高次脳機能障害の生徒への理解と支援 ~関係機関と連携した包括的支援の実践~(林田麻理子先生)

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作成者: EDUPEDIA編集部 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。

http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文 まとめのページ

http://edupedia.jp/entries/show/1049

2 高次脳機能障害の生徒への理解と支援 ~関係機関と連携した包括的支援の実践~

高次脳機能障害とは、事故や脳炎後遺症など後天的な脳の損傷によって起こる障害で、言語・記憶・情緒の動きが阻害され、家庭や社会生活に支障をきたすものである。

この論文では、本障害に向き合うきっかけとなった本校高等部生徒Aの事例報告を保護者の了解を得てとりあげるとともに、生徒Aの支援をする過程で医療や福祉機関などから本障害について知見を深め、その結果明らかになった特徴や問題点などについて言及していきたいと思う。

(1)事例報告

本校高等部生徒Aは、現在高等学校に準ずる教育課程で学習し、身体障害者手帳と精神障害者手帳を取得している。独歩であるがふらつきがある。高次脳機能障害としては、注意障害・記憶障害・遂行機能障害・脱抑制・病識の欠如などが認められている。

生徒Aは中学校一年生時に木から転落して頭を強打した。三週間ほど意識不明で気管を切開するほど重篤な状況であったというが、奇跡的に一命を取り留めた。その後遺症として高次脳機能障害を負い、中学部二年生の四月に本校に転入してきた。転入当初は、ふらつき、場にそぐわない言動、衝動性、自己認知の混乱、気分のムラ等が見られ、担任を中心とした安全管理と本人、保護者との信頼関係の構築等の支援が行われた。

生徒Aが中学部三年生となると、急性期に医療を受けていた病院が診察終了となってしまい、その頃から家庭(余暇時間)における問題行動が頻発するようになった。自傷(ライターでのほお焼き・頻回なリストカット等)・夜間徘徊・作話・二階自室からの飛び降り・家庭での破壊行動(壁に穴)などである。「人を殺しました。」と警察に出頭したり、夜に徘徊し、川に行って首まで入水し、消防や警察が出動する騒ぎになったこともあった。

これらの問題行動に、学校医や外部専門家の臨床心理士などから二次障害を心配する声が寄せられ、校内委員会を開くに至った。東京都からは教育相談センターのアドバイザリースタッフ(スクールカウンセラー SC)が派遣された。まずは、命の安全を優先することと新たな医療機関につなぐ必要性を学校全体で確認した。COは医療機関の情報を得るために都や区の支援拠点機関に相談し、対応していただける医療機関を探し、保護者に紹介した。この過程で医療の視点から見ても本障害、特に若年層に対応できる医療機関が数少ないことが明らかになった。医療機関の他にも活用できる福祉サービスを探したが、高次脳機能障害に対する福祉サービスは皆無で、身体手帳で受けられるサービスも生徒Aの実態にはそぐわないものばかりであった。

一方、保護者は喪失感、困り感、疎外感(支援を受けられない感)が激しく、すっかり疲弊し、新たな支援の提案を受け入れられないでいた。叱っても懇願しても問題行動がやまない我が子に対し「このままだと虐待してしまう」というSOSが学校に入ったこともあった。(この時は児童相談所に連絡した)

高等部進学の時期でもあり、校内では毎月のSC訪問を利用して生徒Aへの理解を深め、高等部への引き継ぎを綿密に行った。

保護者の困り感に寄り添い、担任とCOを中心に話を傾聴し、支援を少しずつ提案していく中で保護者は医療を受け入れ、関係者会議の開催にこぎつけた。ここまでに支援着手から一年が経過。会議には、保護者・主治医・学校・児童相談所・福祉事務所・保健センター・都の支援拠点機関・区の支援拠点機関・家族会の代表者・警察の各機関から関係者が一堂に会し、A君の現状と支援の必要性を皆で知り合う大変有意義なものとなった。

学校でもCOを中心に、生徒Aの行動を理解しようと本障害に対する情報を収集した。しかし、成人の高次脳機能障害に対する情報はあっても、小児、特に教育分野における情報は数少なかった。東京都の教育関係の研修会等で、本障害は話題に上ることもないようであった。なので、都や区の支援拠点機関が行っている医療や福祉関係の本障害に対する研修会に出かけて情報を収集し、学校に持ち帰って職員や定期的に来校されるSCと情報共有をするようにした。

本障害について学ぶ過程で、生徒Aが余暇時間において問題行動を起こす理由がスケジュール決定が難しい遂行機能障害にあるということや、高次脳機能障害は自分を映す鏡が壊れた状態であるから振返りとその評価を代行する必要があるということ、本人を変えようとするより周囲の環境を整えることが大切であるということ、自己肯定感を高めるため普通にできたことをほめるなど生徒Aの行動を分析的に理解し対応するためのヒントを得ることができた。上記の様に学校側が試行錯誤しながらも生徒Aと関わるうちに、彼の行動にも落ち着きが見られるようになった。

COはこれらの経験を通して、本障害児への合理的配慮の必要性を認識し、教育において本障害の理解啓発を行う必要性を強く感じた。また、支援拠点機関はこれらの教育的ニーズに早くから気づき、学校と連携したいと思っているが学校側の敷居が高くなかなか連携できないと感じていることも分かった。

一方、関係者会議後保護者の雰囲気が一変した。保護者が変わると本人も落ち着き、家庭や校内での問題も徐々に減少した。保護者の変容は著しく、最近では同障害の子を持つ他保護者を支援する立場で自分の体験を話したり相談に乗る活動を積極的に行われている。

関係者会議を重ね、生徒Aに対する理解者を増やすとともに、福祉サービスについてはCOが関係機関に積極的に連絡を取り、既存の制度の隙間を利用する形で、行動援護ヘルパーや児童デイの利用などいくつかの制度利用ができるようになった。特に児童デイサービスはスケジュールと居場所の確保という点でも本人の安らぐ場所となった。

今後の課題は、卒業に向け早くから理解者を増やしスムーズにつないでいくことである。

(2)小児の高次脳機能障害の特徴とは?

①発達障害と似ているが対処が違う点がある。

②とてもわかりにくく、見えにくい障害である。現れ方に個人差がある。

③自我が揺らぎ歪む。(昔の自分と変わってしまい自信喪失。二次障害を起こし易い)

④家族の大きな喪失感。(何故?突然?)

⑤症状が回復する。(元の状態には戻らないが、少しずつ代償的に回復する。症状が流動的である。受傷→覚醒→回復という大きな流れでとらえることが必要)

⑥周囲の子供たちが大きく成長する時期なので、周りと本人を比較しがちである。本人の回復に周りも本人も気が付かない。

⑦福祉サービスがない。

(3)対処法

①周囲の理解と環境調整(本人の変化よりも周りの理解)

②発達障害児向けの対処法が使えることも多い。(SSTやLD児向けプログラム等)

③振返りが難しい。(良いことを中心とした)振返りと評価の代行。自己肯定感の回復。今の自分を受け入れられるように。

④支援拠点機関との連携。(情報入手・福祉サービスのすきま利用)

⑤家庭支援(とても大切。)

⑥教育関係者に対する理解啓発の必要性

(4)終わりに

救急救命体制の整った現在、本人も周りもそれとは気づいていない高次脳機能障害児が相当数地域の学校に在籍していると考えられる。本障害に対する理解啓発をすすめ、それらの子供たちに必要な「合理的配慮」が行き届くように願っています。

3 講師プロフィール

東京都立城北特別支援学校 主任教諭 林田麻理子

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

4 引用元

第15回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『高次脳機能障害の生徒への理解と支援~関係機関と連携した包括的支援の実践~』,東京都立城北特別支援学校 主任教諭 林田麻理子より引用

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」

http://www.tokyo-np.co.jp/event/kyoiku/

本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。

他の受賞論文はこちら→( http://edupedia.jp/entries/show/1049

5 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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