テーブルトーク・ロールプレイングゲームによる自閉症のある児童生徒への余暇支援

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作成者:椎野 遥菜 (Edupedia編集部)さん

1 はじめに

本記事は、東京学芸大学の研究員加藤浩平先生へのインタビューを記事化したものです。
本記事では、TRPGによるASD(自閉症スペクトラム)のある子どもへの余暇支援について伺いました。

 〇 TRPGとは?

TRPGとは、テーブルトーク・ロールプレイングゲームの略で、複数名でテーブルを囲み、コンピュータなどの電子機器を使わず、紙とペンとサイコロを用いて行うテーブルゲームです。TRPGでは、参加者が勝ち負けを競わず、お互いに協力をしながら、参加者同士のやり取り(コミュニケーション)で架空の物語を創り上げていくことを楽しみます。

「司会進行役を務めるGM(ゲームマスター)と、ゲームの主役、PC(プレイヤーキャラクター)を演じるプレイヤーに分かれて遊びます。(『いただきダンジョンRPG』 加藤浩平・保田琳 著)」

イラストのようにテーブルを囲み、ゲームマスターの進行のもとで物語を展開していき、プレイヤーは図のような「キャラクターシート」に記載されたキャラクターを操りゲームの物語に参加していきます(イラスト作成:べに山べに子)。

参考「いただきダンジョンRPG」(加藤浩平・保田琳 著)
http://linedline.wixsite.com/yuugakugei/itadan

2 インタビュー

 〇 自閉スペクトラム症(ASD)について

—ASDの子どもが持つ特性について教えてください。

米国精神医学会が作成するDSM-5という診断基準によると、ASD(Autism Spectrum Disorder)には大きくわけて2つの特徴があります。
1つ目は、社会的コミュニケーションの質的な障害というものです。ASDのある子どもたちは、必ずしも話すのが苦手という訳ではなく、普通の子よりも流暢に喋る子、よく喋る子も多いです。ただ 相手の話題を受けてその話をふくらませるような応答や、相手の話にあいづちを打つなどの話の引継ぎがうまくいかなかったり、1対1のコミュニケーションは問題なくても、3人以上になると、どこに焦点を合わせれば良いのか分からずに困ってしまうなどの、いわゆる“社会的コミュニケーションの面での困難さ”があります。臨機応変な対人関係・やり取りが得意ではない、とも言われます。
2つ目は、興味の局限性や反復行動、いわゆる、“こだわり行動”とも言われるものです。ASDのある子どもは、自分の興味やペース、やり方を優先しやすいという特性があります。特定の行為や物にこだわる一方、それ以外のことには無頓着だったりすることもあります。

また、最近は感覚機能の特殊性、いわゆる感覚過敏や感覚鈍麻という特性も注目されています。

ASDのある子どもたちは、それらの障害特性によって、学校や生活場面での対人関係や集団活動に課題が出てくる、と言われています。

 〇 TRPGについて

ASDや発達障害のある子どもたちの社会的コミュニケーションの支援は,同じ障害特性を持つ者同士の体験を保障する小グループ活動での支援が重要と言われます。学校や療育の現場では、ソーシャルスキルトレーニング(SST)や行動療法的なアプローチが取り組まれています。

私の研究も集団活動を通じたコミュニケーション支援なのですが、SSTや教育的なものではなく子どもたちが楽しいと思える子どもたちが自発的に楽しみながら人との関わりを体験する余暇活動をベースにしており、結果として後からコミュニケーションや人付き合いが学ばれていく、というスタンスです。訓練的な活動は、子どもたちのモチベーションが維持されにくいのですよね。モチベーションのない中で学んでも身に付きにくいですし、たとえスキルが身についても自発的に活用することに結びつきにくいでしょう。

TRPGという一般に市販されており長年ファンに愛されているゲームを採用したのも、あくまでも「楽しい活動」であることを大事にしたかったからです。

私が大学や地域で取り組んでいる余暇活動に参加している子どもたちは、コミュニケーションを学ぶためではなく、TRPGを楽しむことを目的に来ています。

—TRPGの特性は、どのようなものがありますか。

発達支援・特別支援の観点から見て、TRPGの特性は、以下の3つがあると思っています。

1. キャラクターを介しての間接的なコミュニケーション

2. ルールなどの枠組みの中での自由な行動選択

3. 役割の明確さ

 1. キャラクターを介しての間接的なコミュニケーション

ASDのある子どもは、直接的なコミュニケーションが苦手だったり、過去の失敗体験の積み重ねから集団参加に抵抗を感じていることがあります。それに対して、TRPGでは、自分ではない別の存在=キャラクターに扮することで、コミュニケーションにワンクッションが置かれ、比較的発言がしやすいのではないかと言われています。そして、TRPGの中では、たとえ失敗をしても、それは本人の失敗ではなく、あくまでも物語の中のキャラクターの失敗です。すなわち本人が安全・安心な状況下で試行錯誤やトライ&エラーを体験することができると考えられます。

また、TRPGはコンピューターゲームと違って人と対面で行うので、完全にキャラクター「だけ」のやり取りではなくなります。本人のいないところでのやりとりではなく、微妙に人間が関わるというのがTRPGの特性だと思っています。

 2. ルールなどの枠組みの中での自由な行動選択

TRPGは、ルールの範囲内であれば、どんな自由な行動も試みることができます。重要なのは、ルールや物語の世界観という枠組みがある点です。何もない中で自由に行動したり過ごしたりするのが苦手な子どもでも、ある程度の見通しが立つ中でコミュニケーションをできるのはTRPGの良い所だと思います。

 3. 役割の明確さ

TRPGは、それぞれのキャラクターが「特技」や「長所」を持っており、それらはキャラクターシートに明記されています。そのため、とりあえず物語の中で自分のキャラクターが何をやれば良いのかという「役割」が明確ですし、また自分の役割だけではなく、他の参加者のキャラクターの役割も適宜確認できます。これは彼らにとっては見通しがたちやすいだけではなく、役割分担や協力行動のしやすさにもつながります。

—TRPGの中でASDの子どもたちはどういった発達を見せていますか。

これまでの研究では,TRPGに参加した子どもたちの自発的な発話やコミュニケーションのやり取りが増えた、話し合い場面で互いに意見を交わし折り合いをつけながら合意形成ができるようになったなどの結果が出ました。他にもTRPG活動を通じて子どもたちのQOL(quality of life:生活の質)の得点が向上したという研究結果も報告しています。

また、これまでの活動の中で、TRPGという場が、子どもたちの自己理解の深める機会になっているようにも感じています。

私がかかわっているあるASDのある子は、元々登校しぶりの傾向があり、また学校のクラブ活動での人間関係でも悩んでいました。ちょうどそのような時に私の主催したTRPGの余暇活動に参加してきたのですが、彼はTRPGでの体験を通して、自分には周囲を率いる役割よりも裏方に回って仲間をサポートする役が向いていると気付いたそうです。そしてクラブ活動でも自分の役割や振舞いを方針転換したところ、クラブ活動での対人関係は良好に向かい、登校しぶりの回数も減っていきました。

障害の有無に関係なく、自己理解とは他者とのやり取りの中で育まれていくものです。TRPGでは物語の中で他のキャラクターとの会話のやり取りをしながらキャラクターも変化していきます。その変化やそこで得た気づきは、プレイヤーである子ども自身にも影響を与えているのだと思います。

あるASDの青年は、インタビュー調査の中で、「TRPGでのキャラクターとプレイヤーの関係は『ニアリーイコール』だと思う」と言っていました。TRPGのキャラクターを通した体験、つながってはいるけど程よく距離がある中での体験というのは、子どもたちに心的な負担をかけず、緩やかに距離を置いた形で影響しているのではないかと思っています。

 〇 学校の先生ができること

—学校の先生がASDのある子たちへの支援するためにできることは何でしょうか?

ASDのある子どもはその障害特性から対人関係場面での困難が生じたり、友達とのコミュニケーションですれ違いやトラブルが起こったりして、それらの出来事が本人にとっては失敗体験として残りやすいです。そういった失敗体験が積み重なると、自分から人や集団とのかかわりを避けるようにもなってしまいます。
もしくは「周りに合わせなければ」という思いから、自身の心身に負担をかけてまで対人関係の面で一生懸命に頑張ってしまう、いわゆる「過剰適応」が起こってしまうことがあります。頑張り過ぎて限界がきてしまい、結果として燃え尽きて不登校になってしまうケースもあります。実際に不登校になってしまった子どもにかかわったこともありますが、学力面も含めて能力の高い子で、適応する力もあったがゆえに、学校で周囲に合わせることにエネルギーを消費し過ぎてしまい、帰宅すると宿題はおろか何かをするエネルギーが残っていなくて寝込んでしまっていたそうです。そうして頑張ってやっているうちに疲れ切って、どこかで限界がきてしまうのです。

—過剰適応になってしまう前に、先生方がサポートできることはあるのでしょうか。

過剰適応になってしまっている要因が、周囲の環境や関わりであるという場合もあります。彼らの多くは真面目で、周囲の期待や要請に応えようと、本当にギリギリのところで精一杯頑張っています。「できているから問題ないだろう」と見えても、本人は楽にできているわけではなく、無理がたたってしまうケースも多いです。学校の先生方やカウンセラーの方々には、ASDのある子どもの特性が障害となってしまう要因も見定めつつ、彼らが無理をせず自分のペースで活動できる機会の提供や配慮をしていただけると有難いです。

—先生が手厚く支援をする、というよりは、本人のペース・自主性に任せたほうが良いということですか。

そうですね。支援の中ではどうしても集団適応が求められがちなので、なおさら本人のリズムやペースに目を向けるのは大切だと思います。長年自閉症のある子どもたちに関わっている山口大学の木谷秀勝先生は、「自閉症らしく生きる」ということをおっしゃっています。学校教育にはASDのある子が生き辛さや息苦しさを感じてしまう面がどうしても出てきてしまうように思いますが、ASDのある子が、その子らしく生きられる場や機会が学校や地域にあって欲しいと思いますし、そういう環境が子どもたちに必要であることを学校の先生方や学校現場にかかわる専門家の方々には意識してもらえればと思います。

—その場というのが、余暇活動である、ということですか。

私は、学校という場、家庭という場、そして第三の場として人と交流する余暇の場が子どもの発達には大切だと思っています。そして、その他に、ゼロ(原点)の場として、一人でリラックスして過ごせる場も必要です。これは発達障害の有無にかかわらず、誰にとっても大事だとは思いますが。

子どもたちが、安心・安全が保障された中で「その子らしさを」発揮できることや、他の人と時間が経つのを忘れて楽しみその体験を共有できることは子どもの発達や学びに不可欠なことです。その発達や学びの機会の1つとして、TRPGのような活動の面白さを学校の先生方に知ってもらえればと思いますし、今後もTRPGはじめとする余暇活動を通じて発達障害のある子どもたちと、研究者として関わっていくことができればと思っています。

3 加藤浩平先生のプロフィール

加藤浩平(かとう・こうへい)
東京都出身。早稲田大学教育学部卒業後、専門書出版社に勤務。心理学や教育学の雑誌・書籍の編集に携わる。取材をきっかけに余暇支援ボランティアとして自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもや若者とかかわるようになり、その後、編集者を続けながら大学院へ進学。筑波大学大学院(博士前期課程)、東京学芸大学連合大学院(博士後期課程)を経て、東京学芸大学研究員。博士(教育学)。現在も研究者と編集者の二足の草鞋で、特別支援教育の世界に関わっている。専門は、ASDのある児童青年のコミュニケーション支援・余暇活動支援。
著書(いずれも共著)に、『自閉スペクトラムの発達科学:発達科学ハンドブック10』(新曜社)、『発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援』(金子書房)など。(2018年6月19日現在)

4 編集後記

TRPGのようなゲームによって、ASDの子どもたちの安心して過ごせる環境をつくれることはとても魅力的だと感じました。インタビューの中で伺ったとおり、ASDの子どもたちは、学校での環境が息苦しくなってしまうことが多いのかなと思います。学校の教育的な環境のほかに、余暇活動という視点から子どもたちを見ることができると良いなと感じました。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 椎野遥菜)

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