1 はじめに
本教材「おれたものさし 」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳（平成29年7月）」の内容項目「善悪の判断、自律、自由と責任」に該当する教材です。
まず、「善悪の判断、自律、自由と責任」の意味を確認しましょう。
「善悪の判断」とは、「よいこと」と「よくないこと」を区別して判断し、自分で考えることです。
「自律」とは、周りに流されず自分で考えて決める力です。
「自由」とは、何でも好き勝手にできることではなく、自分の行動には責任が伴うということです。
「善悪の判断、自律、自由と責任」の教材に向き合う際には、3つの道徳的価値のどの価値に重きが置かれているかを確認します。
本教材「おれたものさし」は、「自律」もしくは「善悪の判断」について考える教材とし、主人公「ぼく」の葛藤を通して、正しいと思うことを勇気をもって行動に移す判断力を育てるねらいがあります。
小学2年生は、「よいこと」と「よくないこと」の区別が少しずつできるようになる時期です。
大人でも善悪の判断は難しい道徳的価値。
授業では「何が善い行為で、何が悪い行為か」を具体的な事例や教材から考えさせることがポイントです。
そして、2年生になると自律的な判断力が少しずつ育ち始めます。
自分がよいと思ったことをどんどん行動に移す子もいる一方で、引っ込み思案でなかなか行動に移せない子もいます。
「少しくらいならいいや」「どうでもいいや」という諦めの心もあり、負けそうになる心とどう向き合うかを授業の中で考えさせていくこともポイントです。
2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校2学年 道徳科 主題名「正しいことをすすんで」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』「おれたものさし」
- 内容項目 A-(1)善悪の判断、自律、自由と責任
あらすじ
ある日、主人公の「ぼく」は、クラスで先生のものさしが折れてしまう場面に出くわします。
実際にものさしを折ったのは「のぼる」ですが、のぼるは近くにいた「ひろし」に罪をなすりつけ、「おまえが折ったんだろ」と言いました。
周囲の友達も、のぼるの言葉に加勢してひろしのせいにしようとします。
その様子を見ていたぼくは、以前自分も同じようにのぼるに下じきを割った罪をなすりつけられた経験を思い出し、心が大きく揺れ動きます。
ぼくは思わずひろしの手から折れたものさしを取り、のぼるに渡しました。
教室中がその様子を見守る中、のぼるは黙って折れたものさしを受け取ります。
ねらい
よいことと悪いことの区別をし、よいと思うことを進んで行おうとする判断力を育てる。
3 授業の工夫
「おれたものさし」では主人公「ぼく」の心情の変化を中心に話し合う展開が基本です。
この章では、導入部分と授業前半のポイント、そして主人公の立場で考える話し合いのポイントについて解説します。
授業の導入で押さえたい2つ
授業の導入では次の2つを必ず押さえます。
①教材への興味関心を高め、話し合いの方向性を確認する
教材の興味関心を高め、話し合いの方向性を確認することは授業導入の基本です。
ここでのポイントは、子どもたちに何を問いかけるかです。
「友達が悪いことをしていたら、みんなはどうしますか？」
「注意したかったけれど、言えなかったことはありますか？」
導入で問いかける言葉によって授業の方向性が変わります。
授業のねらいに沿った導入・問いかけを用意しましょう。
②ぼく、のぼる、ひろしの関係を確認する
「おれたものさし」の主な登場人物はぼく、のぼる、ひろしの3人です。
この3人の関係を押さえましょう。
教材の読み方によっては、3人の関係を勘違いする子や、ぼくの心情を読み違える子が出てくる可能性があります。
黒板に3人の関係をマップ（図）にし、子どもたちが視覚的に理解できるようにしましょう。
こうした3人の関係を整理していく中で、「のぼるがひろしに折れたものさしを渡して罪を押し付けている」「以前にぼくものぼるに罪を押し付けられた」という状況も確認していきます。
「ぼく」の心情を中心に話し合う
授業の前半では、2つの場面を中心に「ぼく」の心情を話し合います。
①のぼるがひろしのせいにしたときの「ぼく」の心情
T「のぼるがひろしのせいにしたとき、ぼくはどう思っただろう？」
C「ひろしがかわいそう」
C「ひろしが本当に折ったのかな？」
C「のぼるが悪いのに」
この場面で重要なことは「人のせいにする行為」「悪さを人に押し付ける行為」に対して子どもたちがどのように考えているかです。
「のぼるは人のせいにして悪い」「ごめんなさいが言えないのぼるはダメ」とする意見が大半を占めると予想されます。
ただ、「すぐに人のせいにしようとする気持ちはわかる」と、のぼるの気持ちに同情する子も中にはいると思います。
失敗をしたときに、のぼるのように逃れようとしたり、言い訳を考えたりするのが人間の性（さが）です。
大人でもそうですよね？
子どもたちにもきっと罪を押し付けてごまかしたり、嘘をついたりした経験があるはずです。
「○○くんのせいにしちゃったな」「弟がやったとお母さんに言ったな」という経験は、話し合いの視点を増やし、子どもたちの考えをより深めるきっかけになります。
ぼくの心情を話し合うことが授業の中心ですが、
「なぜのぼるはおれたものさしをひろしに渡したのだろう？」
「みんなものぼるみたいにしないかな？」
という補助発問で、子どもたちの思考に揺さぶりをかける展開も考えられます。
②胸がどきっとしたときの「ぼく」の心情
T「どうしてぼくはどきっとしたのだろう？」
C「ひろしと同じことをのぼるにされたから」
C「ひろしの泣きたい気持ちがわかったから」
C「嫌だって言いたかったのを思い出した」
C「このままではひろしが悪者にされていまう」
C「何とかしないといけない」
C「あのときのぼくは何もできなかった」
ぼくの中にはさまざまな心情があふれ、まさしく葛藤している場面。
この葛藤場面で子どもたちに考えさせたいのは、正しいことをする難しさと、それに負けない心です。
主人公「ぼく」の立場で考え、判断する
ぼくの葛藤が見えたところで、「みんなが『ぼく』だったら、どうしますか？」と発問します。
子どもに「自分だったらどうするか」を考えさせ、注意できる気持ちとできない気持ちの両方を話し合います。
この場面では、ペープサートを活用した役割演技をするのも方法の1つです。
主人公のぼくを子どもが、のぼるを先生方が演じます。
ペープサートは、子どもたちが物語の場面に臨場感を持って入り込み、場面ごとの変化や登場人物の気持ちをより確実に理解できたり、登場人物の葛藤や心情を実感したりしながら学ぶことができます。
「正しい」と思ったことをどう行動に移すか、子ども自身が自分事として考えられるように工夫しましょう。
また、たとえば、「注意することは本当に正しいことなのかな？」「注意できないとき、どんな気持ちになる？」と多面的・多角的に考えさせる発問をしたり、「○○さんの意見についてどう思いますか？」「友達の意見を聞いて、自分の考えは変わりましたか？」と友達の意見に触れさせる問いかけをしたりします。
また、その他にも、「注意できる」「注意できない」を子どもたちが意思表示して比較しやすくし、対話的な学びを促す工夫も効果的ですできます。
善悪を判断する難しさを感じたり、友達の意見を聞いて自分の考えと比較したりしながら、より深く「善悪の判断」や「自律」について考えさせていきましょう。
正しいことをする難しさに負けないこと、正しいことは進んでする大切さを子どもに気づかせたいですね。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。
コメント