ニュースの見方を考えよう~メディアリテラシー教育~

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目次

1 はじめに

この実践は、東京学芸大学附属小金井小学校教諭である、三浦尚介先生が行なったメディアリテラシーを育むための授業実践です。情報の受け手としての姿勢、情報の送り手としての自覚を養うことを目指しています。

2 実践内容

単元名

みんなで考えようニュースの見方

単元について

本単元は教科書にない自作の小単元です。総務省事業で作成された映像教材「親子で考えようテレビの見方」に登場する3つの架空のニュースを活用し、学習内容を3年生の実態に合うようにアレンジしました。

授業の目的

3つのニュース番組を比較することで、情報には「作り手」がいるということ、そしてその人たちの意図や考えによって実際の出来事が再構成されているということに児童は気づくことができます。情報には「作り手」がいるという概念はメディアリテラシーの基礎中の基礎です。生活の様々な場面で必要となる大切な概念なので、しっかりと身に付けさせたい力です。

さらに、自分自身が情報の「作り手」として機能することも意識させることを求めています。物事は伝え方によって、良くも悪くも伝えることができます。そのことを実感させ、その上で気をつけなければいけないことを考えさせる必要があります。

児童の実態

本学級では、ほとんどの児童が日常的にニュース番組を視聴しています。視聴の動機は様々ですが、ニュース番組を重要な情報源として捉えていることに違いはなく、その内容について絶対的な信頼を寄せています。その点で、情報の受け手としては未熟だと言えます。

児童はニュース番組を絶対的なものとして捉えていますが、実際はテレビ局 や番組によって主義主張が異なっていたり、速報として断片的な情報が流れていたりすることもあります。それがすべてだと鵜呑みにすると、かえって不利益を被ってしまうこともあります。ニュース番組は数ある情報源の1つに過ぎず、様々な情報源から情報を得て、それらを吟味しようとする態度を養いたいと思っています。

また情報の発信者としても児童はまだまだ未熟で、公平性にかける情報の発信の仕方をしてしまうことがしばしば見受けられます。それは日常生活の友達や教師とのやり取りにも現れ、トラブルを引き起こしてしまうことがあるのです。自分に都合のいい情報だけを発信すると、他人を貶めることにつながることがあるのですが、それを無意識にやってしまう児童が見受けられます。他人のことをよく言うのも、悪く言うのも自分次第だということを自覚させ、思いやりをもって公正公平な情報発信を心がけるように促したいと考えています。

本時の学習

【ねらい】

〇クマ騒動をめぐる3つのニュース番組を比較し、それぞれ伝え方や伝えている内容が異なることを知ることができる。

〇同じ出来事でも伝え方が変われば、情報を受け取る人に異なって伝わることを知ることができる。

【学習の流れ】

【使用教材】

♦ワークシート

▽ダウンロードはこちらから
添付ファイル

♦動画教材

小学校6年国語「作り手の意図をとらえてニュースを読み解こう」

単元:ニュースを読み解こう(ニュースを比べよう)の映像教材、「Aテレビ」「Bテレビ」「Cテレビ」 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/hoso/kyoiku.html

3 授業を終えて

児童の反応

身近な題材だったので、どの児童も興味を持って意欲的に参加し、授業は大きな盛り上がりを見せました。3つのニュースを比較する活動は、児童にとって驚きが大きかったようで、あまりの内容の違いに声を上げていました。

<前半>3つのニュースの比較

〇演出面(字幕や提示資料、効果音、音楽など)
とてもよく読み取ることができていた。淡々と伝えている、怖い雰囲気を強調しているなど番組の雰囲気についても話し合うことができました。

〇番組の伝えたい内容
それぞれ扱っていることが「農家の被害」「異常気象」「動物愛護」と3年生にはやや難しかったが、違いがあるということについてはほとんどの児童が実感できていました。

〇「なぜ番組によって違いがあるのでしょうか?」
この発問に対しては「作るときのテーマが違っているから」「テレビ局が違うから」「記者が違うから」という意見が児童から自然に出てきました。

児童は日頃から様々な作品を作り、それを互いに鑑賞しあっています。これまではニュース番組は絶対的なものとしてとらえていましたが、比べてみたことでそうではないと直感し、ニュース番組も自分たちの作品と同じで「作る人が違えば作品が違う」のは当たり前という感覚で捉えられるようになったと思われます。

<後半>ニュースを作ってみよう

一枚の写真に「見たまま」「良い想像で」「悪い想像で」の3つの観点でコメントをつける活動を行いました。写真は「担任が誰もいない教室で、ある児童の机に手を置いている」というものです。これが実際に授業で使用した写真です。

担任が写っている写真に好き勝手にコメントできるということで、多少のおふざけも入りながら児童は活動にのめり込んでいきました。「悪い想像」のところで盛り上がりはピークに達したので「今はこの場で、本気じゃないって分かってやっているから笑えるけど、普段、自分のことについて本気でこういうことがあったらどう?」と問いかけました。教室は静まり、「やだ。」「悲しい。」「学校に来たくなくなる。」というつぶやきが児童から聞こえてきました。
「だからニュースはすごく気をつけて作られているんだよ。君たちも普段の生活で気をつけなければならないことはないかな?」と、問いかけて授業を終了しました。

日常生活に溶け込むメディアリテラシー

この授業を行なった次の日、児童同士のちょっとしたトラブルが起きました。音楽の時間、合奏のミスを巡って、「文句を言われた」「いや言っていない」ということでけんかになったのです。話がこじれていたので担任が仲裁に入り、全員の前で詳しく話を聞いていきました。その最中、立場によって言っていることが180度違う様子を見ていた周りの児童が「なんか昨日のニュースの授業みたいだね。」と言うと、大勢の児童が「そうだね。」と頷いたのです。「何が本当なんだろう。」そんな思いで、それぞれの立場に立って考えながら話を聞いていたようです。

結局、どちらも嘘をついていた訳ではなく、「面と向かって言われていないけど、話に自分の名前が出てきたので文句を言われたと思った。」「ミスがあったために出番がなくなった子がいたので、その子をなぐさめていただけ。」ということで決着がつきました。「なーんだ、そういうことだったんだ。きちんと両方から話を聞けてよかったね。」メディアリテラシーが生活に根付いていることを実感できた瞬間でした。

4 編集後記

児童が親近感の湧きやすいニュース番組を教材に用いたことで、学習を終えた児童がより自分の日常生活に生かしやすくなるのではないかと思いました。この授業は、ニュース番組をはじめとして、目の前の情報を吟味するという習慣をつけるきっかけになるのではないでしょうか。
(編集・文責 EDUPEDIA編集部 佐藤 睦)

5 実践者プロフィール

三浦尚介先生
東京学芸大学附属小金井小学校教諭
関連URL:総務省教育者向け情報 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/hoso/kyoiku.html

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