オンライン授業を設計するためのヒント【コロナと向き合う】

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目次

1 はじめに

本記事は、オンラインZoom研修を成功させるための17の視点〜2日間の研修をZoomでやり切って見えてきたこと〜の内容を引用・加筆させていただいたものです。

新型コロナウイルスの感染拡大は教育現場にも大きな影響を与えており、対応に追われている先生も多いのではないでしょうか。EDUPEDIAでは、必要な情報が教育関係者に届くように、【コロナと向き合う】特集を始めました。

今回は、志村智彦さんが社会人を対象にしたオンライン研修を設計するにあたって、対面での研修に含まれる要素を分解し学習のあり方を見直したことをご紹介します。オンラインで授業を行う際のヒントとして、ぜひお役立てください。

2 「共通体験を演出する」という気づきを得る

オンライン研修について模索している最中、茶道の先生をやっている友人から連絡が来ました。「世界茶会」を主催されている岡田宗凱さんです。岡田さんが、茶道のお稽古をZoomで実施したということでした。

不思議で仕方ありませんでした。なぜなら、私自身、お茶のお稽古は『その場の感覚』を共有することに価値があり、そこで感じる『五感』があることで成立するものだと考えていたからです。「『その場の感覚』を共有できないオンラインでお茶のお稽古を実施したら、どのような価値が残るのだろう?」と疑問に思ったのです。

しかし、次の瞬間「『その場の感覚』を共有できないオンラインでお茶のお稽古を実施することは、オンラインで研修を行うことと同じではないのか」と思いました。研修から得られるのは、知識だけではありません。体験による気づきや、発想、アイデアも研修から得られる価値の一部です。

岡田さんの話を聞くなかで、研修のオンライン化に向けた大きな気づきを得ました。それは、受講者の置かれている環境がそれぞれ違うなかで、いかに稽古に集中してもらうかという点です。そのためには、「想像性を働かせてもらう事前の取り組みが大切」というアドバイスをいただきました。

具体的には

「環境を整える(心理)」……できるだけ着物着用とする。

「共通体験をする」……同じタイミングでお菓子やお茶を頂く。

「五感などのアナログな感覚を大切にする」……事前に抹茶・お菓子を郵送し、講師を含めた全員が一緒にお稽古で食べる。

ということです。

「画面越しに同じ所作や行動をすることで、共通体験を演出する。」これはオンライン学習を設計する上での大きなインスピレーションでした。

3 学習設計を定義し、効果的なオンライン学習を設計

岡田さんのお話を受け、「そもそもオンラインにおける効果的な学習とは何か」を再定義する必要があると思いました。その際に『ツール(Zoom)ありき』の設計をしないことを意識しました。私が思う教育の最終的な目的は「行動変容」であり、ツールはあくまで行動変容を起こすための手段に過ぎません。

行動変容を起こすための教育方法については、「車の免許の取得」に例えるとわかりやすいと思います。

免許を取得するためには、「知識習得」「実技(スキル)習得」が必要です。「知識習得」はオンライン学習で完結でき、最後にテストをすれば学習習得度を測ることができます。

一方、問題は実技(スキル)習得です。「ブレーキを踏むタイミング」「ウィンカーを出すタイミング」などは、実際に運転をしながら、助手席に座っている指導教官からフィードバックをもらい、感覚が掴めてくるものです。

いかにして感覚値を受講者に伝え、実技(スキル)を体得させるかが、オンライン研修のポイントだと思います。そのためには、リアルの研修の要素を分解して、オンライン研修に取り入れるものと取り入れないものとに区別する必要があります。

リアル研修の要素を分解

リアル研修の要素

①:講義

②:グループ討議

③:プレゼン・実技・演習

④:フィードバック

⑤:研修時間以外の時間(始まる前・後・休憩中)

⑥:宿題や定例報告・実行報告(連続開催の研修の場合)

リアル研修には、上記のおおむね6つの要素があるのではないでしょうか。

さらに、リアル研修で得られる価値についても分解して考えていきます。

リアル研修で得られる価値

①:知識の習得

②:技術の習得

③:概念の応用化(実行への落とし込み)

④:抱えている問題や疑問の解決 

⑤:振り返りによる気づき

⑥:受講者同士の人脈形成 

このように要素と価値を分解していくと、研修をオンラインに切り替えていくうえで重要なポイントは以下の表のようにまとめることができます。

① 受講者には、YouTubeにアップロードされた講義動画を事前学習として観てもらうのがよいかもしれません。

「グループ討議」こそが、Zoomで研修内に行うべきことだと思います。「ブレイクアウトセッション」という数人でのシェア機能があります。

「プレゼン・実技・演習」なども、Zoomを用いた研修内に行うことができます。ただ、ゲームを使ったり、体を動かしたりするような体験ワークなどは、実施が制限されてしまいます。

④「フィードバック」は、全体フィードバックと個別フィードバックがあります。研修中ではなく、研修後に個別フィードバックの機会を設けるという方法も考えられると思います。

⑤「研修以外の時間」は、結構重要です。教育現場ですと違う話になってしまいますが、研修やセミナーにおいては、「研修は前座、懇親会が本番」と発言する人もいるほどです。これはあながち間違っていないと私は思っていて、懇親会で人脈が広がってビジネスに発展したり、懇親会に参加された方が「研修より懇親会の方が自己開示される分、よいアイデアや気づきが得られる」と発言したりすることはよくある話です。しかしオンラインだと、そのような他の受講者と交流する機会が失われがちです。これに対応する施策として、「オンライン懇親会(飲み会)の開催」や「コロナが収束したらリアルで懇親会を催す」というものが挙げられると思います。

⑥「宿題や定例報告」は最も重要ですが、かなりの場合、研修で立てたPLANはやりっぱなしになってしまいます。成果を出すためには、宿題や定例報告(実施報告)など、研修で立てたPLANをどのように実行し、振り返っていくかが、とても重要なポイントになります。

このように分解して考えていくと、①の「講義」は一方向のコミュニケーションなのに対して、それ以外は双方向のコミュニケーションであり、受講者が主体的になりやすいものだということが分かります。

オンラインで研修を実施する場合、受講者の参加意欲と集中力を高めるために、①の「講義」をできるだけ短くする必要があります。

オンライン研修でリアルでの学習効果と同等の効果を生むためには、事前の学習ツールを設計したり、アンケートを実施したりするなど、事前・事後の学習設計を相当練り込む必要があるのです。

4 志村智彦さんのプロフィール

立教大学卒業後、新卒で人材育成教育のコンサルタント会社に入社。大手から中小企業の教育研修、採用コンサルティングを行い、15年間でのべ3万人以上の育成に携わる。2019年6月「人と組織の志と強みを見つけ、磨き、発信する」をテーマに志コンサルティング株式会社を創立。起業家としては研修ビジネスの立ち上げに5社参画し、現在は2社の経営を行なっている。

現在は、「幸せな会社づくり」「体的を引き出す自走型組織づくり」「理念浸透する組織の作り方」「動機付けの採用手法」をテーマに活動している。2019年9月には支援先の採用戦略が日経新聞などに取り上げられる。

オンライン会議は5年前から実施していたが、コロナ危機が発端となり、オンライン研修の可能性を模索し、2020年4月の「オンラインにおける研修設計の必要性と原理原則」をまとめた記事が拡散。現在はオンライン研修プロデューサーとして、各企業や研修会社の支援を行なっている。

5 編集後記

オンラインで授業をするにあたって、そもそも学習のあり方を一から見直す必要性を実感しました。この記事がオンラインで授業をする先生のお役に立てれば幸いです。

(編集:EDUPEDIA編集部 杷野真弓)

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