロン店長(2019年12月17日時点のものです)
メモリード公式サイト
メモリードのCSR(企業の社会的責任)情報

5 編集後記

教育において、これからますます体験の重要性が高まってくるといわれています。体験に大きく影響するであろう文化的格差は見えにくく、その差を埋めるのも容易ではありません。今回の「子ども食堂」のように、社会にはたくさんの教育資源があります。社会教育の場は、社会問題の解決を肩代わりする場ではなく、独自の意義を持つ教育の場です。「いつでも、どこでも、だれでも」受け入れる多様性を持ち、柔軟性と偶然性によって成り立つ社会教育は、学校教育とはまた違うアプローチで学びを支える場であると考えています。今後なにか体験の場を活用したいとお考えになる先生方は、ぜひ社会教育の場も選択肢としてあることを思い出してください。社会教育には生徒と教員だけでなく、社会全体を巻き込んで教育を考えていく力があります。学校教育と社会教育がもっと互いに協力し合えたら、より豊かな学びを実現できるのではないでしょうか。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 大久保芽衣)

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