塾だからこそできる「人ざい育成」【第16回EDUCAREERイベント Youはなぜ塾講師に?〜教員以外のキャリア〜】(後編)

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目次

はじめに

 この記事は2023年11月24日にNPO法人ROJE EDUCAREER(旧:教育と仕事フェス)が主催した第16回EDUCAREERイベント「Youはなぜ塾講師に?〜教員以外のキャリア〜」を記事化したものです。

 登壇者に山崎智樹さんをお招きしました。山崎さんは個別指導+集団指導の「SoRa」やcafeを併設をした日本初の学習塾を設立し、SoRaStar株式会社の代表取締役を務めておられます。

 この記事は前後編に分かれています。後編(本記事)では「塾講師」という職業についてご紹介します。前編では山崎さんご自身のキャリア選択についてや大切にされていることを紹介しておりますので、ぜひ合わせてご覧ください。

今の職業について

今の時代に求められている力

 近年、論理的思考が重視されるようになりました。10年前はザビエルの絵を見て「この人物の名前を答えなさい。」「この人物が行ったこととして正しい選択肢を選びなさい。」といった、知識を問う問題が出されました。今では、「もしあなたがザビエルの布教をサポートする場合どのようなことしますか?」といった記述問題が増えてきています。この問題では、「ザビエルのことを尊敬していることを表すために、同じ髪型や服装にして布教をサポートする。」といった解答例が考えられます。

 他にも、「あなたがザビエルだとしたら布教のために何をしますか? 具体的な根拠とともに答えなさい。」「もしあなたがこの人物のように知らない土地に行って何かを広める場合、どのような行動をしますか?」のような問題があります。これが今の高校入試です。つまり、暗記だけでは解くことのできない問題形式に変わってきているのです。

創造的な思考が求められる問題を解くために

 創造的な思考を使う経験をしている人は意見を論理的に組み立てる考え方が得意になりやすいと思います。アイデアやイノベーションは、自分の経験からしか出てこないとよく言われます。お母さんのお腹の中にいるときから聞いていた言葉、見てきた景色、読んだ本、観た映画やそれらから生まれた感情などがすべてのアイデアの根源です。そのため、私は生徒と一緒にさまざまな経験を積むことを大切にしています。私の視点も共有すればそれが生徒の経験のひとつになるので、一緒に学ぶ伴走者がいることはよりよい相乗効果が生まれると思っています。

SoRaの特徴

 私が経営するSoRaは、「岩手で輝く大人になりたい」という思いに繋げる「人ざい育成」に取り組む学習塾です。「人ざい」には4種類あると聞いたことがあるでしょうか。最も一般的な「人材」、なくてはならない存在である「人財」、そこにいるだけの「人在」、いるだけで罪になる「人罪」の4つです。私がこの4種類を知ったときに、「人在」や「人罪」でも、周りの人の関わり方が変われば子ども自身も大きく変われるのではないかと考えました。

 見え方が違うだけで、それぞれに長所があります。そのひとりひとりの長所を伸ばせる居場所をつくっていきたいという思いを込め、「人ざい育成」を理念に掲げました。私自身が課題を直接解決するのではなく、課題解決できる人を育てていく「人ざい育成」をしていきたいと思っています。そのため、関わった人が誰かのためになってほしいですし、その誰かのためのものに関われるような人を育てていきたいと思っています。

 授業は、個別指導を中心とした集団授業とのハイブリッド型で行っています。生徒は約150人いて、その全員と毎月三者面談をしています。これは大学時代からの「教育=引き出すこと」という考えに基づいています。その他にも、教材会社の依頼で教材作成をしたり、留学のサポート支援事業を行ったりなどしています。学習塾は勉強だけでなく、実際にはさまざまな活動をしています。

 そして、最大の特徴は1階に一般の方も自由に出入りしやすいワッフルカフェを併設していることです。このカフェは、高校生が夜の自習に使うこともあります。一般のお客さんもいるので、カフェの入り口で一般のお客さんとすれ違ってから2階の学習塾に行くという造りになっています。そのため、ベビーカーのお子さんを連れて来たお客さんがいる、3歳くらいの子どもたちが走り回っている、高齢者の方がコーヒーを飲んでいる、社会人の方がオンラインで打ち合わせをしている、といった環境で学びます。これには、生徒の視野を広げるという目的もあります。子どもたちが2階で勉強している間に、親御さんが1階のカフェで会議をしたり、お茶を飲んだりしているといった、地域包括的な空間を作っています。このようなつくりで「モヤモヤをワクワクにできる学習塾」を目指しています。

 皆さんは、「欠けたドーナツの心理」をご存じでしょうか。欠けたドーナツと欠けていないドーナツでは、欠けたドーナツの方に目が行きやすいという話です。欠けているところに目が行きがちなのは子どもでもあり、保護者でもあり、先生でもあり、地域でもあります。もちろん私もその1人です。そういった心理に陥らないために、SoRaでは非認知的領域を重視した教育を行っています。

 昨今の教育では、「点数を上げる」や「合格させる」といった数値化される「認知的領域」が重視されています。その部分をSoRaでは学習塾が担っています。また、キャリア教育や「何かにチャレンジしてみる」や「地域課題の解決方法を考える」といった、「非認知的領域」も大切です。この部分は併設のカフェが担っています。木で例えると、認知的領域が葉や実、非認知的領域は根に例えられます。

学習塾の長所・短所

学習塾に対するイメージ

 子どもや保護者と関わることや地域の中にあるという点で、学習塾と学校に大きな違いはないと思っています。違いがあるとすると、学校が公教育であるという点です。そのため、学習塾はマイナーなイメージを持たれることもあります。なりたい職業ランキングで学校の先生が上位に入ることは珍しくないですが、学習塾の講師は過去20年間で1度も100位以内に入っていません。

 しかし私は、学習塾は何でもできるという点から「学習塾最強説」を提唱しています。学習塾といえば世間では、進学塾や補習塾といった勉強を目的としているイメージがあるかもしれません。もちろんそのような特徴をもつ学習塾もとても大事ですが、私は「勉強する」というより「情報を得る」が学習塾の機能だと思っています。

限定的なアプローチ

 利用できる人が限られてしまうことも学習塾の特徴です。金銭的援助の制度によりある程度の支援は可能ですが、やはり学習塾に通うにはお金がかかります。私は、学習塾に通っていない人も情報を得られるような場をつくりたいと思っています。そのために外部で講演するなど、塾生以外とも関わる機会をもつようにしています。これは私の会社の理念にも繋がります。

 また、塾生以外の人が学習塾に足を運ぶ機会は少ないと思いますが、カフェであれば足を運ぶ人は多いはずです。この空間を活かして、カフェに来て「学習塾」というものの固定観念が変われば嬉しいです。カフェの本棚には赤本や教育雑誌、中学入試がテーマの漫画などを置いていて、学習空間と地域交流の空間が混在するような空間をつくり、地域にも教育というものを伝えられる場を目指しています。

裁量の大きさという強み

 学習塾の強みは、変えようと思ったら明日からでもすぐに変えられることだと思っています。文科省の方針や入試制度が変わるとなっても、学校はすぐに動き出すことが難しいとよく聞きます。一方、学習塾では新しく出された方針や課題にいち早く対応することができます。

大学生に伝えたいこと

 私は、大学生のときから独立を決めるまでの7~8年間、多くの人と関わっている社長や先生などとたくさん話すことを意識していました。もちろん、たくさんの本や映画に触れることも大切です。しかし、社長をされているような人はもう既に本を100冊以上読んだうえで、さまざまな経験も積んでいます。そのような人と話せば、より要約された内容をインプットすることができます。大学生のうちにそういう人を1人でも多く見つけて、たくさん話して学んでほしいです。

 教育は自分の持っているものを子どもたちに提供していく仕事なので、特にインプットが大切です。自分自身の知識・経験を溜めていかないと、相手に提供するものが無くなってしまいます。人は常に学び続けていかないといけないのです。

登壇者プロフィール

山崎智樹さん

SoRaStars株式会社、学習塾「個別指導・集団授業SoRa」、「ドリーム・シード・プロジェクト」代表

山崎さんInstagram:https://www.instagram.com/tomokisorastars

主催団体

NPO法人ROJE EDUCAREERプロジェクト(旧:教育と仕事フェスプロジェクト)

「一人一人が納得して自身のキャリアを決められる」ことを目標に、大学生向けイベントの企画・運営を行っている、大学生によるプロジェクトです。私たちは教育業界のキャリアの面白さを広く発信し、多様な教育キャリアと出会う機会を創出することで、教育業界でのキャリアを歩みたいと思う学生を増やし、納得のいくファーストキャリアを選択してもらうことを理念に掲げています。

詳細はこちら▷EDUCAREER(旧:教育と仕事フェス) | NPO法人日本教育再興連盟(ROJE) (kyouikusaikou.jp)

関連記事

 こちらの記事でも塾講師というキャリアについて紹介しているので、ぜひご一読ください。

編集後記

 ご講演を通して、山崎さんの何事にも挑戦する姿勢に感銘を受けました。近年「21世紀型スキル」も求められているので、私も挑戦と経験を重ねて創造的な思考を身につけたいです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 丸山和音)

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この記事を書いた人

先生を目指す学生の方に向けた情報を中心に発信していきます。

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