アクティブ・ラーニング入門

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作成者:Akihiko Yamaguchiさん

アクティブラーニングの波がやってくる

2014年11月中旬。文部科学大臣が中教審に新学習指導要領の検討の前倒しを指示することが明らかとなりました。その指示の中で、新しい学びの方法として、アクティブラーニングを取り入れた授業改善の方向性が、強く示されるようです。アクティブラーニングと、クリティカルシンキングが、本格的に学校教育に導入されようとしています。

すでにアクティブラーニングに取り組んでいる学校は、「なにをいまさら」という感じでしょうが、「それって何?」という学校、先生にとっては不信、不安、負担、不要、そして不満の“ふ”の嵐が予想されます。では、アクティブラーニングとは、いったいどのような学びなのでしょうか。

アメリカの大学改革から生まれたアクティブラーニング

アクティブラーニングのそもそもの起こりは、反転授業と同様に、アメリカの大学教育の改革から生まれたようです。日本におけるアクティブラーニングのきっかけとなった、2012年の中教審答申「新たな未来を気づくための大学教育の質的転換に向けて」でも、「大学教育」の改善として能動的学修(アクティブラーニング)への転換が必要であるとされています。

アメリカの大学教育は、もともと研究よりも学生の教育を重んじる伝統がありました。しかし、19世紀の後半から教育よりも研究を重視する傾向が強まり、大学の教員は、まず研究者であり、その分野の専門家であるべきという考え方が常識となりました。
 
加えて、第2次世界大戦後の大学の大衆化によって、幅広い学力の学生が大学にあふれるようになり、自由という名の下の放任では、大学教育が危機的な状況になってきました。そこで、研究よりも教育に目を向けるべきではないかという、教育的復古の動きが起きました。その一つの解決方法が、「教える」から「学ぶ」へのパラダイム転換でした。

一方的に教員が講義を行い、学生はただひたすらそれを聴く。そのような従来型の学びのスタイルを改善し、学生が主体的な学ぶスタイルに移行する。そのためには、講義を聴くと言う活動に加えて、書く、話す、発表するなどのよりアクティブな学びを取り入れることとなります。

小・中・高等学校でのアクティブラーニング

アメリカの大学教育では、放任からの転換という動きの中でアクティブラーニングが求められてきました。しかし、日本の小・中・高等学校へのアクティブラーニングの導入の動きは、全く逆の方向からのニーズだと言えます。すなわち、過干渉、指示過多、規制過多、暗記強要による「教える」スタイルからの脱皮を意図しているわけです。

方向性は違っても、学び手が学習の主役となり、体験の中から知識を獲得していくということは共通しています。したがって、今後のアクティブラーニングの学校への導入を議論する際は、アクティブラーニングの起源はさておき、子どもたちのどのような学びをゴールと考えて取り組むのかということを、共有すると良いと思われます。

アクティブラーニングへの疑問・質問

2010年頃から、日本においてアクティブラーニングに関する議論が活発化し、関係書籍の刊行も年を追うごとに増えてきました。それにつれて、アクティブラーニングに関する疑問の声や質問も増えているようです。

「以前からグループ学習を取り入れた授業をやっている。これはアクティブラーニングといって良いのか。」
「できるだけ発問を多くして、生徒の考えや意見を引き出して授業している。これは、アクティブラーニングをやっていると言えるのか。」
「アクティブラーニングをやるのはいいが、学習進度が進まないので困る。」
「生徒の意見を引き出すのはよいが、まとまりのない授業になって収拾がつかなくなり、空中分解してしまわないかと不安である。」

アクティブラーニングのねらいとは何か

アクティブラーニングのねらいは、学習者が受動的である学びのスタイルから、能動的な学びに転換することです。従って、教師の出した問いに対して、積極的に教科書のテキストを読み、関係情報を探そうとする活動も、アクティブラーニングと言えます。つまり、同じ教科書を読むのであっても、指示されて受動的に読むのか、能動的、主体的に読もうとするのかの違いであり、その学びの違いに影響する教師の関わり方の違いがポイントなのです。

たとえば、次のような教師の発言のどちらの方が、より児童生徒は能動的に学びを始めるでしょうか。
①今日は、生物の進化を勉強します。大切な単元なので、よく話を聞くように。
②今日は、生物の進化を勉強します。最初は説明をよく聞いてください。途中で理解したかどうかの確認をしましょう。授業の最後には、隣の人に、生物の進化について学んだことを話してもらいます。友だちに説明できるように、自分なりの整理しながら学んでくださいね。では始めましょう。

実験から、「最後にテストをします」と言って始めた授業よりも、「最後に、隣の人に説明してもらいます」と言って始めた授業の方が、生徒はより能動的になることが分かりました。この例からも分かるように、教師の問いかけ、授業のデザイン、ゴール設定をちょっと工夫するだけで、能動的な学びを引き出すことができます。

さらに、グループ活動や課題解決型の手法を導入することにより、知識の定着が促進されたり、新しい発想が生まれたりします。これがアクティブラーニングのねらいだと思います。

アクティブラーニングで講義は不要となるのか

アクティブラーニングに対する不安の中には、従来型の講義を全否定するのか、というものがあります。この考え方は間違いだと思われれます。

アメリカの有名な大学における、アクティブラーニングの成功例を見てみると、週3コマの授業で、最初の2コマを講義型の授業、最後の1コマをアクティブラーニング型の授業を行っているようです。つまり、アクティブラーニングをするためには、そのための十分な知識や情報が必要だということです。

このことから、アクティブラーニングを導入することで、生徒の主体的な学びを引き出し、能動的に学ぶことを通して、より学習内容の定着をはかり、気づきや発想を獲得するためには、単なるグループ学習の技法を学ぶだけではなく、基礎知識やベースとなる情報を今まで以上に効率的に伝えることが必要だと言うことが分かります。そのための有効な手段としては、ICTの導入や、反転授業のような予習型への移行が考えられます。

教師の役割の変化

「教える」から「学ぶ」へのパラダイム転換は、授業スタイルや学習者の行動が変化するだけでなく、教師の学びへの関わり方自体が転換することを意味しています。つまり、情報の伝え手、説明や解説をする人、という役割よりも、学びのデザイナー、ファシリテーターとしての役割が増えてくるということです。

今までは、教師力の向上というと、いかに深く教材を理解するか、いかに上手に説明するか、どれだけわかりやすいワークシートを作製するか、と言うことが中心になってきたと思います。今後は、それらに加えて、意欲を引き出す問いかけができるか、児童生徒個人の力を引き出すことができるか、個々人をつなぎ、グループやチームの力を引き出すことができるか、集団での学びを促進することができるか、と言う能力を向上させなくてはならないと思われます。

教師のファシリテーションの最重要課題とは

ファシリテーションのスキルには、傾聴やコミュニケーション、アサーション、エンカウンター等、いろいろあります。関係書籍も、多く出されています。しかし、アクティブラーニングや協同学習を進める際に、最も重要になることは、それらの他にあることを、十分理解しておく必要があります。それは、安心と信頼です。

安心と信頼が構築されていない学習集団で、アクティブラーニングをやろうとしても、効果は低いと思われます。アクティブラーニングの様々な取り組みを学習目標の達成に結びつけるためには、安心して自分の考えや意見を発言できる環境が不可欠です。たとえ、見当違いの発言をしたとしても、集団が許容してくれる環境ができあがっていなければ、グループ活動は活性化しません。

学校やクラスにおける安全と信頼は、所与のものではなく、地道に時間をかけて構築しなければえられるものではありません。いわば、アクティブラーニングのためのインフラ整備と考えるべきでしょう。建設は死闘、崩壊は一瞬。これからアクティブラーニングによる授業改善に取り組もうとする場合には、「アクティブラーニングの最大の課題は技法の習得ではない」と心得るべきです。

すぐにできるアクティブラーニングの技法(その1)

児童生徒の能動的な学びを引き出すために、最初にすべきこと。それは、導入で、本時のねらいを適切に示すことです。この「適切に」という意味は、単に「~を学ぼう」ではなく、目的、プロセス、手法、ゴールを、丁寧に示すということを意味しています。

例 高等学校地歴科地理
今日は、開発途上国における多国籍企業の経済活動について学びます。よく知っている多国籍企業が、どんな国で経済活動をしているのかを学び、良い点と悪い点の両方について、グループで考えてもらいます。授業の最後には、中学1年生に理解できるように、説明の仕方を工夫して、何人かに発表してもらいます。

ここまで丁寧に示さなくてはならないのか、と思われるかもしれませんが、生まれて初めて学ぶ生徒にとっては、何を、どのように、どこまで学ぶのかを知らされないまま、教師の後を追いかけるのは、とてもしんどいことです。導入時に、学習内容に関するメタ認知を与えることが、アクティブラーニングの初期条件だと考えましょう。

すぐにできるアクティブラーニングの技法(その2)

いきなりグループ活動というのが難しければ、ペア活動を行うと良いでしょう。机を移動する手間もなく、短時間で実施できるペア活動を効果的にできるようになると、グループ活動も上手にできるようになるようです。

例えば、説明をする前に、「説明した後で、ペアになって、説明内容をそっくりそのまま相手に伝えてもらいます」と伝えると、生徒はアクティブに説明を聞くことになります。中には、指示しないのにメモをとりながら聴こうとする生徒も現れます。「先生、もう少し~のところを詳しく説明してください」と注文をつける生徒も出てくるかもしれません。

じゃんけんで負けた方が説明、というようなゲーム性を取り入れてもいいでしょう。その際は、勝った方が説明を聞いた感想や、改善点を返してあげるということを取り入れると良いと思います。

すぐにできるアクティブラーニングの技法(その3)

生徒にとって、いきなりグループ活動で考えをまとめなさい、と指示されても、なかなか難しいようです。だからといって、グループ活動で行うことを細かく指示すると、単なる「受動的グループ活動」になってしまい、アクティブラーニングのねらいから離れてしまいます。

教師の示した問いやテーマについて、まず個人で情報を集めたり考察させます。次にペアで情報や意見を共有し、その内容をグループにつなげるようにしてはどうでしょうか。情報やアイデアの蓄積があるため、グループ活動がしやすくなります。

グループ活動がスムーズにできるような段階になれば、ワールドカフェを導入するなど、様々な技法を導入することで、より活動的で深まりのある学びを体験できるようになります。

部活動に学ぼう

なぜ生徒は部活動ではアクティブラーニングができるのに、授業になるととたんに受動的になってしまうのでしょうか。なぜ教師は、部活動ではアクティブラーニングを取り入れて指導できるのに、授業になるととたんに一方通行型の講義になってしまうのでしょうか。我々は、もっと部活動の指導方法、部活動での生徒の活動に学ぶべきではないでしょうか。

この点では、部活動の活発な学校、全国的に活躍している部活動がある学校、学校行事が活発な学校ほど、アクティブラーニングの導入には有利だと思われます。良いお手本が身近にあり、アクティブラーニングの経験のある生徒や先生が多くいるからです。

さいごに

以上のことから、アクティブラーニングは、全く新しい手法ではないことや、どの先生も取り組まれている、安心して学べる環境作りが重要であることがおわかりいただけたと思います。そのうえで、自分に不足していると感じた方は、ファシリテーションを学ばれたり、コミュニケーションのスキル、協同学習の各種技法などを習得されると良いと思います。
 
私もまだまだ勉強中でまとまりのないことを述べましたが、何か少しでもお役に立てば幸いです。また、不備・不足、修正点・加筆点などあれば、ご教授ください。ありがとうございました。

参考文献

「アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換」溝上慎一著 東信堂


「協同学習入門」杉江修治 ナカシニヤ出版

コメント
  • 非常によくわかります。 アメリカの大学改革から生まれた歴史から、それか日本の小中高へ導入される経緯が簡単に説明してある。「教える」から「学ぶ」へのパラダイム転換の一環から必然的に発生したのであるなら、受け止めざるを得ないと納得できる。 とはいえ、現場の教師は不安である。その疑問にも的確に答えている。従来やってきた発問の多い生徒に考えさせる授業、すこしでもグループ活動を取り入れた授業、それがすでにアクティブラーニングである。 要するに大切なことは、学習者を受動的な学びのスタイルから能動的な学びのスタイルに転換させることである。 それならば、極端に話、かつて宮城教育大学の林竹二学長がなさった、一言も発問しないが生徒の頭や心の中がぐるぐる展開するような授業もアクティブラーニングになるのか。 講義だけでなく、書く、話す、発表するなどのアクティブな活動が加わって、初めてアクティブラーニングになる。 授業の最初に、その時間のゴールとプロセスを明示して、自分たちが学ぶ意義と筋道を理解させておいた上で、ペア学習や協同学習の手法を取り入れながら、授業を展開していく。 そのためには、深い教材研究と授業デザインと、個々の生徒やグループの力をうまく引き出すファシリテーションの技術が必要になる。 そして、その前提にある重要なものが、安心して自分の意見が発表できる環境設定である。まずしなければならないのは、技法の修得ではなくインフラ整備である。 この記事のもっとも優れたところは、従来型の授業を否定していないところです。アクティブラーニングが成立するのは最も必要なものは、実は、十分な知識と情報です。これなくしていくらグループ学習をしても空理空論の空中戦に終始してしまうおそれがあります。その講義の時間をいかに効率的にして、アクティブラーニングの時間を捻出するのか、そういう授業デザインが必要になります。より深い教材研究によって教材を分析し、何を、どのように提示していくのかを綿密に組み立てていく必要があると思います。

  • Nobuyuki Nishimura (3/7 1:52)

  • Nobuyuki Nishimura さん コメントありがとうございます。ご指摘の内容、大変勉強になりました。さらにまた、勉強と実践を積んでいきたいと思います。ありがとうございました。

  • Akihiko Yamaguchi (5/1 6:58)

  • Akihiko Yamaguchi先生 今年の8月前半に、ベテラン教諭対象の研修会の中で、アクティブラーニングについて触れたところ、具体的に意識して取り入れようとしていらっしゃる方はほとんどなかったようです。 知らない、あるいは、聞いたことがある、という状態で授業の中に取り入れようとすると、『アクティブラーニングへの疑問・質問」で述べられているような感想を持たれるようです。 とするならば、頭で理解するよりも、教諭が学習者となって(子供の視点にたって)いくつかの手法を体験してみればよい。なるべく基礎的なものを取り入れながら研修を進めてみようと思うに至ったわけです。 think pair share という段階を追って協議を進めたところ、4名から5名でのグループによる活動もアクティブ(主体的・能動的)になっていったようです。 教員研修も講義型から参加型にすることで、気づきや学びの度合が深まることを日々体感させていただているところです。 課題解決のみならず、その前段階としての課題発見をするためには、安心して学習に臨めること、ともに学ぶ仲間と信頼関係ができていることが大切であることも実感しています。 学習者との協働からの気づきと学びを、次の研修機会に活かしていこうと思います。

  • 牛嶋孝輔 (8/24 14:28)

  • 牛嶋 孝輔 さん コメントありがとうございます。教員研修のご担当、お疲れ様です。先生の意識が変われば、授業は大きく変わると思います。結局は、先生が目立つ!のではなく、生徒が主役!という大転換でしょうか。そこが腑に落ちなければ、どんな研究授業、どんな教員研修をしても、空回りとなるのではないでしょうか。私の勤務校では、来年が創立30周年となります。記念式典を生徒に任せてみようかと、校長先生と話しているところです。すべては、生徒の学びと自律と成長のために!! 牛嶋さんのますますのご活躍をお祈りいたします。またお教えくださいませ。

  • Akihiko Yamaguchi (11/2 3:39)

  •  大学院でIBを研究している者です。IB教育の前提となるのは能動的学習つまりアクティブラーニングだと思いますし、学習経験を一般化・抽象化する能力を育成するためにも必要な学習態度だと思います。  そこでお尋ねしたいのですが、上記投稿記事の「アクティブ・ラーニングのねらいとは何か」の部分に書かれている「『最後にテストをします』と言って始めた授業よりも、『最後に、隣の人に説明してもらいます』と言って始めた授業の方が、生徒はより能動的になることが分かりました。」という実験は、誰がいつしたものなのでしょうか。探していますがうまく見つけることができません。お教えいただけるとありがたいと思いますのでよろしくお願いします。

  • ken (7/11 3:34)

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