これまでの教育改革と次期学習指導要領改訂について(寺脇研先生) (第7回「学習する空間づくり勉強会」)

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作成者:宇野 元気 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

2016年9月3日(土)に行われた第7回「学習する空間づくり」勉強会(早稲田アカデミーが主催する教師力養成塾)に参加しました。

1部では、東京学芸大学兼任講師の善元幸夫先生が実践している総合学習についてのお話がありました。この内容については、以下の記事をご覧ください。

~善元流わくわくしちゃう総合学習~(善元幸夫先生)

次期学習指導要領改訂について対話しよう!(善元幸夫先生・参加者ディスカッション)

2部では、参加者とのディスカッションと元文部科学省官僚で現在京都造形美術大学教授の寺脇研先生からの次期指導要領改訂についての講演がありました。

本記事では、第2部後半の寺脇研先生の講演の内容を紹介します。

勉強会の主催者である牛嶋先生は、早稲田アカデミーに勤務をされ、教師力養成塾チーフインストラクターとして活躍されています。社内の研修はもちろん、小・中学校・高等学校での校内研修や公開授業、現役教師・教員志望者向けの講座なども担当しています。

「教師力養成塾 e-講座」の詳細については、こちらをご覧ください。http://youseijuku.jp/

講演の流れ

  1. 教育現場に対する文部科学省のあるべき姿
  2. 「教育の強靭化に向けて」の意味する本当のメッセージ
  3. 「アクティブ・ラーニング」という便利な言葉
  4. 地域・子どもと協力する「チーム学校」
  5. 90年代の教育の転換
  6. 小渕総理と2002年の学習指導要領改訂
  7. 次期学習指導要領は、各学校や教育委員会で説明を

2 第2部後半・寺脇研先生講演


 

〇教育現場に対する文部科学省のあるべき姿

10年前から社会教育や学校教育に携わるようになって、私も教育者と呼ばれる立場になりました。それまで、文部科学省に約30年間務め、教育行政を仕事としていました。教育行政を担う文部科学省の本来の仕事は、それぞれいろいろな場所で行われている個別の実践を、うまく普及させる施策を考えることです。例えば、(第1部で授業実践の紹介をしていた)善元先生がどんなに良い実践をしたとしても、それは善元先生のクラスの子どもたちにとっては良いことですが、その実践を北海道の子どもたちにまで届けるということはなかなか難しい。多くの素晴らしい個別の実践がある中で、文科省や国がこういう教育やれ、というのではなく、現場が自分の裁量で実践を行えるように、その考える余地というものをどれだけ作るか、ということが文科省の仕事なのです。

また、教育行政というのは先を見据えなければいけない。10年後の社会がどうなるのか、20年後がどうなっているのか。現場は目の前の子どもたちをこの1年間でどうするか、ということを何よりやっていかなくてはいけないわけですが、教育行政は、今これをやると反対する人が多い場合でも、10年後、20年後の社会のために必要な施策をやっていかなければいけないのです。
 

〇「教育の強靭化に向けて」の意味する本当のメッセージ

今後の教育の鍵を握っているのは、今年の5月に当時の馳文部科学大臣が出した「教育の強靭化に向けて」だと思っています。私は、この文書のために、「なぜ「ゆとり」はバカにされるのか メディアの印象操作が生んだ悲劇」という原稿を書いたので、そちらもぜひご覧ください。

馳さんは、彼自身が教壇に立っていた国語の先生でもあり、初当選以来20年以上、教育の問題を自分のライフワークとして来た人です。この問題を今の国会議員の中で一番よく分かっている。彼はこれまでの間、本来行われるべきだった「量の問題なのか、質の問題なのか」という議論が、「ゆとりか、詰め込み(反ゆとり)か」という量の議論として、長くうやむやにされてきたのを見ていたのです。そして、ようやく自分が大臣として動けるようになった。しかし、任期が8月2日までだと分かってきたので、8月1日に次期学習指導要領の改訂に向けたこれまでの審議をまとめ、中央教育審議会の特別部会に提示しています。自分が大臣の間に決着をつけたいという思いがあったのでしょう。その決着というのは、「ゆとり教育との決別」ではなく、「ゆとりか反ゆとりかという量の議論から質の議論へ」ということです。私自身は、馳さんという人が1年間文部科学省で大臣をやったことで、きちんとこの議論に整理がついたと思っています。だから、今回の学習指導要領改訂で、もうこの問題には完全に決着がついた、と思わなければいけません。もうここからは、量の問題は考えないで良い、質のことをみんなで考えて論議していこう、ということです。

しかし、この文書について、新聞は「ゆとり教育との決別宣言」という見出しをつけていますが、この文書が意味する「量から質へ」という大事な部分を書いていません。「ゆとり教育との決別」というのは記者に質問された時に少しだけ口にしたことに過ぎません。
 

〇「アクティブ・ラーニング」という便利な言葉

私がいろいろな方と教育について対談している『本気の教育改革論—寺脇研と論客14人が語るこれからの教育』という本が9月に出版されました。この本では、前川喜平事務次官とも対談をしています。もともと『月刊高校教育』という雑誌に連載されていた対談です。雑誌では、「アクティブ・ラーニングっていうのはまやかしだよね」という話を前川さんとしています。前回の学習指導要領改訂当時の下村文部科学大臣や今も務めている当時も安倍総理大臣は、改訂の際に「総合的な学習の時間は減らせ、ムチ(一方的に教える時間)の方を増やせ」と言って数学の時間などを増やしたわけです。そう言っていた人たちが次の政権になって、「総合的な学習の時間をもっときちんとやりましょう」と言いたいんだろうけど、言えるわけがありません。

そこで発明されたのが「アクティブ・ラーニング」という便利な言葉です。前川さんを始め文科省の役人は、現場がそれで混乱しないか心配しています。小中学校では、すでにこれまでやってきていることだからです。尻を叩かなくてはいけないのは高校と大学です。
 

〇地域・子どもと協力する「チーム学校」

「教育の強靭化に向けて」にもう1つ大きく書かれているのが、「チーム学校」です。この言葉も表層の意味だけ取ると、学校の中の人たちだけ結束しろ、と捉えられがちですが、そうではありません。地域の人たちと一緒に協力して、子どもたちの学習をよりよいものにするためにやるのです。前川さんとの対談で、「チーム学校の中に子どもは入らないんですか?」と聞くと、「えっ」と言って驚き、「なるほど、それは目から鱗だ。そういう考え方はなかった」と前川さんは言っていました。

今年の夏休みに、関西高校生教育再生会議というものがありました。テーマは「教員の多忙化」です。高校生は、今の教育の問題は「教師の多忙化」だと言っています。高校生ぐらいになると、「今の学校の授業がつまらない。授業をなんとかしてほしい。」などと先生にいろいろと要求をします。そうすると、先生が「お前らの言い分も分かるけど、今は忙しいからできないんだ」と、いつも忙しさを理由に逃げられてしまうそうです。それを逃がさないようにするために、教員の多忙化ということを考えよう、と言って出されたテーマなのです。「もっと教員の数を増やせ」とか「教員の給料あげろ」という話ではなく、「俺たちが手伝えばいいじゃん、先生の仕事を」と言うのがすごいところです。生徒たちは、自分たちが手伝うことで先生たちの忙しさが減って、良い授業をしてくれるのであればそれでいい。つまり、高校生の目標は「先生が良い授業をしてくれること」なのです。

子どもだけでなく、学校も変化しています。40年以上前は、学校外の人は学校へ入れませんでした。職員会議には養護教諭すら出席できない時代です。正規の教員以外は学校の意思決定権がないぐらいでしたから。そのような時代から、変わってきたのです。きちんとした手続きさえすれば、地域の人が「帳簿くらい俺がつけてやるよ」というような話があってもいいわけです。そういう考え方の変化もあるわけです。その背景にあるのは、安彦先生が良いところをついているけど、誰のための教育改革か、ということです。
 


 

勉強会資料①,p.2(安彦忠彦「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」座長)より抜粋


 

〇90年代の教育の転換

30年前に当時は中曽根総理のもと臨時教育審議会が開かれました。中曽根さんは、(国民の生活以上に)国家の発展を第1に考える方です。ただ、これからの時代に対応するためには、上から全部押さえつけてムチでたたくような教育では、創造的な人間は育たない、と考えていました。国家的な視点からですが、創造的な人間を育てないと21世紀の中で日本は世界で力を発揮できないという考えを持っていたのは事実です。学習することによって国家に貢献する人たちをつくりたいと思ったのです。

誰のための教育改革なのか、何のための教育改革なのかは、これから議論をしていけば良い。とにかく教育の形が変わるということは、目の前の子どもたちにとっては自由度が増すということだからいいことだと思っていました。
 

〇小渕総理と2002年の学習指導要領改訂

1999、2000年に総理大臣になった小渕恵三という人がいます。ある時、小渕さんが「今、教育が画期的に転換している(俗にいうゆとり教育への転換)と言われているが、実際のところはどういうことなんだ」と聞いてきたのに対して、事務次官が説明に伺い、私もついていった時がありました。すると、小渕総理が「それだ!それこそが今の日本にとって大事なことだ。だけどな…」と言ったのです。小渕さんのことを凡庸な人だと言う人が多いですが、なかなかの人です。小渕さんはこのように続けました。「お前たちのやりたいことはよくわかった。でも、これはお前たちだけでやっていると絶対つぶされる。世の中まだそんなに甘いもんじゃない。また違ういろいろな考えが出てくるだろう」と。「動あれば反動あり」という有名な言葉に通ずることです。そして、「そうなった時に文科省のような三流官庁はもたんだろう。」と言って、総理が直接援護してくれることになりました。「この転換は、仕組みなどではなく、世の中の考え方を変えないとうまくいかない。少なくとも保護者のラインまでは変えていかなければいけない。そこは、政治の仕事である。」と言うのです。

小渕総理は国会での演説の際、「個と公が大事である。個と公がこの社会を支える。」と必ず「個」の方を先に言っていました。個があって初めて、公は成立していく。これが小渕さんの政治哲学です。その政治哲学とゆとり教育がぴったりあっていると思ったのでしょう。しかし、応援してくれるといったその矢先に、倒れて亡くなられてしまいました。その後、森総理になって援護射撃がなくなると、やはり小渕さんの予言通りこちらがふらついてくるわけです。
 

〇次期学習指導要領は、各学校や教育委員会で説明を

しかし、私もさすがに総理にだけ頼っていたわけではありません。私は、77年、92年、2002年と指導要領の改訂を3回経験しています。その中で2002年の時にもっとも保護者に一生懸命説明しました。よく私のことを調べると「ミスター文部省」と出てきますが、あれは文科省で一番男前な奴と言う意味ではありません。文科省という実体のないものが、人間として表れて目の前に立って、あるいはテレビの中で話すから、そのように言われたのです。その時に、保護者という背後霊の3分の2くらいは説得し得たと思っています。

問題は今回の学習指導要領をどう国民の皆さんに説明するのか、ということです。一般的に学習指導要領の改訂については、文科省が保護者に説明するものですが、学校現場や地方自治体の教育委員会がきちんとが分かっていれば、学校や教育委員会単位でも説明できるはずです。2002年の時は、総合学習がいきなり導入されたりしたので、学校が説明することは無理だったと思います。しかし、今は、総合的な学習の時間などを10年以上もやってきているわけだから、説明できるはずではないでしょうか。

実は、2002年の時点で山形県は自分たちでそれをやっていて、感心しました。山形県は、山形県教育委員会が県民に対する説明会をやっていたのです。私の知る限り山形県教委だけですね。山形県の小学校教員は本当に素晴らしい実践をしていて、かつ全国一斉学力テストでも高学力の成績を取っています。しかも、インクルーシブ教育(身体障害や知的障害など、障害の有無に関係なく誰でも地域の学校で学べる教育)もやっています。だから、私は、今度の指導要領は現場で説明してください、と提案したい。特に、小学校と中学校へは。高校はこれからまた変えなければいけませんが。

まだ次期学習指導要領の改定まで、数年あります。どういうふうにこの指導要領を保護者たちに説明するのか。来年4月に入ってくる新入生に言っておけば、2020年にはその子どもたちが4年生になっています。それを今から続けて行けば、学校のほとんどは次期学習指導要領について分かっている保護者や子どもたちになります。形だけのアクティブ・ラーニングではなく、子どもの心の中がアクティブになる、という本来のアクティブ・ラーニングの意味もきちんと分かるようになってくると思います。
 

記事内の関連情報

3 講演者紹介

  • 寺脇 研

昭和27年、福岡県生まれ。京都造形美術大学教授。東京大学法学部卒業。昭和50年、文部省に入省。生涯学習局生涯学習振興課長、大臣官房審議官などを経て平成14年から文化庁文化部長を務め、平成18年11月、大臣官房広報調整官を最後に退官。平成19年4月から現職。著書に「それでも、ゆとり教育は間違っていない」(扶桑社)、「官僚批判」(講談社)、「文部科学省」(中央公論新社)など多数。

4 関連記事

5 編集後記

講演のなかで、方法が目的化している現状をとても懸念していました。「アクティブ・ラーニング」や「チーム学校」などの言葉や方法知が広がってきた今だからこそ、教育現場や教育行政は常に何のためにこの授業をするのか、何のための政策なのか、自覚するべきことが大切だと感じました。今後の次期学習指導要領の改訂に向けた動きにも注目していきたいです。(編集・文責 EDUPEDIA編集部 宇野元気)
 

12月10日(土)第8回「学習する空間づくり」勉強会の案内

※以下、主催者より

第7回に引き続き善元幸夫先生をお招きして、前半は「教師は職人~知識・技能はどう継承するのか~」というテーマで、「漢字学習」の授業実践を行って戴きます。後半は参加者の皆さんとのディスカッションを通じて「授業づくり」そして「次期学習指導要領改訂」について共に考えてまいります。

第1部 基調講演

  • 子どもを決して教えこみの対象にしない。学びの主体としての子どもの発見!
  • 善元 幸夫先生(東京学芸大学講師・元琉球大学講師・教育学部兼任講師・元新宿区大久保小学校教諭)

①「教師は職人 知識・技能はどう継承するのか?」
  (漢字学習編)ー腑におちる、わかって納得、楽しい漢字ー

②「次期学習指導要領改訂」について対話しよう(その2)!
  「2030年の未来を見すえる学力・学習指導要領」とは何か、学力とは何か?
   2045年シンギュラリティ問題、学校、学校文化を考える!

第2部 参加者ディスカッション

基調講演を受けての質疑応答と「次期学習指導要領改訂」について、意見交換・協議を行いたいと考えております。

  • 日時:12月10日(土)14:00~16:00(予定)
  • 会場:豊島区立生活産業プラザ(池袋駅東口より徒歩7分)
  • 会費:2,000円(過去に教師力養成塾の講座を受講された方は無料でご参加いただけます。)
  • 懇親会:勉強会の終了後,懇親会の実施を予定しております。(会費3000円程度)
  • お申し込みは、こちらのメールにご返信下さい。⇒ youseijuku@waseda-ac.co.jp

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