「学校の多忙化」の改善(業務改善)6 ~超過勤務の実態を数字で把握する

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目次

数値を把握する


「何となく」レベルで、曖昧に仕事をしてしまうのが教育関係者の悪しき慣習だとずっと思っています。

◆ 文科省、教育委員会、管理職が打ち出す教育に関する施策がいったいどういった数値(エビデンス)に基づいて語られているのか?
◆ 施策の効果はどのくらいあったのか、数値によって測定されているのか?

・・・それが、明らかではないまま、現場は右往左往しながらその場その場で対処をしてきました。例えば、

◆ 外国語を3~6年生まで1時間ずつ増やすことでどの程度の効果が望まれるのか。2010年施行の学習指導要領の効果として、当時(2010年以降)小学生だった年齢層がどれほどのレベルで英会話の力量が向上したか。
◆ ALTの雇用にどれだけの人件費がかかる、かかっているのか。
◆ 外国語の導入によって教員の勤務時間がどれだけ増えたのか。(増分を人件費として計算するといくらなのか)
◆ 小学校で過去形まで教えていることが、その後の中学校・高校での英語教育にどのような影響を及ぼしているのか。(一説によると、小学校での英語教育が充実している前提で中学校の英語教育が高レベルで組み立てられているので、ついていけなくなる子供が出ている)

外国語教育のみを取り上げても、現場の教員には何だか意味がよくわからないままです。上記の課題がどうなっているのかを確かめる余裕がありません。専門性がなく、できもしない英語を教える羽目になってしまっています。ALTとのコミュニケーションを図りつつ、授業をどのように進めるのかを考える作業も、かなり難しいです。

対処が場当たり的であるため、業務時間は無制限・無定見に増えてきています。

ところが、教員の勤務時間外の労働は残業時間として認められていません。給特法によって限定四項目以外はいくら勤務時間外に働いていてもそれは「自発的」に「学校に滞在」しているとみなされています。給特法の仕組みについては、
「学校の多忙化」の改善(業務改善)1 ~「残業の見える化」から始める
で詳しく述べていますので、ご参照ください。
※ 限定四項目とは給特法で示される法的に命令が可能な業務 →→→ ①生徒の実習②学校の行事③職員会議④緊急の措置を必要とする非常災害・児童生徒の指導

EDUPEDIAには業務改善に関する記事が他にもたくさんありますので、是非下記リンク先をご参照ください。
「教員の多忙化」というキーワード の学習指導案・授業案・教材 一覧

労働安全衛生法の改正


管理側は給特法を盾にとって、
「限定四項目以外は命令していないので、勤務時間外に働いている職員は、自発的に働いている。だから、勤務時間外の労働時間は「学校滞在時間」であるので責任は負えない(残業代は払わないし、業務を減らす気もない)。」
という論法で開き直ってきました。

ところが、労働安全衛生法(労安法)が2019年4月1日に改正されたことにより、風向きが変わってきました。給特法のために労働基準法の枠組みの外に追いやられていた教員ですが、労働安全衛生法は学校にも適用されるため、学校でも労働時間の把握が求められることになります。

「事業者は、医師による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。」(労働安全衛生法 第66条の8の3 )
これによって、使用者による労働時間把握義務が法律上明文化されたことになります。

具体的な時間把握の方法については、
「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする」(労働安全衛生規則52条の7の3)
と、なっています。

「ちょっと超過勤務が多いなあ」と目視で済ませていてはダメなのです。数値が把握されねばなりません。

それでも管理側は言い訳ができてしまう


それでも・・・労働時間が把握されても、管理側にすれば
「勤務超過の実態は確かにあるが、その中には教員の自発的な労働が含まれているのだから、当方は感知できない」「お前らの仕事の質が低くて遅い」「これをせよと命令したわけではない」
等、言い訳は可能です。民事訴訟を起こしても、管理職は「命令はしていない」と主張するので、休憩時間放棄や時間外労働は教員の「自主的労働」とされてしまうことが多いようです。

数値を突き詰める ~縮減不可能な必須業務


かつて、校長が強引に研究授業発表の大会を自校で開催しようと提案した際、
「既にほとんどの教員が過酷な超過勤務をせざるを得なくなっているこの状況は深刻です。自発的な労働で超過勤務をしているわけでないことは自明です。明らかに負担が増加する研究大会の開催などあり得ません。今後研究大会に関わる仕事をせよというのは“命令”になりますか、それとも“お願い”ですか?」
と、問いただしたところ、
「お願いです。」
と、回答しました。私は、
「この超過勤務蔓延の状況で“命令”なら限定四項目以外となりコンプライアンス違反、“お願い”なら断ります。」
と、断固反対しました。校長はこれには反論することができませんでしたが、
「私からの強いお願いですが、ほとんどの先生方が研究授業をして力量を高めたいと思っていると考えています。よろしくお願いします。」
で、うやむやにしながら押し切ってしまいました。
労安法の改正枚で、労働時間が把握されていない時期でしたが、校長は私の気迫に押されて、職員会議で「お願いです」と答えてしまったわけです。それはその後の研究会にまつわる業務の無茶ぶりを抑制する効果になったと思います。
気迫があればこのように「自明な状況」を指摘して訴える戦法も可能になりますが、気迫で押し通すのはあまり上等なやりかたではありません。数値で語った方がスマートですし、説得力が増します。

そこで、単に学校滞在時間を把握するだけではなく、学校滞在時間の内訳の中で「縮減不可能な必須の業務」がどれぐらいあるのかを明らかにする必要があります。つまり、自発的な労働などではなく、

◆ ルール化されていてやらざるを得ず、逃れようのない業務
◆ やらなければ学級や学校が回らなくなるような業務

です。

これらを概算できるように、エクセルファイル↓↓↓を作ってみました。(詳細は後述します。)

必須業務をピックアップし、1週間の超過勤務時間を算出.xlsx

現状で「縮減不可能で必須の業務」に従事している時間が明らかになれば以下のように論理を立てて負担の増加を拒否することが可能であると思います。

① 勤務時間は1日8時間、1週間で40時間。・・・便宜上、週40時間の方を取り上げて話を進めます。
② 管理職が勤務時間を超える状況で業務を命令できるのは限定四項目だけ。
③ 「縮減不可能で必須の業務」に従事している時間から40時間を引いた時間を便宜上、「A時間」と呼ぶ。
④ 管理職が限定四項目の命令以外に、「指示」「お願い」ができるのは、理論的に「A時間>0」の場合だけであり、「指示」「お願い」ができるのは、「A時間までに収まる業務」となる。
⑤ 「A時間≦0」である場合。すでに教員の勤務時間が超過しているため、管理職が命令できるのは限定四項目のみとなる。限定四項目以外の「命令」はコンプライアンス違反である。また、すでに勤務時間の超過が確定している状況で、時間的な負担増が確実な「指示」「お願い」を受け入れる必要はない。
⑥ 管理職は「A時間≦0」になるまで、労務管理を徹底して業務改善を進める職位上の義務がある。なぜなら、職員会議の議決権は校長にあるので、教員の業務は管理職が必要と認めた業務、あるいは削減をしなかった業務となるから。

「A時間≦0」であることを数値として証明した上で、管理側が時間的負担を要する(無茶な)「指示」「お願い」をした場合には、
「それは、命令ですか、お願いですか?命令なら、コンプライアンス違反です。お願いなら、断ります。」
と、断固拒否すればいいのではないでしょうか。人事権を有する管理側に対して拒否をするのはたいへんですが、数値は強い味方になることと思います。

縮減不可能な必須業務に関わる労働時間を算出するファイル


必須業務をピックアップし、1週間の超過勤務時間を算出.xlsx

簡単な構造で労働時間を算出できるようにしています。
本当にきっちりした時間を算出するのであれば、年間で一つ一つの業務に要した時間を入力して日数で割るべきなのですが、そんなことをしているとさらに負担が増しますので、ざっくり1週間分を概算する形にしました。下図はその画面の一部です。



◆ 毎日の業務を5倍して計上。
◆ 1週間のうちにする業務はそのまま計上。
◆ 1か月のうちにする業務は4で割って計上。
◆ 1年間のうちにする業務は暫定的に47(週)で割って計上してみた。この考え方は難しい。・・・1年間は約52週。春・夏・冬に約9週間の長期休業があるため、長期休暇のうちに、年休20日と特別休暇5日を消化したとして、それは5週間分となる。52-5=47週となる
◆ 9週間の長期休暇をどう考えるかも難しい。・・・上記のように年休と特別休暇を使って5週間を休んだとした場合、残りの長期休業中の4週間に仕事ができる。長期休暇中にやればよい仕事もある。4週間=60分×8時間×5日×4週=9600分のうちにもろもろの仕事をするとして、これを上記の47週で割って1週間当たり約204.3分。この値を1週間の勤務時間にマイナスで計上している。

概算ではありますが、私の場合で週に10時間を超える超過勤務が発生しています。これは、「縮減不可能で必須の業務」をそうとう少なく見積もって計算しています。私はかなり仕事が早い方なので、この表に挙げている時間は、あくまで少なく見積もった時間です。
1コマ分の授業準備を15分、処理を10分としましたが、始業前や休み時間はほとんどバタバタ準備(プリントや教材を整える)か処理(片付け、プリントの回収や丸つけ)をしており、じっくりと授業研究をしている時間に関しては計上していません。あくまで自発的ではない必須業務のみを計上しています。
このファイルは2年生を担任していた年に作成したものです。この年のクラスはそこそこ安定していたし、一般的に2年生担任は他の学年に比べて業務が少ないと言われます。保護者も巻き込んだ長い目のトラブル対応をしている時間も省きました。機器関係・ICT関係の校務分掌に就いているため、これに関する時間がやや長いですが、私がこれをやらないと学校全体の業務が混乱してしまいます。どの教員も超過勤務を抱えているので、「あなた暇そうだからこれをやっておいて」などと誰かに自分の業務を振ることはできません。

「単なる学校滞在時間」と言われないために


ICT活用によってカードをタッチすると始業時刻と終業時刻が記録され、個人の勤務時間はシステムで把握できます。また、職場全体の記録も管理職が把握でき、職場で共有するようにもしています。それで超過勤務が把握できたとしても、管理職は「自発的な労働の結果」と開き直ることができてしまいます。
だから、システムによる労働時間の把握と同時に、「縮減不可能で必須の業務」を概算して、
「既にこれだけで勤務時間を超えてしまっています。新たな業務を加えて時間的負担を増やす前に、この表から、何を何分減らせばよいのか、明確な回答を」
と、管理側の責任を追及したり、業務改善の必要性を訴えたりすればよいと思います。システムが記録した学校滞在時間の資料も、添えて、参考資料として活用すればよいと思います。
上述したように、私は「縮減不可能で必須の業務」だけで毎週10時間超の超過勤務が発生していますが、それほど細かく項目を上げなくても、もっとシンプルに計算しても、多くの教員は「縮減不可能で必須の業務」だけで超過勤務が発生していると思います。例示すると、
(授業45分+授業準備10分+授業処理10分)×26コマ+(昼食から清掃105分+朝の会などの時間帯20分+帰りの会等の時間帯15分+移動に要する時間5分)×5日=2415分
2415分÷60分≒40.3時間
「授業の準備や処理(教材研究や丸つけ・点検・評価)が合計20分でいいのか、できるのどうか」等、全体的に低く見積もっていることを置いておいても、勤務時間はこれだけでも週40時間を軽く上回っているという事実は、共有しておくべきであると思います。


これから


実は私自身は重度のワーカーホリックです。働けることを幸せだと思っていますし、教職に身を捧げようと考えてやってきました。そのため、私が教育にたずさわっている時間は異常に長いです。最近は「趣味は教育です」とちょっとブラックな冗談を交えた感じで語ることもあります(笑)。何を趣味にしようが、私の勝手ですから。だからと言って、自分の意に沿わない仕事を無理やりさせられるのは趣味の範囲ではありません。基本的に私のやっている仕事は、教育の費用対効果を上げるための努力であり、業務を減らす方向の業務です。
これ以上業務が増えて、無制限・無定見に労働時間が増大すると、本務である授業や学級経営に支障をきたします。また、ブラック体質についていけない心身や家庭の事情がある教員を置き去りにしてしまうのは不味いと思います。多忙化は余裕のない教員が学級崩壊を起こす引き金になっています。勤務時間をしっかりと働き、勤務時間外には本当に自発的な意思に基づいて働ける職場づくりをしていかなければなりません。

そのためには、下の6点が重要だと考えています。

① 個々の教員が、労働時間に関する法律・ルールを確認し、必須の業務の内訳を数値で把握すること。
② 業務改善担当を文部科学省・教育委員会・学校の各所に設ける(以下、「各所の担当」)。
③ 各所の担当が、「教員の自発的な労働」を除いた「縮減不可能な必須の業務」によって既に大幅な超過勤務が蔓延している現状を数値で把握すること。
④ その上で、各所の担当が継続的にデータを分析し、対策を講じること。
⑤ 各所の担当は、業務改善推進モデル校を設け、大胆な施策を打って改善の効果を評価すること。
⑥ 各所で具体的で効果的な業務改善の成功例を共有し、積極的に成功例を導入すること。

教師という職業のブラック化は、労使問題ではなく教育問題ととらえて、労使が協調的に業務改善を進めることができる土壌を作ってゆく必要を感じています。

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