~新教科「21世紀スキル科」の開発~  授業編  町田市立鶴川第二小学校

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目次

1 はじめに

本記事は、文部科学省の研究開発校に指定(27年度指定)されている東京都町田市立鶴川第二小学校の実践です。東京都町田市立鶴川第二小学校では、思考力(メタ認知力・適応的学習)を育成する「21世紀型スキル科」を設置しています。「21世紀型スキル科」の授業を進めていく上での心構えや評価などについて、「21世紀型スキル科」の授業を指導されている鈴木綾花先生(6年生担任)にお話を伺いました。

参考:文部科学省HP
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kenkyu/htm/02_resch/0203_tbl/1306331.htm

2 スキル科の授業について

スキル科における「学び方」の特徴はどんなところですか?

「平和」学習を始めるにあたり、3名の地域の方の戦争体験の話をして頂きました。
きっかけは、地域の自治会の新聞でした。毎年8月に戦争・平和特集が組まれ、コラムには、戦争体験者の方の話が掲載されていました。こんな身近に戦争を体験された方がいらっしゃるということに私自身が驚き、ぜひそんな身近な地域の方から戦争体験を子どもたちに伝えてもらいたい、また子どもたちもそのような方から学んでほしいと考えました。5年生の水の学習でも、環境や水の仕組みに詳しい方に話をして頂けることになっています。

教育の方法は担任と子どもという1つの関係の中だけで捉えるのではなく、地域に学校を開いていきたいと思っています。
学校だけでなく、地域全体を含めて子どもの教育を考えていることが、本校の特徴だと言えます。
専門家や様々な立場の方の話を聞くことで、子どもの意欲や課題追究の姿勢も変わってきます。課題追究の学び方として、パソコンや資料で調べるだけでなく、身近な存在からも学ぼうとすることで、自分から社会と関わって追究していけるようにしたいと考えています。

スキル科を授業する際の教師の心構えを教えてください。

できるだけ教師が介入しないようにしていますが、決して放置してはいけません。子どもたちの言動や表情から、学習がどのように進んでいるのか、何を考えているのか、とにかく観察します。一見何も見ていないように、しかし実際は目を皿のようにして見ています。また、子どもの話し合いをよく聴きます。話し合いが逸れてきたらすかさず入らなければいけません。観察と聴くことを心がけています。

スキル科における教師の支援を教えてください。

1. 子どもに課題を見つけさせる

「どんな学習にしたい?」「平和について追究していきたいことは何?」と問いかけてウェビングマップを使って考えさせました。そして、そこで出てきたアイデアを「戦争と平和」「国際協力」「平和に対する考え」の3つに分類しました。(資料P2)分類したことで、「まずはこれを調べて、次にこれをしよう」というように、学習計画も自分たちで考えやすくなりました。
このように、課題づくりと計画を子どもたちが自主的に考えられるように支援しました。


(ウェビングマップ)


(アイデアを3つに分類)

2. 情報を共通理解させる

今回の授業では、地域の3人の方にお話を聞くということが全員共通の情報となり、授業の中で「◯◯さんが言っていたように」と言っても、全員が納得できます。クラス全員が同じ情報を共有することで、他の人の意見を聞いたり、友だちに相談できたりします。(資料P9)
本校でも総合的な学習の問題点として、活動をすぐにグループに任せてしまうことがありました。そうしてしまうと、子どもが調べる内容が多様になり、教師の予想を超えることもあります。
そのグループにしか情報がないと、特に支援が必要な子にとっては友だちに相談ができず困ってしまいます。このような問題点を解決する手段として、共通の資料を用意することは有効だと考えています。

3. 自分に繋げて考えさせるための手立てをする

単元を通して平和や戦争を自分に繋げて考えることが目標でしたが、初めは「かわいそうだな」「大変だったんだな」と他人事のように考える子が大勢いました。
そこで、戦争体験を聞いた感想を一覧にして配り、その中から「自分にはない考え方」を見つけマーカーなどで印を付けさせると、「この見方は自分にはなかったな」「自分だったら、と考えられてなかった」という意見が多く出ました。(資料P10)
このように、個人やグループだけで学習を進めるのではなく、単元の合間合間で「自分と結びつけて考えることって大事だよね」と共通理解が図れる場面を設定しました。


(感想の一覧表)

4.話し合いの支援をする

話し合いでは夢中になって自分たちのやりたいことだけに目が向かないように、目的意識、相手意識を大事にしました。
実際の授業でも、戦争を伝える劇の内容を話し合っている時、「ここで爆発音を入れる」など細部にこだわり過ぎるグループがありました。これを放っておくとどんどんこだわりが出て、気付けば相手や目的を考えていない、ということにもなりかねません。教師がしっかり話し合いの流れを観察し、常に「誰のために、何のためにやるのか」に立ち返らせながら話し合うように支援しました。

評価の基準を教えてください。

総合的な学習は所見で評価しますが、評価する基準があいまいになりがちでした。担任によって評価の視点が異なると、学年や担任が変わると見方が変わってしまいます。そうなると、どんな力が見られているのか分からず、子どもが困ります。
そこで、共通理解を図るために、身につけさせたい力を学校全体で話し合っています。各学年で考えたものを持ち寄り、それらを「主体性」「協調性」「思考力」の3つに分類しました。(資料P3)そうすることで、所見を書く視点に違いが出ません。また視点を子供にも明確に示すことで、子供も自ら力を伸ばしていくことができます。

(単元の評価規準)

教室掲示は3クラスとも似ていたましたが、意識をしていますか。

意識しています。掲示してあるのは6年生スキル科の目標と個人のスキル科のめあてカードです。常に目標を意識させるために、掲示しています。そして、めあてカードを掲示することで、本人が目的としていることをいつもまわりが見てくれているという状況にしています。

今回の授業では、今日の授業で取り組むこと、授業の進め方や時間配分を児童たち自身で考えてやっていました。

これらは、スキル科の授業だけで実践しているのですか。それとも、他の授業でも実践しているのですか。

他の教科で実践していないとスキル科ではできないことがわかりました。
スキル科で児童に授業の進行を委ねても、どうやって進めればいいかわからないと戸惑う児童が多くいました。普段の授業では、先生が次に取り組むことを細かく設定します。それも、改めていくべきだと私は考えます。今の授業体型では児童にとって理不尽なことが起きています。例えば、話し合いたいと思っていないのに話し合わなければならないことです。これをまずは普段の授業で変えていくべきだと思います。
今回本校では、スキル科を児童に委ねる教科にしようと考えています。教員は児童に授業を委ねられなかったり、委ねても授業がうまく進まなかったりしました。普段から児童に話し合いや時間を考えさせていなかったためにうまく進まなかったのだと思います。普段の授業を意識して、児童に何を身に付けさせたいかを明確に持たないとスキル科の授業ができないとわかりました。

様々な教科横断としての単元構成となっていますが、子どもが何の教科を学習しているのか混乱することはないのでしょうか。

単元前の学習事項を記して、単元に入るまでの学習や思考の流れを示しています。
社会・国語・総合の時間を合わせて6単元を1つのスキル科としていますが、子どもの思考の流れとしては1つのスキル科の学習をしているのだということで繋がっています。(資料P4-8)
単元の課題設定に際して気をつけたことは、先生に言われたからやっているという子どものやらされている感をなくすことです。実際はもともと教師の中に戦後70年の平和を題材にする構想はありましたが、どうすれば子どもが自ら興味を持てるかということが大切になります。そのために、普段の子どもの様子から、何に興味や関心を持っているかを観察しました。
単元前の学習では、戦後70年というキーワードから自分たちの関心がある新聞記事をスクラップしたり、ユニセフ募金のビデオを見たりしました。そして新聞スクラップで数人が戦争に関わる記事を選んできた時に、それを教室掲示したり、配ったりしました。また、ユニセフ募金のビデオを見た後も、平和について考える時間をとりました。そうすることで、自然に子どもたちの目が「平和」の方を向いて行き、関心を持つ人が広がっていき、学年のテーマにすることになりました。
このような視点は総合的な学習だけでなく、どの教科でも同じだと思います。例えば国語で宮沢賢治の作品に入る前に、さり気なく読み聞かせをして関心を持たせておくなど、いかに子どもが自ら関心を持って学習に臨めるように工夫できるかが大事になると考えています。

研究概要、研究資料の記事はこちら

「~新教科「21世紀スキル科」の開発~ 研究概要編 町田市立鶴川第二小学校」
https://edupedia.jp/article/569051d1a6f0633798b6f493

研究資料
https://edupedia.jp/article/5693a038a6f0633798b6f535

3 編集後記

「21世紀スキル科」の授業を実践する上での先生の心構えや学級掲示などについて詳しく伺いました。
「学習課題に関する情報を全体で共有すること」や「身につけさせたい力を学年や学校で統一して児童に示すこと」など、スキル科以外の教科にも取り入れられる視点が多数あると思います。
児童に評価の視点を明確に示し指導することで、児童自身も成長を実感することができ、学ぶ意欲に繋がるのではないでしょうか。
教室や廊下に模造紙でスキル科の目標やこれまでの授業の流れを掲示することによって、常に児童たちの目に入るようにしているそうです。スキル科の授業だけでなく、学校生活全体を通してスキル科の学びを深めていくことに意味があるのだと思います。

また、授業中に児童の言動や表情をつぶさに観察する鈴木先生の姿が印象的でした。児童をよくみて、よくきき、よく知ることが、適時・適切な指導に繋がるのだと思いました。

(EDUPEDIA編集部 白川真帆・大和信治)

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