
1 はじめに
本教材「ハムスターのあかちゃん 」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」の内容項目「生命の尊さ」に該当する教材です。
「生命の尊さ」の授業では、子どもたち自身の経験や家族との関わりから命の大切さを実感させ、対話や体験的活動を通して多面的に深く考えさせることがポイントです。
命の連続性や家族愛にも触れながら、子ども一人ひとりの思いを大切に受け止める授業づくりを意識しましょう。
「生命の尊さ」は人生経験の浅い1年生には大きすぎるテーマです。
そのため、「生命」をわかりやすく捉え、考えていく工夫が必要です。
イメージマップで子どもたちの意見や気付きを可視化しながら、多様な視点で「生命」についての考えを深められるようにします。
1年生なりに「生きていることのすばらしさ」や「生きるっていいな」と気づきが得られればOKです。
命や死に関する話題は、子どもたちの家庭環境や経験によって受け止め方が異なります。
子どもたちの中には、飼っていたペットを亡くして生死を身近に感じた子もいれば、まだ生死に関わる経験がない子もいます。
場合によっては授業で涙を流す子や、激しく動揺する子もいるかもしれません。
子どもたちの発言や思いを否定せずに丁寧に受け止め、家庭環境への配慮や、安心して話し合える雰囲気づくりを意識して授業をしましょう。
2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校1学年 道徳科 主題名「いのちのすばらしさ」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』「ハムスターのあかちゃん」
- 内容項目 D-(17)生命の尊さ
あらすじ
「ハムスターのあかちゃん」は、小さなハムスターの赤ちゃんが生まれ、お母さんハムスターがその赤ちゃんを大切に育てている様子を描いたお話です。
主人公の子どもがハムスターの赤ちゃんの誕生を見守りながら感じたことや思いを語る形でお話は進みます。
生まれたばかりのハムスターの赤ちゃんは、毛も生えておらず、目もまだ開いていません。お母さんハムスターは、赤ちゃんを口にくわえて運び、優しく世話をします。
やがて、赤ちゃんは少しずつ成長し、10日ほど経つと毛が生え、模様もはっきりしてきます。
お母さんのお腹にくるまる姿や、あくびをする様子も描かれています。
ねらい
身近な生き物の誕生や成長の様子を優しく見つめ、命あるものを大切にしようとする態度を育てる。
3 授業の工夫
「ハムスターのあかちゃん」では、お母さんハムスターが赤ちゃんを大切に育てている様子を中心に「生命の尊さ」について話し合います。
お母さんハムスターが赤ちゃんハムスターを育てる気持ちを考える
お話を読み、生まれたばかりの赤ちゃんハムスターを見てお母さんハムスターがどんなことを思ったか、どんな気持ちで世話をしているかを、発問を通して子どもたちに考えさせていきます。
お母さんハムスターの気持ちや思いに迫る発問
T「お母さんハムスターはどんな気持ちで赤ちゃんを育てているかな?」
C「宝物のように大切に育てている」
C「早く大きくなってほしい」
C「元気に育ってほしい」
赤ちゃんの生命を守り育てるお母さんハムスターの姿から、命を守ることの大切さや親の愛情に気づかせていきましょう。
また、生まれたばかりの赤ちゃんと10日後の成長した姿を比べて、どんな違いがあるかを観察する活動から話し合う展開も考えられます。
T「生まれたばかりの赤ちゃんハムスターと10日後の赤ちゃんハムスターでは何が違いますか?」
C「体が大きくなっている」
C「生まれたばかりは毛が生えていなかったけれど、10日後は毛が生えている」
C「絵を見ると、目が開いている」
赤ちゃんたちの成長の速さや育ち方の違いに注目し、それぞれの赤ちゃんが唯一無二の存在であることに気づかせていきたいですね。
T「赤ちゃんハムスターはみんな同じように育つのかな?」
C「一匹一匹みんな違う模様だからちがう」
C「体の大きさも違うんじゃないかな」
C「育つ速さはバラバラだと思う」
C「みんな違う育ち方だけれど大切」
子どもたちが身近な生き物の成長をやさしい目で見つめ、一匹一匹がかけがえのない存在であること、命が親から子へとつながっていくことに気づき、生命を大切にしようとする気持ちが湧いてくる授業を目指しましょう。
生命を実感する工夫をする
1年生に「生命の尊さ」を考えさせたり、気づかせたりするのは難しい活動です。
そのため、子どもたちが生命を実感する工夫が必要になってきます。
今回の「ハムスターのあかちゃん」では、ハムスターの赤ちゃんを実際に見たり、育てたりした経験がないお子さんがほとんどだと想定されます。
そこで、ハムスターの赤ちゃんの実際の大きさ(約2センチメートル)をペープサートや写真などで示し、子どもたちが実感を持って生命の小ささや成長を感じられるようにします。
可能であればハムスターが生まれた直後と10日後の様子がわかる動画資料を活用するとよいです。
生まれた直後の毛が生えていない様子がわかり、10日間の赤ちゃんハムスターの成長ぶりもよくわかります。
さらに可能であれば、赤ちゃんハムスターを授業で用意できるとよいです。
ハムスターが難しい場合は、学校で飼育している動物を活用したり、ハムスター以外の動物が誕生する様子を視聴したりする方法も考えられます。
いずれにせよ、1年生が「これが命か!」「命ってすごいなぁ」と感じられる工夫をしたいですね。
自己を見つめる時間を設ける
子どもたち自身の経験と授業での学びを結びつけて考える「自己を見つめる時間」を設けます。
授業の最後に「これまでに生命は大切だと感じたこと」を振り返りましょう。
身近な生き物や子どもたち自身の生命について考えを広げていきましょう。
T「これまでに生命は大切だと感じたことはありますか?」
C「おばあちゃんが病院に行ったとき、命が大切って思った」
C「弟が生まれたとき、すごいって思った」
C「ペットのハムスターが死んじゃって、いっぱい泣いた」
C「金魚が死んじゃって、命は大事なんだなって思った」
C「人が死んだら、もう会えないって言ってたから、大切なんだと思った」
「これまでに生命は大切だと感じたことはありますか?」という発問はかなり抽象的です。
次の補助発問で具体的に聞く方法もあります。
「いなくなったらさみしいなって思ったことはある?」
「誰かがけがしたり、病気になったときどう思った?」
「動物が死んじゃったことある?」
「赤ちゃんを見たことある?どう思った?」
このあたりの話し合いについては、記事の冒頭でも書いたように、命や死に関する話題は、子どもたちの家庭環境や経験によって受け止め方が異なる部分です。
繰り返しになりますが、子どもたちの発言や思いを丁寧に受け止め、家庭環境への配慮や、安心して話し合える雰囲気づくりを意識しましょう。
子どもたちが「生命の尊さ」を実感する授業になることを願っています。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。

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