生徒さんが語る、明晴学園での生活とろう者・聴者のコミュニケーション(明晴学園インタビュー第2弾:生徒さんインタビュー)【みんなの教育技術×EDUPEDIAコラボ】

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目次

1 はじめに

 本記事は、小学館から出版されている『日本手話へのパスポート:日本語を飛び出して日本手話の世界に行こう』(2023年)に関連したインタビュー記事の第2弾です。

 聞こえない、聞こえづらい生徒さんが通う私立ろう学校で、幼・小・中学部からなる明晴学園。この学校では、日本手話による教育を大切にしています。第2弾の今回は、本書にも登場する、アヤセナユイのモデルになった中学部3年の生徒さん(※以後、本書のキャラクター名で紹介)に、日常生活やコミュニケーションの取り方などについてインタビューさせていただきました。インタビューは、最初の数分はホワイトボードを使った筆談で、残りの時間は手話通訳の方を交えて音声と手話で行いました。

生徒さんとEDUPEDIAのインタビュアーとの筆談の様子

(この取材は2024年6月7日に行いました。)

 ▼第1弾、第3弾の記事はこちらから▼

2 学校生活の思い出で一番印象に残っているものは?

——明晴学園での生活で最も印象深かった行事や思い出を教えてください。

セナさんは「千神祭(せんかみさい)」、アヤさんユイさんは「弁論大会」と回答)

写真奥左からセナさんアヤさんユイさん

セナさん:「千神祭(せんかみさい)」という文化祭が一番印象に残っています。というのも、千神祭で私は実行委員長を担当したからです。他の学校では文化祭の企画を先生が決めてしまうこともあると思うのですが、明晴学園では運営や内容、進行まで全てを生徒が担います。それをやり遂げられたことにとても大きな達成感を得られたので、一番印象に残ってるのは千神祭(せんかみさい)です。

千神祭(せんかみさい)の名前の由来

明晴学園の一期生が作った言葉。聞こえない・聞こえにくい子は千人に一人生まれてくるという。自分たちは「神様に選ばれた千人に一人のろう児なのだ」という、ろうであることを誇りに思うという意味の造語。

——アヤさん、ユイさんの二人は弁論大会を楽しかった思い出として挙げていましたが、どのような行事なのでしょうか?

アヤさん:弁論大会というのは、テーマを決めて自分の意見をみんなに伝えるイベントです。 例えばプレゼンテーションをするときに、話す姿勢や内容、自分の言いたいことをはっきり伝えられるかというのをみんなで採点して、一番点数が高かった人には賞が与えられます。

ユイさん:学校行事は仲間と取り組むものが多いですが、弁論大会は自分一人で自分の意見をまとめて話すもので、また他の人の意見からも学ぶことができるので、それが一番印象に残っています。

3 耳が聞こえにくい方と会話するときに気にかけてほしいポイントは?

——ろう者とコミュニケーションを取る際に、聴者[注]にどのようなことに気を付けてほしいと思いますか?

ユイさん:私たちの顔や体の動きをきちんと見てほしいです。お店に行って、店員さんにジェスチャーや筆談で「耳が聞こえません」と伝えることがあるのですが、それに気付いてもらえず、どんどん話が進んでしまうことがあります。私たちのことを見てくれれば「耳が聞こえないんだな」と分かり、そのうえでコミュニケーションを進めることができると思うので、まずはきちんと見てほしいなと思います。

——自分の耳が聞こえないということが相手に伝わったら、その後どのようにコミュニケーションを取ってほしいですか? 筆談の他に何かいいコミュニケーション手段はありますか?

ユイさん:とても大事な内容であれば筆談がいいと思いますが、日常的な場面なら、身振りや指差しで通じ合えるのではないかと思います。

[注]ろう者、聴者とは?

 ろう者とは、日本手話を母語とする「聞こえない人・聞こえにくい人」のことです。多くのろう者は、日本手話を母語として書記日本語(読み書き)を第二言語としています。

 聴者とは、ろう者と対比して、耳の聞こえる人のことを指します。

4 聴者とのコミュニケーション

——普段は身近な聴者の人とどのようにコミュニケーションを取っていますか?

アヤさん:筆談をしたり、スマホのメモ帳の機能を使って、打ち込んだものをお互い見せ合ったりしています。また、聴者の中にも手話ができる人はいるので、その場合は手話で会話します。

——聴者の多くは、ろう者の方々がどのようにコミュニケーションをしているかや、そもそも日本手話が言語の1つだということもあまり知らないまま生活しているので、例えばいきなり街で耳の聞こえない人に出会ったときなどに戸惑ってしまうことが多いと思います。
ろう文化にあまり馴染みがない聴者とのコミュニケーションで困ることや、逆にみなさん自身が気を遣っていることはありますか?

セナさん:例えば、(セナさんが出場する)陸上の大会で困った経験があります。会場で集合をかけられ、みんなに対して声で説明がされているときに、私が今ここで質問をしてもいいのか、待った方がいいのかということがわからないまま話がどんどん進んでしまって困りました。

——そのようなときにはどのように解決することが多いですか?

セナさん:自分からスマートフォンのメモ帳の機能を使って見せて質問したり、 自分が試合に出場するときにはゼッケンを示して「私はろう者です。これを教えてください」などと自分からお願いしたりして解決しています。

聴者の“察する文化”への戸惑い

アヤさん:聴者の文化では、曖昧に言ったりはっきり言わなかったりということが当たり前だと思いますが、それはろう者にとってはわかりにくいです。
以前、聴者の友達と一緒に公園で長い時間遊んでいたとき、その友達が「暑いね暑いね」と何回も言ってきたのです。そんなに暑くもないのにどうして何回も言うのだろうと疑問に思っていたら、実は「帰りたい」という意味を伝えたかったようなのです。「帰ろう」と言うと、私のことを傷つけてしまうのではないかと思って、曖昧な言い方をしていたということが分かりました。

5 将来の夢について

——将来なりたいものややりたいことを教えてください。

セナさん:デフリンピック(ろう者のアスリートのためのオリンピック)の代表になれるような陸上の選手になりたいです。

※2025年11月15日~26日の12日間、第25回夏季デフリンピック競技大会が東京で開催されます。東京2025デフリンピック大会情報サイト https://deaflympics2025-games.jp/main-info/about/

アヤさん:私は2つあって、1つ目は幼稚部の先生になりたいです。2つ目は言語学の研究者になりたいです。

——幼稚部の先生になりたいと思った理由は何ですか?

アヤさん:子どもと接する仕事をしたいからです。また、幼稚部の先生になるだけでなく、 聴者もろう者も関係なく、また産まれた場所も関係なく、そして音声でも手話でも子どもを育てられるような場所で働きたいと思っているからです。今はいろいろなコミュニケーションの壁がありますが、もしも聴者の人が小さいときから、身近にろう者がいることや、 ろう者とのコミュニケーションの取り方を知っていれば、ろう者も聴者も関係なくコミュニケーションが取れるような社会になるのではないかと思います。

——もし言語学の研究者になったら、どういうことを研究したいですか

アヤさん:例えば、日本語と日本手話の違いや、自然言語と人工的な言語の違いについて研究してみたいです。

——ユイさんはどうですか?

ユイさん:今はまだ将来の夢は決まっていませんが、やりたいことはたくさんあります。心理学の勉強もしてみたいですし、絵や本に関する仕事にも興味があります。ぜひ高校や大学で自分の進路を見つけられるといいなと思います。

6 明晴学園での日常も大切な思い出

——先ほど思い出深い行事を答えてもらいましたが、最後に、もし他にも印象深かった思い出などがあれば教えてください。

アヤさん:先ほど挙げた行事以外だと、日々の学校生活です。学校に来て、友達とおしゃべりをして、勉強をして、家に帰って、ということひとつひとつが思い出です。それが毎日毎日重なって、あっという間にもう卒業が近づいてきたので、「これ」という一つではなくて、全てが思い出かなと思います。

セナさん:アヤさんが言ったみたいに、一番の「これ」というのはなくて、毎日が本当に楽しいです。

——なるほど、ありがとうございます。ユイさんはどうですか?

ユイさん:私は、幼稚部から小学部の間は明晴学園には通っていませんでした。中学部から明晴学園に入り、これまでの学校とは全く違っていました。明晴学園は想像以上に人との距離も近く、 今まで本当に想像もできなかったようなことがたくさん起こりました。

7 書籍紹介

『日本手話へのパスポート:日本語を飛び出して日本手話の世界に行こう』(2023年)

本書は、ろう者の言語である「日本手話」の基礎表現や文法、ろうの文化など、手話を学ぶ上で知っておきたい基礎知識を、小中学生向けにやさしく解説する本です。
アヤ・セナ・ユイの3人のろう学校の子どもたちが、会話と写真で楽しく手話について紹介。二次元コードで手話動画を何度でも見られるので、手や顔、体の動きもよくわかります。
「そこが知りたい手話Q&A」、手話を使ったゲーム、コラム、50音や数字の指文字など、手話についての情報も満載。
初めて手話を学ぶ大人の方にもぜひ読んでいただきたい1冊です。
(小学館HPより)

8 編集後記

 アヤさん・セナさん・ユイさんそれぞれが、我々インタビュアーの質問にはきはきと答えてくださり、特に明晴学園での思い出を楽しそうに語ってくださった姿がとても印象に残っています。みなさんがこの学園でとてものびのびと学校生活を送っていらっしゃるんだということが感じられ、こちらまで嬉しい気持ちになりました。

 インタビューの前に行った筆談は、あまり我々が慣れていないこともあって大変な部分もありましたが、ろう者の方々ときちんと言葉を交わす体験が初めてだったので、とても貴重な機会であり、とても楽しかったです。

インタビュー終了後の集合写真

9 関連ページ

小学校教員のための教育情報メディア「みんなの教育技術」by小学館 でのコラボ記事はこちらからご覧になれます。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 片岡祐・宮部柚月)

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