カバのうどんこ(まどみちお・作)  動作化を取り入れて(今井成司先生)

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目次

1 はじめに

東京作文教育協議会・会長、元杉並区立公立小学校教諭の今井成司先生の実践です。
 この記事は、今井先生からいただいた資料をもとに作成しています。 

カバのうどんこ

けんちゃんのうちの まえまで来たとき
  うしろから ぴたんと
  頭を たたかれた

 (中略)

チョークも ポケットに ある
  だが「けんいちの バカ」と
  書いたら たいへん
  こっちも けんいちなんだ
  よし「こんどうのバカ」だ
  —こんどうの バカ
  右から左へ 大きく がぎがぎ 書いて
  ひといき つくと
  すーっと じてんしゃが 来た
  ゆっくり とおりすぎながら
  一字ずつ 読んで いった
  「カ・バ・の・う・ど・ん・こ・・・か
  はっはっはっは」
  はげ頭の たたみやの おじさんだ

 
「小学校2年生に詩の授業をしてください」と言われて選んだのがこの詩でした。わかりやすい詩です。『ぼく』は頭をぶたれて怒って仕返しに落書きをしますが、右から書いてしまって「カバのうどんこ」になってしまいます。怒りも、おかしさも、そして登場する人間の関係もこの「カバのうどんこ」に集約的に表されています。さらに日本語のもつひとつの特質がその裏に隠れています。
 2年生の子どもたちと、まず『ぼく』の気持ちを中心に読みたいと思いました。そして、詩の面白さを感じてもらおうと考えました。
 そこで、今回は、動作化を取り入れることによって、人物の気持ちの変化を読み取りたいと考えました。よく、授業の中で「動作化」を見ますが、あまりうまくいっていないことが多いと思っています。子どもたちが「活動そのもの」に関心がいってしまうからだと思います。そして動作の良し悪しを問題にしてしまうからかもしれません。今回は動作化で、場所や物を具体的にすることによって人物の思いを想像しやすくしてみようと思いました。(文学作品を読むときの動作化の狙いの一つはこれだと思っています。)
 もうひとつ、この詩の裏にある「日本語の面白さ」を感じてもらおうかとも思いました。実は、この詩は日本語が主役なのです。

2 学習計画

  • ①全文の音読
  • ②感想の発表

面白いところなどを自由に発表しあいながら、内容の簡単な理解もしていく。

  • ③「落書き」をノートに各自書く。(動作化①)

右から左へがぎがぎと ノート(プリントの下のほう)に書く。

  • ④おじさんになって落書きを読む。(動作化②)

おじさんがどちらから来てどう読んで行ったのか前に出て黒板の落書きを見て、読む。

  • ⑤おじさんの読むのを見て聞いていた『ぼく』の気持ち。(動作化③)
  • ⑥おじさんが行ってしまった後で残された『ぼく』の気持ちを書き、発表する。
  • ⑦この詩の面白さを考える。

これまでは人物の思いや行動について読んできました。この詩の場合、それでは足りないと思います。作者は「日本語は、はんたいから読んでも読めてしまうんだ。日本語って面白いんだね。」と言っているのです。それに気づかせたいと思います。これは難しい。

3 授業の実際

(1)感想を話し合う

全文を読んだ後で空白にしておいた題名を聞いてみました。いくつか出た中に「カバのうどんこ」がありました。そうです。「カバのうどんこ」です、と言って、うどん粉についての話をしました。「てんぷらを揚げるときに使う粉」と言う子もいました。その後、この詩を読んでの感想を発表してもらいました。「どんな感じがしましたか。」

  • 「だがけんいちのバカと書いたら大変こっちもけんいちなんだ」が面白い。
  • どっちもけんいちというのが面白い。
  • いつもは仲良く遊んでいるのかな。
  • だからぶたれてすぐに誰がやったかわかるんだ。           
  • 「はげあたまの畳屋のおじさん」というのがおかしい。
  • 「カバのうどんこ」が面白い
  • 怒って落書きしたけど反対に書いてしまったのが楽しい。

ここで、「どうして反対に書いたのかなあ。」と聞いてみました。

  • 怒っていたから。
  • ものすごく怒っていたので、すぐ書いたから。

「そうだね。すごく怒っていると間違えることがあるんだ。じゃあこの詩の中で、1番怒っているところを見つけて赤で線を引いてください。」と言うと、子どもたちからは2箇所出されました。

「けんちゃんに決まっている。どうしてやろう」
・悔しいと言う気持ち
・仕返ししたいと思っている
「右から左へ大きくがぎがぎ書いて」
・がぎがぎと書いたから
・怒って力を入れて書いている
・大きく書いた

「一番怒っているところ」という聞き方が良くなかったと思いました。怒っているところで良かったと思いました。

(2)動作化をとり入れてぼくの気持ちの変化を読む

それでは、ぼくの気持ちになってみんなもこのプリントの下のところに落書きを書いてください。どっちから書くのか考えてね。
 子どもたちは「大きく書いていいの。」「鉛筆筆折れちゃうかな。」などと言って書きました。書き終わってから、「じゃあ、誰かに黒板のところに来て書いてもらいます。」というとたくさん手が挙がりました。

  • 代表の子が黒板に書くのをみんな真剣に見ていました。(動作化1)

「この落書きを畳屋のおじさんが通りながら読むんだね。おじさんはどっちからきたのかな。」と進めました。
・こっちから(指差しながら)
・左から

  • 「では、畳屋のおじさんになって自転車で来て読むところやってもらいます。」(動作化2)

何人かにやってもらいました。
「カ・バ・の・う・ど・ん・こかはっはっはっはっは」
自転車で、左から来て、ゆっくりと通り過ぎるように読んでもらいました。

  • 「それを健一は見ていたんだ。どんな気持ちだったか『ぼく』役をやって下さい。」(動作化3)

1人はおじさん、もう1人は『ぼく』になって、おじさんが[カバの・・・かはっはっはっは]と言って通り過ぎた後で、それを見ていた『ぼく』役の子がつぶやくようにしました。
.
aしまった.反対だった。
bへんな読み方だなあ。
c怒られなくてよかった。
dかばのうどんこ、面白いな。
eああ、むかつく。

『ぼく』役の子たちは、こんなつぶやきをしました。見ているほうも楽しそうでした。

「おじさんが行ってしまった後で『ぼく』がしたこと、思ったことを書いて発表しましょう。」
授業ではたくさんの子達に発表してもらいましたが、ここでは2人だけ紹介します。

A.おじさんが行った後、けんいちは、「はんたいに書いていたか」とやっと気がついた。はんたいに読んでみた。「カバのうどんこ」、へんなこと書いちゃった。(なおさないと)・・・けんいちはそう思った。「だけど、けんちゃんをゆるしてやろう」

B.こんどは、笑われないようにがんばる。石ころをけって帰った。落書きのうどんこ消してあげよう。ゆるしてあげよう。なかなおりしたほうがいいかな。

ここに見るように、「直さなくては」と言う気持ちから「もういいか、消してやろう」という気持ちに変わっていくと受け止めた子がほとんどでした。「今度は笑われないようにするぞ」、「直そう」と言う反応の中に子どもらしさがあると思います。

(3)日本語の面白さ

最後に、「作者のまどみちおさんはこの詩でどんなことを伝えたかったのかな。」と聞きました。
子どもたちからは「はんたいに書いてしまって面白い」「カバのうどんこって良くわかんないけどおかしい」「怒っていたのに笑ってしまうこと」など内容に即しての発言が続きました。
そこで私は、黒板の、先に子供が書いた「カバのうどんこ」を指して右からと左から読んでみてから「これじゃないの」と言いましたが、子どもたちはよく分からないようでした。
「日本語って左からも右からも読めるんだよね、だからこんなことが起こるのじゃないかな。」
私としては、日本語って面白いんだ。反対からも読めるから怒って書いたのに笑って読めてしまうんだ。それをまどさんは伝えたかったのではないかな、としたかったのだが・・・。押し付けになってしまいました。

(4)感じることを大切に

どうも最後がしっくりとこない授業でした。小学校2年生では、もっと自由に感じたこと思ったことを出し合いながら内容の読み取りと言葉を結びつけて読むことで良かったのではないか。そのことを徹底することによって『日本語って面白い』とどこかで感じてもらえれば良かったのではないかと今は思っています。
 もうひとつあります。『動作化』です。自転車が「左から来た」としたことです。確かにそうであれば、カバの・・・と順に読んで行く自然さがあります。分かりやすさがあります。しかし、もし、このとき、「右から来たかもしれないよ。」と言う声があったとしたら「右から来たけれど、日本語の読み方は左から読むことになっているから、おじさんは『カ・バ・の・・・』と読んだんだ。」こうすることによって『自然ではない、決まりとしてそう読んだ』と考えることになります。けんいちは怒りのあまり決まりを忘れて書いてしまったことがはっきりと分かります。
 動作化というのは確かに分かりやすくします。しかし、それだけに、大事なことを見落としてしまうことになるのかもしれません。動作化を生かすためにも、もっと子どもの自由な発言を引き出すことが大切なのだと思います。

4 実践者プロフィール

今井成司先生
 杉並区教育研究会、元国語部長
 東京都杉並区三谷小学校を2007年に退職
 杉並区浜田山小・久我山小、立川第8小などで講師をした。
 現在、東京作文教育協議会・会長。日本作文の会会員。
 杉並区作文の会会員

 主な著書に
 ・「国語の本質がわかる授業1,2」(日本標準、編著)
 ・「楽しい児童詩の授業」(日本標準、編著)
 ・「教科書教材の読みを深める言語活動」(1~3年生、本の泉社)

 などがある。

5 編集後記

1つの詩を読んで授業をする実践ですが、たくさんの要素が詰まっているなと思いました。詩の面白さを読み取るのはもちろんですが、動作化によってその場面をイメージすることによって詩には書かれていない登場人物の心情などが読み取れるのではないかと思います。
 ただ、動作化のいい点がある一方、「『動作化』を安易にすすめないのは、活動が面白いとかやり方がよかったかというようなことに、話しがずれていってしまうことにあります。それでは、作品の読みが深まらないからです。」ということも今井先生はおっっしゃっていました。
 動作化をうまく作品の読みにつなげることが重要なのだと思いました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 宇野 元気)

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