新聞学習を通して、小さな社会人を育む―子どもたちが向き合った183の新聞記事― (河野辺貴則先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、中日新聞東京本社と受賞者から許可を得て、第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」の受賞論文を掲載させていただいております。

また、他の受賞論文もご覧いただけると幸いです。

第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」のまとめページ | EDUPEDIA

2 投票率が下がってきている

近年、日本の未来を決める選挙に行く人が減り、投票率が下がってきている。(「目で見る投票率」平成24年度総務省選挙部)これは現在の社会人たちが社会に対する関心が低くなっていることを示していると同時に、未来の社会人である子どもたちに、社会の一員としての自覚を育む必要性があると私は捉えている。「日本社会の一員としての自覚をもつ、小さな社会人のような子どもを育みたい」これが、教師として、日々子どもたちとかかわり、社会科を研究していく中で生まれた、私の信念である。子どもは、労働することや選挙で投票することはできない。しかし、子どもは将来の有権者であり、未来の日本を背負う小さな社会人である。

私は毎日、通勤で電車に乗っているが、周囲の社会人たちが駅のホームや電車の中で新聞を読んでいる姿をよく見かける。新聞は、社会の出来事を伝える情報伝達手段であり、社会人には欠かすことのできない情報源である。社会人たちは、社会の出来事に対し、新聞等を活用して情報を得る。そして、自分で社会について考え、判断し、行動して生きている。新聞を読み、社会の出来事について考える習慣を身につけていくことは、社会を見つめ、社会にかかわることであり、「小学校指導要領解説 社会編(平成20年8月)」に記載されている社会科の目標『社会生活についての理解を図り、我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て、国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎』を養う上で重要だと考えている。

そこで、新聞を読み、社会の出来事について考える習慣を子どもたちに身につけてほしいと願い、「新聞学習」の実践に取り組んだ。

以下に、小学5年生を対象に1年間行った「新聞学習」の実践を報告する。

3 新聞学習の実践

(1)新聞学習の課題

本実践では、新聞を読み、社会の出来事について考えることを習慣づけるために、新聞学習を1年間行った。

私が考案した新聞学習とは、子どもが新聞の記事をノートに視写して、その記事について自分がもった考えを書くという学習である。新聞の記事を視写し、記事に対して、自分の考えを書くことによって、社会と自分がかかわることになる。新聞を読み、社会について考え続けることで、社会についてかかわることを習慣づけることがねらいである。しかし、新聞学習に取り組もうと考えた際に、二つの大きな課題があった。

一つ目の課題は、一般の新聞は、主に社会人が読む記事なので、書かれている内容が小学生にとっては難しすぎるという点である。そして、二つ目の課題は、一般の新聞では情報量があまりにも多すぎるために、子どもがどのような記事を読めばいいのか分からなくなってしまう恐れがある点である。

以上の二つの課題があり、どのようにして取り組もうかと悩んでいた時に出会ったのが、子どもを対象に編集された新聞(以下から子ども新聞とする)である。子ども新聞を工夫して活用することで、二つの課題を乗り越えることができたのである。

子ども新聞の特長は、小学生の読解力でも読めるように、短くて分かりやすく編集されているため、子どもでも読みやすくなっている点である。また、全ての漢字に振り仮名が振ってあるので漢字が読めないという心配がない。また、子ども新聞は、「せいじ」「けいざい」「せかい」「しゃかい」「わだい」「時事ワード」のように、社会について様々な視点で、短くまとめているコーナーがある。

このようなコーナーの中から教師が厳選し、読む記事を指定することで、子どもが新聞の記事をバランスよく読むことができる。

子ども新聞を活用することで、二つの課題を乗り越えることが可能になり、新聞学習を1年間続けることができたのである。

(2)新聞学習の実践

新聞学習では、教師が学校で印刷した「新聞プリント」と「ノート」を用意する。
新聞プリントを配布し、家庭学習としてノートの見開きの左ページに記事(図1)を視写し、右ページにその記事を読んで自分が考えたことを書く(図2)。長期休業日を除いて、週に約5回、新聞学習を行った。



また、右ページに自分の考えを書く際には、必ず「なぜなら」という、つなぎ言葉を使うことを指導した。子どもが「なぜなら」という言葉を使うことで、常に自分なりの根拠を考えることを促すためだ。

そして、翌日の朝学習の時間に、新聞ノートをクラスメイトと交換をして、お互いの意見に対してコメントを記述する。クラスメイトからのコメントを書いてもらうことで、新しい視点でその記事について考えることができ、一つの記事を多面的に捉えることができる。

1年間、新聞学習を実践し、子どもたちが社会とのかかわりをもった記事は、全部で183に上った。(末尾表1)ノート7冊分の分量である。

さらに、新聞学習の実践は、書くだけの学習に留まらず、子どもたちから記事について学級で協議したいという声もあがった。そこで、新聞学習をした記事をテーマにして「TPPの交渉に賛成か反対か」「私たちは3.11の経験をこれからどのように生かしていくべきなのだろうか」等、日本の未来の社会についてみんなで本気で語り合い、協議した。

(3)新聞学習の感想

実践の最後に「1年間、新聞学習を続けて良かった思うことはどのようなことですか」と投げかけて感想を書いてもらった。子どもたちの感想を以下に示す。

子どもたちの感想から、新聞学習を習慣づけることで、社会の出来事に興味をもつようになり、家族や友達と社会について話をするようになった成果があったことが分かった。教室でも「今度の都知事選で、もしも選挙権があったら、誰に一票いれる?」や「東京オリンピックの招致を優先させるべきだよ。」等、子どもたち同士で社会の出来事について会話をしている姿がよく見られた。その姿は正に小さな社会人であった。

4 小さな社会人たちの決意

(1)小さな社会人として生きる決意

「日本社会の一員としての自覚をもつ、小さな社会人のような子どもを育みたい」私の信念から始まった本実践。1年間の実践が終わったときに、子どもたちに「小さな社会人としてこれからの社会をどのようにつくり、生きていきたいですか」と尋ねた。すると以下のような決意が溢れた。

(2)今後の教育活動に生かす

小さな社会人たちの未来の社会に対する決意を目にして、胸が熱くなった。きっとこの小さな社会人たちが先人たちの築いてくれた社会というバトンをしっかり受け継ぎ、発展させていくことを確信している。

今後は、未来の社会に対する決意を具現化するために、公民の学習等で新聞学習を活用し、社会について協議する学習を取り入れていきたい。また、よりよい社会をつくるためにお互いに知恵を出し合い、自分たちができることから一歩ずつ始めてほしい。

そして、子どもたちが二十歳になった時、日本の未来を決める選挙に共に足を運び、日本の未来について舵をとり、共に社会の一員としてこれからの社会をつくっていく決意である。


5 実践者プロフィール

新宿区立戸山小学校 教諭 河野辺貴則
第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞

6 引用元

第16回「がんばれ先生!東京新聞教育賞」受賞論文『新聞学習を通して、小さな社会人を育む』(新宿区立戸山小学校 教諭 河野辺貴則)より引用
「がんばれ先生!東京新聞教育賞」
本論文は中日新聞東京本社と受賞者から許諾を得て転載しております。

7 東京新聞教育賞について

「がんばれ先生!東京新聞教育賞」は、東京都教育委員会の後援を受け、平成10年に東京新聞が制定したものです。

学校教育の現場で優れた活動を実践し、子どもたちの成長・発達に寄与している先生方の実像は、ともすれば教育に関わる様々な問題や事件の陰に隠れ、社会一般には充分に伝わっておりません。本賞は、子どもたちの教育に真摯に取り組む「がんばる」先生の実践を募集し、それを広く顕彰・発表することで、先生自身の更なる成長と、学校教育の発展に寄与することを目的としています。

募集は6月から10月中旬にかけて行われ、教育関係者らによる2段階の審査を経て、翌年3月に東京新聞紙面紙上にて受賞作品10点を発表します。受賞者には、賞状・副賞ならびに賞金(1件20万円)が贈られます。

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