
1 はじめに
本教材「がっこうのものは?」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」の内容項目C「規則の尊重」に該当する教材です。
「なぜ約束やきまりを守る?」子どもの疑問を大切にする授業を
「道路を渡るときは横断歩道を使う」「授業中はおしゃべりしない」といった約束やきまりを知っている1年生は多いです。
健気に守ろうとする姿も多く見られます。
しかし、「なぜ約束やきまりを守るのか?」「規則やきまりはなぜ必要なのか?」については、1年生はまだ深く考えていません。
きまりを1年生に提示した際に、「なんで?」「えー、いやだー」「面倒くさい」という言葉を聞くことがありませんか?
わがままだなと先生方は思うかもしれません。
ただ、これらの子どもたちの言葉には「なぜきまりや約束を守るの?」「どうしてこんな約束をするの?」という意味が含まれていないでしょうか?
実は、子どもたちは普段の生活から約束やきまりの意味を考えているのです。
そこで、1年生の「規則の尊重」の授業では、規則やきまりを多面的・多角的に考えさせる授業展開を意識します。
子どもたちが普段から抱いている「なぜきまりを守る?」という疑問を大切にした授業をしていきましょう。
規則の意味や価値を問う
ポイントは、約束やきまりといった規則の意味や価値を問う発問です。
「なぜきまりは必要か?」「ルールを守ることでどんな良さがあるか?」「きまりがなくてもよいと思うことは?」など、多くの問いを通して子どもたちの考えが深まる工夫をします。
「約束やきまりを守る=当たり前」と思う子が多いからこそ、その理由や意味を問う必要があります。
教材「がっこうのものは?」では、「学校のものは公共物=みんなが使うもの=大切に使う」という図式が浮かびますが、その意味や価値を問うことが大切です。
実生活の場面と結びつけて規則を考える
また、「規則の尊重」の授業では、子どもたちが実生活と結びつけて公共物や公共の場所の使い方を考えられるように授業を展開します。
1年生の子どもたちは公共の意識がまだ低く、自己中心性が強い側面があります。
まずは、自分たちに身近な教室や図書室、クラスで使うボールなどから、約束やきまりの大切さに気づけるようにしましょう。
そして、「学校以外にもみんなが使う物や場所はあるかな?」と問い、道路や公園、電車の中といった実生活の場面でも、約束やきまりを守る考えを広げていけるようにしましょう。
2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校1学年 道徳科 主題名「みんながつかうもの」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』「がっこうのものは?」
- 内容項目 C-(10)規則の尊重
あらすじ
教材「がっこうのものは?」には、教室内で活動している様子と校外で学習している様子の2枚の場面絵と、「学校のものを大切にしている子を、探してみよう」という言葉が掲載されています。
ねらい
約束やきまりを守り、みんなが使うものを大切に使おうとする心情を育てる。
3 授業の工夫
「がっこうのものは?」は、2枚の場面絵を活用した授業展開が基本です。
2枚の場面絵から探す活動で意欲を高める
授業の中心となる活動は、2枚の場面絵から学校のものを大切にしている子を探す活動です。
しかし、場面絵の中には学校のものを大切している子がとても少なく、大切にしていない子の方が多いです。
例えば、教室内で活動している様子の場面絵では以下のような行動が見られます。
・図鑑のページを破いている
・ペンでタブレット端末を叩いている
・図鑑を床に落としている
・本に落書きがされている
・机に落書きをしている
・タブレット端末を椅子の上に置いている
・タブレット端末で遊んでいる
・積んだ本の上にタブレット端末を置いている
2枚目の校外で学習をしている場面絵からは以下のような行動が見られます。
・一輪車を池で濡らしている
・池にサッカーボールが入っている
・タブレット端末を使って池に入ったサッカーボールを撮影している(授業の内容と関係ない使い方をしている)
・植木への水まきの水でタブレット端末が濡れている
・タブレット端末を持ちながらボール遊びをしている
・花壇に入って蝶を追いかけている
・木の枝を折った跡がある
1年生は「探す活動」が大好きです。
できる限り多くの子が意見を言う機会を与え、授業への参加意欲を高めていきましょう。
2枚の場面絵から考えさせたいことは?
本授業で肝心なのは、この探す活動の後にどのような発問をして授業を展開していくかです。
「探す活動」で終わってしまっては、道徳の授業としては不十分。
子どもたちが見つけたことを、授業にどう生かしていくかが先生方の腕の見せどころです。
本授業のねらいである「約束やきまりを守り、みんなが使うものを大切に使おうとする心情を育てる」に迫る発問を考えていきましょう。
まず場面絵の様子を自分事として考えていく発問をします。
T「みんなならどうする?」もしくは「絵の中にいる子たちはどうすればいいのだろう?」
C「大切に使う」
C「約束を守る」
C「タブレット端末の置き場所に気をつける」
C「きまりを守って本を大切に使う」
1年生なりの「ものを大切に使う」「約束を守る」という言葉が出てきます。
さらに子どもたちに問います。
T「どうして大切に使うの?」もしくは「どうして約束を守るの?」
C「タブレット端末や図書室の本は学校のものだから」
C「みんなが使うものだから」
C「約束を守らないと壊れたり、汚したりするから」
C「次に使う人の迷惑になるから」
「学校のものはみんなが使うもの」「次に使う人のことを考える」という気づきが子どもたちの中に生まれてきます。
また、「どうして学校のものを大切に使うの?」という「学校のもの」を強めた発問も有効です。
C「もし図書室の本に落書きがあったら嫌な気持ちになる」
C「池の中にあるサッカーボールがかわいそう」
C「学校は勉強をする場所だから、みんなが勉強できる使い方をする」
探す活動から、「規則の尊重」に迫る意見が数多く出る授業展開が期待できます。
学校生活を振り返る
2枚の場面絵から探す活動と、ねらいに迫る活動の中で、子どもたちはすでに自分たちの学校生活と重ね合わせながら思考しています。
授業の後半では、子どもたち自身の学校生活を振り返る活動を取り入れます。
「学校で使うもの」や「きまり」の視野を子どもたちが広げていく展開を意識するとよいです。
「学校のもの」を広げる発問
T「みんなが使う学校のものには、何がありますか?」
C「図書室の本」
C「クラスのボール」
C「机や椅子、ロッカー」
C「教室」
C「廊下や流し場」
自分たちの身の回りが「学校のもの」で囲まれていることに気づきます。
学校のきまりを振り返る発問
T「学校で使うものにはどんなきまりがありますか?」
C「ボールはかごの中に入れる」
C「タブレット端末は両手で持つ」
C「廊下は右側を歩く」
「学校のもの」には約束やきまりが多くあることに気づきます。
自己を振り返る発問
T「学校のものを大切に使っていますか?」もしくは「学校のきまりを守っていますか?」
C「図書室の本を大切に使っています」
C「ロッカーの中が汚いかも」
場面絵に近い行動をしている子も中にはいるかもしれません。
こうした子をフォローしながら、「これからどうするか?」という未来志向で考えさせていきましょう。
「ルールを守らないと周りの人が困る」
「約束を守らないと気持ちよく生活できない」
「きまりって大切なんだな」
このような言葉が出てくるとよいですね。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。

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