
1 はじめに
本教材「きをつけて 」は、小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」の内容項目A「節度、節制」に該当する教材です。
「節度、節制」の主なねらい
「節度、節制」の内容項目には二つのねらいが含まれています。
一つは基本的な生活習慣に関わること。
もう一つは節度をもって節制を心がけた生活を送ることです。
健康や安全、物や金銭の大切さ、規則正しい生活など、自分自身を律する力を育てるのが、「節度、節制」の大きなねらいです。
「きをつけて」は、節度をもって節制を心がけた生活を送ることに重きが置かれた教材と見てよいでしょう。
子どもたちの律する力を育てる「節度、節制」の授業設計をするために、次の2点をポイントにします。
子どもたちが「節度、節制」を具体的に考える
1つ目のポイントは、子どもたちが「節度、節制」を具体的に考えることです。
「節度、節制」はとても抽象的な言葉です。
大人でもその言葉の意味を説明できる人は少ないのではないでしょうか。
そこで、授業では1年生が日常で使う「ちゃんとする」「きちんとする」をキーワードにします。
「ちゃんと朝早く起きる」「きちんとルールを守る」といった言葉で、子どもたちの道徳的実践意欲を高める工夫をしていきます。
道徳的実践意欲とは「道徳的価値を実践しようとする意志の働き(小学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳(平成29年7月)」P20)」です。
子どもたちが「節度、節制」をする姿を具体的に考え、実践しようとする意欲を高めましょう。
「節度、節制」を生活体験と結びつけて考える
2つ目のポイントは、「節度、節制」を子どもたちの生活体験と結びつけて考えさせることです。
抽象的な内容である「節度、節制」を子どもたちにとって身近な生活体験から考えていきます。
「ついつい夜更かしをして朝起きられなかった」「我慢できずにアイスを食べ過ぎてお腹を痛めた」という体験は、生活リズムがまだ整っておらず、多少わがままな面もある1年生ならある体験です。
こうした生活体験から「きちんと〇〇をする」を考える授業展開を設計し、子どもたちが自己の生き方を考えられるようにします。2 教材、あらすじ、授業のねらいについて
- 小学校1学年 道徳科 主題名「あんぜんに たいせつに」
- 教科書 東京書籍 『新しい道徳』「きをつけて」
- 内容項目 A-(3)節度、節制
あらすじ
「きをつけて」には5枚の場面絵が掲載されています。
①子どもたちがサッカーボールを追いかけて車道に飛び出そうとしている場面
②子どもたちが治安の悪そうな場所で遊んでいる場面
③子どもたちが道で広がって歩き、自転車や自動車の通行を妨げている場面
④財布が空になった子と貯金をしている子がいる場面
⑤雨の中、子どもたちが川の近くにいる場面
ねらい
危ない場所や遊びを理解し危険から身を守るとともに、ものや金銭を大切にする節度や節制のある態度を育てる。
3 授業の工夫
「きをつけて」は5つの場面絵を活用した授業が基本の流れです。
5つの場面絵から「節度、節制」を考える
一つひとつの場面絵には、気持ちを抑えたり、律したりする要素が多く含まれています。
「この場面では何に気をつける?」と聞いていきましょう。
各場面絵から子どもたちに気づいてほしい、あるいは考えてほしいことを以下にまとめました。
場面絵①
・道路でボール遊びをしない
・「とまれ」のマークのところで止まる
・点字ブロックの上を通らない
場面絵②
・「ふしんしゃ注意」と書いてある
・ゴミが捨てられたままになっている
・道路からは見えにくい場所
・危ない場所では遊ばない
場面絵③
・道に広がらない
・一列になって歩く
・左側を歩いているから右側を歩く
場面絵④
・お金を使い過ぎない
・お金は計画的に使う
場面絵⑤
・雨のときは川の近くで遊ばない
・川で遊ぶときは大人と一緒に遊ぶ
「他に気をつけることは?」と視点の変更を促しながら授業を進めるのも効果的です。
「私たちの生活には気をつけることがたくさんある」と、子どもたちは「節度、節制」の大切さに気づき始めます。
そして、場面絵から出された意見を深掘りしていきます。
「どうするといいかな?」と改善点を見つける発問をしてみましょう。
例えば、場面絵①では「ボールを追って道路に飛び出さない」「道路で遊ばない」という意見に対して、「どうするといいかな?」と問い返します。
「止まれのマークで止まる」「公園で遊ぶ」という具体的かつ建設的な意見が出てきやすくなります。
「気をつけること」を中心に授業を進めると、「〇〇しない」「△△はダメ」といった禁止や注意だらけの意見ばかりで、息苦しい授業になる可能性があります。
「どうするといいかな?」には、「節度、節制」が自分たちの生活を楽しく、良くする行動や考えであることに気づかせる意味があります。
「みんなならどうする?」というさらにレベルアップした補助発問で、場面絵の内容を子どもたちが自分事として捉え、改善案を考える展開もおすすめです。
場面絵から離れ、自分たちの生活を見つめ直す
授業の後半では、場面絵から少し離れ、自分たちの生活を見つめ直す活動を取り入れます。
「子どもたちが自分事として考える難しさ」は、道徳授業の課題です。
場面絵から離れずに授業を終えると、物語にある他人事として扱われる可能性があります。
そこで、「実際に絵と似たようなことがありませんでしたか?」「絵と似たようなことを見たり、聞いたりしませんでしたか?」と問い、考える視点を子どもたちの生活に移していきます。
「もう少しで危なかったことはありませんでしたか?」「痛い思いをしたことはありませんでしたか?」と、もっと具体的に聞いてもよいでしょう。
すると、「たくさん食べ過ぎてお腹がいたくなった」「楽しそうな場所だと思ったら怖い人がいた」など、「節度、節制」を考える場面が出てきます。
もし反応が薄いようでしたら、先生方から場面を用意しましょう。
例えば、
- おやつを食べすぎて夕ご飯が食べられなくなった
- ゲームを長時間やりすぎて寝るのが遅くなった
- 授業中におしゃべりを続けて先生に注意された
- 放課後に遊びすぎて宿題をやる時間がなくなった
などの場面が考えられます。
子どもたちの生活から出てきた具体的な場面は、場面絵とは現実味が違います。
子どもたちも真剣に考えるでしょう。
さらに「Aさんならどうする?」「もし同じ場面に自分がいたら?」という補助発問は、子どもが自分事して考える発問として効果的です。
人間の弱さも共感的に受け止める
5つの場面絵には、人間の弱さが含まれています。
例えば場面絵③では、「友達と話したい」「話しながら歩くのは楽しい」といった「節度、節制」を揺るがす欲が見えます。
場面絵④では、「ほしいものがたくさんあって全部買いたい」という欲が垣間見えます。
このような人間の弱さにも気づかせられると、人間理解を追求した道徳授業としてさらに深みが増します。
「何で広がって歩いたのだろう?」「どんな気持ちだったんだろう?」と問うと、「友達とおしゃべりしたかったから」「楽しくてついつい広がった」という気持ちを抑えられなかった意見が出てきます。
さらに「みんなもこういうことがありますか?」と問うと、「学校の帰り道で友達とのおしゃべりに夢中になって、注意されたことがあった」「楽しすぎて森の奥まで行っちゃったことあったな」「ゲームをやり過ぎてお母さんに怒られたな」など、欲に負けた子どもたちの本音が聞かれるでしょう。
子どもたちの本音から出た「どうしても我慢できなかった人間の弱さ」も共感的に受け止めながら、「節度、節制」の大切さを考えさせていきたいですね。
執筆者プロフィール
マー
小学校教員を15年務めた後、フリーのWEBライターに転身。教員時代は安全主任、体育主任、生徒指導主任、学年主任を担当。現在は「物事のよさをより多くの人に」をモットーに教育系記事、金融系記事を主に執筆。趣味は野球観戦とランニングで、野球やマラソン・駅伝を応援するブログを運営している。

コメント