これからの発達障害者「雇用」から 凸凹を活かす学校・チームを考える (【教育技術×EDUPEDIA】スペシャル・インタビュー第17回 木津谷岳先生)

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作成者:大和 信治 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われた、木津谷岳先生へのインタビューを記事化したものです。
 木津谷先生は、発達障害のある方の就労支援を行うキャリアカウンセラーです。そんな木津谷先生の著書『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』をもとに、発達障害者の特性の見極め方や、その活用をサポートするヒントなどを伺いました。様々な特性を持つ子どもが集まる学級づくりに活かす視点でもお読み頂けます。

『小一教育技術』~『小六教育技術』6月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。
教育技術.net

2 インタビュー

1,発達障害と働き方

発達障害の特徴

——平成30年4月から、民間企業の障害者の法定雇用率が2.2%に引き上げられました。障害者雇用の実用的なヒントが盛り込まれた著書の特徴はどこにありますか。(資料:厚生労働省

今回の著書は、当事者の強みをどう生かすかという視点で書いています。CSRや法定雇用率など受け身の理由ではなく、発達障害のある方の能力を生かして企業のミッションを成し遂げるという、積極的な理由で雇用していくという視点が特徴です。

消極的な理由で雇用された方の中には、仕事はしているが、やりがいをあまり感じることができない方が多いように思います。本書が、そのような働きづらさを解消できることにつながればと思います。

——現状、発達障害のある方が仕事で力を発揮するのは難しいのでしょうか。

「ごちゃまぜ社会」という言葉があるように、障害のある人もない人も同じ人間なので、社会的な排除のない「包摂的雇用・ソーシャルインクルージョン」が理想だとは思いますが。しかし、今の社会ですぐにこの形の雇用を行うことは難しいのではないかと思います。

例えば、大学生が卒業して企業で働く場合、多くは初め総合職で会社のいろいろな仕事を経験した後に、専門性を見つけると思います。しかし、発達が凸凹の方は様々な仕事をこなす総合職が難しいのです。

仕事に必要な能力を、桶の例で考えてみましょう。例えば、協調性やコミュニケーション力といった能力の板が組み合わさってできた桶があるとします。健常者の方はどの能力もある程度持っているため、全ての板がある程度の高さまであるため水が溜まります。

一方、障害のある方は、得意・不得意の差が大きいためそれぞれの能力を表す板の高低に差があり、とても高い板があれば、とても低い板もあります。それらの板から桶を作っても、水は溜まらないですよね。しかし、強みである高い板だけでできた桶ならば、板の数が少なく、底面積の小さい細長い桶になってしまったとしても、水は溜まります。

「発達障害者の就職は人類で最も困難」 - NAVER まとめより)

また、障害のある方は、他人にも完璧性を求めすぎてしまうため、仕事が難しいという側面もあります。例えば、私の友人の発達障害者に、税理士と公認会計士の資格を持ち、 IQ が130という方がいます。その面だけで言えばすばらしい能力なのですが、仕事をするのは難しいのです。なぜなら、普段の会話で他人にも論理的完璧性を求めるあまり相手を怒らせてしまうことがあるからです。例えば、「木津谷さんがいま言ったことは、5分前に言ったことと矛盾しているよ」と発言することがあります。その指摘は、客観的には正しいのですが、それでは仕事は難しいですよね。その方の頭の中では、白か黒かで物事をみているのですが、世の中はグレーが多いのです。

——企業側のサポートはあるのですか。

障害には個々の特性があります。企業の研修はその特性に合うサポートが、時間や費用の面で難しいのです。また、個々の特性を短期間で見極めるのも難しいので、私たち支援員が企業に、障害のある方の特長や強みを伝え、どのような場面で能力を発揮できるのかを話し合いマッチングを行います。私たちは、「発達障害者にあれもこれも任せるのは無理だけど、特定のこの仕事だったら会社の課題や事業に寄与してくれますよ」というように具体的に考えてサポートします。これを、「カスタマイズ就労」と呼んでいます。

マッチングはポイントを掴めば難しくないのですが、発達障害への理解やノウハウを持っている支援員は、まだ少ないのが現状だと思います。

強みを活かす

——自分の強みを仕事に活かすポイントはありますか?

発達障害のある方の特徴は、こだわりがある、白黒を付けたがる、感覚過敏など様々です。例えば、こだわりが強い人は、自分のこだわりや価値観に合う人とうまく付き合うことはできますが、たくさんの人と仲良くすることは難しいです。したがって、協調性を求めるのではなくこだわりがあるという個人の特性をどう活かすか、という視点が重要です。例えば、「作業内容が明確、人との関わりが少ない、独立性が保たれた環境」ということが職場でうまくやっていくためのキーワードになる方もいます。

発達障害のある方でも、能力を活かせる仕事はいくらでもあります。そのためにも、強みや特性が分かるだけでなく、その能力がどの仕事に生かせるのかという知識も必要です。こだわりが強い人は、自分の興味があることに関しては、ご飯を食べなくても続けられることもあります。そういう意味では、研究開発職やIT系のチェック作業などの仕事に親和性があります。多くのデータから正確にバグを見つける仕事などでも、それを長時間、厭わずにできる特性があるのです。

力を発揮するためのポイントは、本人が好きで興味がある、しかも無理なくできる仕事であることや、マルチタスクではなく、シングルフォーカスでなるべく数の少ない作業にすることです。電話で話を聞きながらメモを書くという二つの作業を同時に行うことが難しい方もいます。

弱みに気づく

——本書に、「弱みに気づくことでサポートが得られやすくなった」というエピソードがありますが、本人が弱みに気づくきっかけにはどのようなことがありますか?

大学生になって初めて気づくことが多いです。なぜなら大、学ではゼミや履修など自分で決めることが多く、複雑に考える場面が多くなるからです。サークルなど自由な活動が増え、周りのやることが理解できず、自己肯定感が低くなることもあります。高校までの学校では、時間割や学習の答えなども決まっているので、周りの人がやることを教えてくれることも多いですよね。

——発達障害の診断をするにしても、その結果が本人にとって良い方向に進むためのものであれば良いなと思いました。

日本でちゃんと診断できる病院は少ないのが現状だと思います。
今までの成育歴でどんな困ったことがあったか、いつ初診で病院に行って、どう診断されたのか、といったことから総合的に判断されます。発達障害が治らず、大人になって鬱や社会不安の症状が出て病院に行き、鬱の薬を出してもらっても、発達障害に原因がある場合、症状はよくなりません。

平成25年から、米国精神医学会のDSMー5という診断マニュアルでは、「自閉症スペクトラム」という捉え方が示されています。簡単に言うと、縦軸に自閉度、横軸にIQをとって、どこに当てはまるかをみるのです。この考え方だと、健常者もこのスペクトラムの範囲のどこかにいるはずなので、障害の有無といった線引きの必要はあるのかは疑問が残ります。

しかし、それぞれの方が抱える困難は、社会や福祉がフォローする必要もあります。例えば、目がみえない人はメガネ、耳が聞こえない人は音声読み上げパソコン、車椅子で階段を登れない人はエレベーターを使います。

これと同じように、発達障害も目には見えないけど、ディスアビリティ(機能障害)があり、その足りない部分をサポートして、一緒に働く際のスタートラインを合わせるのが「合理的配慮」だと考えています。特別扱いする必要はないが、それぞれの困り感に合ったサポートやコミュニケーションを面倒がらずにやることが大切だと思います。

働き方

——障害の有無によって雇用の形態を変えることで、不具合が生じる可能性はありますか?

障害を持っていることを会社にオープンにすると、会社からのサポートはあるけれど「あの人は障害がある」とみられることもあります。逆に、障害をクローズにすると、給与などの雇用条件は同じですが、サポートがなく競争に晒されることになります。難しい問題だと思います。

これに関連して、日本には「社会モデル」という考え方がまだ少ないと感じます。足の不自由な方が駅で階段を登れないのはエレベーターがないからだと考えるのが「社会モデル」です。

一方、階段を登れない人がいた場合、それはその人の足が悪いからだと人の身体に着目するのが「医療モデル」です。日本では、障害に関しても、出来ないことをその人の障害に原因を求める医療モデルの考え方が多いです。

——昨今の「働き方改革」について、支援者としてどのようにお考えですか。

就労はするけど就社しなくてもよいのでは、と思います。働き方は人それぞれです。今後は、場所を問わず、どこでも持ち歩きで仕事ができるような「ジョブ・ポータビリティ」の重要性も言われています。また、ITの発展で、場所を問わず仕事できる環境が整いつつあるので、そのような働き方も進めていけたらと思います。

2,学校での関わり

「みんな一緒」より、個を活かすサポート

——学校で「みんなで力を合わせていこう」という方向性がありますが、そうではなく、個々の力を活かす方向性も必要になるように思いました。

確かに発達障害のある方にとって、みんな一緒にまとまることは難しいかもしれません。こだわりがあると、好きな人やみんなと仲良くするのが難しいので、班やチームを作るときも、個々の特徴を活かしたチーム作りをしてほしいですね。

幼稚園の子のエピソードですが、園で不穏な行動が多く、指示しても作業ができない子がいました。そこで先生がその子の話を聞く時間を作ると、落ち着いたということがありました。さらに、「作業を始めて下さい」と言うと「作業」の意味が分からず困っていたので、「最初に~をします。次に、−をします」と具体的な指示の出し方に変えるとうまくいったそうです。

また、子どもを叱るときにも工夫すべき点があります。子どもに注意をするときには、何がいけなかったのか、次はどうすればよいのかが本人の中で腹落ちすれば伝わります。その際、全体の前で注意するのは悪いと思って、後で個別で対応することもあるようですが、後で言われると本人はいつのことを言われているのか分からなくなる場合があります。できるだけその場で注意する方が伝わりやすいでしょう。

他にも、相手をよくみたり、話を聞く時間をとったりすることで、本人が何に困っていて、どうサポートすればよいのか分かることがあります。成果を急ぐのではなく長い目でみてほしいと思います。先生方はとてもお忙しいことは分かっているので、あまりお願いばかりできませんが。

3 プロフィール

木津谷岳(きづや・たかし)
「発達障害専門」のキャリアカウンセラー。
法定雇用率未達成企業での経験を元に、これまで、発達障害を抱えた当事者200人余の就労に関わってきた。

4 著書

これからの発達障害者「雇用」 | 小学館

本書は、人事経験豊かな、発達障害専門のキャリアカウンセラーによる、障害者雇用への実用的なアドバイス本。発達障害者の特性の見極め方と活かし方、カギを握る就労支援機関との付き合い方などを具体的に提示。

5 編集後記

「雇用」と聞くと、小学校の先生にはまだ遠い話に聞こえるかもしれません。しかし、子どもたちが社会に出てからの人間関係の作り方は、学校で身につけた方法が大きく関わるように思います。これからの社会を見通し、学校での人間関係・コミュニケーションを考えるきっかけになるお話でした。

(取材・編集 EDUPEDIA編集部 大和、上田)

6 関連ページ

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